何か増えてた
夏季休暇となり、リーデル領へ帰省した。今回もイリス同伴だ。
フィーナも来たがっていたのだが、残念ながら船の件があった為見送られた。
其れから、親睦会の直前に何故かセシリアが来た。王都に居る事にも驚いたが、その際にセシリアから聞いた話にはもっと驚かされた。
この前王妃様から来た手紙には、どうしてセシリア―――ガーネット―――の事を黙っていたのかと、少し拗ねたように書かれていたのだが、私自身に身に覚えは無かった。しかしどうやら、セシリアの前職に関係があったようだ。
セシリアから過去話を聞いて知ってはいたものの、私が思っていた以上に王妃様との仲が良かったようだ。そして今回の騒動を聞きつけたセシリアが、個人的に王妃様へとある頼み事をしに行き、その時に私との関係を知った王妃様があの手紙を送ってきたのだと思う……。何を頼んだのかが気になり、セシリアに聞いてみたのだが教えてくれなかった。
仕方なく、時間に余裕も無かった事もありそのまま親睦会へ向かった。
親睦会では、王妃様への報告(?)をする為に、さり気なくスィール殿下の様子を見ようと思っていた。しかし、前回に引き続きダンスに誘われてしまった。もしかすると、スィール殿下も王妃様から何か言われているのかもしれない……。
そんなスィール殿下だが、私の疑念解消の為にこっそりと視て魔力特性と魔法才能を調べさせてもらった。すると、魔力特性は無く、魔法才能に地・植・風の3つがあった。一応風にも才能はあったみたいで少し安心したが、他の2つは視なければわからなかった。と言うよりも、魔力測定の魔具でわかる適正が基本1つというのも少し納得がいかない今日この頃だ。
――と、其処迄考えて漸く、魔力測定の魔具を詳しく視れば良いじゃないかと気が付いた。
夏季休暇が終われば、その辺りも確認しようと思う。
さて、話を戻すとしよう。
今回もイリス同伴なのには理由がある。
前回、下水道の設備を造る計画の為に町の調査をしてもらった。その際、設計と一緒に現状の問題点を纏めたもの迄作成してくれていたのだ。勿論領地の事なので、私は父に相談すると共に提出し、検討して欲しいとお願いしていた。
そして最近、漸く許可が出た。恐らく他との兼ね合いもあり、調整してくれたのだろう。
その事をイリスに告げると、改めて現地を確認したいとかなり乗り気だった。しかし、去年も帰らなかった事を心配して尋ねると、「両親は、寧ろ積極的に行けと言ってくれていますよ」との返答があった。何でも、良い就職先になるからと応援しているらしい。
ならば問題無し、となった訳だ。
今イリスは、客室で荷物を整理している。
私はと言うと、久々にミリアの相手をしている。最近の勉強で覚えた事等を、楽しそうに報告してくれる。ただ、最初にティアを見た時、何故かビクッとしていたのは気に掛かった。しかしその後すぐ、私の腰元にしがみ付いているティアに対抗し始め、膝を着いて正面から私に抱き着いた。
………そう、膝を着いて。
ミリアも、遂に私より背が高くなっていた。その事実にショックを受ける私。少し成長が早くないだろうか……。
そして膝を着いた理由は、顔を胸に埋める為だろう。……頭を僅かに揺らしながら、臭いを嗅がれている。時折、「うへへぇ」と聞こえるのは気のせいだろうか。
其れより、胸に顔を埋めたまま話されると響くので、そろそろ止めて欲しい。
私の願いが通じたのか、荷物整理を終えたであろうイリスが来てくれた。
この状況に軽く引いていたが、私は気にせず話し掛ける。
「もう荷解きは終わった?」
「あ、はい。終わりました」
「?……お姉様のお友達ですか。確かイリスさんでしたね、お久しぶりです」
イリスに気付いたミリアは、私から離れて礼を取る。約1年ぶりにも関わらず、イリスの事を覚えていたようだ。
イリスも礼を返し、周りを見て、一言―――
「取り敢えず、座りませんか?」
――尤もな事を言われた。
側のテーブルには、セシリアが準備したお茶と茶菓子が置いてあった。
いつの間にか、椅子も人数分用意されている。
席に着く時にもティアとミリアの間で一悶着あったが、以降は和やかな雰囲気で会話が進んだ………。
夕食の席では、イリスが父に改めて逗留の礼を言ったり、ミールの成長具合を微笑ましく眺めたり、母に捕獲されて相手をしたりと、騒がしい時間を過ごす事になった。その際、父はティアの事を見て微妙な表情になっていた。手紙で事情も含めて説明してあったが、実物を見て何か思う所があったのかもしれない。
私室にて、明日以降の予定を考えていると、ティアが私の服を軽く引いてくる。
「どうしたの?」
「主様よ、先程母君を見て気付いたのじゃが、魂に欠損があったのじゃ」
「……………え?」
「治りかけにも視えたが、あのままであれば後数年は時間が必要じゃな」
「………………」
「あの薬が効くと思うのじゃが、使ってみるかの?」
あの薬とは、快魂薬の事だろう。
「……そうね、可能性があるのなら」
「ふむ…副作用も無い故に、躊躇う必要もあるまい。其れに、あの薬は主様ならばいくらでも作れよう」
(私なら……?)
