改めてレイエルは変態だと認識する
マリウスの協力者と顔合わせして欲しいと言われ、現在神殿で行っている。周囲の監視も回避できるので、私としても都合が良かったという理由もある。
転移扉も設置してあるので移動も容易く、距離を気にしなくても良いのは気が楽だった。
今の私は、転移や透明化が難しくなっていた。原因はティアで、大半が私に引っ付いて行動する為、自身に直接作用させる魔法が使えなくなってしまっていた。ティアに魔力を吸われ、事象改変が起こせなくなるのだ。しかし当人に自覚は無く、無意識での出来事なので今の所対処ができていないが、其れはまた時間のある時に考えるとしよう……。
神殿で顔合わせした相手が2人共、初対面にも関わらず私を信仰していたり、その原因がマリウスだったりと、必要の無い悩みができてしまった。何を吹き込んだのかはわからないが、2人の様子を見る限り、私自身の実力よりも評価されていそうで気が重い。
そんな感じで新たな信者(?)に困惑しつつ、報告があると言うので聞く流れに。
「――以上の事から、民衆の前にユリア様が姿を現さなければ、そのうちに収束すると思われます」
一通り聞いた内容を頭の中で纏め、整理する。
教会が民衆を煽っている件については、以前王妃様から手紙で知らされていた。
其れが余り上手くいっていない事も知っていた。
しかし、教会内部でも対立しているのは初耳だった。仕掛け人は予想通り教皇だったが、裏では梟の贄の下部組織が暗躍しているらしい。
梟の贄は、マリウスが私と敵対した時に所属していた組織で、複数の下部組織を抱えていたそうだ。
梟の贄自体はマリウスが潰した―――どうやったかは暈された―――そうだが、下部組織には手が回らなかったと言う。それ程大きくもなく、頭が潰れれば自然消滅するだろうと考えていたようだ。
その事について、マリウスは―――
「其れがまさか、こうしてユリア様に迷惑を掛ける事になろうとは……。猛省致します」
――非常に申し訳なさそうに言うので、私は何も言わなかった。追及は勿論の事、慰めや庇う発言も逆効果になりそうだったからだ。
そして、教皇と下部組織の者は、バートン元伯爵家と行動を共にしていたと思われる。過去形なのは、一家丸ごと死体で発見されたからだ。
状況証拠からのオセの推測だが、隠し財産から魔具や資金の提供をした後に裏切られたものと判断したそうだ。資産登録がされていない倉庫から、バートン家の家紋の入った物が発見された。中は荒らされた様子もなく、必要な物だけを持って出た形跡があったらしい。
と、此処迄の話で1つの疑問が浮かぶ。
「捜索隊と協力しているの?」
どう考えても、個人で調べられる範囲を超えている。しかも、一般人が立ち入ってはいけない場所もあった。
「いえ。…ですが、ご心配には及びません。万事抜かりなく」
答えたのはセシリアだった。
もしかすると、王妃様へのお願いと何か関係があるのだろうか……?
聞いても答えてくれそうにないので、取り敢えず話を進める。
教皇達が身を隠している場所については、数ヵ所に絞れているそうで、準備が整い次第同時に騎士団が制圧に向かう作戦らしい。
よって、残った問題は教会についてなのだが、此方は基本放置でも構わないとの事。
教会内部での対立は、教皇派と聖女及び女神派で分かれており、前者は自分達の欲望に忠実な者達で、後者は信仰心の強い者達だ。
セシリア曰く、民衆を扇動しているのは教皇派だが、其れも教皇が捕まれば大人しくなるだろうと予想されている。ただ、大人しくなったとしても、王妃様は今回の騒動の責任を取らせるつもりらしく、現在は正確な人数を把握させているのだとか。
民衆に関しても、実際に目にした訳でも無い存在に対し、何が何やらで戸惑っている者が大半らしい。又、その気になっている者達も、教会の関係者―――親類―――ばかりで、人数もそう多くはないようだ。
結論、先程言われたように、私は王都で外出しないようにだけ注意し、普段通りの生活を続ける。……よくよく考えると、私は別に王都での買い物は余りしていなかったので何も問題は無かった。
念の為、騎士団の制圧作戦が行われた後も、暫くは様子見が必要そうな気もするが……。
