2-15. まさかの
「はははっ! これは予想してなかったなー」
「そ、そそそ宗麟様! 何を何を呑気に言っているんですか~!」
「ひゃー!」
紹運の悲鳴が上がる。
宗麟と誾千代は楽しそうだ。
走る彼らの後ろには、大内兵の大群が押し寄せていた。
「おっかしいなあ。驚いて逃げると思ったんだけど」
宗麟の作戦としてはこうだ。
寺にいる頃の勉強と試行錯誤によって作り出した『弩.宗麟カスタム』は火薬を積んだ矢を打ち上げる。
ここに宗麟の”業:火花”で点火すれば簡易な”花火”が出来上がる。
この時代、まだ花火は殆ど存在しておらず、そのインパクトにおける宗麟の予想は正しかった。
また、風が強く、布でくるんだ花火は少々派手に炸裂する。
地面に着くころには布切れも鎮火するが、空が割れたかと思い、加えて物が降ってくれば怖がりもするだろう。
怖がらせるのは気が引けた宗麟だったが、これも戦に勝利するため。
距離が近い大内軍の方がその迫力も相応に感じると考え、その隙に大友軍が起死回生の反撃をすれば勝てると考えていた。
しかし、
「まさか僕を追っかけてくるとはなあ。あはは!」
「『あはは』じゃないですよ~! そんなのそんなの当たり前じゃないですかあ~!」
「うっひゃー!」
宗麟と誾千代はやはり楽しそうだ。
正直その感性が羨ましいと紹運は一人心で愚痴を吐く。
ただ、楽しそうな宗麟を見れるのは役得であった。
「宗麟様は”男性”なのですよ!? 何か恐ろしい物の近くにいたら敵味方関係なく保護するに、絶対絶対決まっています~!」
そうなのだ。
始めは腰の引けていた大内軍だったが、近くに宗麟がいると言う事が彼女たちに火を着けた。
(((男は共通財産! 怪我でもしたら大変だ!!??)))
花火の仕組みを良く分かっていないからこその勘違いだった。
宗麟としては十分に安全性を確かめた量の火薬しか使っていない。
そのため、彼としては「問題ない」という認識があった。
事実、草原に火が燃え広がる事にはなっていない。
火傷を負っている人もいないようだ。
それでも、彼女たちが「天罰か!?」と慄くのは不思議でもないだろう。
その結果、
「そこの僕ー、危ないからこっちおいでー!?」
「お姉さんたちと一緒にいましょう!」
「ほら、怖くないよー。ゲヘヘ」
「痛くないから! 先っちょだけだから!!」
妙に血の気が上がった獣の集団と化した女性たちに追われるはめになっていた。
戦で血が滾った状態で興奮するようなものを見たせいだろう。
適度に弩で花火を打ち上げて牽制をし、なんとか逃げきれている現状である。
そこへ!
「ワシの可愛い可愛い息子を守るのじゃぁぁぁああああ!!??」
鬼もかくや。
常とは別人のような憤怒の形相で、宗麟の母・大友義鑑が飛び込んできた。
「何奴!?」
「私たちの邪魔をするなぁ!」
「大内軍に我が宗麟様を奪われてなるものか!」
「何おぅ! 男子を愛でて何が悪い!」
「絶対手を出す気だったでしょ!?」
そこかしこで兵がぶつかる。
場は一気に混戦の様相を呈した。
「とにかく将を取りなさい! そうすればお姉さんたちの勝ちです!」
遅れて到着したのは吉岡長増。
「待ってくださいよ、義鑑様ーー!?」
ひいこら言いながら臼杵鑑速もやってくる。
「鑑速、義鑑様は!?」
「あっちに最後の将、杉興運がいるって走っていっちゃいましたよー!」
「貴女、なに義鑑様を一人で突撃させてるのよ! すぐに負けるわよ!?」
「反論できないのが悲しい」
鑑理も合流。
散らばっていた大友家は、見事包囲を突き破り、宗麟の下へと集結した。
「宗麟様!」
「は、はい!」
「後でお説教ですからね!!」
「はい!?」
鑑理にギンッと睨まれた宗麟は直立して良い返事。
怒られるだろうとは思っていた宗麟は素直に頷いた。
すると、
「ワシが敵将、取ったど~~~~!!!」
「「「えっ!!??」」」
義鑑の上げる鬨の声が、風に運ばれ戦場の隅々まで轟いた。
こうして。
歴史上始めて『男の参加した戦』、勢場ヶ原の戦いは幕を下ろしたのだった。




