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初遭遇しました

 予想外な出来事にはどのくらい遭遇してますか?

そもそも予想外とは、思ってもいなかった事を指すので、ちょっとした事でも含まれるのです。なので、毎日の様に遭遇していると言っても過言では無いと思います。





「ただいま戻ったよ」

「「「「「お帰りなさい(ませ)」」」」」


 エントランスにて、帰って来た父を使用人含み揃ってお出迎えしてみると、こちらを見た父が吃驚(びっくり)していた。

 今の状態を説明すると、母に抱きしめられたままの格好で出迎えをしているのだ。迎えられる側からすれば失礼なんじゃないかと思いつつ、父の様子を伺っていると


「!?……ぉおぉぉっ!!」

(涙ぐんでる!?)


 何故かこちらを見たままで目を見開き、涙が目尻から流れているのも気にせず、凝視し続けている。


(いや怖いよっ!!)


 瞬き一つせずこちらを見続けながら、一歩ずつゆっくりと近寄って来る。

 ——正直逃げたい!

 しかし母に抱きしめられているので、逃げようにも逃げられず、目の前まで来て目線を合わせられる。その時既に、周りの使用人はこの場から逃げていた。


(無断で居なくなっちゃダメじゃないかな!!?)


 目の前に来た父が膝をついて目線を合わせ、肩をガシッと掴まれる。


「いっっ!!」

「!?……あ、す、すまない」


 勢いがついていた為幼い体には強く、思わず声が出てしまった。それを聞き正気に戻ったらしい父が、ハッとして掴んでいた手を離しながら謝ってきた。そして母の方を向き


「………良かったな」

「………はい」

(何で通じ合ってるの?)


 余程以前の態度が酷かったのか、父は感慨深い表情で母と何やら通じ合っていた。

 恐らく父も心配していたのかも知れないが、生憎とこの体になってからの過去の記憶は全く無い。

 前世で読んだ転生もののやつだと、記憶を思い出すものが多かったので、それ以前の記憶も残ったままであった。しかし現実はそう上手くいかないようで、色々と手探りでやっていかないといけない。


「元気でやっていたか?」

「……はい」

「最近は一緒にいる時間が増えてきたんですよ」

「何?……そうか、それは良かった」


 この様子だと、家族仲は良いようで少し安心した。


「では、食事の席で俺が居なかった間の事を聞かせてくれ」

「はい、旦那様」

「先に着替えて来るよ」

「お待ちしておりますね………さ、ユリアちゃん行きましょう!」


 返事をする間も無く連れていかれ、その日は父を含めた3人で食事をしたのであった………





 父が帰ってきて数日、その間特に変わった事も無く日常を過ごしていたある日の事———


 コンッコンッ


「はい」

「お邪魔するよ」


 ガチャリと音を立てて部屋に入って来たのは父だった。


「お父様?態々(わざわざ)こちらにいらっしゃらなくても、お呼び頂ければ行きましたのに………」

「いやなに、早くユリアの顔が見たくてね………それより、何処でそんな言葉使いを覚えたんだい?」

(うっ………やっぱり可笑(おか)しかったかな?でも今さらだし貫き通すしか)

「ほ、本を読んで練習しているのですわ」

「おや、字が読めるのかい?」

(———墓穴ったーー!)

「れ、練習をしまして」

「ふむ、ユリアは勤勉だなぁ………」

(良かった、親バカで良かった!!)

