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ばばさま

 動き易い服装に着替えてリーデル領へ移動した。

 ルーの案内に従って向かうと、鉱山の東端に到着した。神殿を造った山と鉱山の間だ。今回は家に寄る必要も無いと思い、結局神殿に設置した転移扉から来たのだが、丁度セシリアが清掃の為に神殿に訪れていた。なので、現在のメンバーは、私とリンと精霊達に加え、セシリアも居る。


『ツイタ!ツイタ!コノナカ、コノナカ』

「?………此処?」

『ココ、コノナカ、コノナカ!」


 ルーの言う場所を見ると、やや開けた空洞が見えるだけで、特に何も無いように見える。


(この中……中?…特に此れといって………ん?)


 ルーが飛び回っていると、スーが私の肩から飛び降り、空洞に近付く。


「ワフッ、クゥーーン、クゥーーン」


 空洞の中心に座り、私に向けて何かを訴えている。

 しかし残念ながら、スーの言葉はわからない。


『?…ユリア、マリョク、マリョクミル!』


 悩んでいた私を見兼ねたのか、ルーが魔力視をするよう促す。

 人に使う事しか考えてなかったので、盲点だったと思いながらスーの居る場所を魔力視で視てみる。

 すると、オーロラみたいな壁のようなものが空洞の奥に見えた。丁度スーの後ろ、空洞の真ん中より向こう側に。

 私は其処に近付き、その壁に手で触れてみると、私が触れた位置を中心にして波紋が広がった。

 直後、硝子が割れた音を立てながら壁が砕けた。


「「っ!?」」

『アイタ!アイタ!』


 状況を見ていた私とは違い、リンとセシリアは急に聞こえてきた音に吃驚している。

 そして砕けた壁の向こうには、地下へ続く階段が現れた。


『ババサマ、マッテル。コノナカ、ネテル』

(寝てるっていうのがどうも引っ掛かるんだけど……。まさか、封印とかじゃないよね?)


 そう思う一方で、精霊が悪質なものを開放しようとする訳無いとも思っている。クーはよくわからないが、スーとルーは悪意に敏感な上、近付くと警戒する程だ。

 今はそんな素振りも無いので大丈夫だろうと判断し、先導するルーに付いて行く。


「ユリア様、大丈夫でしょうか?」

(リンは心配性だなぁ………)

「大丈夫だと思うわ。婆様って呼んでるくらいだし、居るのは精霊でしょう。……多分」

「……承知しました」


 そんな会話をリンとしていると、階段が終わり通路に差し掛かる。通路の壁には、所々発光する石が埋まっており、幻想的な光景になっている。光の色もいくつかあり、光量的には通路を歩く分には問題無い。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

《名称》

 魔吸石

《種別》

 石(含有魔力地)

《特性・特徴》

 周辺の魔素や魔力を吸収する石。吸収した魔素は魔力に変質する。吸収した量が体積の8割に達すると発光し、含有魔力の種類により色が変化する。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 魔力で発光する石のようだ。視た物は黄土色の光だったが、地の魔力らしい。他も視ると、水の魔力は群青色、植の魔力は若葉色、風の魔力は若緑色だった。


(そういえば、何で木じゃなくて植なんだろう……)


 今更だが、魔力には属性とも言える種類があり、火・爆・水・氷・地・植・雷・風・聖・暗・癒・蝕の12種となっている。後ろ2つは珍しいそうだ。因みに魔素は大気中に漂う魔力の素となるもので、敢えて分けるなら所謂無属性と言った所だろう。

 発光する石を調べたり、考え事をしていると、いつの間にか通路が終わり広間に出た。

 広間はドーム状に広がっており、広さは大体球場くらいだろうか……。

 此処にも魔吸石があるので、外側は明るい。しかし、中央には届いていないので薄暗い。それでも、存在感のあるそれ(・・)は気のせいで無ければ―――


(――竜?)


 ドームの半分を占めているその竜は、中央にある台座の様な場所で、先端がひし形になっているオブジェクトを抱く様にして眠っていた。


『ユリア、ババサマ、ババサマ』


 ルーが嬉しそうな表情で竜を指してそう言う。

 私はその意味を頭の中で反芻して―――


「えっ!?あれ精霊なの!!?」

「?……ユリア様、どうなさいました?」

「精霊と聞こえましたが、其処に何か居るのですか?」

「あっ、…そ、そうね。少し待っていて」


 思わず声に出してしまい、リンとセシリアから疑問が飛んでくる。

 例に漏れず見えていない様子なので、精霊なのは間違い無いだろう……。

 私は2人に待つようお願いし、中央に向かって行く。


(それにしても……大きい。こんな精霊も居たのね)

『ユリア、ババサマ、タスケル』

「えっと、どうすれば良いの?」

『ゴハン、アゲル!ババサマ、オナカ、スイテル、マリョク、タリナイ』

(御飯?……えっと、魔力で良いんだよね?)


