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4回目の王城


「こんなに可愛くなっちゃって、凄く整った顔よね、まるでお人形さんみたい」

「えーと………」

「しかも、元は男なのになんて立派な(もの)を……。其れに比べて私のは………」

「や、年齢からすれば普通―――」

「――気休めは良いの!……むぅ、でも本当に大きい」


 言いながら、がしっと胸を掴まれる。


「ひゃっ、ちょ、止め―――」

「此れは…癖になりそうな柔らかさ。でも下着の感触が何か変な気が………」


 意識が回復したフィーナは、完全に結奈の記憶が戻っていた。(しか)して、フィーナとしての記憶も残っているので、今の生活に困る事もなさそうだ。

 と言っても、性格は完全に結奈の頃のものになっているので、他の人の前では取り繕う必要がある。

 今私達は、王城の客間の一室(・・・・・・・・)にてじゃれ合っている状況になっている。

 何故王城に居るのかと言うと、話は護送用の馬車にて送ってもらった後まで遡る―――――





 意識を失ったままのフィーナと、少女にしがみ付かれた状態の私は、学院前にある屯所の救護室へと案内された。すぐ目の前が学院なのに此方へ案内された理由は、私にしがみ付いている少女を学院に入れる事を躊躇われたからだ。

 あの後も、偶にだがフィーナが苦悶の表情をする事があった。しかし体に異常は無く、回数を重ねる毎に時間が短くなっていったので様子を見るだけに(とど)めた。

 救護室に運び、それ程時間を置かずにフィーナは目を覚ました。

 私の顔を見て涙を流しながら「ちゃんと会えた」と言うので、疑問に思った私は、何故私が優哉だとわかったのかを尋ねた。

 すると、驚く事に結奈は、私に必ず会えるようレイエルに交渉していた。そしてその結果、記憶が戻る為には『前世の名前を確信を持って呼ばれる』事が条件にされた。

 つまり、記憶が戻った時に目の前に居たのが私だけだった事から、間違いなく私が優哉だと判断したそうだ。

 見た目云々(うんぬん)は兎も角、性別も変わっていてよくそう判断したなと感心していると、慌てた様子の騎士の方が入って来た。


「不躾で申し訳ありません。至急の連絡が入った為、伝達に参りました」


 そう言って手に持っていた紙を広げ、読み上げる。


「『ユリア・ルベール嬢、至急登城されたし。用向きは城にて伝える』との事です」

「……お城、ですか」

「はい、其方(そちら)のお2人も一緒で構わないそうです。又、学院にて待機している使用人には既に連絡済みとの事ですので、その点は御心配無く」

(2人もって…この少女の事も?今日遭遇したばかりなのに??)

「移動の為の馬車はもうじき到着しますので、其方をご利用ください」

「ありがとうございます」

「いえ、では失礼します」


 騎士の方は、一礼した後出て行く。

 この屯所に居る騎士の方々は、基本的に礼儀正しい。相手が私達のような子供でもだ。一部例外も居るが、見下したりといった感じではなく、敬語が苦手且つ気安く接するといった感じだ。

 私が礼儀正しさに感心していると、服をちょいちょいと軽く引かれる。


「な、何か…したの?」

「………わかんないよ。…あ、そうだ」

「?」

「言葉使い、今は良いけれどお城では気をつけないと」

「ああ、大丈夫ですよ。ユリア様」


 パチッとウインクしながら言うフィーナ。………可愛い。


「っ……な、なら良いの。其れより、立てる?」

「あ、えーと………大丈夫そうかな」


 その後、馬車が到着してすぐに王城へ向けて出発した―――





 ――そして客間に案内され、今は待機している。


「んぅ、ちょっ、流石にもう―――」


 コンッコンッコンッコンッ


「ほらっ、誰か来たから」

「……仕方ない、またにしましょう」

(えっ!?また触る気!?)


 さり気なく次回予告をされて戦慄していると、「失礼します」と言って使用人さんが入って来た。


「お召し物の準備が整いました。化粧室へご案内致します」

「「あ、はい」」


 そして移動中。


「その女の子どうするの?」

「……どうしよう」


 小声で、私にしがみ付いたままの少女について話し合う。

 以外にも起用なのか、私の動きを阻害しないので邪魔にならず、魔力を吸われていなければその存在を忘れてしまいそうな程だ。だが、着替えともなれば話は変わってくる。くっついたままだと着替えは無理だ。

 様子を伺うと、慣れてきたのか今この少女は最初の頃の様な奇声を上げていない。


(でも……)


