無縁の終わり
綱一達四人と206小隊の三人とキュレーを含めた八人は同じテーブルを囲み、綱一が出発前に作っておいたフルーツのハチミツ漬けを摘みながらティーカップを傾けていた。
ハチミツ漬けは概ね好評なようで特にサラとアイシャには大好評なようだ。
「こういち! もっとちょーだい!」
「ちょーだい!」
二人は小皿の中身をたいらげると更なる追加を要求する。
幸い王都の八百屋の親父から貰った果実を大量に漬けていたためおかわりには事欠かぬようで綱一も「はいはい」とそれを快諾し二人の小皿へと盛り付けていく。
「すまねぇな綱一、コイツらは育ち盛りでよ」
B.Bはサラとアイシャに視線を向けながら綱一へ礼を述べる、その表情はとても穏やかであるが瞳はどこか物悲しく思える。
「ところでB.Bさんあなたはもう魔族との戦いを経験しているのだろうか? もししているならこれから戦う相手の事を少しでもいい、教えてくれないか?」
武はおもむろにB.Bに向けて言葉を発する。
B.Bはその言葉を受けて彼の表情からは笑みは消える。
「俺達がこっちの世界に来たのはだいたい百日とちょっと位か、初めは王都で訓練をしたさ、それはお前さん達も同じだろう?」
「それから俺達もここの配属になってな、それからは毎日のようにあいつらとやりあってる、ゴブリンって言われてる緑色の肌をした子供程の人形の魔族に豚を人形にしたような見た目のオーク、牛頭のミノタウロス、個々の強さはそれほどでもないさ、甲殻機の足元にも及ばないぜ」
「問題は数と頻度だな、およそ五千位の群れで毎日のようにこっちを目指して来やがる」
「五千!? ……ってそれは多いんですか?」
五千と言う数字に綱一は驚きはしたもののこちら側の戦力が分からないためそれは疑問へと変わった。
「ネルリゲンの全兵力がだいたい一万二千って言われてる、それを聞いてどう思うよ?」
B.Bは綱一の疑問に対し彼等が滞在する都市の兵力を比較対象とする。
「こっちの方が多い……」
綱一はこちら側が数で倍以上勝っている事に一度は胸を撫で下ろす、がすぐに違和感を覚える。
その違和感の正体は武の言葉で明らかとなる。
「ちょっと待ってくれ、魔族はほぼ毎日こちらにやってくると言ったか? 流石に一万二千の兵力では毎日戦い続けるのは難しくはないか? いくら数で勝っているとはいえ五千もの相手では無傷と言うはけにはいかないだろう、それではいずれ……」
「まぁ落ち着け、そのための俺たち魔導士だ、五千程度の数なら甲殻機一個小隊で事足りる、こちらの犠牲は無しで相手は全滅、そして俺達は生活には困らない、まぁなにが言いたいかってーと不安なのは分かるがあんまり硬くなるなよって事さ、気楽にやろうぜ兄弟」
そう言ってB.Bはすでに空となった全員分の小皿を重ねながら付け加える。
「ちなみにここの中隊長は十年あれに乗って各地で戦って来たらしいが未だに魔導士の死亡例どころか怪我人すら出てないらしいぜ」
そう言い残し厨房へと歩いていく、キュレーもそれについていく。
「ねぇねぇ、思ったんだけど全滅って言うのが一人も残らずって意味か分かんないんだけど、もしそうなら毎日五千体も減ってそれが七十日続いたら三十五万体B.B達は倒してきたって事だよね? 魔族の兵力ヤバくない?」
華は少し小声で綱一と真弓、武へと話しかける。
「ああ、それに何故一気に攻めてこないのかも気になるな、それだけの数で一度に来られれば流石に数の暴力で一溜りもないはずだが……」
武も華と同様に思っていた。
「攻め落とすのが目的じゃないとか……」
戦争を仕掛けてきておいて攻め落とすのが目的じゃないとはどうにも矛盾していると思いつつも綱一はつい口に出してしまう。
「考えたところで分からんか……、来て間もない俺達がこう思っているぐらいだおそらくB.Bさん達も思っているだろう」
武がそう言い終えると入り口の扉が開けられ一人の中年男性が入ってきた。
それほど長くはない金色の髪を後頭部で束ね無精髭を生やし青い瞳の男性が豪快にアクビをしながら。
「ん? もしかして207小隊か?」
その男は綱一達を視界に入れるとそう訪ねる。
「はい、そうですけど」
綱一がそう答えると男はツカツカと四人とサラとアイシャの座っているテーブルへと近づいてくる。
「よく来たな、私はマイケル=サンツリー、ここの中隊長を勤めている」
彼、マイケルはそう自己紹介すると四人に対し手を差し出す。
その表情はとても穏やかで、且つにこやかに笑みを浮かべていた。
「明石綱一です」「西脇武です」「姫路華だよ」「東条真弓……です」
四人は立ち上がり彼と固い握手を交わす。
そして彼はこう告げる。
「じゃあ早速明日の明朝、甲殻機の整備点検が終わり次第私と一緒に魔族狩りに行くから」
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