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祖父母と御対面

 ―――――それ(・・)は僅かながらも光のある場所に辿り着いた。道中、自身に向かって来た何か(・・)を吸収し、その時音を感じる能力を得た。

 暫く移動したそれ(・・)は、誘われるようにして音の感じ取れる方へと進路を変更した―――――





 情報を視る能力を貰い、色々とショックを受け、セシリアを治療した日の翌日。私はイリスとリンにも心配を掛けた事を謝り、御礼を言った。

 その後、リンには転生云々を伏せている事もあり、それ以外で知られても困らない範囲で説明をした。

 吃驚してはいたものの、すんなりと受け入れられ「流石です!」と瞳を輝かせていた。



 帽子を新しく作製してもらう依頼を出し、早くも数日経過した。そして遂に、祖父母が訪問してくる日となった。

 私は何となく落ち着かず、自室で自作したクッションを抱きしめながら待機していた。

 最初、出迎えをするものだと思っていた私は、父の「必要無い」との言葉に、一瞬思考停止して父を凝視してしまった。曰く、爵位を返上しているのだから、家族といえども立場上揃って出迎える必要は無いとの事。

 ……何故かはわからないが、父の態度がやや冷たいように感じたのは、気のせいでは無い筈だ。

 それからもう一つ、父から注意された事がある。自分に不都合な事であれば、曖昧に濁さずきっぱりと断れと言われた。極端な例を挙げると、今は家督を継ぐのが弟であるミールとなっているので、私は他所へ嫁入りする事になる―――今の私にその気は無い―――が、その相手をいつの間にか勝手に決められてしまうとの事。

 そんな馬鹿なと言いたかった私だが、父の真剣な表情(かお)を見て言葉を呑み込んだ。………何やら私の知らない事情があるようなので、素直に注意を受け入れた。

 今回の祖父母訪問では、母は今本調子では無いとの理由を付けて会わせないようにするらしい。ミリアとミールに関しては食事の席でのみ顔合わせをし、イリスには申し訳ないが、基本的に私が外に連れ出す時以外は客室に居てもらう事となった。これらは父の判断である。

 そろそろかなと思っていた丁度その時、私の部屋に人が近付く気配がした。


「ユリア様、旦那様がお呼びです」

「わかったわ、ありがとう」

(さて、父方のお爺様とお婆様はどんな方なのかな………)


 呼びに来てくれた使用人について行き、応接室へ向かう。

 使用人が扉をノックし、私が来た事を伝え「入ってくれ」との声が返って来たので入室する。


「ユリアはこちらに……………娘のユリアです。今は夏季休暇で帰って来ていますので、ゆっくりさせています。なので頻繁には誘わないようにお願いします」


 父に言われるまま隣に座り、紹介に合わせて軽く礼をする。

 やや刺々しい口調で話す父を横目に、改めて目の前に座る3人を見る。


「ほぅ……これはまた利発そうな娘だな。相手はもう決まっているのか?」


 私を見ての第一声がそれだった。此れは、父の言を大げさとは言え無さそうだ。

 普通は最初名乗るものだろう……親族と言っても初対面なのだから、その辺の礼儀は取って(しか)るべきだと思う。


「ユリアには自分で相手を探させますので、ご心配無く」

「何?………良い縁を見つけてやるのも親の務めであろう。それを―――」

「口を挟むのも失礼かと存じますが、先ず私に紹介をしていただけませんか?」


 何となく不穏な雰囲気を察したので、無理矢理会話に割り込む。……既に私からすれば第一印象は悪い。

 私が割り込んでくると思わなかったのか、3人共吃驚した表情をしている。それに対し父は苦笑気味だ。


「それもそうだな。………ユリアには父上達の名前は教えていたが、初対面だから母上の判別も難しいだろう」


 父は私の提案に乗って紹介してくれた。

 祖父のミゲルさんは中央に座っており、私から見て右に座っているのがレリエットさんで、左に座っているのがグラデルさんだそうだ。ミゲルさんは好々爺然としているのに、先程の発言で台無しとなっている。もしかしたら、子の幸せは与える事で得られるものだと勘違いしているタイプかもしれない。レリエットさんは皺が少なく、やや垂れ目で父とは似ていない……父は祖父に似たのだろう。グラデルさんは逆にやや釣り目がちだが、目元の皺で雰囲気が和らいでいる様に見える。

 御三方の紹介後、私も改めて自分で名乗り一礼する。余所行きの笑顔を貼り付け、完全に他人に対する挨拶を行った。

 其れが功を奏したのか、顔合わせ以上の事はせずその場は終わった。



 次の日、イリスを誘って町に行こうと思っていたのだが、祖父母にお茶に誘われた為断念した。

 母は、記憶喪失の事もあって会わせない様にしていると思っていたが、どうやら違うらしい。当時の事を知る使用人の話によると、私の母が婚約迄済んでいたのにも関わらず、其れを反故にして後妻となる原因となったのが祖父らしく、母は祖父に苦手意識を持っているようだ。使用人はオブラートに包んで話していたので、実際はもっと酷い内容だったのかもしれない……。

