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第207甲殻魔導小隊  作者: 光 寿寿
第二章  強襲 七死夜天
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城郭都市ネルリゲン


 綱一達がサルムを出発して約二日後の昼下がり。

 彼らはようやく城郭都市ネルリゲンの城壁をその目で確認する。


「西脇さん、あれで間違いないですか?」


 綱一が武の搭乗する甲殻機に近づき並走し目的地が合っているかの確認をする。


「ああ、さっき地図を確認したときの位置と合っている、それにイオンも真っ直ぐあちらに向かっているようだ」


 二人が上空を見上げると案内役であるラバットのイオンは真っ直ぐに城壁の見える地へと向かっていた。


「二人ともー! やっぱりあれが目的地で間違いないみたいだー!」


 綱一は後ろを歩いている真弓と華に声をかける。


「おおー! これでようやくのびのびねれるー! 久方振りのベッドだー!」


 華はその言葉を聞くや否や綱一と武を抜き去り一人先行する。

 華が急ぐのも無理はない、ここ二日寝泊まりも行動中も常に甲殻機の中にいるのだから。

 外に出ると言えば食事の時か小休止をとる時ぐらいだろうか。


「あっ、一人先行したらあぶないぞー」


 綱一の制止もむなしく華はそのまま行ってしまう。


「へへー、一番乗りはうちがもらったー!」


「ムム、させるかよー!」


 それを追うようにして綱一も加速し追い上げていく。


「まて! 二人とも……まったく」


 武の言葉もむなしく二人は遥か彼方へと走り去っていた。


「ごめんなさい……後で華ちゃんには……言っておきます」


 武は少しため息をつきながらもやれやれと言葉をこぼし真弓と共に二人のあとを追いかける。


「まぁいいさ、彼女も不安だからこそああやって明るく振る舞っているのだろう? 皆にその感情が移らぬように」


「はい……華ちゃんはほんとは人一倍泣き虫で寂しがり屋なのに……私達を不安にさせないようにって……明るく振る舞って……それがどうしても心配で……」


 武はこの時とある晩の華を思い出す。

 あれ以来見せなくなった彼女の本当の素顔を。


「君達は本当に互いを思い合っているんだな、羨ましいよ」


「はい! 相思相愛です!」


「……」


「あの……何か言ってください……」


「あ……ああ、すまない、まさか真弓さんの口から冗談が出るとはおもってもみなかったのでな」


 そして二人も歩みを早め綱一と華のあとを追う。





 城郭都市ネルリゲン。


 高さ数十メートルにも及ぶ巨大な城壁に囲まれ、城壁の中には木々と数階建ての集合住宅が混在している、人と緑の共存する都市。

 近年まで魔族により占拠されており当時の傷跡がまだ色濃く残っている。

 


「ほへー」

「でけー」


 綱一と華の二人は城壁に近づくにつれその巨大さに驚愕するばかりだった。

 王都サルムの城壁も確かに巨大ではあったがここネルリゲンのそれはおよそ倍近くはある。


 

 綱一と華は南の城門へと到着する。

 その城門も城壁に見合ったサイズをしており高さは十メートルを優に超え横は甲殻機が四機並んでも余りある。

 そしてその見た目からも堅牢さは伝わってくる程だ。


「かっ……勝手に入っていいのかな……?」

「たっ……多分ダメだと思う」


 綱一と華はその城門に圧倒されただあたふたするのみだった。

 先が思いやられる。

 そうこうしていると二人の頭上よりよく通る低い声が聞こえてくる。


「魔導士殿とお見受けします! 所属と小隊番号をお願いします!」


 二人が上を見上げると城門の真上、城壁の中腹ほどの小窓から甲冑に身を包んだ兵士が身を乗り出していた。


「魔導士? ……ああ、俺達か、第207小隊! 所属はちょっと分からないです!」


 綱一は自分が魔導士であることを再認識しつつ兵士の質問に答える。


「207……? 少々お待ちください! 確認をして参りますので!」


 そう言い残し兵士は奥へと引っ込んでいった。

 そこでようやく真弓と武も城門前に到着する。


「どうした? トラブルか?」


「いや、今確認してもらってるところですよ」


 武は少しごたついているのかと二人に訪ねるが特に問題は無い旨を綱一が伝える。


「それならいいが……二人ともここは日本じゃないんだ、あまり勝手に離れて何かあったらどうする? どんな危険があるか……」


 武は綱一と華に静かに先ほどの行為を窘めるが。


「すいません、つい姫路さんにつられて……」

「ごめんね、つい逸る気持ちを押さえきれなくって……てへぺろ」


 あまり効果は見込めないようだ。


「今、さらっとうちのせいにした? こうくん?」

「ししししてないよ? 気のせいじゃない?」

「あああぁぁぁぁぁ!!!!」


 突然の上から降り注ぐ叫び声。

 四人は上を見上げるとおそらく先程の小窓からだろうか?

 兵士が一人落ちてきた。

 兵士はそのまま地面に激突しその反動で数メートル跳ね上がり何事もなかったように着地する。


 四人は各々声にならない声をあげただ目の前で起こった現象に理解が及ばない。


「確認がとれましたので只今開門いたしますね」


 兵士はそ知らぬ顔で何事もなかったようにその場を進行しようとする。

 それに異を唱えたのは華だった。


「いやいやいや、何今の? そこ硬いよね?」


「ああ、失礼しました、今のは地魔法により地面を柔らかくしました、皆さんの世界ではとらんぽりん? と言うみたいですね」


「なんでもありか魔法よ……」


「それでは開門致します、外開きですので少し離れていただけますか?」


 華の突っ込みもそ知らぬ顔で兵士は中の兵士へと開門を促す。

 この世界ではこういうことが日常的に起こりうるのだろう。


 五人が城門より少し離れると中ではじゃらじゃらと金属音が鳴り響きそれに呼応するように城門が音をたてて開け放たれていく。


 半分ほど開いた所で音は止み兵士が中へと促す。


「ようこそ、城郭都市ネルリゲンへ、我々はあなた方を歓迎します。」 

読んでいただきありがとうございます

よろしければ感想や評価いただけると嬉しく思います。


短編の華の前日譚「華ちゃん日記」

異世界帰りの元勇者メリーさんと出会う

も投稿していますのでそちらも読んでいただけると嬉しいです。

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