ハウラスの護り石
「あの|《胸の》大きいお姉ちゃんはホントに落ち着きがないね」
天は真弓の横を歩きながら深くため息をついている。
件の胸の大きいお姉ちゃん、もとい、華はと言うと物珍しさからか片っ端から屋台を見てまわっている。
「ははは……ごめんね……華ちゃんは人一倍好奇心が旺盛だから」
(大きいお姉ちゃんってどう言うことだろ?身長は私と華ちゃんあんまり変わらないけど……)
「まゆみー!あまちゃーん!これみてみてー!テコ焼きだってー!」
華が手に、乾燥させた大きな葉っぱに包まれた何かを持って近づいてくる。
「ちょっと待って、あまちゃんってもしかして僕の事?」
二人に合流した華はキョトンとし、なんの悪びれる様子もなく、
「そうだよ、かわいいっしょ?」
カラカラと笑う。
「あのねぇ、僕はこう見えて……!」
「そんなことより!これ!お店の人がテコ焼きだって言ってたんだけど、見た目まんまたこ焼きなんだよねー!」
華は天の言葉を遮り、真弓と天に手に持っていた包みを広げて見せた。
その中には十個の小麦粉を焼いて出来た一口サイズの球体が茶色のタレを塗られ綺麗に二列に並んでいた。
「これはたこ焼きだよ、なんでも大阪出身の人が試行錯誤して作って広めたとか」
(まぁ中身は勿論タコじゃないけど)
「へー、あまちゃんは物知りだねぇ。あそこのベンチで一緒に食べよー」
「あの、あまちゃんって別の意味に……」
天の言葉も虚しく華は近くのベンチへスタスタと歩き出してしまう。
「まぁいいや……」
「ごめん……ね」
真弓は苦笑いしながら華の変わりに天へと謝罪する。
三人は天を中心にベンチへと腰掛けたこ焼きのような食べ物テコ焼きをハフハフと美味しそうに頬張っている。
しかし真弓には一つどうしても気になる点があり少し表情が固い。
「天君は……甲殻機に乗って……戦ってるの……?」
やはり真弓は確かめておきたかった。
年齢による例外はないのか、こんな子供でも戦わなければならないのか、そして魔族とはどのような存在なのかを。
「勿論、僕がここに来たのはだいたい半年くらい前かな、街を守るために待機してるとき以外は大体戦ってるかな。ああ、お休みもちゃんとあるよ」
「怖く……ないの?」
「最初は不安だったかな?でも大丈夫だったよ、僕達は凄く速い戦車で相手は剣とか弓持った人くらいの奴だから殆ど負けることなんかないよ、数は凄く多いけどね」
(それでもこんな子供が戦わないといけない状況なんだ……)
三人がテコ焼きを食べていると、辺りの人の会話が時折聞こえてくる。
「西区の方で引ったくりがあったってよ」
「ほほう、それでそいつは捕まったのかい?」
「なんでも、そこにたまたま居合わせたにーちゃんがおかしな体術で一瞬で組み伏したとか、しかもついでに麻痺の魔法もかけたらしいぜ?」
「麻痺魔法?状態異常系魔法は習得が難しくて一流の魔法使いしか使えない上位魔法だろ?そんな体術に長けた高名な魔法使いなんて聞いたこと無いぜ?」
「俺だって聞いた話だ。尾ひれでもついたんじゃないかと思ってるがな」
「西区ってたけしゃんが行った方だよね、トラブルとか無いといいけど」
「西区って言っても広いし特に関わりとか無いと思う……たぶん」
三人はテコ焼きを食べ終えまた歩き出す。
華は相変わらず目に写るほぼ全ての屋台に目移りさせながら。
そして、珍しく今度は真弓がある屋台に目を向け足を止める。
その屋台には大小様々な弓と矢が置いてあり屋台の中には景品であろう品と丸い七色に区分けされた的があった。
「やってく?」
華は真弓の視線の先にあるものに気が付きひと声かける。
「うん、最近射れてないからやりたい」
「おっちゃーん、1回やらせてー!」
「あいよ、難易度は上中下と三段階ね、難しいほど景品もお得になるよ」
「一番難しいので!」
「ちょ、ちょっと華ちゃん!?」
「毎度、上ね、一回二千クランツだよ」
「高!もう少しまけれない?」
「こっちも商売だからねー、その代わり見事成功したら1つ二万クランツ相当のハウラスの護り石三つセットだお得だろう?」
