王都で散策
最近になってようやく、ポイントとブックマークの数を見る場所がわかりました———少し恥ずかしいです。
遅くなりましたが、ポイント評価とブックマーク登録してくださった皆様、ありがとうございます!
励みになります。
初めて都心へ行った時、私は田舎町出身だったのでとても混乱しました。仕事の関係で行きましたが、人が多く、電車の路線も複数あり、行きたい場所にすんなりと行けなくて苦労しました。
時間に遅れてはいけないと気が急いてしまい、焦って違う電車に乗り込むというトラブルも経験済みで、慣れるまで普段より疲れが酷かったです。
元々都心で育った人は普通に行動できるんでしょうね、とても羨ましいです———
馬車での移動で1週間が経ち、王都へ着いた。途中、村を経由して寝泊まりしたが、馬の給水以外は特に停車する必要が無く、スムーズに移動できた。振動が少ないだけで疲労の蓄積が低減されるので、サスペンションを発明した人は偉大だ。
「さて、これから屋敷に向かうのだが、想定より大分早く着いた。お披露目の日まで1週間程余裕があるから、自由に見て回ると良い」
「ありがとうございます!お父様。………では明日から数日は散策したいと思います」
「明日からかい?もう少し休んだ方が良いのではないかい?」
「大丈夫ですお父様、今もそんなに疲れている訳ではありませんので、一晩休めば十分です」
「そうかい……ユリアがそう言うのならそうなんだろうね。でもお供は付けるようにね」
「はい」
(過保護な気もするけど、まあ初めて来たから心配されているのかな?)
その後も屋敷に到着するまで雑談を続けた………
「ぅんっ、ふわぁーーー」
翌朝の起床時間、伸びをし適度な刺激を体に与えて脳の覚醒を促す。
昨日は予定より早く到着した事もあり、こっちの屋敷の使用人が慌てて準備している場面に遭遇してしまった………
早く着いて申し訳ないです。でも初めてだったから移動に掛かる日数が予想できなかったんですよ………
「さて、リンを呼んで———」
「おはようございます。ユリア様」
「………ええ、おはよう」
さて着替えるか、と思いリンを呼ぼうとしたが、既に真横に居たようだ。
「起こしてくれても良かったのに」
「いえ、移動で疲れていると思いましたので」
「そ、そう………次からは起こしても良いからね?」
「そんな勿体な——いえ、畏まりました」
本音がポロリしているけど気にしない。
目がちょっと怖いけど気にしないったら気にしない。
「着替えを———」
「御用意しております!!」
「……ありがとう」
食い気味に言われ見せられたのはシンプルな作りの薄桃色のワンピースで、胸元に花の刺繍がワンポイントでされている。
散策するには特に問題無さそうだったのでそれに着替えて朝食を摂った後、案内役にこの屋敷の使用人さんとリンをお供にして繰り出した………
「へぇ、朝早いと思ったけど結構人居るのね」
「夜間は王都へ出入りする門が閉まりますので、朝の開門を待っていた人が大半で御座います」
「え?夜間に移動するの?」
「普通はしませんが、商人の方が急ぎの商談や取引きで移動する事もありますので、その場合はご覧の通りになります。……旦那様も大事な商談では自らそうして向かう事もあります」
「そうなのね………」
そんな豆知識を聞きつつ、早速とばかりにまずやってきたのは市場である。せっかくなので、王都に集まってくる物を見てみたいと思ったからだ。
「目新しいものは無さそ………う?」
そんなに変わらないなーと思いながら見ていると、一箇所だけ人が寄り付かないお店を発見した。
「あのお店は何を取り扱っているの?」
「?………えっと、申し訳ございません。私も初めて見ますので、恐らく最近商売を始めたのではないかと」
「そう……なら行ってみましょうか」
「はい」
お店に近付くと、懐かしくもスパイシーな香りが漂って来た。
「……この香りは」
「やあやあお嬢さん達、何かご用かな?」
「このお店の方ですか?」
「そうだよ、見慣れないけど最近ここへ来たのかな?」
「……………」
棚に並んでいる瓶詰めされたものを見ていると、私達に気付いたのか奥からおじ様といった雰囲気の人が出てきた。
誰何されると思ってなかったので、少し戸惑い口を閉ざしてしまったが、特に気にしていないようで言葉を続けた。
「僕は人を観察するのが趣味でね、だからか顔を覚えるのは得意なんだよ。君達は初めて見る顔触れだったからちょっと気になってね」
「……全て覚えているのですか?」
「そうだね、やっぱりお客様も、覚えられていると嬉しくなって、また来ようって気にならないかな?」
「その考え方は素敵ですね!」
「ははっ、ありがとう。ところでどんなご用かな?」
「お店に入る用事は一つだと思いますよ」
「それもそうだね、でもこの店でお嬢さん達の欲しい物は無いと思うよ」
「そんなことありませんよ。既に今この棚の商品が気になっていますもの」
「おや、医療用品に興味があるのかい?」
「医療用品、ですか?」
「まあ、医療用と言っても、経口摂取する薬みたいなものかな、薬草より効果は低いが、多種多様な効果があるんだよ」
「因みにどんな?」
「そうだね………」
少し悩みながら、棚に並んでいる瓶のうち1つを手に取り、目の前に持って来てくれた。
「これはターメリックと言って、皮膚に異常がある時に服用するんだよ」
(!!………名前も一緒だし、効能も似てるって事はここにあるのは香辛料だよね!)