 そしていざお茶会が始まると、祖父は私の為とか言いながらよく知らない家名を出し聞いてくる。恐らく私と歳の近い子息が居て、祖父が渡りを付けられる家なのだろう。余程私の相手を探したいらしい。

 だが生憎と、私にはそのつもりも無いので意味は無いし、余計なお世話だ。………そう私が思い始めてきた所で―――


「しかし、良い家に嫁いでこそ幸せになれるのだぞ。遠慮せず儂を頼ると良い」


 ――と(のたま)った。

 笑顔で聞き流そうと思っていたが、これ以上しつこくされるのも困るので、はっきりと断る事にした。


「……お言葉ですが、何が幸せかは私が決めます。父からもその事については認めていただいていますし、お爺様と私とでは価値観に差が大きいように見受けられます。なので、お爺様の言う幸せでは私は幸せになれないと存じます」

「……………」

「それから、私は王家からの婚約の打診も断っております。その辺りも考慮いただければと存じます」

「何!?」


 そこまで言って漸く諦めたのか、婚約に関しては口出しして来なくなった。

 この場には祖母も居て、その2人は口出しして来なかったのだが、祖父を止めず静観していた時点で、私にとっては祖父と同じだと思っている。

 祖父が口を噤んで、今度は祖母の2人に休日何をしているのか、学院ではどんな生活をしているのかと聞かれ、他愛もない話をした………。



 祖父母とのお茶が終わり、私はイリスの居る客室を訪れた。

 イリスは転生者という事もあってか、つい先程の会話を愚痴ってしまう。


「でもユリア様、将来はどうなさるんですか?…家督の心配は無いにしても、世間の評判と言うか、風当たりと言うか……行き遅れになったら色々と大変だと思いますよ?」


 愚痴を聞いたイリスからの返答は、純粋に私の世間体を心配している様だ。因みに、イリスには私が元男という事は伝えている。伝える前、距離を置かれるかなと少し不安だったが、イリスはその辺気にしないらしく、変わらず接してくれている。―――とてもありがたい事だ。


「んー……其れなんだけれど、私は行った事の無い他の国を見て回りたいの。自由に旅をして、色んな景色を見たり、美味しい物を食べたりしたいと思ってるわ。商会を設立したのも、お父様に言われてってのもあるけれど、自分で資金を得るのに丁度良かったってのもあるのよ。……と言っても、当時は何ヵ国か見られればって思ってたのだけれど、今は全ての国や誰も知らない未踏の地もあれば行ってみたいわね」

「ほぇー………あれ?昔は全部じゃなかったんですか?」

「そうね…一応老後迄の計画を練ってたの。勿論ざっくりとしたものだったのだけれど、普通ではどうする事もできない障害があったもの」

「?……障害、ですか」


 イリスは思い当たる事が無い様子だ。


「ええ……寿命よ」

「あぁ!成程!」

「………成長が遅くなるって不安要素もあるのだけれどね」

「あ~、今ユリア様は145(cm)くらいですかね?」

「そうね……もう少しでミリアに追い付かれるわ」


 今にして思えば、王都の教会に行ってレイエルに会ってから、私の身長は伸びが悪くなっていたようにも感じる。ミリアの方が伸びが早く、最終的には抜かれるかもと思っていたのだが、ひょっとするとその時から不老の影響が有ったのかもしれない。


「ユリア様のお母様は170足らずくらいですかね?」

「そうよ。平均よりやや低いくらいね」

「ならその辺まで成長するとして……うーん、確かにちょっと伸びが遅いですね」

「そうね…でも、私の予想が当たってたら今後更に成長が遅くなると思うわ」


 神殿と神像を造った後にレイエルと会った時、もしあれが切っ掛けで不老が極になったのだとしたら、今後の成長は今迄以上に遅くなる事だろう。


「其れは何と言うか……大変そうですね。でも小さいと可愛さも増しますよ!!」

「ふふっ、私も他人事ならそう思うのだけれどね。いざ自分の事となると複雑な気分よ………」

「あ、あはは………」


 思わず遠い目になってしまう私。イリスも何と言って良いのかわからないのか、苦笑している。


「あ、そうだ。ユリア様にお願いが……」

「何かしら?」

「もし旅に出られるのでしたら、偶にで良いので私も連れて行ってくださいませんか?」

「あら?偶にで良いの?」

「はい!目標もできたのでそっちに力を入れようと思います」

「そうなのね」


 目標が何なのか気にはなるが、イリスが自分から教えてくれるのを待とう―――



 そして早くも祖父母の帰る日となった。

 終わってみれば、3日の滞在はすぐだった。結局の所、私がお茶に誘われたのは1回きりだった。余所行きの対応な上、きっぱりと断りを入れたのが効いたのかもしれない。反抗的な孫と思われたのかもしれないが、祖母は兎も角、祖父のあの感じからすると丁度良かったとも思う。