屋台の店主は三人に虹色の石のついたペンダントを手のひらに乗せ見せる。
「ルールは簡単だ、この屋台から10m程離れて屋台の中にある七つの的の真ん中の赤い所を全部射れればお客さんの勝ちだ簡単だろ?」
店主の指し示す的の中心の赤いところとは直径1cm程の殆ど点のようなものだった。
「小さいお姉ちゃん、やめといた方がいいよ?あんなの当たりっこないよ」
「真弓、ここはうちが」
「ううん、大丈夫自分で出すよ」
そう言うと真弓は華にメガネを手渡した。
「やるかい?弓と矢は好きなのを選びな、一つでも外したらそこでおしまいだ」
お互いカードを差し出し接触させ支払いを済ませ真弓は弓の弦の張りを確かめ和弓に近い形の弓を選ぶ。
そして矢は曲がりのなるべく少ない鏃のついた物を七本矢筒にいれ背負う。
そして店主に言われた位置、屋台の正面から10m程離れた位置まで下がり、足踏み(脚を肩幅より少し広く開き腰に手をやり左手に弓を右手に矢を持ち脚を約60度に踏み開き、両足の親指は的の中心と一直線になるように構える)をし合図を待つ。
(難易度上は弓に長けたエルフでも成功者はいない難易度だ、人間の女の子に出きるわけがねぇ)
「魔法の使用はお互いに無しだいつでも始めてくんな」
「うちらそもそも使えないけどね」
(この子等異世界人か)
真弓はゆっくりと胴造り、弓を左膝に置き弓を持ちながら矢を人差し指と中指の間を通し、右手を右の腰に当てる。
そして、弓構え、右手を弦にかけ左手を整え的を見据える。
さらに、打起こしへ、矢を地面と平行に保ち弓矢を頭上の前、角度にして45度程の位置へと持っていく。
そして引分け、弦と弓を均等に引いていき胸元へと寄せていく。
ここで会となる、的を見つめお腹に力を込め発射のタイミングを見計らう。
そして、離れから残心、胸郭を開き矢を放ち、そのままの姿勢をしばらく保つ。
放たれた矢は見事的の中心を射抜いていた。
(な!?まっまぁ、たまたま当たっただけで後六つもあるんだ成功するなんて事は……)
真弓は同様の動作で一つ、また一つとどんどん的の中心を射抜いき残り1つとなる。
いつの間にか辺りにはギャラリーが沸いており、随分と盛り上がっていた。
それもそのはず、この屋台の難易度上は今まで成功したものがいない明らかな無理難題で有名だったのだ。
しかし真弓には弓道部に居た頃一つの伝説があった。
学校の弓道場で部員達と練習をしていた頃一匹のGが浸入し中を飛び回り部員達がパニックになっていた。
真弓は弓を射る体勢に入っておりちょうど的との間をGが通過した頃に矢は放たれGに命中し、的を外した。
彼女が的を外したのは後にも先にもこの一度きりである。
部員達がアレを狙ったのかと聞いたが本人はたまたまだよと答えるのみで真相は明らかではない。
件のアレとの距離はおよそ20mは離れていた。
もし狙ったのであれば彼女にとって10m程の的に当てることなど容易いことなのかもしれない。
そして彼女の視力は現在日本で計測できるレベルを遥かに越えていると噂されていた。
メガネをかけている理由を華ですら知らないが一説には空気中のホコリが見えてあまりいい気分ではないからとかなんとか。
そして真弓は同様に足踏みから胴造りの動作をとる。
(このままじゃ今日の商売あがったりだ、風の魔法で矢の位置を少しずらせば……!)
そして真弓は引分けから会の姿勢へと入り矢を放つ瞬間、一瞬風が吹きそして消えた。
(な!?風魔法が欠き消された!?)
真弓の放った矢は見事に最後の的を居抜き見事このゲームを制することとなる。
ギャラリーは大いに沸き真弓を称賛する声が響き渡る。
(最後……矢を放つ前に一瞬風が吹いたような……前にレイチェルさんが風の魔法とか言ってたからそれかな?この状況で使って妨害するならお店の人が?でもすぐ消えたし失敗したのか、それともさらに妨害?つまり助けてくれた人がいる?もしそうなら周りの人……表情からしてたぶん違うかな。と言うことはもっと離れたところかな……?)