「魔力と材料さえあれば、誰でも作れるんじゃないの?」
「む?…其れは無いの。妾の知識に製法はあれど効果を知らなんだのは、知識を持つ者とその周りの者が作成できなかったからじゃ」
「………?」
「単純に、主様以外は魔力量が足らぬ。あの薬に必要な魔力量は、多めの者約50人分じゃ」
「……………はい?」
耳を疑う数字が聞こえた。
「その上、煮詰まる迄に注ぎ終わるかは技量によるからの」
「そんな物を何で私に作らせたの!?」
「む?魔力量では、主様に敵う者は居るまい。魔力保有量に関しても、妾の知る限りでは最も多いのじゃ」
「ああ……そういう………」
そう言えば、私の魔力を吸収した時に、知識と記憶を得ていたのだった。なら、私の魔力が瞬時に回復する事は知っているのだろう。
だが、魔力保有量がわかるのは何故だろうか……。鏡越しでは魔力視が反応しない為、私は知らない。其れに、ティアには魔力視は無かった筈。
「魔力、視えるの?」
「うむ、最近視えるようになったのじゃ」
「……ちょっと失礼―――」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《名称》
ティア
《種別》
異形種・人型(覚醒済)
《先天的才能》
不死【特】 再生【特】 記録【特】
吸魔力【特】 魂視【特】
《後天的才能》
苦痛耐性【中】 健康体【低】 並列思考【中】
不老【極】 重心安定【中】 空間把握【低】
柔術【中】 近接格闘術【中】 剣術【中】
短剣術【中】 槍術【低】 斧術【低】
暗器術【中】 投擲術【低】 追跡【特】
罠術【低】 解読【中】 気配隠蔽【低】
気配感知【低】 遠泳術【中】 棒術【低】
潜水【低】 不眠【中】 刺繍【中】 裁縫【中】
魔力視【特】
《異常》
魔素吸収阻害
《聖約者》
ユリア・ルベール
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ティアを視てみた所、確かに魔力視が増えていた。
異常の所にあった魔力澱滞留も無くなっている。
他にも、特に訓練もしていないのに、何故か才能が伸びている。
(ちょっと意味がわからない……)
謎の多い不思議生命体にしか見えなくなってしまった。見た目は可愛らしい少女なのに……。
「確認できたのかの?」
「まあ、そうね…うん」
「ふむ…主様は何処迄増えるかのう」
「増える?……まだ増えるの?」
「勿論じゃ。魔力を使用する事で、保有量は上がるのじゃ。其れに、体の成長が止まる迄上がり続けるのじゃぞ」
「体の成長って……」
「うむ、主様の場合、数十・数百年後じゃな」
「……………」
私は、不老の影響で成長が遅くなっている。其れはつまり、魔力量が増える期間も長くなるという事なのだろう。
そんなに必要だろうか?と思う一方、先日の王城で、ティアに名付けした際に気を失った事を思い出す。後から聞いて知ったが、あの時は魔力の瞬間放出量が多かった所為で、保有量の1割を下回って一時的に気を失う事になったらしい。
この先、同じ事があるとも思えないが、前例ができてしまったからには、考慮しなければならない。
そんな事を考えていると、ティアが再度私の服を軽く引いてきた。
「ん?」
「母君に薬を持って行かぬのか?」
「あっ…うん、持って行きましょうか」
思考が逸れて、違う事を考えてしまっていた。
教えてくれたティアに心の中で感謝しつつ、私は母の部屋へと向かう………。
「いらっしゃい、ユリアちゃん」
「お母様、突然すみません」
「良いのよ、ユリアちゃんは何時来てくれても。其れで、どうしたの?…あっ、一緒に寝る?久々に同じベッドで寝ましょうか」
「あ、いえ…そうではなくて、お母様に此方をお持ちしまして……」
「あら、違ったのね、残念だわ。……此れは?」
「お母様の為に用意したお薬です」
嘘を吐くのは少々心苦しいが、用途を考えると母の為と言っても過言ではない。
「まあ!ユリアちゃんが私の為に……。嬉しいわ」
私の言葉に、疑いもせず薬を受け取る母。
良心の呵責が………。
しかし、薬を飲んでもらわなければ意味が無いからと自分に言い聞かせる。
扉付近で待機している使用人は、そんな私を見て不思議そうにしているものの、止めようとはしない。
