裏切り
綱一は真弓より放たれる砲撃をギリギリで掻い潜り、拠点の設置された巨大な岩山に登っていた。
山頂には遮蔽物などは無く広い台地、そして中央に旗が一本刺さっておりそれを守るように真弓は砲を構えている。
まるでそこは闘技場、対峙するは綱一と真弓、互いに一歩も動かず。
まるで出方を伺っているように、辺りは静寂に包まれ時折綱一の後方から小さな爆発音が木霊するのみ。
その静寂もやがて終わりを迎える。
先に動いたのは真弓、先ずは牽制にと綱一に魔導砲を撃ち込む。
綱一はそれを左へかわし回転式六連装砲を旗目掛け乱射する。
しかし間に真弓が割って入りそれをすべて甲殻機で受けてしまう。
今回の模擬戦では回転式六連装砲及び魔導砲に威力制限、つまりリミットがかけられているためそれらで相手を無力化することは出来ない。
しかし魔導砲を受けてしまうとペナルティにより動きを十秒ほど停止させられてしまう。
綱一は周囲を旋回しつつ回転式六連装砲を放ちながら時折魔導砲を撃ち込むがすべて真弓の魔導砲により打ち落とされてしまう。
このまま旗を狙い続けてもやみくもに時間を浪費するだけだ。
綱一は少し焦っているのかもしれない、それは後方の愁い、武と華はほぼ互角にやりあっている、しかし風船を破壊されれば撃破判定となる華に対し武にはそれがない。
この模擬戦はそもそも攻め手に不利に出来ている。
綱一は意を決し真弓に向かって跳躍し即座に防壁を展開、空中では回避のしようがなく数発、魔導砲を受けてしまう。
綱一の防壁はダメージに耐え兼ね砕けたのち四散する。
しかし綱一の砲は真弓ではなく旗へと向いていた。
それに気づいた真弓は即座に綱一の風船へと魔導砲を放つ。
ほぼ同時に綱一の回転式六連装砲と魔導砲が放たれる。
綱一の甲殻機は風船が割られたことにより一時的に魔力供給が遮断されうまく着地出来ずに地面へと叩きつけられる。
地に突っ伏したまま転がる甲殻機の頭部がスライドし中から綱一は這い出してくる。
「だ……大丈……夫?」
流石に心配になったのか真弓が甲殻機に乗ったまま駆け寄ってきていた。
「なんとかね、衝撃は全部中のスライムが吸収してくれたから特に怪我とかはしてないみたい」
綱一は立ち上がりその場で跳んだり肩をまわしてみたり取り敢えず異常がないことを確認しヘラッと笑みを浮かべる。
「あまり……無茶はしないで……ください」
「ハイ……すいません…………あっ!? ところで旗は?!」
綱一は旗の方へ目を向けるとそこには光の柱が天高く伸びている。
これはヴァルにより施された細工で、旗は破壊されると込められた魔力が天へと昇るように出来ている。
それにより何処へいても終了の合図が見えるようになっている。
「勝敗は?」
綱一は勝負の行方が気になるがそれは真弓にも分からなかった。
「殆ど同時……だったと思う、多分……華ちゃん次第……」
「姫路さんが撃破判定貰ってなかったら俺等の勝ちかぁ、取り敢えず合流してみよう」
「うん」
「ごっめーん、やられちゃってた~」
四人が合流するや否や華の第一声。
綱一が旗を破壊するほんの数分前に華の風船は武により破裂させられていた。
「じゃあ今回は引き分けか~」
「お互い……惜しかったね」
「でもこれが実戦だったら俺達全滅してるんだよな……」
「それを言うなら俺達も拠点の防衛に失敗している」
「ごめんなさい……」
「真弓さんが悪いわけではないよ、拠点を離れ一人突出した俺にも責任はある」
「つまりもっと精進しましょーってことだよね?」
互いに思うところはあるようだがこれにてその日の模擬戦は終了したかに思えた。
「みんなお疲れ様、いやいやみんな多分疲れてるとは思うんだけどね、誠に申し訳ない」
四人の集まる地へ空から風を纏いゆっくりとヴァルムガルが降り立つ。
「君達には死んで貰うことが決定した」
いつもの穏やかな表情の彼はそこにはなく鋭い眼光、表情は険しく、戦士としての彼がそこにいた。
「は? いやいやヴァルさん、冗談にしてはちょっとたちが悪い……」
ヴァルの言葉に誰もが戸惑いを隠せずにいた。
そしてゆっくりと彼は言葉を紡いでいく。
「甲殻機の魔導炉にはとても貴重な魔導石が使われている、もし戦場でそれが破壊されるようなことがあればそれはとても大きな損失となる、そして君達にそれを預けるにはあまりにも未熟でね、だから殺して別の者を召喚して乗せることになった、悪く思わんでくれ」
「そんな! それはあんまり……」
華は反論しようと口を開くが言い終わるよりも先に武による砲撃がヴァルを襲う、それはリミッターをはずした本気の、全力の一撃。
「たけしゃん!!!」
「全員後退だ! 逃げるぞ! 早く!」
「でも!!」
「姫路さん!! 東条さんも!! 一旦引こう!!」
武の砲撃により辺りは砂塵に包まれヴァルの姿は彼等からは確認できない。
真弓と華は反転しその場を離脱し綱一と武もゆっくりと後退り二人の離脱を確認しその後を追う。
彼等が離脱したのち砂塵は強風により飛ばされそこには魔導防壁のようなものを張ったヴァルだけが残された。
「…………私に何かあった時は、後の事は頼むよレイチェル…………」
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