小さな世界(2)
俺のフルネームをなぜ知っているのか。そして、なぜ今この男の視線が俺にあるのか。俺はこいつと面識がない。なのにこの男はまるで俺のことを知っているようだった。
「いや、火事ってなんのことすか…全く見に覚えないんすけど…」
「ほほーうっ。しらばっくれるつもーりですかっ?では、この写真はどう説明するのですかっ?豊田くーんっ。」
男が見せてきた写真に写っているのは紛れもなく俺だった。そして、その写真は火をつける決定的瞬間だった。
だが俺はそんなことをしていないし、昨日はずっと家にいた。
「本当に違うんだ。俺じゃない!俺はやってない!それは俺じゃないんだ!」
体育館にいる全員の視線が俺に集まる。証拠があるにも関わらず否定する俺のことなんて誰も信じてはくれないだろう…。
「もし、もし、それが本当に朔真じゃないとしたら。」
静寂の中この場にいる人の中で、ただ1人俺の味方になってくれたのは礼音だった。
「はははははっ。面白いことを言いまーすねっ?この写真に写っているのが豊田くーんではないとっ?」
-着信音-
「おっと。失礼。はい。はい。かしこまーりましたっ。すみません校長、本日の講演会は中止にしてもーらえませんかっ?」
「え、は、はい。ですが、その、放火の件については……。」
「今日は、もうだいじょーうぶでーすのでっ。」
「はぁ?あいつなんなの!朔真のこと疑っておいて!しかも講演会もバックれじゃない!」
「いや。別にいいよ。あの人も納得はしてないだろうけど、ひとまずは、っつ、え…?」
-バンッ-
俺はクラスの男子にバレーボールを投げつけられた。
「おい!おまえ本当に放火犯なんだな!ネットで見た時は書き込みだけだから本気で信じてはいなかったけど、あの写真見て確信に変わったよ!おまえみたいなやつ来んじゃねぇ!」
「ちょっと!朔真に何するの!朔真じゃないって、本人がそう言ってるじゃない!」
「幼馴染だからって庇うのかよ!こいつは放火犯なんだぞ!あの写真見てよくそんなこと言えるよな!」
クラスメイトの罵声が響き、俺だけでなく礼音に対しても冷たい視線が集まる。
「やめなさい。2人とも今日は帰りなさい。」
麻倉の一言で俺と礼音は帰ることになった。
俺と礼音は教室に入り荷物をまとめていた。
-ガラッ-(麻倉が扉を開けた)
「豊田、七瀬、これから先何があっても、現実だと受け入れられなくても、おまえたちは避けられないものにぶち当たるだろう。それでも、希望はあると信じろ。insideに捉われるな。」
「先生……?どうしたんですか、言ってることがよくわかんないんですけど?」
「そうだな。だが嫌でもわかることになる。それだけは言っておく。」
麻倉はそう言い残し教室を後にした。俺と礼音もすぐに教室を出て、校門まで行くと、そこには講演会にいた男が別の男と話しているところだった。絡まれたらまた厄介だと思い、気付かれないように立ち去ろうとすると、妙な光がヤツらの周りを飛び回っているのが見えた。
「あれって……。」
「朔真、はやく行くよ。」
礼音に手を引かれ俺はその場を後にした。あの光は何なのか。そんなことを考えながら歩いていたら、いつの間にか家に着いていた。
「今日はよくわからなかったけど、とにかく朔真はさっさと寝て、明日からはいつも通りやろ!ね?」
「ああ。ありがとう。なあ、礼音。さっきの光見たか?あれってなんだと思う?」
「光?なんのこと?ていうか!今日の嫌な出来事思い出すの禁止!忘れなさい!」
「あ、あー。ごめん、忘れるからさ、本当に。」
礼音はあの光を見ていない。それにわざわざその話を続ける気にもならない。礼音の言う通り忘れよう。
「じゃあまた明日ね!ばいばい!」
礼音の笑顔が俺の不安な気持ちをかき消してくれた。
-夜-
「……本日のニュースです。……大統領官邸に……謎の……。」
疲れて昼寝をしてしまった俺は目が覚め、母親が見ていたニュース番組の音がぼんやりと聞こえてきた。
「朔真。あんた今日日本にいたわよね?」
「え?うん。当たり前だろ?学校行ってたよ、途中で帰されたけど。」
「そうよね。うん……。」
母親の声色はどこか暗く、そして表情も曇っていた。パッとテレビのニュース番組に視線を向けると、そこにはなぜか俺の姿が写っていた。