2-6. 始まりはいつも道雪
「これより、大内家と大友家の『戦』を始める!」
『戦』の審判員、宇佐八幡宮の巫部が声高らかに宣言する。
「戦方式は”団体戦;魚鱗”! 両軍は所定の位置へ!」
随分と簡単な口上である。
神社としても慣れたものなのであろう。
巫部の言葉が終わると同時に、人々はこぞって動き出した。
しばらくの後。
動きがなくなり、皆が固唾を飲んで開始の合図を待つ。
――ブオォオオオォォォォォォォ
「よっしゃ! 行くぜぇぇぇぇぇぇ!!!」
開幕のホラ貝が鳴る。
それとほぼ同時に飛び出したのは、立花道雪であった。
野生の勘なのだろうか。
素晴らしい反応速度である。
「長増、そちらは任せるわ!」
「お姉さん、承りました」
頬に手を当てニッコリと微笑む長増を横目に、道雪に続いて颯爽と鑑理も走り出す。
既に大内側の先頭集団と接触しそうな道雪は放置だ。
下手に彼女へ近づくと巻き添えをくらう。
去っていく鑑理を見送った長増は、気合を入れるように深呼吸をすると、
「よし。お姉さんたちも始めましょうか」
そこまで気合の入ってなさそうな声を上げた。
「えっと、敵の将五人の内で道雪殿の敵足りうるのは杉興運殿と大将の陶晴賢殿くらいですかね」
鑑速が接触し始めた合戦模様を眺めながら緊張した声音で言う。
今回の『戦』は”団体戦;魚鱗”。
将の数は五人だ。
そのため、最低でも五人を倒さなければならない。
しかし、大友家きっての武闘派、立花道雪の武力は異常の一言である。
スカウターなどがあれば五十三万と出てもおかしくはない。
「……”雷切”」
「あれ、ズルくありませんか? 意味が分からないんですけど、あの強さ」
「それは”雷切”だけの問題じゃないと、お姉さん思うなあ」
のんびりと喋っている三人。
その実、目線と思考はフルに回って現状を把握。
都度、近くにいる伝達兵へ必要な事を指示している。
その上での、のんびりだ。
伊達に大友家の凄い人たちの集い、加判衆していない。
普段は宗麟の影響で少しネジが飛んでいるが、本当はとても優秀な人たちなのである。
「敵に動きはありそうかしら?」
「……皆無」
「士気がなんだか高くないですねえ」
鑑速はふむと顎に手を当て考える。
”団体戦;魚鱗”は大人数でぶつかる『戦』の一つだ。
宣戦布告を受けた大友家は、戦の仕様について決定権を持っていた。
その中で”魚鱗”を選んだ理由は、
「天気はどうです? 雷呼べそうですか?」
「……良好」
「木刀なのに、なんで雷受け止められるのかしら」
「長増殿、それは気にしたら負けです」
木刀を用いた戦闘方法であるためだ。
そして、この時代。
摩訶不思議な現象が数多く起こる。
寺社の行う”神の御業”もその一つだ。
「そういえば、陶晴賢殿は”業持ち”なんですかね?」
「興房さんはそうだと聞いたけれど、どうでしょう」
「……」
石宗はプルプルと首を横に振る。
「まあ……道雪殿なら大丈夫ですかね」
「そうね。お姉さんも大丈夫だと思う」
「……」
石宗もコクリと首を縦に振る。
そして、三人は揃って後ろを振り返った。
「「義鑑様、知ってますか?」」
「知らんもん……。ワシ一人だけ後ろに置かれて仲間外れにされたから、ワシ知らんもんっ!」
毎度の如く、駄々をこねるご当主様がそこにいた。
「総大将なんですから、前線に出す訳ないじゃないですか」
「そうですよ、義鑑様。それに、お姉さんたちもいますから」
「お主たち、ワシに話しかけてくれんかったもん!」
「子供ですかっ!?」
「鑑速、義鑑様は精神的には子供よ」
「この人から宗麟様が産まれたって言われても、俄かには信じられませんね……」
「ワシの息子を馬鹿にしとるのかっ!?」
「義鑑様を馬鹿にしてるんですよ!? あ、しまった。つい本音が」
「……馬鹿」
「伝令!」
突然、一人の兵が三人の前に駆け込んでくる。
砂埃と青草に塗れた姿。
前線から戻ってきた伝令兵のようだ。
「道雪様がお二人、鑑理様がお一人、将を打ち取りました!」
「「「はやっ!?」」」
△▼△
「ひゃっはあぁぁぁぁぁああああ!!」
ラリっているのではない。
道雪である。
雪崩が如く押し寄せてくる敵兵。
それを体捌きのみでよける。
「オラオラオラオラオラァ! どうした!? 大内の兵はこんなもんかぁ!!??」
完全にバトルジャンキーだった。
兵も果敢に攻め立てるが、どこか及び腰だ。
無理もない。
戦場の道雪は悪鬼羅刹。
近寄らば即退場の早業で切り伏せられる。
”団体戦;魚鱗”の退場判定は単純だ。
額に巻いた鉢巻きのたなびく先。
そこには鈍く輝く『鉄の家紋』が付いている。
それを叩き落されれば死亡判定だ。
日に反射する家紋が魚の鱗に見えるから、という由来だが、本当かどうかは分からない。
彼女たちにとっても、別にどうでも良い事である。
つまり、”木刀で鉢巻きの先を切り落とす”。
”団体戦;魚鱗”はそういう仕合だった。
中々に難易度が高そうに聞こえるが、布に鉄を縫い付けているだけなので、割りと簡単にポロリと落ちる。
それこそ、隣の人とぶつかったレベルで落ちる事もある。
そのため、
「うらあぁぁぁあああああああ!!」
道雪の剣圧で巻き起こる風を受けるだけで、大体負ける。
「何、あの人!?」
「大友家の立花道雪よ!」
「え!? あの鬼道雪!?」
「そう――”雷切”が来るわよ!!」
「道雪!」
「あん? んだよ、鑑理。こっちの獲物を横取りに来たのか?」
「貴女じゃないんだから、そんな事しないわよ」
「じゃ、なんだよ」
「石宗から伝言」
「おっ」
「準備ができたらしいわ」
「待っってましたぁぁぁ!」
道雪のテンションがMAXになった。
「後の将は二人だけだろ? 一発で仕留めてやんぜ」
瞳孔を開き、口角をこれでもかと上げている道雪。
これを見慣れている鑑理でも、正直言えば内心で引いていた。
鬼と呼ばれても仕方がない。
彼女の木刀にも、その原因はあるのだが。
「良い、道雪? あまり使いすぎると足腰が立たなくなるのだから」
「わぁってるって」
鑑理のお小言はヒラヒラと振られた手によって遮られる。
本当に分かっているのか。
いや、恐らく分かっていない。
「全く……」
そんなところも分かってしまう鑑理はため息をひとつ。
「あん?」
「貴女一人じゃ不安なのよ」
「そりゃ優しいこって」
「無駄口はいいわ――行くわよ」
「おうよ!」
大友家のゴールデンコンビ。
普段はいがみ合っていても、お互いの人柄は呼吸の仕方までしっている。
「「一気に大将まで抜ける!!」」
この二人が組んで、負けを知る事はない。




