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天下布愛! ~男少女多のあべこべ世界、賭けるは男子の戦国ゲーム~  作者: 橘 ミコト
第一章 貴方はまだ、宗麟の恐ろしさ(優しさ)を知らない――vs大内家編
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2-4. 宗麟さんが現状を把握したようです

 大内家との大一番、『いくさ』の舞台である勢場ヶ原(せいばがはる)への道中。


 吉岡よしおか長増ながます角隈つのくま石宗せきそう臼杵うすき鑑速あきすみの三人は声のトーンを落として相談事をしていた。


「思ったより動きが遅いですね。お姉さんたち、警戒されているのかしら?」


 軍議の間で鑑理あきまさ道雪どうせつが二人で言い争っていた時。

 実はこっそりと神社の者が来ていた。


 使いの者は八幡はちまん様の総本宮、宇佐八幡宮うさはちまんぐうの巫女。

 大内家からの”宣戦布告”を伝えにきたようだ。

 この時代の巫女は神事だけでなく、戦関連の使いっパシリもされていた。

 

 つまり、今回の『戦』は八幡様の名の下に執り行われるらしい。

 格式ある神社に裁いてもらうために時間を要したと推測できた。


「……本気」


 石宗せきそうが苦々し気に呟く。

 乗っている馬との体格差によるものか、声色とは裏腹に、妙にファンシーな雰囲気がある。


「そうねえ。宇佐八幡って()神社よ? それをわざわざ大内家が指定するなんて」

「確実に大友家ウチを潰しに来てますよ! 博多の半分じゃ納得できないって、ガメツ過ぎません?」


 人の事は言えない。

 豊後(ぶんご)大友家と周防すおう大内家は随分昔から国際貿易港である『博多』を取り合っていた。


 現当主・義鑑よしあきになってから半分こしたのだが、


宗麟そうりん様を見つけちゃったから、欲に負けたって事ですよね、これ」


 鑑速あきすみが重い溜息を吐く。

 彼女が吐くと本当に深刻な問題に見えるから不思議だ。


 いや、深刻な問題なのだが。


「……連戦」

「そう、石宗せきそうの言う通り。大内家は少弐しょうに家との連戦で疲弊はしているはずよ」

「『戦』に勝ってるんですから、勢いに乗ってるのでは?」


 鑑速あきすみのネガティブキャンペーンが止まらない。


「……すえ興房おきふさ

「ああ、彼女。何でも過労で倒れたそうですね。お姉さん的には同情しますが」

「え、本当ですか!?」


 すえ興房おきふさは大内家の重臣である。

 攻めも守りもお手の物。

 加えて、内政なんかも請け負っている大内家の大黒柱だった。


 彼女が今回いないのであれば、それは確かに朗報であろう。


「いやあ、それは幸先の良い!」


 人の不幸を喜ぶ鑑速あきすみ

 もはや清々しい。


「……すえ晴賢はるかた

「そうね。興房おきふささんの娘であるすえ晴賢はるかたさんが、今回の戦の大将になるとお姉さんも思ってる」


 長増ながますは垂れ目を細め口元も引き結ぶ。


 すえ晴賢はるかたはまだ若輩とは言え、あのすえ興房おきふさの娘である。

 決して油断できない相手であった。


「龍造寺はちょっかいかけてこねえかなあ?」


 思案にふける長増の後方から声がかかる。

 そこには幾分かの期待が込められているようだ。


道雪どうせつ。変な事言わないで。言霊ことだまになったらどうするの」

長増ながますはそういうの信じるからなー」


 馬上でケラケラと笑う道雪どうせつに、長増ながますはムッとする。

 道雪どうせつは煽りの天才だった。


「馬鹿は放っておいて……。ごめんなさい、長増ながます。少し、頭に血が上ってしまったようで」

「少しかしら?」

「……すみません。大分ですね」


 後方から合流したもう一人。

 今は冷静な鑑理あきまさ長増ながますに謝罪をする。


「まあ、いつもの事ですしねえ。戦術の説明します?」


 鑑速あきすみが気軽に受け応える事に、鑑理あきまさはホッとした表情だ。

 何だかんだで人の輪を大切にする彼女であった。

 

