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「――準備はどうだ?」

「まあまあ順調のようだ」

「……まあまあだと?」

「気取られた可能性があるが、向こうさんは動いていない。状況的にまあまあという事だ」

「ふんっ、失敗は許されんのだぞ?今が最初で最後の好機なのだ。事は慎重に運べ」

「はぁ…わかっているさ。向こうさんに潜入できない以上、どうしても情報収集の精度は落ちる。此れでも最上級に警戒しているとも」

「だと良いがな……」


 ルースリャーヤ王国の北側、停戦中の国を挟んだ更に向こう側にある軍事国家ティスラー。

 この国は、多くの領土を戦争で奪い大きくしてきた。その所為で近隣諸国からの評判は悪いのだが、軍事力は本物であり、歴史上でも敗戦を記したのはたったの1度きりだ。

 その1度の相手がルースリャーヤ王国であり、当時は精霊が見える者の集団であった為に数以上の強さがあった。油断していたティスラーの(つわもの)達は、あわや国の滅亡という所迄追い詰められてしまう。しかし、基本的に争いを好まなかった当時のルースリャーヤ国王の判断で、南への侵攻をしない事を条件に、停戦条約が締結された。

 だが、其処で終了とはならなかった。

 自国が攻めて返り討ちに遭ったと言うのにも拘らず、恨みつらみを抱え、いつか必ずルースリャーヤ王国に一矢報いるのだと、長年に渡り軍備の増強に努めてきた。

 その過程で、間に存在する小国に圧力を掛け、徐々に兵を送り駐留させる工作を秘密裏に進めていた。

 そして最近、ファクロス聖国が滅んだという情報と共に、その原因となった存在がルースリャーヤ王国へ向かったという情報も入手していた。残念ながら、結果がどうなったか迄は判明していないが、恐らく何らかの被害を被っていると思われた。

 そこで今回、慎重かつ迅速に計画を早め、ルースリャーヤ王国が回復する前に事を成そうと軍議で決定された。

 最前線を任されているこの2人は、其々軍団長の地位にあり、作戦の指揮を執っていた。


 実際の所、ルースリャーヤ王国は何も被害を受けておらず、それどころか危険な存在と目されたティアは、現在ユリア個人にとは言え従っている。

 だが、そんな事情など知らないまま自分たちの勝利の為に行動する2人は、歯車の狂いを認識する事なく計画を進めていく……………。





 比較的ゆったりとした日々を過ごしていたある日、全生徒を集めて魔法競技会の説明をされる事になった。

 漸くかと思うと同時に、何故全員を集めたのかが疑問だった。

 その疑問も、説明を受けると同時に氷解されていった訳だが……。

 説明によると、参加意思は自由、参加資格は魔法が行使できる事。そして、魔学を受けている生徒だけという制限も無し。魔学を受けていない生徒が優秀な成績を収めた場合、3年次以下は来年から選別授業が魔学に変更される。

 日程は撃剣試合と同日に開催される。

 魔法競技会に参加する者は、撃剣試合は免除となる。

 成績には最優秀者1名、優秀者4名が選ばれ表彰されるそうだ。

 協議内容は2つ。

 1つ目は決められた範囲内で自由に魔法を行使する。魔法の規模・発動迄の速度・精度で評価され、魔法の使用制限は無い。

 2つ目はトーナメント形式の対戦で、対峙した両者の後ろに守護対象と称して人形を設置し、先に相手の人形を壊した者の勝利とする。対戦相手に対する魔法の使用禁止。対戦相手に危害を加える規模の魔法の使用禁止。これらを破った場合、即座に失格となる。但し、自分から当たりに行った場合は適用されない。

 成績の評価は2つの総合にて出される。だが、対戦で早めに負けたとしても、内容を鑑みて高評価となる可能性もあるらしい。例えば、初戦で負けても、その相手が優勝した場合にはどの程度拮抗していたかで評価が変わってくる。

 その後も、幾つかの注意点を説明されたのだが、魔法競技会が開催されるに至った経緯等は説明されなかった……。



 説明会によって午前中の授業が中途半端になり、自習に変更された。

 何となく私は、セイルティール様に聞いた派閥の事が気になり、それとなく周囲の様子を伺っていた。

 自習とは言え形だけなので、真面目に勉強している人は少ない。

 この教室では、私とフィーナ以外は数人が勉強しているだけで、他は各々グループに分かれて雑談している。数は4つ、純粋に仲が良さそうに見えるのは1つだけ。他3つは遠慮気味な人が紛れているので、恐れくそれらが派閥の集まりなのだろう。多分だが、取り巻きは一緒の派閥に入っている筈だ。

 今迄周りを特に気にしていなかったのでわからなかったが、こうして改めて観察すると集まりにも特徴が見られる。

 話し声は聞こえないので、表情から読み取るしかできないが、私の予想はそんなに外れていないと思う。となると、男子生徒で固まっているグループがアルギーニ伯爵令息の派閥だろうか?

