起動
四人は機銃、頭部へ順に階段代わりに足をかけ、魔導砲の下部に据え付けられた取っ手を握り、体のバランスをとり足元から甲殻機の中へと潜り込むように入っていく。
中では立ち上がる程の高さはなく、基本的にはうつ伏せの姿勢で操作しなければならないようだ。
しかし見た目以上に中は広く、たとえ身長が二メートルあったとしても窮屈に感じる事は無い程の広さを有していた。
そして中は一面ネズミ色の柔らかい素材で覆われており、それは極上のウォーターベッドのようにしなやかで、ゼリーのような弾力性を兼ね備えていた。
「あぁ……このまま眠れそうな程気持ちいい……」
綱一はあまりの寝心地のよさに思わず顔を埋め今にも寝落ちしてしまいそうな程脱力しきっていた。
「綱一さん、キモチイイのはわかりますが寝ないでクダサイね?」
ハッと顔をあげると外にはレイチェルが仁王立ちしており呆れたと言わんばかりの口調で綱一を注意する。
「中を一面覆っている物体はミスリルスライムと言ってこちらの世界のイキモノです」
「たまに動いたりしますがキラッタリしないであげてクダサイね、衝撃緩和材としての役割を担ってイマス、勿論体に害を及ぼしはしませんのでアンシンしてください」
四人は各々のそれらを指先でつついてみたり、摘まんでみたりしたが今回は特に動いたりなどはせず、本当に生き物なのかと疑問に思えるほどなんの反応も見せなかった。
しかしそれには確実に体温とよべるようなものがありほのかにあたたかい。
「それではこれより甲殻機の起動テストを行います、ミナサンノ肩の下辺りに左右1つづつ穴が空いているのがワカリマスカ?そこへ腕を挿入してください」
綱一は言われた通りにその穴へと腕を挿入するとちょうど肘辺りまで入ったところで中に何やら取っ手のようなものが有るのが手探りで分かる。
それは、握りやすいように指や手の形で絶妙な凹凸が施されており、言われるまでもなくそれは握るものだというのが分かる。
「中の取っ手を握りましたらそこへ魔力を込めてください、そうすれば甲殻機全体に魔力が供給されるようにデキテオリマスので」
四人が甲殻機へと魔力を注ぎ込むと前方の頭部は自動でせり上がり、中は完全に密閉され暗転した空間へとなる。
そして前方より順番に外部装甲の継ぎ目や関節部が濃い青緑色に発光し前方の六つのレンズが赤く光を灯す。
「皆さん、無事魔力接続は成功しました、今はミナサンノ魔力が甲殻機の細部にまで供給され、甲殻機と一体となっておりマス、では皆さん眼をあけてください」
レイチェルはおかしな事を言う、綱一達は一切眼を閉じたつもりなど無いのに、今の暗闇は入り口が閉じられた事によるものだ。
しかし眼をあけると目の前にはレイチェルが立っており、その後ろにはヴァルムガルが。
先ほどまで甲殻機の中に居たはずだが、視界はどう見ても外であった。
綱一は辺りを見回すと右では甲殻機が体を左右に降って辺りを見回していた。
「もしかして、俺達……甲殻機になってる?!」
綱一の想像する甲殻機の操縦とは、あくまで中で彼等が操作するものを想像していた。
しかし現実は彼等の意識が甲殻機と一体となり、自分の体のように操り動かすものだった。
「今皆さんの意識は甲殻機の後部に有る魔導炉の一部、魔導回路の中にあります、魔力の供給を止めれば意識は戻りますのでアンシンしてください」
「皆さん体のサイズや形が変わってしまったのではじめは動きにくいとは思いますが、きっとすぐになれますので、まずは外へ出て歩いてみましょう」
そうして四人はぎこちなく、時に前へと出す足を間違えよろめきながらもゆっくりと開かれた大型の観音扉から外へとゆっくりと向かっていく。
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