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第207甲殻魔導小隊  作者: 光 寿寿
第一章 ヘルズヘイム召喚
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武の休日


 武は三人と別れた後そのまままっすぐ自転車で西区へと向かっていた。


 武の目的は一つ、西区にあるこの街最大の図書館でこの世界の情報を集め、皆の生存率を少しでも上げようと考えていた。


 しかし、その皆に武本人は入っているかは……。





 武は西区に入り暫く走ったのちに目的地を確認するために停車し地図を見ていた。

 

 西区は学生や兵士の育成機関が多く建ち並ぶ地区だけに昼間は人通りも少なく且つ寮等、中層建築物やそれを超える高層建築物が多く昼間でもどこも日影となっていた。

 路地裏や建物の間等はもはや薄暗くすら感じる。


(この地図の測量が合っているなら後10分程走れば図書館に着きそうだな)


 元々の職業のお陰か方向感覚には自信があり、且つ時間配分も申し分無かった。

 実際図書館までは後10分ほどのところまで来ている。なんのトラブルも起こらなければ。


「ああ!どなたか!その方を!」 


 武が地図を確認しているとその先数十m程の所で女性が引ったくりに遭っていた。

 女性は膝と左手を地面につき右手を伸ばしているが引たくりの男は、もはや手の届かぬところまで逃げていた。

 

 その進行方向には武がいる。

 武は地図を地面に投げ捨て男の正面に立ちふさがる。


(白昼堂々と……!)


「どけえぇ!」


 男は懐からナイフを取り出しそのままの勢いで武へと突進してくる。


 武の胸へとナイフの刃先が触れる寸前、体を半身ひるがえし、ナイフを持ち突き出された男の右手首を、右手で下から左手で上から掴み男の運動エネルギーを殺すこと無く、手首を軽く捻りながら体を横に半回転させ男の右肩が武の左肩の下に来たところで体重をかけ体を落とす。


 男は一瞬の出来事に何が起こったか分かっておらず気が付いた頃には武に組み付されていた。


「お前の事情は知らないが、人から物を奪うのは此方でも犯罪だろう?」


「くっ!くそ!離せ!」


 辺りの建物から騒ぎに気づいた人がちらほらと出てくる。

 

「すみません、どなたか警察……衛兵を呼んでくれませんか?引ったくりです」


 何人かの男が「分かった待ってろ」と言いその足で衛兵を呼びに行く。


 「へへ……くらいやがれ……」


 組み付された男はそう呟くと左手の人差し指をゆっくりと武の方をむける。

 そして一言。


「ファイアーボー」


「しまった!魔法っ!」


 武は失念していた、この世界の人間はもれなく魔法を使えることを。

 専門に学んでいない人間はある程度集中しなければ使うことは出来ないが、男にはそれだけの猶予があった。

 そしてそれを防ぐ術は今の武には存在しない。

 至近距離ではなおさらだ。


「あががが!」


 男は魔法を唱え終える前にいきなり全身を細かく震わせ痙攣し動かなくなった。


「おい!どうした!」 


 武は突然の男の動きに何か体の不調、もしくは最悪何らかの事柄により命の危険があるのではと心配になる。


「お兄さん、そいつは状態異常魔法を受けて全身が麻痺してるのさ、もう放しても大丈夫だよ」


 事態を見守っていた一人の中年男性が声をかけてくる。


「命の危険とかは?」


「問題ないよ、それに魔法をかけたものが解くか時間が経つまでそいつは指一本動かせやしないから」


「どなたがかけたか判りますか?一言お礼が言いたくて」


「おーい!麻痺の魔法誰がかけた?」


 中年の男性は周りに聞こえるように少し声を張り聞いてみたが周りからの返答は全て否定だった。

 

「そもそも状態異常魔法はかなり高度な魔法だから使えるものは西区でも一握りだよ、上位の魔法使いか王様直属の魔法兵士位だこの時間にこんなところにいるとは思えない」


「そうですか、ありがとうございます」


(そんな上位の魔法使いが隠れなければならない理由……せっかく呼び出した俺が逃げないように監視か……?護衛も兼ねてるのか?まぁ俺に対して信用なんて有るわけがないから当然と言えば当然か)


「この男をお願いしてもいいですか?」


「ああ、かまわんよ、衛兵が来たら突き出しておくよ」


 そう言って武は地面で痙攣している男の手から肩掛けの小さな革製のバッグを奪い、いまだ膝をついている女性のもとへと歩み寄る。


貴女あなたがとられたのはこのバッグですか?」


 その女性は赤髪に金色の瞳をした二十歳はたち前後の美しい女性だった。

 身なりは庶民らしく特に着飾ったり等はしていない。

 不自然なほどに。


「はい、ありがとうございます、申し訳ありません、どうやら腰が抜けてしまったようでお手をお借りしても宜しいでしょうか?」


「これは気が利かず、すいません」


 武はそう言って女性に手を差しのべる。

 女性はその手を取りその場で立ち上がる。


「一応バッグの中を確認した方がいいのでは?」


「あっ」


 女性はそう言われると何か思い出したのか急いでバッグの中をかき回し一つのペンダントを取り出す。

 それを見た瞬間に安堵の表情を浮かべる。


「危うくおし……おうちに帰られなくなるところでした、ありがとうございます、なんとお礼を言えばいいか……」


「いえいえ、当然の事をしたまでです、では俺はそろそろ行きますので」


「あぁ!せめてお名前を!」


「名乗るほどの者ではありませんよ」


 武は逃げるようにその場を去り停めてあった自転車にまたがりその場を後にする。


 その後ろ姿を目で追いながら一言。


「異界の君……」


 そう呟いた。






 先ほど迄武がいた所の建物の上には黒いフードを被った男の姿があった。


「全くちょっと目を放した隙に自分からトラブルに突っ込むなんてヒヤヒヤさせてくれる、こっちのみにもなってほしいもんだね」


 そう言って黒いフードを被った男は自身の周りに風を纏い空へと飛んでいく。


読んでいただきありがとうございます

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