 アルギーニ伯爵と言えば、王妃様から最も注意が必要だと聞かされた名だ。

 セイルティール様からの情報と合わせて考えると、百害あって一利なしと言えるだろう。私から近付く気も無いが、変に近付かれないようにも注意した方が良さそうだ。

 という事も踏まえて念の為、今見えるグループの顔を覚える事にした。人数は3人で、1人は眉が濃い、もう1人はキツネ目とも呼ばれる細い釣り目、最後の1人は特徴が無く覚え難い。使用人は………覚えきれそうにない。取り敢えずは、あの3人がよく話したり行動を共にしたりする人達を警戒すれば良さそうだ。

 残り2つのグループは、全員女子生徒で固まっている。

 5人と6人で使用人多数。此方は接触があった時で良いかな……。


 お昼にはいつものメンバーで集まり、昼食を摂る。

 話題は自然と、魔法競技会の事になった。


「ユリアさんは出るんですよね?」

「そうなるかな」

「良いなぁ~。私は魔法なんてからっきしですからね、必然的に撃剣試合に出る事になりますけど、何で全員参加なんでしょうかねー」

「うーん……。何かしら参加しなければ成績を付けられないからじゃない?…知らないけれど」


 2年次以降は必ず何かに全員参加となっている事が、イリスにとっては少々不満なようだ。

 魔法を使えない彼女にとっては、魔法競技会には参加できないので選択肢が無いに等しい。

 まあ、其れを言うなら他の魔法が使えない人全員そうなのだけれど……。

 得意不得意以前の問題ではあるが、他の教科でも同じ事が言えるので私からは何とも言えない。実技か座学かの違いしか無い訳で、試験と同じだと思うしかないだろう。


「まあでも、体育でやる体力テストだと思えば良いと思いますよ?」

「体力テスト……いや、怪我するかもしれないのにテストとは思えませんよ」


 ルナリアさんの慰めに一度納得しかけるも、いやいやと思い直して反論するイリス。

 宥め終わった頃には、昼の休憩が終わる直前になっていた……………。





 午後の魔学の授業の為移動すると、教室内に居る生徒は皆魔法競技会について話しているようだった。

 自信がありそうな人、少し不安気な表情をしている人、適当に話を合わせている人と様々だ。

 聞いている感じだと、全員魔法競技会に参加すると見て良さそうだ。私としては、競争相手は少ない方が楽なのだが……。

 時間になり、エイミさんが教室に入って来た。挨拶もそこそこに、本題へ入る。


「さて、皆さんもお聞きになった通り、新たに魔法競技会が開催される事となりました。勿論参加は自由ですので、撃剣試合に出たい方は其方を優先して頂いて構いません」


 エイミさんによると、魔学を受けていても魔法競技会の参加は自由なので、剣術の方が得意な人は参加しなくても成績に影響はしないようだ。

 無論、魔法競技会で好成績を収めれば魔学の成績にも反映される。しかし、参加しないからと言って成績が下がる様な事は無いそうだ。


「又、初の(こころ)みという事もありますので、予定通りにいかない可能性もあります。遅延行為となる行動は慎むようにというお達しも来ていますので、参加する人は注意してくださいね」


 その後も、説明会で言われなかった細かい注意事項を述べてから普段通りの授業に移った。



「少々お話しを宜しいでしょうか」


 今日も今日とて実践練習を行っていると、スィール殿下が1人で私に話し掛けてきた。

 その表情は、心なしか緊張しているように見受けられる。

 お供の使用人は離れた位置で待機したままで、此方の様子を伺ってはいるものの、いつものような非難する表情をしていない。と言うよりも半数は知らない顔触れになっている。

 ………何かあったのだろうか?

 と、思わず身構える私だったが、肩透かしを食らう事になる。


「魔法の事について、色々と教えて欲しいのです」

「……ええと、今でも十分かと存じますが………」

「ああいえ、授業以外でもという事でして、その…例の競技会もありますし、可能ならもっと上達したいと思いまして」

「魔法競技会ですか?」

「はい。…やはり王家の一員としましては、恥ずかしくない成績を残したいのです。その為にも、少しでも上手く扱えるよう練習をしたいのですが、1人だとどうしても限界を感じてしまって……」

(恥ずかしくない成績……。今でも十分だと思うけれど、納得していないのね。個人的には、ライバルが増えるのは望ましくないんだけれど……)