「どの様に服用いたしますの?」
「?……どうって、粉末にして水で溶かして飲むのが一般的だね」
「そんな勿体無い!!」
「え?」
「ああいえ、すみません何でもありません」
うっかり思った事が口から出てしまった。しかし、カレーを知っている身としては、放置できない……いや、したくない。
「一通り瓶2つずつくださいな」
「へ?………初めてみたんだよね?それにそんなに必要なのかい?」
「はい!……あ、あと名前と効能もわかる様添書きもお願いしますね」
「………そ、そうかい、暫く待ってもらうよ」
「はい」
そう言ってお店の奥に行き———奥で配達用の梱包作業をしている様だ———他の店員に指示をして戻って来た。
「今用意させているから、先に支払いを済ませてしまおうか」
「リンお願い」
「畏まりました」
「あっちのカウンターで頼むよ」
「はい」
リンが支払いに行ったところで、ふと気になった事を聞いてみた。
「ところでおじ様、どうしてこのお店にはお客が居ませんの?」
「お、おじさ………えっと、最近ここに出店したというのもあるけど、奥を見ての通り配達もやっていてね、必要な人は何かしらの病気だから店まで来ないんだ」
丁寧に答えてくれたが、私のおじ様発言にショックを受けている様だ……悪い事したかな?
「そうなのですね、ありがとうございました。これからも定期的に購入に来ますね」
「そ、そうかい」
何故か一瞬顔が引き攣った様に見えたが、変な事を言った覚えは………いや、医療用なのに健康そうな私が大量に定期購入するのが可笑しいのか……でもカレーを食べたいので気にしない。
「お待たせしました」
そうこうしてるうちに、梱包された商品を持って来てくれたので、一度屋敷に持って帰る事にする。
「それではまた来ますね」
「またのご利用をお待ちしてます」
そう言ってお店を出て、屋敷へ帰っている途中の事。
「———っ!!スリだ!誰かそいつを捕まえてくれ!」
「?」
少し離れた場所からの物騒な声がした方を向くと、お腹に布の掛かった籠を抱えて走ってくる少年がいた。
多分この少年がスリなのだろう。
「!……どけ!!」
(んー、仕方ない、地面を軽く隆起させて転ばせよう)
そう思い魔法を使おうとした時、目の前を遮る様に人が現れた為、練っていた魔力を戻した。
「——ふっ!」
「ぅおわぁぁ!!?」
ッドシャーーと少年が私の横を転がり過ぎていく。
見間違いでなければ今のは——
(見事な背負投げ!それも一本背負い!!……え?この世界柔道あるの?)
「大丈夫だったかな?」
「あ、はい。大丈夫です、ありがとうございます」
実際は危ないとも思わなかったが、助けてくれたのも事実なのでお礼を言う。
「さて、少し待っていてくれるかな?この少年の盗ったものを返してくるよ」
「あ、はい。お構いなく」
(ん?何で待たないといけないの?)
