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3回目の王城


 馬の選定も終わり、広場では各々が馬と一緒に行動している。服装は全員乗馬用の物に着替えており、安全帽も被っている。

 殆どの生徒が連れ立って散歩する者、既に経験があり馬具を装着して乗っている者で分かれていた。

 しかし私は、そのどちらでもなく―――


「聞いてらっしゃるのかしら?」


 ――女生徒に絡まれていた。


「……おっしゃる意味がよくわかりません」

「何ですって!?」


 今私にいちゃもんを付けているのは、先程の選定の時にユニコーンに嫌われた―――と私が勝手に思っている―――人で、何が気に入らないのかと言うと……。


「殿下だけでなく、馬にも誘惑するとは、とんだ売女です事!恥を知りなさい!!」


 自身を拒否した馬―――本当はユニコーン―――が、私と一緒に居る事が不満なようだ。其れに加えて、スィール殿下との噂を悪い意味で信じているのだろう。

 遠巻きに此方を気にしている人も居るくらいには目立っている。

 残念な事に、騎士の方達は今近くに居ないので自分で何とかするしかない。


「人の話も聞けないだなんて、これだから頭の弱い方は困るのよ!」

「はぁ……失礼ですが、お名前は?」

「?………サーシャ・マルチネス。マルチネス伯爵家の次女ですわ」

「――あら、私は試験の順位表に貴女様のお名前を見た覚えが御座いません。其れに、根も葉もない噂に踊らされている方が頭が弱いかと存じますわ」


 私が困っていると、いつの間にかルナリアさんが来て言い返してくれた……のだが―――


(ちょっとどころじゃない程言い方きつくない?)

「なぁっ……あ、貴女ねぇ―――」

「それから、八つ当たりは淑女としてどうなのでしょう。私は、本音と建前を使い分けてこそ立派な淑女なのだと言えると存じますわ!」

「うっ、この………ふんっ、程度の低い方は群れなくては何もできないのね!!」


 マルチネス伯爵令嬢が捨て台詞を吐いて去って行く。

 其れを見送りながら、私はルナリアさんに御礼を言う。


「助かりました。でも良かったんですか?凄い睨まれてましたよ」

「良いんです。噂に振り回される様な人とは、仲良くなろうとも思いませんので」

「嫌がらせ、されるかもしれませんよ?…少なくとも、顔を合わせる度に嫌味を言われたり……」

「……だ、大丈夫です…よ?」

(疑問符付いてますよー)


 目を逸らしながら言う姿には、説得力を感じられない。

 大丈夫だろうかと心配になるが、その事には触れて欲しくなさそうな雰囲気だったので話を逸らす事にした。


「折角ですし、一緒に行動しますか?」

「そうですね。宜しくお願いします」

「因みにルナリアさんは、乗馬経験はありますか?」

「一応ちょっとだけ……」

「そうなのですね…では、馬が慣れたら軽く走らせてみましょうか」


 ルナリアさんと一緒に広場の端の方へ移動する。

 最初は散歩する程度の速度で歩き、偶に馬に話し掛ける。言葉は伝わらなくとも、雰囲気的なものが伝わり意思疎通できるようになってくるらしい。そうやって馬との信頼関係を築くのだとか。私の場合は、相手が馬でもない上、最初から言葉を理解していたので時間は必要無かった。

 暫く経ち、ルナリアさんの方も何となくだが反応が返ってくるようになったので、馬具を装着して乗馬する事に。

 ルナリアさんも経験者だからか、最初から1人で乗れていた。只、姿勢が悪く重心が中心よりズレていたので修正するのに苦労していた。

 どうやら足で踏ん張っていたみたいだったので、太股(ふともも)の内側で力を加減して体を支えるようにと、様子を見に来た騎士の方から助言されていた。すると、安定したようですぐに上達した。

 今の体の方が前よりスペックが高いらしく、感覚をつかみ易くなっているとの事。その点に関しては私も同じで、一番実感しているのは体幹の良さだ。以前よりもバランスが取り易いので、非常に楽になっている。

