綱一の休日
中央広場を一足先に一回りしていた綱一は、とある事に気づいていた。
(この世界には俺達の世界の料理がある程度浸透しているなー)
(前に武さんの見せてくれた、たばこもそうだけど異世界の文化がここ数十年で広まったのか?)
(だとしても……一つ解せない……)
「この街に!甘味が!特にスイーツがない!」
突然の大声に周りの人の視線が綱一に集中する。
我にかえった綱一は周りの視線に気付き恥ずかしさからかそそくさとその場を後にする。
移動しながら綱一は考える。
どうすればスイーツを食べることが出来るか。
簡単なことだ、作ればいい。
彼はよく父の経営する小さな町工場へ学校帰りによく手作りのスイーツを差し入れしていた。
パートのおばちゃんや従業員の人からの評判は上々でプロ程ではないにしてもそこそこ知識と腕は持ち合わせている。
(とりあえずケーキとかはオーブンがないから難しいか……こっちで目にした食材で使えそうなのは卵、なにかの乳、小麦粉……強、中、薄と種類があるといいけど期待は出来ないか?、後は調味料に砂糖、生クリームはキツいかなぁ、乳の脂肪分が分からないからホイップが作れるかどうか……)
乳から生クリームを作ることは可能だが、寝かす必要があり時間のかかる方法。
バターと乳を合わせ作る方法。
こちらはホイップにすることが出来ない。
脂肪分が多い乳を必要とするもの。
脂肪分がどれほどか分からないので確実ではない。
(ホイップは無しでいくか、それはおいおい作ってみよう、チョコレートか蜂蜜なんかあればいいんだけどなぁ、後は果物……こっちの世界の果物がどんなものか興味はあるな)
「とりあえず八百屋だな!」
綱一は自転車にまたがり、先ほど見つけた野菜や果物を店頭に並べた屋台へと向かっていく。
「いらっしゃい……おや?異世界人のお客さんとは珍しい」
綱一は八百屋と思われる屋台へついた途端に異世界人であることを見抜かれ少し驚いてしまう。
「え……?なんで分かったんですか?」
「敬語はよしてくれよ、むず痒くてたまんねぇ」
「この世界には黒髪の人間は元々いないからな、だからお客さんみたいな綺麗な黒髪の人間は一目で異世界人ってわかるのさ、まぁ異世界人が全員黒髪じゃないってのも解っているがな」
屋台の店主はガハハと豪快に笑い接客へと入る。
「さっ何がほしいんだい?」
(なるほど……じゃあ俺と武さんと東条さんは一目でわかるのか……)
「取り敢えずスイーツに合う果物を探してるんだけど……どれがどんな味で、どんな食感なのか分からないなぁ」
店頭に並ぶ野菜や果物はどれも綱一の見たことの無いものばかりだった。
トゲの生えた物から丸くツルッとした物。
大きくデコボコとしたいびつな物。
どれも千差万別で見た目からは味が全く想像出来ない。
「んー、どうしたもんかなぁ……」
綱一は腕を組み考え込んでいる、手当たり次第に買うことも出来るが、この後他にも食材を買わなければならないことを考えるとあまり無駄遣いも出来ない。
何より買いすぎて腐らせてはもったいないからだ。
そんな悩んでいる綱一に店主が助け船を出す。
「兄ちゃん、もしかして最近来たって噂の異世界人か?もしそうならどれがいいかわかんねぇだろ?味見をするといい」
「いいの?」
「あぁ、廃棄予定の一部悪くなってるやつがあるからよ、なにそこを切り落とせば問題ねぇ、その代わりここにいる間はご贔屓にたのむぜ」
「ありがとう!じゃお言葉に甘えて」
店主は奥から1m程の木箱を取り出すと中には色取り取りのフルーツと思われる物がぎっしりと入っていた。
確かに中には変色していたり熟れすぎていて皮が破けているものもあったがどれもごく一部であったためその部分さえ取り除けば食べることは出来そうだ。
綱一は差し出されたフルーツを一口サイズに切ってもらい口へと運んでいく。
「ふむふむ、なるほど」
クリューゲル、茶色い毛に覆われ丸みを帯びた逆三角形で握りこぶし程のサイズの果実、皮を剥くと中には黄色い弾力のある果肉が現れ噛めばほのかな甘味と共に果汁があふれでてくる、中心に大きな種があるため噛んで歯を折らないように注意。
カボーナ、カボチャのような硬い皮に覆われていて白く楕円形、成人男性の頭部ほどの大きさ、中の果肉は濃い紫色をしており少し硬くコリコリとしている、主に蒸す等して食べるといいようだ。
リンドゥ、親指程の真っ赤な丸い果実、皮ごと一口で食べられるさくらんぼのような見た目だが、食感はリンゴのようにシャリシャリとしていてとても甘い。
ハヤヤ、縦長の湾曲した円柱の果実、皮には縦に繊維が通っており上から下へ真っ直ぐとバナナのように剥くことが出来る、果実は薄い緑色をしており口当たりは滑らか、ほんのり甘く果肉もバナナに近いかもしれない。
マサン、青い見た目に、分厚く柔らかい皮、果肉は十程の袋に分かれており少し酸味が効いているが甘い、殆どが果汁で出来ており長距離の移動の際には水分補給として活躍するようだ。
他にもこの世界独特の果実を一通り堪能する。
「おじさん、ありがとう」
「取り敢えずマサンとハヤヤとクリューゲルを五個ずつちょーだい」
「へい、毎度!しめて2800クランツだ」
互いにカードを接触させ支払いを済ませる。
「あと卵と小麦粉と牛乳と砂糖と蜂蜜か生クリームがほしいんだけどどっか無いかな?」
「こむぎこ?なんだそりゃ?」
「ほら、パンとか作るときに元になる粉!」
「あぁ!ヤバル粉か、ぎゅうにゅうってのはもしかしてモー乳の事か?モームの乳を絞ってとった白い飲み物の」
「多分それ!どこかにあるかな?」
「ヤバル粉なら四件右砂糖もある、モー乳は広場を半周まわった向かい、蜂蜜は七件左だ、卵はモー乳といっしょに売ってるあとこれ持ってけ、そいつで移動ならあった方がいいだろ」
そう言って店主は木箱とロープを綱一に差し出した。
「おっちゃん……何から何までありがとう!」
「いいってことよ!かわりにご贔屓にな!」
綱一は自転車の荷台に木箱をロープでくくり付け八百屋を後にする。
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