友として
これは綱一達が工房を後にして二日後のお話。
まだ夜も明けぬ早朝、工具や資材なとが片付けられいつもよりやけに広く感じる工房に一人、最後に残された甲殻機タリナの整備をするレイチェルの姿があった。
「タリナ、またよろしくタノミマスヨ」
彼女は甲殻機にそっと手を当て話しかけるが、無論返事は返ってこない。
「ようやく……ヨウヤクこの時が来たのです、私も前線へ……」
「こんな早朝に出るのかい?」
突如後ろから声をかけられ少し驚きつつも彼女は振り返る、そこにはよく見慣れた人物、ヴァルムガルの姿があった。
「ヴァルムガルさん、ドウシタンデスカ? こんな早朝に」
「どうしたもこうしたも、つれないじゃないか、すぐに発つつもりだったのだろう?」
「私の持ち込んだ甲殻機の心臓、魔導核も尽きましたし、ドワーフ工房のミナサンには技術継承も終了シマシタので、いつ出発しても問題ないでしょう?」
「そう言うことを言っているのではないのだよ? せめて君には礼のひとつでもせねばと常々思っていたのだよ」
「礼だなんて……」
レイチェルの言葉を遮るようにヴァルムガルはその場に膝を突き頭を垂れる。
「フルネロ王国第二王女レイチェル・リ・フルネロ殿下、これ迄のご協力誠に感謝致します、おそらく貴女の協力がなければ我々はあの時滅んでいたでしょう」
「……顔をあげてくださいヴァルムガルさん、ワタシはアナタガタを利用シマシタ、祖国を滅ぼし御姉様や同胞をアノような姿にした魔族と戦うために……」
「私の甲殻機のせいで命を落とした魔法使いの方も数えきれません、憎まれる事はあっても感謝されるような事は……」
「その様なことは有りません!」
ヴァルムガルは再びレイチェルの言葉を遮るとゆっくりと立ち上がり、レイチェルの元へと歩み寄る。
そしてゆっくりと優しく頭へ手を置くと優しく微笑みながら言の葉を紡いでいく。
「我々の国には君を恨むものなど一人もいはしないよ、それがたとえ死んでいった試験小隊のメンバーですらだ、彼等は初めて我々が勝利を収めた戦いに満足して安らかな顔で天に召された、それも君の協力有っての事だ」
「だから無謀なことはせず、どうか命を大切にして欲しい、私もいずれ前線に赴くことになるだろう、その時はまた友として、共に戦おう」
「ワカリマシタ、ヴァルムガルさん……いいえヴァル! 人足先に戦場でマッテマスヨ!」
「ああ、私の分も残しておいてくれよ?」
そうしてレイチェルは一人甲殻機タリナに乗り込み戦場へと向かっていった。
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