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第207甲殻魔導小隊  作者: 光 寿寿
第一章 ヘルズヘイム召喚
26/58

決戦ヴァルムガル


 彼等はひたすら荒野を駆ける。


 何処を目指すでもなく、ひたすらに。


 そう、目指す地などはありはしない。


「こんなのって……こんなのって無いよ……」


 華はつい言葉を漏らしてしまう、それは悲しみか、または裏切られた怒りか、本人にも分からない。


「目的が甲殻機の回収なら必ず追撃は来る、皆戦う準備はしておいた方がいい」


「でも西脇さん、俺達もう甲殻機に乗り込んでますし今さら準備って……?」


「……心の準備だ……生き残りたいならやるしかあるまい」


「あの……おかしく……ないですか? どうしてこのタイミングなんでしょう……? もしかしたら」


「その可能性もあるがあまり楽観的に考えない方がいい、命に関わる」


「みんな! 後ろから来たよ!」


 後方よりヴァルムガルが宙を舞い高速で迫る、彼の周りには幾つかの火球がまるで衛星のように回っておりその外周を二枚のガラスの盾のような物が回っている、そしてヴァルムガルの速度は彼等よりも少し速く、距離は徐々に縮まっていく。


「このままでは振り切れない、ここで迎え撃とう! 俺は先頭であの人の攻撃を引き付ける! 綱一君と華さんは左右後方から攻撃を! 真弓さんは後方から援護を頼む!」


 そう言うと武は一人飛び出しヴァルムガルへと距離を摘める。


「あ! ちょっとたけしゃん!」「武さん!」


 武は距離を摘めながら回転式六連装砲を撃ちながら砲撃を開始し、綱一と華もそれに続く。


 しかし回転式六連装砲は盾に、砲撃はヴァルムガルの周囲を旋回していた火球が彼の元を離れそれを迎撃、爆裂する。


 そして綱一と華の砲撃はヴァルムガルの横を抜けて遥か後方で爆散する。


 これは外れたと言うよりは外したと言う方が正しい。


「……全く、君達はつくづく……」


 ヴァルムガルはそう呟くと両手を空へと掲げ魔法の詠唱を始める。


「我、崇める虹神こうしんアルテイリスよ、七色の御力みちから赤を我に貸し与えたまえ」


 ヴァルムガルが詠唱を始めると空には巨大な赤い魔法陣が浮かび上がり、それは徐々に赤みを増していく。


「まずい! 全員魔導防壁を!」

「エクスプロージョン!」


 ヴァルムガルが魔法を発動させると魔法陣より巨大な火球が彼等の中心へ着弾し、大爆発を起こす。


 彼等はその爆発に巻き込まれその姿は爆煙と粉塵により確認できない。



 彼等は生きている、黒煙の中で。


 火球が着弾する前になんとか魔導防壁を展開し事なきを得ていた。


「皆無事か!」


「なんとか……」「うちも大丈夫……」「私も……平気……です」


「……そうか……」


 三人を心配する武から安堵の声が漏れる。


「三人ともしっかりするんだ! 手心を加えて勝てる相手じゃないことは分かっただろう!」


「西脇さんはどうしてそんな簡単に割り切れるんですか!」


「それは……」

(俺はこの子達を守ると誓った……たとえ誰が相手だろうと!)

「死にたくはないからだ」


「あぁ! もう! やります! 俺だって死にたくないし誰にも死んでほしくない! 戦おう東条さん! 姫路さん! 殺すためじゃなく仕掛けてきた本当の理由を聞くために!」


「は……はい!」「わかった!」


「ところでちょっと提案があるんだけど……」



 


 ヴァルムガルは魔法を放ちその場にとどまり黒煙を見下ろしている。


「まさかあれぐらいで死んでしまったわけではないだろうね……?」


 ヴァルムガルの心配は杞憂だったことがすぐに証明される。


 黒煙の中から数発の光弾が彼目掛けて迫ってくる。


 ヴァルムガルは火球によりそれを迎撃するがそれらは強い光を放ち爆散、彼の視界はほんの一瞬だが遮られる。


「この威力、ようやく本気になったみたいだね」


 黒煙の左右から二機の甲殻機が飛び出し彼へ魔導砲を向け一斉に発射。 


 それはあえなくヴァルムガルの火球により迎撃されてしまう。


「左はシャルロット、右はウンディ……綱一君と華君か」


 そして甲殻機ガリウスが彼の正面で魔導砲を向け、その遥か後方で甲殻機ソフィアが後方より援護射撃を行う。


 三機の甲殻機にヴァルムガルは完全に包囲される形となっていた。


 彼等はヴァルムガルより一定の距離を保ちつつ集中砲火を浴びせる。


 彼も飛べるとはいえ魔法を放ちながらではせいぜい10m程、包囲を抜けるには少し高度が足りない。 


 しかしヴァルムガルも火球による迎撃とロックグレイヴによる反撃を行い様子を伺う。


(私の魔力切れを狙っての作戦かな? しかしそう簡単にはやられはせんよ、だがソフィアに乗る真弓君、あの子の魔導砲には注意しないとね)