 軽く走らせるところ迄いってその日の授業は終わった……………。





 数日後、私は王城に来ていた。

 選択授業の日、終わってから寮に戻ると王妃様から返事の手紙が届いていた。

 内容は、次の学院の休みに登城するようにといった内容が書かれており、日程の調整を無理矢理したんじゃないかと思う程に急だった。

 手紙には、今回も顔を隠して来て欲しいとも付け加えられていた。態々書いてある事が少し気になったが、考えてもわからなかったので考えない事にした。

 そして現在、以前王妃様と2人でお茶会をした部屋に通されたのだが………。


「いらっしゃいな。さ、座って」

「本日は、私の申し出を快く受けてくださり、誠にありがたく厚くお礼申し上げます。先日の―――」

「うふふ、謁見では無いのだから、気を楽にして頂戴。言葉使いももっと砕けたもので構わないわ」

「いえ、しかし―――」

(わたくし)が良いと言っているのだから、其れで良いのよ」


 王妃様はそう言ってくださるが、私としては判断に悩む。

 と言うのも―――


「君がユリア嬢か……。知っていると思うが、私はライデル・フル・リャーヤだ。急な事ではあるが、私も同席させてもらう事になった。宜しく頼む」


 ――何故か王太子迄居たのだ。そして名前は覚えていなかったので、その言葉に内心動揺し、悟られないよう表情を取り繕っていた。

 直答を許されていないので、私は一礼した後王妃様の方へ視線を向ける。私、困ってますという思いを込めて。

 念の為説明しておくと、お披露目の時や招待状を頂いて登城した際には、その場での直答を許すといった内容の一文が添えられているので、事前に許可が下りている状態だ。しかし、今回の場合は同席者にはリズィさんの名前しか書かれていなかったので、王太子への直答は未だ許されていないという事になる。


「ふふふ、意地悪するのはその辺でお止めなさいな。話が進められないでしょう」

「……直答を許す」

「はい。お目にかかれて光栄です。ヴィルズの娘、ユリア・ルベールと申します」

「さ、座りなさい。早速本題に入りましょう」

「ありがとう存じます」

「むぅ、もう少しフランクに話しましょう?以前のお茶会の時と同じ感じが良いわ」

「いえ、そういう訳には……」


 私としては砕けた話し方の方が楽で良いのだが、王太子はどんな人柄か未だわかっていない。なので此処で素直にはいと答えるには、そちらの許しも貰わないと不安だ。その事に気付いたのか、リズィさんも苦笑しながら「お久しぶりです。ユリア様」と挨拶してくれた。

 何故かリズィさんは、初めて会った時から私に敬称を付けていたが、今でも変わらないようだ。


「良いのよ。無理矢理同席してきたこの子が悪いのだから、いない者として扱って構わないわ」

(いえ、構います……)

「母上。その良い方は流石に傷つきます……」

「あらあら、今日になって突然同席すると言い出したのはライデルでしょうに」

「其れは母上が秘密裏に進めたからで…いえ、止めましょう。……ユリア嬢、母上の言う通りで良い。公式の場では無いのだ。気にしないのは難しいかもしれないが、後々母上が拗ねてしまう事に比べれば全く問題無い。寧ろ言う事を聞いてやって欲しい」

(拗ねるんだ………)

「承知し……いえ、わかりました」

「あらあらあらあら、随分な言われようね。……まあ今は良いわ。その事についてはユリアが帰ってからにしましょう。其れで、ユリアから貰った手紙は読んだけれど、詳しく説明して頂戴」

「はい。先日、学院の研究室で見つけた資料にあったのですが―――――」


 私は、エイミさんの研究室で発見したエネルギーの変換技術について読んだ内容を、その研究が中止になった理由を知っている事も併せて伝えた。

 対策も考えてあるので、安全に実験を行える事や、どういった原理でその事故が起きたのかも説明した………。


「導体?絶縁物?」

「いえ、それよりも電気(?)とやらも気になります。雷と違うのですか?」

「それらも気になるが、何処でそんな知識を得たのかも気になるだろう……。学会で発表すれば、勲章物だぞ。…まあ、今の内容が全部本当であればな」

(学会とか有ったんだ………。勲章とか要らないから興味無いけど)


 魔法に雷があるのに、電気については知られていなかったらしい。わかり易いもので静電気を実演した後、空から降ってくる雷と規模は違うが同じものだと説明すると驚かれた。

 ゴムやその素材となる物質―――樹皮を傷つけて流出する乳液 (ラテックス) ―――についても初耳だったようで、3人共考え込んでしまった。

 (いち)早く現実に戻って来たのはリズィさんだった。


「ユリア様、今の話が本当であれば禁止する理由は有りません。活用範囲は限られるでしょうが、ユリア様が私的に利用する分には問題は無いでしょう……。只、確立した技術を流出させる場合には、色々と取り決めや対策を行わなければなりませんが………」