「とは言え、ユリア様の御学友にも気を払う必要があるかと」
「そうですね。姿隠しの魔具がある以上、事が終わる迄は注意が必要でしょう」
順に、セシリアとマリウスが言った。
話とは関係無い事だが、セシリアは何時の間にか私を呼ぶ時に“お嬢様”を付けなくなっていた。一人前として扱われているのかもしれないが、少し寂しい気もする。
報告も終わり、私が聞きたい事も聞いたので、解散となった。マリウス達は、すぐにまた王都へ向かうそうだ。
マリウスが神殿を出る際―――
「今回の件が片付けば、この2人も正式に此方へ拠点を移させようと思いますので、その旨、御承知おきくだされば幸いです」
――違う厄介事が増えた気がした………。
マリウス達が出て行った後も、私達は神殿に残っていた。
私は神殿に来たついでに神像へ祈るからで、セシリア達は私に付き合ってくれている。
早速神像の前に移動し、いつものように祈る。
(いい加減、何かしら反応して欲しい)
―――私は私で忙しいのよ。其れに、次は成長してからって言ったのに……―――
「――ん?」
目を開けると、既に見慣れた真白な空間に居た。
後ろを振り向くと、座ってお茶を楽しんでいるレイエルが居る。
(何で毎回後ろに居るのか……)
漸く此処に来られた事よりも、毎回後ろ向きに出現する事に気を取られていた。
「いらっしゃい」
私を見て微笑むレイエル。暢気にも見えるその姿に、少しイラっとした私。その直後に「んぅっ…」と悩まし気な声を出すレイエル。
(そうだ、この女神変態だった……)
「失礼ね、私は変態ではないわ」
「何も言ってないけど……」
「その表情が物語っているわ。……まあ良いから、座りなさいな」
促され、レイエルの正面に用意されていた椅子に座る。
私の所にはお茶が無かったので、以前レイエルに貰ったカップを亜空間から出す。
すると、レイエルの方から話し掛けてきた。
「良かったじゃないの、友人に会えて」
「……かなり理不尽な条件だったんじゃない?」
「あら?…でもちゃんと記憶は戻っているのでしょう?」
「レイエルが教えてくれても良かったんじゃないの?」
「其れはダメよ。私にも、制約というものがあるのだから」
レイエル曰く、管理者にも世界に干渉し過ぎない為のルールがあるらしい。その中には、発言内容を縛るものも存在するのだとか。
「だからユリアには、情報可視化を与えたじゃないの」
「え?…褒美とか言ってなかった?」
「褒美として与えないと、制約に抵触するもの」
(何故だろう、素直に信じられない……)
私が疑いの目で見ていると、レイエルが「あっ…んん、このくらいも心地良いわね」と陶酔した表情で左手を頬に当てて気持ち悪い発言をした。
「あら?何か気になるのかしら」
「や、何でそんなに変態なんだろうと思って……」
「うふふ、失礼ね。私が感じているのは、ユリアの態度にではないわ」
(感じてるとか言い出したよこの女神)
「ユリア、貴女の魂は綺麗で美しいわ。私はその魂の波動を感じているの」
「魂の波動……?」
「そうよ。魂は、持ち主の感情に呼応して揺らぐの。勿論、感情の強さに影響されるわ」
「??」
「その揺らぎは、強弱に合わせて鼓動や波動となって周囲に広がるのよ。…そして私は、其れを感じ取れるの。元となる魂が綺麗であればあるほど、とても気持ち良いわ」
(気持ち良いんだ………ん?)
「怒りとかの負の感情って、魂が穢れるんじゃないの?」
「あら?ユリアは精霊の祖から、魂に関して聞いたんじゃなかったの?」
「精霊の祖?」
「ユリアがテュールと名付けた精霊よ」
精霊の祖とは、最初に世界に発生した精霊の事らしく、現存するのは全部で7匹らしい。
其れよりも、レイエルは覗き見し過ぎじゃなかろうか……。
「魂は、善行を重ね、徳を積む事で綺麗になり輝くの。徳とは、他者へ与える良い影響の事ね。当人の思想は一切関係無く、言動のみ見られるわ。だから、何を思おうと魂には影響無いのよ」
「……ちょっと理解できないんだけれど、魂は感情の影響を受けるのに穢れないの?」
「そうね…先ず、感情と思想は別物なの」
「えっと……?」
頭が混乱してきた。何か思うから感情が発生するんじゃないのだろうか?