こちらの反応も気にせず、少年の持っていた籠を持ち主に返却して感謝されている青年。
服装は無難な物に見えるが、清潔感が誤魔化せていないところを見るに、身分高めの人に見える。
正直逃げたいが、何も言わずに立ち去って後日バッタリ会う方が気不味い。
「やあ、お待たせ」
「いえ、お気になさらず」
悩んでるうちに戻って来た様で、また声を掛けられた。どうやら諦めるしか無さそうだ
「それで、ケガは無いかい?」
「ええ、お陰様で大丈夫です」
「それは良かった」
(……わかってて聞いてるよね?この人、さっきからずっと笑顔だし、心配してる人の表情じゃないよ)
「あの少年はどうするのですか?」
投げられた後から蹲ったまま動かない少年を、チラリと見て目の前の青年に尋ねる。
「彼かい?勿論警備に突き出すよ」
「……………」
「?……どうしたんだい?」
青年は不思議そうな顔でこちらを見ているが、私は少し対応に悩んでいた。
と言うのも——
「ゥーーー」
この青年が現れてから、ずっと大人しく肩でのほほんとしていたスーが唸っているのだ。それも青年から目を離さずに———
「あの」
「ん?何かな?」
「ここは私に任せてくださいませんか?」
「………へぇ、どうして?」
(うわー、あからさまに声のトーンが変わったよ)
「あの少年に聞きたい事がございまして」
「………いや、危険だよ、君の様な可憐な子が犯罪を行った者に近付くのはダメだ」
(今言い訳考えたよね?……となると、何か理由があるの?……わからないけど、これ以上は危ない気がする)
「わかりました。ではここはお任せしますので、失礼致します」
礼をとり、その場を離れる事にした。
この時、振り返らなかった私はこちらをジッと見ている視線に気付く事は無かった………
屋敷に戻り昼食を摂った後、料理人の方に無理を言って厨房の一部を借りた。
先程買ってきた香辛料を使ってカレーを作る気でいるのだが、名前と効能が一緒でも味や香りの強さが一緒とは限らないので、以前使った時の分量をベースにして色々試そうと思っている。
「体感ではターメリックこそほぼ一緒だけど、カルダモンは香りが少し強いかな」
取り敢えず一通り見てみようと全種類確認した結果、殆どが香りが強い事が発覚した。
「まずはターメリック以外の分量を控えめにして作ってみようかな?」
「ユリア様、私も何かお手伝いさせてください」
と、ここまで静観していたリンが手伝いを申し出てきた。
(んー、まぁそのうちリンに私の食事を頼む事もあるかもしれないし、今から習得してもらうのもありかな?)
「ならまずは包丁の持ち方から教えるわね」
「はい!頑張ります!!」
結局、自分で行ったのは香辛料の分量調整だけで、他はリンに教えながら作ってもらった。
「おや?ユリアはここに居たんだね」
「あら、お父様どうなされたのですか?」
味付けに満足し、じっくりとカレーを煮込んでいると、父が顔を覗かせた。
「いや何、とても良い香りがすると思ってね。今までこんなに香りが広がる事が無かったから気になってしまってね」
「ふふっ、宜しければ本日の夕食に如何ですか?」
「ふむ………そうだね、お願いしようかな」
「はい!期待しててくださいね」
「あぁ、それじゃ部屋に戻るよ。また後で」
「はい、また後程」
嬉しそうにしながら出て行くのを見届けて、付け合わせのパンをどうするか考えてみる。
(お米はまだ見つかってないし、普通のパンだと面白くない………)
「んー………ん?あれならできるかな?」
厨房にあるものと持参したものを思い出し、作る物を決めた。
「さてリン、もう一品作るわよ!」
「はい!!頑張って作ります!」
「……程々にね?」
張り切るリンと一緒に作りつつ、そう言えば料理してる事について父から何も無かったのが不思議だなと思うのであった………
夕食の時間となり、席に着くと同時に父が現れた
「おや、待たせたかな?」
「いえ、今来たばかりです」
「それは良かった」
父が席に着くと、既に準備していたのか、手早く席に配膳された。
「ふむ、いい香りだが色合いが良くないな」
「余り色は気にしないでくださいお父様、味には自信ありますし、健康にも良い影響を与えるのですよ」
「ほう……健康にも良いのかい。食材は何を使っているのかな?」
「ふふっ、秘密です。それより熱いうちにどうぞ」
「………いただくよ」
まず一口食べると、目を見開いて黙々と食べ続け始めた。
「お口に合いましたか?」
「ああ、美味しいよ。少し辛いが、食欲が増してくる気がする」
「それは良かったです。こちらも一緒に食べれば辛さの調整ができますよ」
「これは……パンなのかい?初めて見るが」
「食感や味付けが合う様に作りました。一口にちぎってから浸して食べてみてください」
「ではこれもいただくよ」
カレーにはナンでしょう!と思い、今あるものを使って作ったのがこのナンもどきである。
必要な材料が足りず大変だったが、可能な限り近付けられたと思う。
「うむ………なあユリア」
「?……はい」
「これを家が経営している店で出さないかい?」
「それは……構いませんが………」
「勿論売り上げから、いくらかユリアに渡そうと思う。それを資金の足しにすると良い」
「………ありがとうございます」
「それで、これは何と言う料理かな?」
「カレーと言います。付け合わせはナンです」
「わかった………それと、商会の名前は決まったかな?」
「いえ、まだです」
「そうか、お披露目が終わるまでには考えておくようにね」
「わかりました」
その後、詳細を話し合い私の取り分は純利益の2割という事に決まり、料理人に教えるのは領地に戻ってからとなった———