 竜の鼻先に手を当て、以前ルーにした様に魔力を込める。何の抵抗も無く注がれる魔力を確認しながら、改めて竜の全体を眺める。

 丸まってはいるが、その見た目はやはり竜そのもので、龍ではない。どちらにしても、直接見るのは初めてなので少し興奮している。その巨躯もあり、恐怖心も少しはあるが、興奮の方が勝っている為興味津々だ。

 薄暗いから見え難いが、鱗は僅かな光を反射しているように感じる。目覚めた後、本人の許可が出れば触らせてもらおうと思う。

 どれ程の時間が経過したかわからないが、結構な量を注いだ気がする。

 何時まで続けるのかと心配し始めてきたその時、竜の瞼が少し動いた。


『ババサマ、オキタ!オキタ!』

(魔力は注いだままの方が良いのかな。…それとも止める?)

『……誰だい?』


 瞼を開け、その瞳が私を捉えると誰何された。


「初めまして。ユリア・ルベールと申します」

『ルベール?……リャーヤの子じゃないのかい。それとも、家名が変わったのかい?』

(リャーヤ……王家?)

「いえ、私は王族では御座いません」

『そうかい、そいつは予想外だったねぇ………。それで、後ろの2人は関係者かい?』

「あ、はい。私の使用人です」

『あたしの事は見えていない様だが………』

「え?…精霊が見える人は稀だと聞き及んでおりますが……」

『何だって?……外の血が増えているのかい。喜ぶべきか哀しむべきか悩むねぇ』

「その………所で、貴女様はどうしてこんな場所に?」

『おや?お前さん…いや、その前にその話し方は止めとくれ。畏まられるのは好きじゃないんだよ』

(良いのかな……)


 ルーが婆様と呼ぶ程だ。精霊の中でも偉いのだと思って言葉に気を付けていたが、本気で嫌そうに見える。


「わかりま……わかったわ。では私の事はユリアと呼んでくださいね」

『……まぁ良いだろう。それで、ユリアは知らずに此処へ来たのかい?』

「えっと、ルーに……この子に連れてこられたんです」

『ババサマ、ゲンキ!ヨカッタ』


 私が話を振ると、其れ迄黙っていたルーが目の前に来た。其れを見て、スーとクーも移動して各々愛情表現をしている。


『……成程、ユリアは積んでいる徳が多い様だ』

「徳?」

『あぁ。徳を積めば、魂の輝きが増す。其れは魔力に影響を及ぼし、魔力を糧とするあたし達精霊にとっては重要なんだよ』

「善行と呼べる程の事は……」

『していないと?』

「はい」

『そうさね。……善行とは、本人の思惑は関係無いんだよ。結果的に周りに良い影響を与える。其れがあたしの言う善行さ。逆に言えば、結果的に悪い影響を与えれば、良い事をしようとしていても徳は積めない』

(難しい……)

『深く考える必要は無いさ。今まで通り思う様にすると良い』

「……はぁ」

『それで、何だったかね。……あぁ、何故あたしが此処に居るか。だったね?』

「あ、はい」

『簡単な事さ………』


 婆様こと竜の精霊は語った。

 この国が建国される前の事。

 命を救った相手と契約した事。

 その契約者に、安息の地を得る手伝いをお願いした事。

 龍脈を辿り、地脈の状態が良いこの土地を発見した事。

 協力者を募り、精霊を集めた事。

 他国からの介入が度々あった事。

 協力者の中に、特別精霊に愛される者が居た事。


『もしかすると、ユリアはその精霊に愛された者の子孫かもしれないねぇ。あいつは、いつも自分の為と言って行動していたが、その行動に助けられる者も多かったよ』

「……そうなんですね」

(いや、私はどう反応すれば良いの?)

『まあ兎に角。苦労はあったが、無事に建国まで漕ぎつけたのさ。……ただ、その際にあたしは力を使い過ぎてねぇ……。此処の魔素溜まりで眠る事で、辛うじて消滅を免れていたのさ。……プリモの坊やは、必ずあたしを助けると言ってくれてねぇ。膨大な魔力が必要だから、あたしは無理だと思ってたんだけどねぇ』