 真弓は射撃の精度もることながらその威力も四人の中では頭一つほど抜けている。


 ヴァルムガルの火球一つ程度ではとても相殺は出来ない。


「まずは君からつぶれて貰うとしようか……っな!」


 ヴァルムガルは足の裏へと盾をやり、そこへ火球を生成。

 火球は次第に熱量を増し爆発する。


 ヴァルムガルは盾を介しその爆風を一身に受け急加速、一気に甲殻機ソフィアへと距離を摘める。


「これは老体には少しこたえるからあまり使いたくなかったけどね!」


 ヴァルムガルは火球を更に生成しソフィアへとすべて射出する。


 ソフィアより魔導砲が放たれ続けるがそれらはすべて複数の火球により迎撃される。


 ヴァルムガルとソフィアの距離は更に縮まる、彼は巨大な氷の槍を生成しそれを握り更に爆風を起こし加速。


「真弓君、君にはこの一撃は避けられまい」


 ヴァルムガルの一撃はその勢いのままソフィアの元に届き轟音をあげ地をえぐり大地を震わせる。


 当のソフィアは宙を舞う。


 ヴァルムガルの攻撃をギリギリでかわし体を縦に回転させ逆さになりながらも砲身をヴァルムガルへと向ける。



 十数分ほど前、綱一たち四人がまだ黒煙の中にいた頃。


「ところでちょっと提案があるんだけど」


 綱一は三人にある提案を持ちかけていた。


「俺のシャルロットと東条さんのソフィアを交換しない?」


 三人は突然の提案にその意図が全く読めない。


「ヴァルさんは俺達の得手不得手を完全に把握してるよね? だからそれを逆手にとれないかなって、多分東条さんの射撃の腕と威力を警戒して真っ先に狙われると思う」


「それで綱一君が囮のためにソフィアに乗り込むと? ならその役割は俺が、俺の防壁ならどんな攻撃だろうと耐えてみせる」


「西脇さんの防壁は魔力密度が高いからもしかしたらヴァルさんに気付かれる可能性が、それに攻撃ってやっぱり外した時が一番隙が大きいと思うです、それに……その……」


 綱一は最後になにか言いかけるがどうにも歯切れが悪い。


 「こうくんはっきり言っていいよ、うちとたけしゃんは射撃精度で途中でバレるかもしれないし、まゆみならそもそもヴァルっちの攻撃に当たっちゃうかもしれないって」


「いやそうなんだけど!? そんなはっきり!」


「つまり俺達が未熟だからなんでもこなせる綱一君が適役だと言いたいんだな?」


「いやいや西脇さん?! そこまで言って無いですよ!? なんか台詞にトゲありませんか?!」


「フフッ冗談だ、いいぞ俺は乗った」

「意義な~し」

「私も……」



 そして時は戻り現在。


「今だ!!!集中砲火!!!」


 綱一の合図と共に四人から一斉にヴァルムガルの背後に魔導砲の一斉射撃が開始される。


 ヴァルムガルはとっさに魔法のバリアのようなものを生成するが魔導砲の集中砲火の前にはそれほど効果はなかった。

 

 次第にバリアにヒビが入り耐えきれず粉々に砕け散ってしまう。


 そしてヴァルムガルの目の前には綱一の乗るソフィアの砲身が突き付けられる。


「……撃たないのかい?」


「どうしても信じられないんです、ヴァルさんが俺達を殺そうとするなんて……なにか理由があるんじゃないんですか?」


「実戦……命のやり取りと言うものはそんなに甘いものではない、どんなに優秀な兵士だろうと恐怖し動きが鈍るし冷静さを失い判断を誤るかもしれない、そして命を奪うことにためらいが出るものだ、その結果仲間の命や自分の命を失うかもしれない」


「私は君達にそうはなってほしくない」


「じゃあ俺達に実戦経験を積ませるために? でももし俺達があのまま撃ち続けてたら!!」


「老兵の命で前途ある若者の助けになるならそれほど嬉しいことはない」


「ふざけるな!!! あんたが死んで悲しむ人間は少なくともここに四人いる!! レイチェルさんだって悲しむはずだ!」


「……すまなかったね」


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