「ところでお父様、何かご用がお有りでは?」

「おぉ、そうだったよ、来週からユリアに教師を付けようと思ってね、それを知らせに来たんだよ」

「教師……ですか?」

「あぁ」


 因みに、この世界での1週間は10日で、曜日は太陽(たいよう)(つき)()(みず)()(てつ)(きん)(つち)(やみ)(ひかり)の後ろに『の日』という呼称となっている。1月(ひとつき)は40日となっていて、1年は10ヶ月なので400日となる。そして1〜10月はそのままの呼称だそうだ。

 今は鉄の日なので、来週という事は早くても5日後となる。


「何を教えてくださるのでしょう?」

「一般教養と淑女(しゅくじょ)教育をと思っていたんだが、どうやらユリアは我が家にある書庫の本で、文字の読み書きはできる様になっているみたいだからね、その分の時間が空くから………何か希望が有れば言ってごらん」

「………でしたら、魔法も教わりたいです」

「魔法を?………しかし、素養が有るかが確認出来なければ教わる事もできないが、それでも良いのかい?」

「はい、大丈夫です」

(そろそろ独学じゃ難しくなってきたし、実際に使える人も見てみたいし)

「………そうか、わかったよ、ユリアの為に伝手(つて)を頼ってみる事としよう」

「ありがとうございます。お父様」

「また決まったら教えるよ」

「はい」

「それじゃあね」


 そう言って父は部屋から出て行き、部屋には自分とセシリアの2人だけとなった。

 そう、全く喋らなかったが最初からずっと部屋に居てお茶の準備等をしてくれていたのだ。


「お嬢様、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「うん、何?」

「何故魔法が使える事を話さなかったのですか?」

「ぇっ………!?」

(バレてる!?何で!!?)


 魔法の練習をする時にはこっそりと抜け出し、屋敷からは死角となる場所でやっていた筈、それに毎回周りに誰も居ない事を確認していたので、誰にも知られていないと思っていたが———


「因みに知っているのは恐らく私だけかと」


 ———セシリアには知られていたらしい


「え、えぇと、その………黙っててくれる?」

「?………魔法は使える人もそう多くはありません。使える内容に関わらず誇れる事だと思いますが、お嬢様がそう仰るのであれば畏まりました」


 純粋に話さない事を疑問に思っていただけの様で、一応は納得してくれたみたいだ。


「ありがとう」

「いえ、お礼を言われるほどの事では………」

「あら、感謝しているのだから受け取っておいて」

「………はい」


 その後は日課を一通り行って、来週からの予定を考えながら眠りに着いた………





「ん?あれは?」


 次の日の午後、いつものように魔法の練習をしようと庭に出てすぐの事、それ(・・)を見つけた


「——ゥン、ゥゥ……」

「………犬?」


 いつも魔法の練習を行う木陰(こかげ)に、犬によく似た動物が横たわっていた。しかも足に怪我をしているようで、動けないようだ。


「——ヴゥゥゥ」

(もの凄く警戒してる、でも放っておくのも後味悪いしなぁ………)


 少し近づいた所で止まり、しゃがんで様子を伺ってみると、足の怪我は擦り傷で、よく見ると尻尾の付け根辺りまで続いていた。


(範囲が広くて深い、ひょっとして崖から滑り落ちたのかな?)


 この領地には山が多く、屋敷の裏手にも存在しているので、崖もあるかもしれない。

 そのままにしておくと、傷口が化膿してしまう可能性もある。


(この世界にもウイルスや菌が存在するのかわからないけどね………)

「ゥゥゥ……?クゥーン、クゥーーン」


 怪我の確認をしていると、犬が警戒を()いて顔を近づけて来た。


「?……えーっと、触るよ?ちょっと痛いかもだけど我慢してね」

「クゥーン、スンッスンッ」

「匂い嗅いでる………まぁいいや、今のうちに」


 魔法が使えるようになってすぐに、治療ができないかを試していた。というのも、この世界の医療レベルがどの程度なのかわからなかったからで、怪我や病気が怖かった事もある。


(筋繊維や骨格、皮や毛の正常な状態を思い浮かべて………)


 試してみて判明したのは、治す対象の正常な状態を思い浮かべる事ができれば成功し、できなければ失敗するという事だった。しかも失敗しても魔力は減る。


(んー、だいたい想像はできた、後は………)


 怪我の位置に手を当て、魔力を掌へ集中させる。すると、ほんのりと掌が温かくなり、()いで(うっす)らと光が発生する。


「クゥーン、クゥーーン」

「………もう少し我慢して」


 治癒を始めて1分程経った頃、光が無くなり掌の温もりも無くなってきた。


「もう大丈夫かな」

「ハッハッハッハッ、クゥーン、ハッハッ」


 元気になったようで、治した僕に甘えてきた。


(可愛い犬だなぁ………仔犬のようだけど、親は居ないのかな?)