 別に、王妃様に言われたから最優秀を狙っている訳では無い。自分でも、実際の実力がどの程度かを知りたいというのもあるし、基本的に手を抜くのが嫌だという事もある。なので、王妃様のお願いはついでのつもりだ。

 其れに、自分で選べる選択肢は多い方が良い。

 少しでも優秀な相手がいなければ、私が最優秀を取れる可能性は上がる。

 だが、魔法が上手くなりたいという思いは理解できるし、変な下心が無い相手からのお願いは無下にできない。


「私にできる事でしたら助力致しますが、余り時間をとる事ができないのです。他の方にお願いしてみる方が良いのではないでしょうか」

「あ、えぇっと……ユリア嬢以上に上手な方を知りませんし、可能ならユリア嬢に教えて頂きたいのですが」

「?…其れでしたら、時間のある時で宜しければ私は構いません」

「ありがとうございます!…では、後程連絡手段についてお話しさせてくださいね」

「畏まりました」


 嬉しそうに自身の練習に戻るスィール殿下。

 そんなに魔法を上達させたかったのだろうか……?

 王家なら、熟練の講師を付ける事くらい余裕だろうにと思ってしまう。

 態々私に頼むのは身近―――学院―――に居るからだろうか。しかしそうなると、休日の予定を週に1日くらいは空けておかなければならない。私が毎週自領に戻っているのを知っているのは、いつものメンバーだけだ。スィール殿下に知られたくはない。


(……まあ良いか)


 父は未だ帰って来ないようだし、1日くらいなら問題は無いだろう。

 後は放課後か……。

 もしスィール殿下が放課後にも練習をしたいと言った場合、全て断るのは不味い気がする。

 エイミさんの研究室に入っていない人を連れて行くのは良くないだろう。

 ………この辺の事も、スィール殿下が言って来てから考えよう。


「あ、ユリアさん。ちょっと良いですか?」

「?……あ、エイミ先生。はい、何でしょう」


 スィール殿下の様子を見ていると、後ろからエイミさんに話し掛けられた。


「放課後、私の研究室へ来ていただけますか?」

「はい、大丈夫ですよ」

「ではお願いしますね。…此処では少々お聞きし辛いので」

(………?)


 周囲を気にしながら、小さめの声で話すエイミさん。

 その事に疑問を覚えるが、此処では話し辛いと言われると今聞く訳にもいかないのでスルーする。

 そのまま授業は何事も無く終わり、放課後は言われた通りにエイミさんの研究室へ向かった。



 私が着いた時には、既にエイミさんが待っていた。セイルティール様の姿は見えない。

 そのまま席に着いた私を見て、エイミさんが話し始める。


「今回の件、ユリアさんは何か聞いていますか?」

「………?」

「ああ、失礼しました。少々気が急いていたようです。今回の件と言うのは、魔法競技会についてです」

「えーと……話が読めないのですが」

「あれ?違った?……いえ、聞いていないのでしたら別に良いのですが、国王陛下から階級による贔屓をしないようにと、態々注意勧告がありました。過去に例が無く、教師陣が皆疑心暗鬼に陥っています」

「……何故疑心暗鬼に?」

「端的に言いますと、深読みしているのです。誰かが不正を行っているのが露見して、その忠告を兼ねているのでは?…と」

「あの、其れで何故私に聞くのですか?」

「ああ、其れはユリアさんが最近登城していたからですね。少しでも情報が欲しいからと、教師を代表して交流もある私が聞く事になりました」

「な、成程……」


 つまり、予想外の事態に混乱した教師陣から、知っている可能性のある私に、収穫があるかもわからないのに聞いて来いと無茶振りされたのだろう。そして情報を得られなければ、其れは其れで聞きに来たエイミさんの所為にされると……。

 思わず同情的な表情(かお)をしていると、其れに気付いたエイミさんが苦笑した。


「まあ、損な役回りは新任の教師に多いものです。一応、学院では私が一番任期が浅く年齢も若いので、仕方がありませんね」

「そうでしたか……」


 エイミさんには、小さい頃から色々とお世話になっている。

 教え子であるという事以上に、親身になって教わったと私は思っている。

 そんなエイミさんには力になりたいとも思うのだが、如何せんこの話に関しては何処迄して良いものかの判断が付かない。

 だから、私の予想という形で少しだけ情報を与える事にした。


「その、違っているかもしれないという前提で聞いて欲しいのですが―――」


 王妃様からのお願いを、私にできる限りの語彙力を(もっ)てして(ぼか)して伝えた。


「ありがとうございます。ユリアさんのお陰で、何とか説明できそうです」


 私の意図が伝わったのか、話を聞き終わったエイミさんは晴れやかな笑顔でお礼を言ってくれた。


ブクマと評価、ありがとうございます。

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