 陶酔した表情は相変わらずだ。今案内してくれている人は、よくこの少女をスルーできたものだ。

 化粧室に到着すると、多くのドレスと使用人さん達が並んでいた。

 私の状態を見て、一瞬目を見開いた人も居たが何事も無かったかのように行動し始める。


「ユリア様は此方へ」

「お連れ様は此方に」


 フィーナと別れてドレスの選定が始まる。―――私の意思は関係なく。


「此方の淡い水色の物はいかがでしょう……」

「いえ、髪色に合わせて此方の真紅のドレスに……」

「装飾の類が無いのですから、此方の宝石を誂えたドレスの方が……」


 当人である筈の私を置き去りにして、何を着せるかでキャッキャと盛り上がる使用人さん達。興奮気味だがとても楽しそうだ。

 その光景に呆気に取られていると、私達の案内をしてくれた使用人さんがこっそり耳打ちして教えてくれた。


「騒々しくして申し訳ありません。何分、王家に姫が居らず、王太子殿下へ嫁いで来られた方もすぐに王家直轄領へ向かわれたので、最近迄使用人たちも腕を揮う機会に恵まれなかったのです。其処へ今回、急の呼び出しの為此方でドレスの準備をとの連絡が入り、このような有様に……」

「そ、そうでしたか………」

「其れにユリア様とお連れ様も大変可愛らしく、着飾り甲斐が―――――いえ、何でも御座いません」


 早口で捲し立て、途中で誤魔化された。

 ひょっとしてこの人も加わりたいのだろうか……。

 そして、ふと気が付いたように続ける。


「その…ユリア様に抱き着いていらっしゃる子は、いかがなさいましょう」

「あ、少々お待ちを」


 使用人さんへ、決して少女に触れないよう注意しておく。私以外から魔力を吸わないようにと言ってあるが、もしもがあってはいけない。

 そして少女に離れるよう説得を試みる。


「ねぇ、少しの間離れて欲しいの」

「―――む?嫌なのじゃ」

「着替えるだけだから……ね?」

「ぬぅ……仕方ないのじゃ」

(おや………?)


 一度は断られたものの、理由を言うと素直に聞き入れてくれた事に驚く。

 案外素直なのかもしれない……。


(精神年齢は見た目相応?)


 私から離れた少女は、手持無沙汰だからか一緒に来ていたスーを追いかけ始め―――


「――え!?スーが見えるの?」

「む?」

「あ、精霊が見えるの?」

「妾は光を追いかけておるのじゃ」

「………光?」

「ふふふ、魂なのじゃ!」

(魂………あぁ、魂視とかいう……ん?なら体と魂は別物って事に……)

「ユリア様、ドレスが決まりました。本日は此方に致しましょう」

「あ、はい」


 ニコニコと嬉しそうな使用人さん達にドレスへと着替えさせられる。

 ウエストが細く、其処から上下にボリュームがある真紅のドレス。確か、Xラインと呼ばれるシルエットだったと記憶している。他のドレスも一通り見た所、種類も豊富で時代による流行は特に無いのかもしれない。


(それにしても、何で私に合うサイズの物がこんなに揃ってるんだろう………)


 自分で言うのも哀しいが、私は少し特殊な体形だと思う。普段着も全てオーダーメイド品になるので、それなりに費用も掛かっている。

 先程の話だと、普段からドレスを用意する必要も無かったように思えるし、これらはどう見ても仕立てたばかりだ。つまり王妃様の物ではない。

 私がそう考えている間にも、テキパキと手際良く着替えを行う使用人さん達。

 息の合った動きに感心していると、視界の端でスーが捕まってモフられている姿が映った。

 一瞬息を呑んだが、魔力は吸われていないようだ。


「何ぞこやつ、触り心地が良いのじゃ~」

(あぁ、スーが悲しそうな表情で私を見ている………)


 助けてあげたいが、今私は髪を整えられている所なので動けない。

 スーには悪いが、実害が無ければ我慢してもらおう。

 そうして着替えが終わり、いつの間にかフィーナも近くに居た。私の方が遅かったようで、フィーナは少女の行動に目を丸くしている。


「其方の女の子のお召し物はいかが致しましょうか?」

「えーっと……」


 言われて、改めて少女を見てみる。今着ているのは、着物擬きだ。寄せ集めの布を縫い合わせ、無理矢理着物の形にしたかのような継ぎ接ぎだらけの衣服だ。………着物に拘りでもあるのかもしれない。

 この国周辺では、反物を見かけた事は無い。

 取り敢えず聞いてみようと声を掛ける。


「着替え終わったよ」

「ぬ?うむ。待ち兼ねたのじゃ」

「所で、その服どうしたの?」

「む?妾の着物が切り裂かれたから拵えたのじゃ」

(あ、やっぱり着物があるんだ)


 スーを開放し、答えながら私に抱き着いてくる少女。スーは心なしかぐったりしている。

 抱き着いた瞬間から、魔力が吸われ始める。この何とも言えない感覚は、生前に1回だけ行った献血の時に似ている。慣れる日がくるのかが疑問だ。


「着物が好きなの?」

「うむ」

「他の服は?」

「嫌なのじゃ」

「………だそうです」

「承知しました」


 使用人さんも予想していたのか、苦笑しながら了承してくれた。

 何となく、少し我儘な子供を持った気分になってしまう。

 いつかは着物を用立てる必要も出てくるかもしれない。


(でも着物があるのなら日本と同じ国があるのかも……)


 この世界が、レイエルが言っていた通りに複数のゲームを参考にしているのなら、何処かにはあるのだろう。

 私がそう考えていると、使用人さんが「それではご案内致します」と言って移動を促す。

 案内された先は、国王陛下の執務室だった。

 ちらりとフィーナを見遣るが、緊張している様子はない。

 記憶の戻る前であれば、緊張してガチガチになっていても不思議ではなかったが、結奈は肝が据わっているらしい。

 促されて入室すると、中には国王陛下と王妃様が座っており、その後ろに1人控えていた。

 天井の方に気配が3つあるので、何かあった時の護衛が潜んでいるようだ。


(後ろに立ってる人は騎士団長かな?)

