3-28. 日乃本の海賊王➀
船が傾く。
『高橋紹運』と『立花誾千代』。
二人の武人が踏み込み勇む。
走る。
奔る。
迸る。
繰り出すは剛撃。
煌めきの彼方を目指す彗星が如き尾を引き、真っ直ぐに伸びる一閃。
その重さ、素早さ、鋭さ。
全てが一流と言える姿に、
「綺麗……」
『吉川元春』は瞠目する。
相手の手元から伸び広がるように視界を覆う一撃。
そこには殺意が乗っていない。
まるで戯れだ。
純粋な武。
最早、真理。
いや、心理。
無我の境地とも呼べる心の理を元春は垣間見た。
仰け反る。
元春の眼前スレスレを紹運の木刀が横切った。
手元を跳ね上がる。
誾千代の槍を巻き返した。
だが、
「見えなかったし……」
それは直感に等しい。
元春の体が勝手に反応をしたのだ。
今までの修練の成果とも言えるだろう。
一合目は防げた。
では、次はどうだ。
分からない。
元春は、ただの一瞬で飲み込まれてしまった。
そして、そんな彼女を気にする女児二人ではない。
一連の流れは洗練された舞いのよう。
弾かれ、流され、躱されても、再び切り込むためのステップとなる。
いつの間にか元春の前後を挟む形に二人は動いていた。
「これで!」
「終わり!」
「見惚れてる場合じゃないだろっての!」
突然に。
元春へ向かう凶星の前へ、一人の女性が割込み吠える。
紹運と誾千代の刃は目前。
吹き飛ばされる未来しか見えない。
しかし。
「何だかんだ素直なところは美徳だろうがね。一端引いた方が良いんじゃないかい?」
彼女は、木刀と槍を素手で掴んだ。
一時の間をおいて、衝撃波が吹き荒れる。
それだけで女児二人の一撃が生半可なものでない事は分かるだろう。
けれどもどうだ。
受け止めた人物は足元の舟板は砕き、未だに二本の足で起立する。
「わお」
誾千代は感嘆。
「え、すごか……」
義長は呆然。
紹運と晴賢は、油断なく相手を見つめ。
「貴女が貴女が、『村上武吉』さんですか?」
「ご名答」
瀬戸内海に君臨する海賊。
「お嬢をそう簡単にヤらせる訳にもいかんのよ」
「お嬢言うなし」
「可愛いじゃん。私の事も『たけっち』とか呼ぶんだから、お互い様だろ?」
海上において、当代最強の名を持つ女性。
「選手交代だ。チビッ子ちゃん、私と遊んでくれるかい?」
「高橋紹運です。きっときっと後悔させてあげます」
「立花誾千代。遊ぶのは望むところだー!」
「おうおう。威勢が良いこって」
瀬戸内海における第二ラウンドが始まる。