「簡単に言うと、思想は言葉で説明できるけれど、感情は説明できないでしょう?」
「え?……喜んでるとか怒ってるとか、説明できるでしょ」
「いいえ、程度の説明はできないわ。……個人差、とでも言えば良いのかしら。感情は他人に理解できない。感情の種類は理解できても、その大きさを理解する事はできないわ。だから、本当の意味で伝わる事は無いの」
「……………」
「其れを踏まえて、感情は心が感じるもの。負かどうかなんていうのは、人がどう思うかというだけの事よ。魂には関係無いわ。関係あるのは強弱だけよ」
「なる…ほど?」
つまり、何を思うかよりも、どう行動するかで魂の輝きが変わる。そして、感情はあくまでも魂を揺らすだけで、その種類は関係無いと……。
魂を揺らすって何?と思うが、視えない私は考えるだけ無駄だろう。
「ああ、忘れる所だったわ。魔力量は数値化してあげたから、今後は意識する事で視られるわよ」
「………へっ?」
余りにも唐突だった為、間抜けな声が出てしまった。
「あら、その為に此処へ来たかったのではなくて?」
「あー…そうね……」
完全に頭から抜けていたのだが、何となくレイエルに対しては素直に礼を言いたくない。
「其れから、今後は言葉に気を付ける事ね」
「え?……あ、やっぱり馴れ馴れしかった…ですか?」
気にして無いように見えて、実は不快に思っていたのだろうか?
「うふふ、私に対してではないわ。現実へ戻ってからよ」
どうやら違うらしい……が、戻ってから?
「………どういう事?」
「信仰する者が増えた事で、ユリアの存在の格が上がっているわ」
「?」
「ユリアの発する言葉に、強制力が付くの。言霊、と言ったかしら……。先程の魂の話にも関わってくるけれど、感情を込めて魂の揺らぎを起こし、言葉に乗せる事で相手の魂を縛る事ができるの。縛られた魂の持ち主は、その言葉の通りに行動しようとするわ」
「其れは…つまり、感情的になるなと……そういう事?」
「いいえ。でも、そうね…感情が高ぶると制御できないかもしれないから、気を付けると良いわ。私は気にしないけれど、ユリアは嫌でしょう?」
「………まあ、そうね」
忠告をしてくれるのはありがたいが、どうしろと言うのだろうか。
先程の説明だと、意識して言わなければ普段は大丈夫とも取れる。
ただ、どの程度迄大丈夫かは、試さなければわからない。しかし、試すのも少し抵抗がある。……と言うよりも、怖い。
「そろそろ時間ね、今後は好きな時に来ると良いわ」
「……気が向いたらね」
お座なりな返事をし、カップを亜空間に仕舞った所で、視界が段々と薄まっていく。私はその感覚に身を委ねた―――
――ふと気が付き、目を開けると神像が見えた。
取り敢えず、レイエルが言っていた事を確認しようと、魔力量も意識して自身を視てみる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《名称》
ユリア・ルベール(甲斐 優哉)
《種別》
半神人(長命種・覚醒済)
《先天的才能》
苦痛耐性【極】 健康体【極】 並列思考【中】
成長促進(魔)【極】 言語理解(全)【極】
魔法才能(全)【特】 魔力特性(癒)【特】
重心安定【極】 空間把握【高】
《後天的才能》
不老【極】 魔力の泉【極】 魔力視【特】
護身術(体)【高】 近接格闘術【中】
舞踏(洋)【高】 歌唱【極】 演奏【極】
気配感知【極】 魔力操作【極】 祈祷【高】
情報可視化【特】 言霊(人・魔)【特】
《聖約・契約者》
スー(中級精霊)
ルー(中級精霊)
クー(中級精霊)
テュール(原始・帝級精霊)
ティア(異形種・人型)
《信者》
アンドロマリウス
ヴェパル
オセ
《魔力保有量》
985,668/988,007(現在値/最大値)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(魔力保有量の現在値が小刻みに変動してる……)
契約相手に魔力供給をしているという事だろうか、現在値が減って戻ってを繰り返している。
契約相手は兎も角、信者の覧は見なかった事にした。
(えーっと、次は……)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
<言霊>
特定の条件下で、言葉が強制力を持つ。
(人)
自身より格の低い人種に対して影響する。
(魔)
魔素及び魔力に対して影響する。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
特定の条件下は、レイエルが言っていた感情云々だろう。人だけでなく、魔素や魔力にも影響があるのは聞いていないが、試すのには丁度良い。人相手でなければ、良心は痛まない。
「ユリア様、如何なさいましたか?」
私が考え込んでいると、リンが声を掛けてきた。
「少し考え事…大丈夫よ」
リンに気にしないように伝え、この後どうしようかと考える。
時間はかなり余裕があるから大丈夫だ。
(折角だから、テュールにも会いに行こうかな……)
暫く放置してしまっていたので、久しぶりに会って話でもしようと思う。
今は眠っている訳でも無いので、寂しい思いをさせているかもしれない。長生きだから時間の感覚が違う可能性もあるが……。
(あ…その前に宝石を補充しておこうかな)
ストックはまだ多く持っているが、補充できる時にしておいた方が良いだろう。
取り敢えず、先ず宝石を補充して、その後にテュールに会いに行く事にした―――――
ブクマと評価、誤字報告ありがとうございます。