 別れ際、祖父はまだ何か言いたそうであったが、祖母2人に止められていた。

 祖父母を見送った後、父から「俺が言った事とはいえ、少々きつい対応だったんじゃないか?」と苦笑気味に問われたので、「中途半端な方が、変に期待を持たせる事になると思いますよ」と私が言うと「………そうだな」と納得していた。

 そして今日は、夏季休暇を自領で過ごす最後の日でもある。本当はもう少し居る予定だったのだが、王妃様からの招待状が既に来ていて、明後日には王城へ向かわないといけない。

 普通なら間に合わないので、其れを理由に祖父母の来訪を無視して王都へ向かっても良かったのだが、私が製作依頼をした帽子が未だ完成していなかった。なので結局、祖父母にも会う事になってしまった。


「……此処ですか?」

「そうよ、此処は私が小さい頃からお世話になってるの」


 今私は、イリスとリンを連れて町に来ている。製作依頼していた帽子を取りに来たのだ。


「小さい頃から………」

「あら?何か―――」

「いえ!何でもありません!」

「……そう」

(今でも小さいと言いたかったのかな……)


 実際イリスの方が背が高い。私の頭はイリスの顎らへんなので、結構な差がある。


(成長が遅いだけ、だからいつかは……)


 心の中で自分を励ます。

 気を取り直して、目の前の店に向き直る。


「ユリア様、私には薬草店に見えるのですが……」

「間違ってないわ。此処の店主に依頼したもの」

「薬草店で帽子ですか?」

「入ってみればわかるわよ」

「はぁ………」


 困惑気味のイリスを引き連れて店の中に入る。

 陳列されている物は全て安値の薬草で、高価な物や取り寄せの必要な物は並べていない。

 私の用件は店主にあるので、そのまま奥に声を掛ける。


「インティアさん、いらっしゃいますか?依頼していた帽子を取りに来たのですが」

「おっ!来たね、ちょっと待ってな」


 相変わらず元気そうな声が聞こえてきた。

 少しして、奥から帽子を持った店主のインティアさんが出てきた。


「おや?見ない顔が居るね」

「ご紹介しますね。私の友人でイリスと言います」

「あっ、イリスです。宜しくお願いします」

「ほぅ…これまた礼儀正しい娘だね。まぁ宜しく頼むよ。……それで、こういうのは初めて作ったけど、悪く無かったよ」

「それは良かったです。次が有るかわかりませんけれど、有ったらまたお願いしますね」

「そうかい。まぁあたしは良いけどね……でも此れは目立つよ。何せこの辺じゃ見た事も無い形状だからね」


 そう言われた帽子は、前世でスラウチ・ハットと呼ばれていた、幅広の縁が垂れている柔らかい印象を持つ帽子で、それにヴェールを付けてもらっている。

 周りからはっきりと見えなければ、魔法で色の誤魔化しようがあると考えたのだ。

 とは言え、インティアさんの言う通り、他に存在しないこの帽子はとても目立つだろう……。


「髪と顔が隠せれば良いので大丈夫です」

「……訳有りって事かい、若いのに大変だねぇ」

「ふふっ、ありがとうございました」


 リンが代金を支払い、御礼を言って店を後にする。いつもなら何かしらの情報も教えてもらうのだが、今回はイリスも一緒なので長居は無用だ。

 店を出てすぐ、好奇心からかイリスから質問が飛んできた。


「ひょっとして薬草店は仮の姿なんですか!?」

「ふふっ、楽しそうな所悪いけれど、違うわ。………いえ、実際の所どうなのかは知らないけれど、インティアさんは情報をよく収集しているの。私は其れ目当てで通っているのだけれど、初めてお会いした時に趣味で帽子や髪飾りを作ってるって聞いて、いつか依頼させて欲しいってお願いしていたのよ。……それが今回依頼した理由ね」

「へぇ~そうなんですね」

「それに、作った物を見せてもらった事もあって、専門の人にも負けないクオリティだったというのも理由の1つね」

「ほぇ~…凄いですね」


 最近判明したが、イリスは感心する事があると口が開き気味になる様だ。

 そういった小さな発見をする度、何となく心の距離が近くなったような気がして嬉しくなる。

 そんな事を思う私の横で、イリスは嬉しそうにして、下水道の計画について調査結果と共に報告と私見を語っている。

 その表情と内容のちぐはぐさに、私は内心で苦笑しながら聞くのだった……………。


ブクマと評価、ありがとうございます。

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