喜び抱きつく華をよそに真弓は辺りを見渡す、すると遠く離れた四階建ての建物の屋根上に頭だけ出しているフードを被った人を見つける。
真弓がちょうど最後の的を射抜いた頃、中央広場の対角の更に少し離れた背の高い建物の屋根の上に一人、黒いフードを被りうつ伏せに寝そべっていた。
黒いフードの男は単眼鏡を覗き真弓と華と天を覗いていた。
「おいたはいけないなぁ店主さんよぉ」
彼が店主の風魔法を妨害した張本人のようだ。
そこにもう一人男が空から風を纏い降り立つ。
彼もまた同じ黒いフードを被っていた。
「お姫様達の様子はどうだ?」
屋根に寝そべり三人を監視している男に話しかける。
「依然問題はないな、大人しく休日を謳歌しているただ、あの黒髪の子は弓の腕はエルフ以上かもしれないことが分かったくらいだな」
「そうか、まあいくら弓の腕がよかろうが彼女達の境遇では全く意味がないがな、なんせ魔法を使うことができないのだから」
「それもそうだ……んん?」
「どうした?」
空から降り立った男がもう一人の男の隣に寝そべりながら反応に疑問を覚える。
「今……黒髪の子と目が合ったような……」
「ははは、ここからどれだけ離れていると思ってるんだ彼女達に俺達を認識なんて出きるわけがない」
「いや……今確かに……ほら、今会釈までされたぞ!?」
「そんな馬鹿な……軽く手でも降ってみたらどうだ?」
そう言われて元々居た男は軽く彼女達に向かって手を降って見せる。
「……」
「……」
屋台の店主は景品であるハウラスの護り石を泣く泣く真弓に差し出そうとする。
当の真弓は反対方向を向き軽く手を降っていた。
「まゆみどうしたの?」
真弓の行動を疑問に思い華は聞くが、
「ううん、なんでもないよ」
(助けてくれたし悪い人じゃなさそうだからまぁいいかな?)
店主からハウラスの護り石を真弓は受け取り一つを華にもう一つを天に差し出した。
「まゆみ、いいの?」
「うん、いいのいいの、一人で三つもいらないし貰って」
「ありがとー大切にするね」
華は真弓に再び抱きつき喜びを全身で表現する。
「あの、僕まで貰っていいの?」
「うん……いいよ、ふふ三人お揃い、今日の出会いの……記念に……ね」
「あ、ありがとう」
真弓の笑顔に天は頬をリンゴのように赤らめながらお礼を言う。
そして真弓は中央の噴水付近に顔まで甲冑に身を包んだ人影を見つける。
甲冑の者は辺りをキョロキョロしながら誰かを探しているようだった。
「天君……あの人じゃない?」
真弓はその甲冑の者を指差しながら天の視線をそちらに誘導する。
「あっ、うんあの人だ、もうそんな時間か」
「お?もう来たの?ほらほら、いっといでなんか心配してるような素振りしてるよ」
「うん、付き合ってくれてありがとう、思いの外楽しかったよ」
「どう……致しまして」
「最後の一言余計だぞー」
天はへへっと笑い相手の方へ行こうとして振り向いた。
「また……何処かで会ったら遊んでくれる?」
天はお腹の前で指をもじもじと絡めながら二人に質問する。
「なにいってんの?当たり前じゃんうちらもう友達っしょ?」
「また遊ぼうねー!」
真弓と華は天を手を降りながら見送った。
「うちらもそろそろ帰ろっか」
「うん、そうだね」
「天様!申し訳ございません!もしや御待たせしたのでは?!」
天を見つけた甲冑の者、声からして女性のようだ。
彼女は天を見つけるやいなや頭を下げ天に謝罪した。
「いいよ、特に退屈しなかったし、何より……」
(友達が出来たから……)
「?、ありがとうございます、ではお城に参りましょう、他の天弓の方々も間もなく到着なされると思いますので」
「ハイハイ、こんな子供が行ってもあんまり意味ないと思うけどなー」
甲冑の女性と天は南区へと歩き出していった。
読んでくださりありがとうございます
感想評価などしていただけると嬉し泣きします