「あの、魔素溜まりとは?」

『簡単に言うと、異常に魔素が発生し滞留する事さね。普通、魔素は濃度の低い場所へ流れて行く性質を持っているんだが、この場所の様に特異点では滞留し続けちまうのさ』


 魔素溜まりは初めて聞いた。特異点という言葉の意味はわかるが、この世界で耳にしたのは初めてだ。


「滞留すると、何が起きるの?」

『質問の多い娘だねぇ』

「あっ、すみません」

『まあ、あたしは話し相手ができて嬉しいから良いんだがね。……ただ、後ろの2人が心配している様だ。今日の所は帰ると良い。また来れば良いさね』

「あら?ここから出ないのですか?」


 疑問に思った事をそのまま聞くと、少し悲しそうな表情になった気がする。竜は初めて見るので、そんな気がする……といった程度だが。


『……今は動けないのさ。さっき言った魔素溜まりは、放っておくと魔物を生み、呼び寄せちまう。だからあたしは、此処でこの装置を介してある程度吸収しているのさ。今(はな)れれば、この国に魔物が寄ってきちまうよ』

「それは……いえ、わかりました。また来ますね」

『あぁ、待ってるよ』


 これでお(いとま)しようと別れを告げた時、ふと聞き忘れていた事があったと思い直して再度問う。


「最後に、お名前を教えていただけますか?」

『名は契約を結ぶ際に用いられるもの。……今のあたしには無いよ。そうだね、次来た時にでもユリアが付けとくれ』

「え?それは……宜しいのですか?」

『勿論さ。楽しみにしとくよ』

「わかりました。……では、これで」


 最後に一礼してその場を離れる。

 私がその場から動くと、スー達も元のポジションに移動する。

 そしてリンとセシリアが待機している場所まで戻ってくると、リンが心配そうな表情(かお)をして駆け寄って来た。


「ユリア様、大丈夫ですか?随分と魔力を使われていたと思いますが………」


 魔力を注ぐ時、今回私は魔力の流れを制御していなかったので、例に漏れず魔力使用時の発光現象が起きていた。どのくらい魔力を使うかわからなかったので、少しでも集中力を使わない様にした為だ。

 結構な時間発光していたので、リンは私が倒れないか心配だったらしい。


「平気よ。心配してくれてありがとう、リン」

「い、いえ!とんでもございません!」

「それで、ユリア様。あちらには精霊がいらしたのでしょうか?」

「ええ、そうね。でも、理由があって今は此処から動けないみたい。何度か来る事になりそうね」

「……嬉しそうで何よりです」

「え?あー、そうね。それより、今日はもう戻りましょう」

「「畏まりました」」

(……あっ、鱗触らせてもらうの忘れてた)


 心残りがありながらも、一度神殿に戻る事にしてその場を後にした………。



 入口迄戻った時、最初に目隠しをしていた壁が復活していた。

 内側からは外がぼやけて見えるようになっている。ただ、入った時とは違い、壁は壊れる事無くすり抜けたので、そのまま出る事ができた。

 そして神殿に戻り、中に入ろうと扉に手を掛けた時、誰も居ない筈の神殿に人の気配を感じた。


「ユリア様―――」

「誰か居るわね」

「えっ?え?」


 戸惑うリンに、神殿の中に誰かが居ると伝えると、緊張した表情になる。


「念の為、私が最初に中へ入ります。ユリア様は様子を見てからお入りください」

「ええ、お願い」


 セシリアが扉を開け、中を確認する。直後、警戒していた表情から一転し、訝し気な表情に変わった。


「……どうしたの?」

「その………見た方が早いかと」

「……?」


 その言葉で気になった私は、セシリアの視線を追って中を覗く。

 言うまでも無いが、この神殿は本来の造りとは少し違う。山を掘って造ったというのもあるが、対外的に呼称が必要だったから神殿と名付けた部分が大きい。

 話は逸れたが、入口から続く参道の奥には神像が置いてある。その神像の前で、片膝を着いて祈りを捧げている男の人が居た。


(何故だろう……あの後ろ姿に見覚えがある様な………?)


 私が記憶を辿っていると、その男が立ち上がって此方を向いた。


「っ!!……おおぉ、ユリア様。お久しぶりで御座います。大変遅くなりましたが、漸く全てが片付き馳せ参じました」


 その男は、私を見て大仰に喜んだ後、恭しく頭を下げながら良くわからない報告をしてきた。

 そして、私は男の顔を見て思い出す―――


(あっ、学院で気絶させて魔具を外した人だ!)


 思っている事は間違っていないが、そこだけ抜粋するとヤバい奴に聞こえる。

 ――以前、学院で私達を監視し、襲って来た相手を返り討ちにした事があった。その時、組織に埋め込まれた魔具を取り除くかわりに協力をしてもらった経緯がある。

 確かにあの時、名は全てが片付いてから聞いて欲しいと言っていた気はするのだが……。


(何で此処がわかったの?)


 容易に見つからない筈のこの場所で、私を待っていた彼。敵意は感じなくとも、警戒してしまう私なのであった―――――


ブクマと評価、ありがとうございます。

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