「ねぇ、あなたの親は居ないの?」

「?クゥーン」


 犬は首を傾げた後、ふるふると横に振った。


「……え?言葉がわかるの?」

「?クゥーン、ワウッ」


 またも首を傾げた後、今度は縦に振った。


(え、偉い!この子頭良いよ!!)

「あ、そうだ………えと、セシリア?居る?」


 昨日、セシリアには魔法の練習を知られていたので、付近に居るかもと思い声を掛けてみる。


(………や、居ないよね、たまたま知っちゃっただけだよね?)

「——何かご用でしょうか?お嬢様」

「!!?あっ、うん」

(居たよ!って、何処!?何処に居たの!!?)

「え、えーっと、うちで犬って飼っても良いのかな?」

「犬でございますか?確か大丈夫だったと記憶しておりますが……」

「良いんだ、ならこの子を飼いたいんだけど」


 と甘えていた犬を抱えて見せると———


「?……ええと、この子……とは?」

「………え?」

「ワフ?」


 セシリアは訝しげな表情を浮かべ、手元を見てくる。しかし目線は犬を見ておらず、実際に見えてないようだ。


(何故?)

「セシリア、見えないの?」

「!!………お嬢様、手元に何か居るのですね?」

「何かというか犬が、仔犬だけど……」


 何かに気付いたのか、ハッとした表情になった後に手元の存在を確認して来た。その真剣な顔にやや気圧(けお)されながらも、犬が居ると伝えると


「お嬢様、私には見えませんが、お嬢様がそう仰るのであればそこに存在しているのは精霊だと思われます」

「………え?」

「確か、精霊は人の言葉が理解できるそうです」

「あっ………」

「心当たりがお有りですか?」

「ある、かな……」


 そう言われて手元に居る犬を見てみると、『何?』といった感じでこちらを見ていた。


(か、可愛い………)

「じゃあ飼う事はできないよね………」

「………飼う事はできませんが、確か精霊は気に入った相手の近くに常に居るそうですよ」

「そうなの?」

「はい、そう言い伝えられています」

(……どうなのかな?)


 手元の犬——もとい精霊——を見ていると、無邪気に甘えてきている。


「………一緒に居てくれる?」

「ワフ?ワウッ!!」


 前世では犬を飼いたいと思う程に好きだった。どうやら良いみたいだが、食事は何が要るのだろうか?


「ねぇセシリア、精霊は何を食べるの?」

「………確か魔力を吸収して生きているそうなので、食事は不要だった筈です」

「そうなのね、それじゃあ部屋に戻りましょうか」

「畏まりました」


 精霊を連れて自室へ戻り、セシリアはお茶を用意して退室した。


「さて、君の名前を付けようね」

「ワフ?」


 取り敢えず連れて来た犬——精霊——に名前を付ける事にし、抱き上げて膝に乗せる。


「でも正直名付けは苦手だから、気に入らなかったら言ってね」

「ワウ?」

「うーん………じゃあ『スー』で」

「ワフッワウ!!」

「良いのかな?」

「ワウ」


 どうやら良いらしいので今後は『スー』と呼ぶ事にする。しかし、精霊はもうちょっとはっきりわかるものだと思っていただけに、予想外の出来事だった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ガキから見た実母?継母?と父親の様子を見てもわからないのは馬鹿なのか鈍感なのかどっちだろね。前情報が無くとも賢ければというか見ればすぐわかると思うけどね。
2022/01/30 07:50 退会済み
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