「服用して効果が出る迄、大体1日掛かります」
「あら、そうなの?なら今飲んでおきましょうか」
そう言って、母は快魂薬を服用する。
「不思議な味ね。少し甘みがあって、さっぱりしているわ」
「其れは良かったです」
試す機会も無かったので、味については知らなかった。よくよく考えれば、飲み難い味の可能性もあったのだから、一滴舐めるくらいはしておくべきだったのかもしれない。
「ではお母様、お休みなさい」
「ええ、お休みなさい。……其れと、ティアちゃんだったわね」
「……む?」
「ユリアちゃんを宜しくね」
「お母様……?」
「うむ、任せるが良い」
母が何故ティアに宜しく言ったのかはわからないが、其れを受けたティアは胸を張って答えた。
思うところもあったが、私は何も言わず母の部屋を後にし、私室に戻った―――
翌日、セシリアを伴って神殿に来ていた。
マリウスの協力者が2人居て、顔合わせして欲しいと言われたからだ。
私が夏季休暇で戻るからと、タイミングを合わせて此方へ来ているそうだ。
事前に聞いた話では、その協力者はマリウスがスカウトしたらしく、会った事も無い私に従う事にも抵抗は無いのだとか……。
仕事ぶりも良く、今の所マリウスと共に諜報活動に専念しているらしい。有益な情報は、セシリアが有効活用していると教えてくれた。
「もうすぐ到着する予定です」
セシリアがそう言った直後、外に気配を感じた。数は3、マリウスと協力者達だろう。
扉が開き、姿が見える。
先頭には、思った通りマリウスが立っており、後ろに2人並んでいる。
一応自己紹介の前に、2人の情報を視る事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《名称》
ヴェパル
《種別》
魔人
《先天的才能》
健康体【低】 先導【特】 気配隠蔽【中】
遠泳術【中】 魔法才能(水・風)【特】
《後天的才能》
重心安定【中】 投擲術【中】 暗器術【高】
感情制御【低】 苦痛耐性【中】 忍耐【中】
気配感知【低】 信仰【極】
《信仰》
ユリア・ルベール
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
《名称》
オセ
《種別》
魔人
《先天的才能》
健康体【中】 気配隠蔽【中】 並列思考【低】
魔法才能(暗・蝕)【特】 魔力特性(蝕)【特】
《後天的才能》
重心安定【中】 近接格闘術【中】 剣術【中】
感情制御【低】 苦痛耐性【低】 狡知【特】
変化(表)【特】 信仰【極】
《信仰》
ユリア・ルベール
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(や、何で会った事も無いのに信仰されてるの!!?)
2人共マリウスと同じ魔人だったが、そんな事よりも初対面なのにも関わらず、信仰されている事が信じられなかった。
私の驚愕を余所に、マリウスは2人に挨拶するよう促す。
「お初にお目にかかります。ボクはヴェパルと申します。お会いできて光栄です」
ヴェパルは少年にも見えるが、声からすると少女のようだ。
「初めまして。私はオセ、お会いできる今日を楽しみにしておりました」
オセは青年で、声が少し高い。
2人共、マリウスと同じ肌色をしている。
「2人には、私の方からユリア様の素晴らしさを、毎日のように語って聞かせておりました」
(犯人はお前かい!!)
心の中で口調が乱れる。
会っても無いのに信仰するとは……。いったい何を聞かせたのか、非常に気になる。
「そ、そう……えーっと、2人共不満は無いの?」
「いえ、十分満足しております。ユリア様のお役に立てるのであれば、ボクの人生は幸せなものとなりましょう」
「私達の力でユリア様の憂いを払えるのであれば、望外の喜びです」
頭を下げながら力説する2人。
其れを満足気な表情で眺めるマリウス。
感心した様子のリン。
若干引き気味な私。
その様子を冷静に見つめるセシリア。
目の前の状況に我関せずなティア。
(誰か…誰か抑えに回る人が欲しい!!)
顔合わせに来たら、何故か信者が増えていたという謎体験をした私なのであった……………。
ブクマと評価、ありがとうございます。