「座れ。直答も許す」

「あら、公式な面会では無いのだから、取り繕う必要はなくてよ」

「……………」

「ふふふ、今更威厳を気にしても意味がないでしょうに。……ユリアもそう思うわよね?」

「……あ、あはは」


 肯定も否定もし辛い質問に、名言せず笑って誤魔化す。

 取り敢えず挨拶とフィーナの紹介を済ませ、促されるままに対面に座る。


「ユリアの学友に当たるのよね?」

「はい」

「其れで、そのしがみ付いている女子(おなご)が此度の騒動の元凶か」


 国王陛下から確認される。言い方から察するに、既に情報を得ているようだ。

 私はどう返答したものかを悩み、遭遇した時の事を順を追って説明した。

 魔力云々を説明した所で、国王陛下と後ろに控えている人の表情が険しくなった。王妃様は、優雅に紅茶を飲みながら聞いている。


「ふむ……では、その時被害に遭った者は、其処のフィーナという娘と教皇の腰巾着だけか」

(腰巾着って……)

「はい、そうです」

「そ奴はどうなった」

「騎士の方からの要請で、運んだ時に回復できるギリギリの魔力を供給しました」

「うむ、尋問も必要だからな。ならば良い」


 私個人としては、原因の1人なので放置する気だったのだが、どうしてもと請われたので屯所に到着する前に少し回復させた。目覚めるのは明日になるだろう……。


「でだ……その女子(おなご)の今後―――対処する内容―――なのだが、危険がある者を放置はできんのだ。身柄を引き渡してもらおう」

(ですよねー)


 言いたい事はわかる。

 国1つを滅ぼした実績を持つ者を、放ってはおけないのだろう。例え見た目が幼い女の子であろうとも……。

 だがしかし、死ぬ事も老いる事も―――私以外は知らないが―――無いこの少女を拘束し続ける気なのだろうか。しかも、現状私以外にこの少女に触れられる人が居るとも思えない。

 今の所、私のお願いを聞き入れてくれている。とはいえ、今後もそうだと証明はできないし確証も無いのだ。

 さてどうしようか……。と考えていると、王妃様から救いの手が差し伸べられた。


「ユリアはどうしたいの?」

「え……?」

「おい、お前は口を出すんじゃ―――」

「いえ、出させていただきます。……ユリア、何か懸念があるのでしょう。この場の会話は口外禁止とするわ。だから話してちょうだい」


 王妃様は心配そうな表情だ。

 そう言ってもらえるのは助かるが、今度は何処迄話すかが問題だ。

 其れに―――


「上で様子を伺っている方達もですか?」

「っ!?」


 国王陛下の後ろに控えている人が息を呑む。

 私が気付いているとは思わなかったのだろう。其れに反し、何故か国王陛下と王妃様は動じた様子がない。


「約束するわ」


 断言されれば、私も答えない訳にはいかないといった気になってくる。


(まあ良いか………)

「実は―――――」


 私は、相手の情報が読み取れる事だけ伝えた。対象も生き物だけという事にし、才能や特技がわかるといった具合にぼかして。

 その能力で、この少女が不死であり、満たされない飢餓感に苛まれている事を知ったと伝えた。


「そんなバカなと言いたいが………」

「ですが、其れならば納得できる事もあるではないですか」

(ん?)

「確かにな……まあ、後で確かめれば良い事だ。で、其処の……ユリア、その女子(おなご)に名は無いのか」

「無いみたいです」

「そうか……。報告では会話ができると聞いていたが、本当に大丈夫なのか?」


 やや引き気味で少女を見る国王陛下。今も尚、陶酔した表情をしているので懐疑的になっているのだろう。

 やはりと言うべきか、報告が来て急ぎ私達を召喚したらしい。

 国王陛下や王妃様が声を掛けても、少女は反応しない。

 声が届いていないのか、聞こえているけれど無視しているのか……。

 私が頭をポンポンすると「む?」と反応した。


「さっきから声を掛けられていたのよ。……聞こえなかった?」

「妾の事とは気付かなんだのじゃ」

「でも、貴女に名前は無いでしょう」

「ふむ。……ぬしが付けよ」

「………え?」

「ぬしならば良かろう。妾に名を付けるが良い」


 急なお願いに驚く。

 だが確かに、名前が無いままでは今後不便かもしれない。

 まあ良いかと気楽に考え、名を付ける事にした。


「じゃあ、貴女の名前は『ティア』にしましょう」

「うむ、では今後妾の名は『ティア』じゃ」

「――っ…あ……れ?」


 少女にティアと名付けた直後、魔力が今迄で一番持って行かれ、私は意識を失った―――――


ブクマと評価、ありがとうございます。

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