「その辺も一応考えてあります。其れに、個人での利用は難しいでしょうが、一つの産業として行う事は可能かと」

「……ユリア様には先の事も見えているのですね」

「ふふっ、全ては成功してからですよ」

「私にはユリア様が成功を確信している様に見受けられます」

「そうですね。私の考えが間違っていなければ、段取りに時間が掛かりますけれど失敗は無いかと思います」

「其れは楽しみですね」


 その後も具体的に話し合い、素案としてリズィさんにも書類に纏めた物を渡した。

 ある程度内容が纏まった所で2人が現実に戻って来たので、もうほぼ終わりましたと告げる。

 話し合いも終わりそろそろ解散かと思っていると、王妃様がもう一つ話しておく事があると言って控えていた使用人達に目配せをした。すると、一斉に退室して部屋には私達だけとなった。


「以前伝えていた聖国の事なのだけれど………」


 王妃様は言葉を選んでいるのか、逡巡している様に見えた。


「滅んだ事を確認したわ」

(……私が聞いて良い事なのだろうか)

「正確には、国として機能しなくなった…と言うべきかしらね」

「其れは……」

「あちらの王族は全員亡くなったわ。……加えて、国政や国防を担う人材も全て亡くなっていた事を確認したそうよ」

「………その言い方ですと、民は無事だったのですか?」

「大多数は、としか言えないわね」


 襲撃の場に居合わせた人達は、同じく被害に遭ったそうだ。

 無事だった人達も、目撃した人や騒ぎを聞きつけた人達が先導し、王都から逃げ出し始めているとの事。中には他国へ向かう人も確認されたらしい。

 他にも、教会関係者のうち数人が逃げ出しているのだが、その中に教皇も居るらしい。そして何故かはわからないが、襲撃者はその教皇を追っているようで、そのうえ道中で遭遇した人は皆被害に遭っている状況なのだとか。

 調査の結果、聖国の各領主も少なくない人数が犠牲になっていたそうだ。

 此処で問題となってくるのは、教皇は既にこの国に逃げ込んだ形跡が見られる事。

 今回の事で、国境には多めに兵を派遣して警備強化を行っていたそうなのだが、どうやら正規のルートを通らずに侵入された可能性が高いとの事だ。


「あちらはユリアの容姿を知らない筈だけれど、その髪色を見ればきっと気付かれるでしょう……。ユリア、学院の中なら問題は無い筈。でも、外出する際には十分気を付けなさい」

「わかりました。十分注意致します」

「できれば、リーデル領にも戻らないのよ」

「……夏季休暇でしょうか」

「勿論、普段もよ?」

「いえ、往復に掛かる日数は―――」

「あら、頻繁に戻ってる事は知っていてよ」

「「え?」」


 何故かライデル王太子も吃驚している。

 そしてリズィさんは顔を背けている。


「ふふふ、驚く顔も可愛らしいわね」

「いえ、あの…何故そのような……」

(わたくし)にも優秀な部下が居るもの」

(それって……)

「いつもルベール家の周りをうろついている方達から、更に距離を取っている方ですか?」

「………気付いていたの?」


 私の言葉に、今度は王妃様が目を見開いて驚いていた。……少しは反撃できたようだ。

 なんにせよ、気付かれているのなら誤魔化すのは下策かな……。


「そうですね。最近の事ですが、お1人だけ他の方よりも距離を置いて監視しているようでした。……正直な所、あの距離で見られているとも思っていませんでしたが……」

「あら、その言い方だと監視に気付いて隠れていたのね」

「私は臆病者ですので、あんなに多くの方々に見守られていると逆に不安になってしまいます」

「……臆病?」


 ライデル王太子が何か言っているが、無視だ無視。


「なので、可能であれば引き揚げてくださると嬉しいのですが……。若しくは、数を減らしていただくでも良いのです」

「んー…そうね、全部は無理だけれど減らすのは構わないわ」

「母上っ!?」

「ありがとうございます」


 王妃様が私の意見を支持してくださった事もあり、今回の会談は良い結果に終わった。余計な情報もあったが、知っていた方が心の準備もできるので、最良と言っても良いかもしれない。

 その後も結局、王妃様が引き留めるので滞在時間が伸び、雑談であったりリズィさんからの遠回しな勧誘であったりと、取り留めのない内容だった。

 何故か私が頻繁に帰省していた方法については聞かれなかったが、何時聞かれるのかと身構えていた私は、気が気でなかった。

 その間ずっと、愛想笑いが崩れないようにする事に苦労したのだった……………。


ブクマと評価、感想ありがとうございます。

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