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第207甲殻魔導小隊  作者: 光 寿寿
第一章 ヘルズヘイム召喚
21/58

Run&shoot

 

 四機の甲殻機は走る、ひたすらに走っていた。


 工場を出た所に設けられた、地はならされ多少凸凹してはいるが甲殻機程のサイズなら全く問題ないほどには整地された、学校のグラウンドのような場所を、広さは一周八百メートルといったところか。


 先頭を華の搭乗するウンディか走り、百メートル程離され次走に綱一の搭乗するシャルロットと武の搭乗するガリウスが、そして華より大きく離されよもや周回遅れとなりそうな所に真弓の搭乗するソフィアが走っている。


 この時点でまだ三周程である。



「ふむ……やはり魔導石を使った魔力操作訓練の時も感じておったが……姫路華……彼女の魔力操作能力は眼を見張るものがあるのう……」


 ヴァルムガルは風魔法を使用し広場の上空から全体の動きを観察していた。


「ケッシテ綱一さんや武さんが上手く扱えていないワケでは無いのですけれども、ムシロ彼等もソウトウ呑み込みは早い方だと思います」


 そのかたわらにヴァルムガルの風魔法によって浮遊しているレイチェルの姿がある。


「そうだね、東条真弓、彼女は操作に関しては……まぁ平均的だね、これは経験で向上していくだろう」


「ところでレイチェル?」


 ヴァルムガルは四機から視線を外すことなく、ふと思うところがありレイチェルへと声をかける。


「ナンですか?」


 彼女はまるで椅子に座っているかのように空中に腰を掛け、足を組み膝に両手をそわし優雅に浮かんでいた。


「君は下で見ていてはダメなのかい?」


「上空の方がもし何か不調があったときミツケヤスイですから、どうしてですか?」


「その、毎回思っていたんだがね……」


 ヴァルムガルは少し歯切れの悪い口調で、首筋をポリポリと人差し指でかきながらレイチェルと眼を合わすことなく、と言うか少しそらしているようにも見える。


「その、少し重い……」


 そう言った瞬間レイチェルの頭はグリンと高速でヴァルムガルの方へ向けられる。


「レディに対して重いとはナンですか!失礼な!ワタシはこう見えて同族の間では小さくてカワイイネと言われて!」


 レイチェルは拳を握り両手を挙げてプンスカプンスカと怒りをあらわにする。


 確かにレイチェルは身長は百三十センチ程と人族から見ても小柄ではあった。


「いやいや!君、二百キロ位有るよね?!流石に風で浮かすにはかなり無理が有るよ?!」


 ヴァルムガルは怒り狂うレイチェルに対して自分には非がないと猛烈にアピールするが、


「世界最強の魔法使いヴァルムガルさんがそんな弱音をはくなんて!それにワタシは199.8キロデス!そんなに重くありません!」


 聞き入れてはもらえず、火に油を注ぐ結果となってしまった。


 上空では二人がヤンヤヤンヤと言い争っているなか、地上では華が真弓に追い付こうとしていた。


「まゆみー、大丈夫~?」


 華は真弓に並走し一人遅れている彼女を気遣い声をかける。


 彼女達の声は魔導回炉によって空気の振動として周囲に伝わっている。


「大丈夫だよ、ちょっとなかなか慣れなくて……でもすぐ追い付くから」


「わかった、先行くね」


 そう言うと華は真弓を抜き去り、前を走り抜けていった。


 この甲殻機によるランニングは途中昼食を挟み八時間に及んだ。




 


 次の日、四機と二人は北門より城壁を抜け北東へ十数キロ程離れた荒野へと移動していた、そこは殆ど植物も生えておらず、大小様々な岩山や丘が点在する起伏の激しい地形をしていた。


 四機は横一列に並び目の前では例のごとくヴァルムガルがこの地に来た目的を説明する。


「今日はその上部の魔導砲による遠距離射撃訓練を行うよ、あの丘を見てごらん」


 そう言ってヴァルムガルは右を向き一キロほど離れた丘を指差す。


「岩よ天を穿て、ロックグレイブ」


 ヴァルムガルがそう唱えると丘の頂上に十メートル程の尖った岩が四本、二メートル間隔に勢いよく生えてくる。


「今のも魔法?万能かよ……」


 思わず綱一は呟かずにはいられなかった。


「今日はあれを君達に撃ち抜いてもらう、全部無くなったら今日はおしまい、頑張って」


 そう言うとヴァルムガルは四機から少し離れ岩場へと腰掛けレイチェルの用意したティーセットで紅茶をすすり始める。



「よし!チャチャッと終わらせてヴァルさんをビックリさせてやろう」


 綱一はそう息巻くと岩へと真っ直ぐ狙いを定め砲撃を開始する。


 轟音と共に発射された薄い青色の光弾は放物線を描き目標の岩の手前百メートル程へ落下し小さく爆発を起こす。


「これ、重力の影響受けるのか!?」


「じゃあ……これくらい……かな?」


 次に真弓が綱一の砲撃に独自の修正を加え第一射を放つ。


 轟音と共に発射された光弾は放物線を描き目標の岩へ命中し小さく爆発を起こすが、岩は砕けるどころか全くの無傷だった。


「えー!?今当たったじゃん!」


 華は不満そうにヴァルムガルへ視線を向けるが、当の彼は涼しい顔で紅茶をすすっている。 


「どうやら一発やそこらでは壊れないようだな……そう簡単ではないと言うことか」


 武は当て続ける事により破壊すると思いそのまま砲撃体勢に入る。


 他の三機もそれに続くように砲撃を開始する。


 


 四機が砲撃を開始してから一時間、それなりに命中はさせているものの未だに岩には傷一つついていなかった。


 ヴァルムガルは相変わらず紅茶をすすり続け、最早がぶ飲みに近かった。

 

 彼が飲んでいる紅茶はグラビリア、四人が初めてレイチェル工場を訪れたときに振る舞われた紅茶だ。

 この紅茶には魔力回復効果がある事を覚えているだろうか?

 

 そう、彼には常に魔力を回復し続けなければならない理由がある。


 岩へ硬化魔法をかけ続けわざと岩が壊れないように仕向けていた。



「ヴァルムガルさん、そろそろいいんじゃないですか?」 


 レイチェルはこの訓練の本来の目的は十分に果たせたと感じそろそろ次の段階へと移行を促す。

 

 それは多少無茶をしているヴァルムガルの身を案じてというのも少なからずあった。


「そうだね、ある程度の命中精度はわかったしね」


 命中精度は真弓がダントツの百発百中だった、次点に綱一が八割を誇り武は七割五分と健闘する。

 

 最後に華が六割五分と少し心もとない結果となった。


 ヴァルムガルは立ち上がりおもむろに砲撃を続ける四機にゆっくりと近づいていく。


「あー君達、ゆっくりでいい、もっと砲身に魔力を圧縮させるように心がけなさい、今の君達はただ魔力を撃ち出しているに過ぎない、もっと凝縮した高密度の魔力を撃ち出すんだ」


 四機は砲撃をやめ互いに向かい合う。


「圧縮?」


「ためるって事でいいんじゃないか?」


「エネルギー充填百パーセントって事かな!」


「やって……みます」


 再度四機は砲撃を開始し、心なしか先ほどより威力は増したような気がする。


 岩には幾つか亀裂がみられていた。 

 


 

読んでいただきありがとうございます。

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