「そうね。お願いできるかしら?」

「……宗麟様」

「え? ああ、宗麟様には紹運じょううん誾千代ぎんちよが側についているわ」


 石宗せきそうの質問になっているのかどうか微妙な言葉には慣れが必要である。

 鑑理あきまさほどの付き合いでも、それは中々に難しかった。


「えーと、結局、今回は『団体戦;魚鱗(ぎょりん)』で行くことになりました」

「審判は?」

宇佐八幡うさはちまんです」

「宇佐八幡?」


 怪訝な顔の鑑理あきまさ長増ながますがコクリと頷く。


「そう」


 鑑理あきまさの反応はそれだけだった。

 しかし、その瞳には闘志が揺らめき燃え上がっている。


「おうおう、燃えてんなー鑑理あきまさ

道雪どうせつ、人の事を言えて?」

「誰に言ってんだ? 私だぜ? 大内だろうがすえだろが、ぶっ潰す!!」


 てのひらにバシンと拳を打ち付ける道雪どうせつ

 それを好戦的な目で皆は見ていた。


「で、具体的な内容ですけど――」

「あ、僕も聞いていい? まだ良く分かってなくて、ごめんね?」

「いえいえ、そんな。では……」




「「「え……?」」」




 そこにはいつの間にか、馬に乗った宗麟そうりんがいた。


「宗麟様! 私が解説しますので、どうかどうかここはお任せを!?」


 宗麟に少し遅れて。

 スッタカターとやって来たのは『高橋たかはし紹運じょううん』だった。


 右耳の上あたりで一纏めに結わえられている黒髪が、旗のようにバサバサと踊っている。

 今日は風が強いらしい。


「おにぃ、あたいと一緒にいよー!」

「大丈夫、勝手に一人ではいかないよ」


 ツインテールが可愛らしい幼女『立花たちばな誾千代ぎんちよ』は宗麟の腕の中だ。

 七歳の彼女を歩かせるのも、一人で騎乗させるのもまだできない。

 また、宗麟も幼い少女に兄と慕われて、満更でもない様子だった。


 諸将からは羨ましそうな目線が誾千代ぎんちよへ送られている。

 それにドヤ顔で返す幼女に、女性たちは醜い嫉妬を抱いていた。


「えっとえっと、宗麟様! 今回は母……じゃない、吉弘よしひろ様たちにお任せしても、何にも何にも問題ないのですよ!?」


 紹運に至っては若干十二歳なのだが、宗麟がいるだけで現場は紛糾する事を既に見抜いていた。

 正直誰にでもできそうな洞察だが、現場の人たちの抑えられないパッションも理解できる。


「え、でも」


 必死に食い下がる紹運じょううんに宗麟は悲しそうな顔をする。

 紹運じょううんに限らず、その場にいる皆の意志が一つになった。



「「「やっぱり、この場にいて問題ないです!!!」」」



 宗麟の前で自制心など、何の意味もなかった。


「そっか、良かったー。僕、邪魔なのかと思ったよ」


「誰だ、私の若にそんな態度取ったやつぁ!? 今ここで仕置きしてやんよ!」

道雪どうせつ殿、どうどう! それと、()、です」


 意味不明のたけりを見せる道雪どうせつ鑑速あきすみが慌てて宥めに向かう。


「えっと、じゃあ、お姉さんから説明しますね。今回の『戦』は――」



 こうして、具体的な戦術や立ち回りを宗麟は()()




 この事で、大友家と大内家の大戦おおいくさ勢場ヶ原(せいばがはる)の戦い』は、世に轟く事となったのだ。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 陶晴賢って元々大内義隆より隆の字を与えられ陶隆房って名前で。陶隆房が大内義隆を討ち取り(大寧寺の変)大内晴英が当主になった為。大内晴英より晴の字を与えられ陶晴賢になったのでこの時はまだ…
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