お茶会と帰省
遅くなりましたが投稿再開します。
一蓮托生という言葉に危機感を覚える今日この頃です。
結果の良し悪しに関わらず行動や運命を共にする事。別の意味もありますが、主に此方の意味で使われる事が多い気がします。これは仲間に対して使う事が多いのですが、仲の良い相手だけでないというのが怖い所だと私は思います。秘密の共有者であったり、運悪く巻き込まれてそのままなし崩し的に…なんて事にはならないように気を付けたいですね………
心身共に疲れ切った日から数日後、漸く夏季休暇に入った。
ルナリアさんとフィーナは帰省するとの事。イリスは学院に残るそうなので、私の帰省に誘ってみると、引くくらいの勢いで了承を貰った。ついでと思ってまだ私の商会で働く気はあるか確認すると、勿論ですとの返答があった。なら親に相談しに帰らないのかを問い掛けた所、既に手紙で許可を得ていたらしい。相変わらずその行動力は凄いなと感心してしまった。
夏季休暇の初日に、アクォラス公爵令嬢とのお茶会があるからと伝え、イリスには待ってもらう事にした。
お茶会については何も聞いていない、特に参加者は聞いておきたかったのだが、あの後も全く接触する機会が無く、逆に避けられているのかと思った程だ。
何はともあれ、手土産は必要だろうと思い、以前お茶請けで出したのと同じクッキーを用意した。他にもと思ったのだが、未完成であったり表に出し難い物であったりと、今回は見送る事にした。
身嗜みの確認をし終わると、タイミング良く迎えが来たので案内に従いお茶会に向かった。寮を出たので不思議に思い確認すると、態々学院に申請を出して一室借りたらしい。
学舎の中にあるお茶会用の部屋へ入ると私が最後だったようで、既にアクォラス公爵令嬢を含めて3人が座っていた。
「ごきげんようアクォラス様、本日はお招きいただきましてありがとう存じます」
「ごきげんよう。先ずはお座りになって、私のお友達を紹介しますわ」
促されるままに着席し、他の2人をさり気なく確認する。テーブルは円形で、席順としては正面にアクォラス公爵令嬢、両隣にお友達といった感じだ。
2人共伯爵令嬢で、右隣の人はやや吊り目でキツイ雰囲気がする。名前はリゼ・クスタスと言うそうで、領地持ちの貴族家だそうだ。
左隣の人は逆に垂れ目で優しそうな雰囲気で、名前はシス・マーラスと言うそうだ。商家との繋がりが強く、間接的にではあるが私の父の商会とも何度か取り引きをした事があるらしい。
私は挨拶もそこそこに、手土産のクッキーを渡す。
「まあ!ありがとう存じますわ。クッキーは以前いただいてから入手できなくて、とても残念でしたの」
「ふふっ、評価いただいて嬉しく存じます。ですが、売りに出してこそいますが、未完成でありまだまだ改善の余地があるのです」
(卵が無いからね……)
「あら、これ以上を求めていらっしゃるの?とても向上心に溢れていらっしゃるのね」
マーラス伯爵令嬢が、微笑みながらも探るような視線で見つめて来た。優しそうに感じたのは気のせいだったのかもしれない……
「常に最善を…が私のモットーですので」
「?……モットーと言うのは何かしら?」
(…あれ?モットーって言葉も無いんだ……)
「そうですね…行動の指針と言いますか、標語の様なものです」
「そうなのね、とても良いと思いますわ!」
今度は、裏の無さそうな笑顔を見せてくれた。もし演技だとしたら、私はこの人を信じられなくなりそうだ…
手土産のクッキーがお皿に盛られ、お茶請けとして出されたので最初に私が口に含み、その後其々が口に含む。嬉しそうであったり、軽く目を見張ったりと表情は分かれたが、概ね好評のようだ。
少ししてから、今思い出したといった感じでクスタス伯爵令嬢が私に声を掛けてきた。
「そう言えば、親睦会ではとても大変でしたわね…」
「ぅっ……そう…ですね」
「ああまで熱心に言い寄られるだなんて、少し嫉妬してしまいますわ」
「あれは……その………」
親睦会での演奏の後、私は数人の貴族子息に囲まれてしまった。そしてその中には、存在を忘れていたあの軟派男も居たのだ。
最初は向こうも私の事を忘れていたのか、初対面の挨拶から入ってきた。私はすぐに気付いたので、そのままやり過ごして逃げる気だったのだが、途中で思い出した様で、急にお披露目の時の事を持ち出して来た。
しかも最悪な事に、周りに聞こえる様に大き目の声で、まるで将来を約束しているかの如く振る舞って来たのだ。
暫く粘られていたが、あまりにもしつこい上に遠回しな言い方だと諦めなかったので、率直に迷惑だと言った後、如何に理解力が無く滑稽になっているのかを懇切丁寧に伝えると、波が引く様に貴族子息達が居なくなっていた。
しかしあの状況の何処に嫉妬する要素があったのだろうか?と、戸惑いながらも考えていると、マーラス伯爵令嬢が苦笑しながらも理由を教えてくれた。
「気になさらなくても大丈夫よ。リゼは、自分の婚約者が自分を置いて行った事が不満なのよ」
「え?それは………」
「でもリゼも悪いのよ。婚約者そっちのけで料理を摘んでいたのだから」
「あ…あれはだって、珍しい物が沢山有ったからつい……」
「ただ食い意地が張っていただけでしょうに…」
アクォラス公爵令嬢とマーラス伯爵令嬢が、呆れた顔でクスタス伯爵令嬢を見る。
「そ、それはまあ……否定はしないわ」
その後、2人のおかげで話が逸れ、親睦会から婚約者の事に話題が移った。
「シスは婚約者とどうなのよ」
「勿論良くしていただいていますよ。この間も、記念日だからとプレゼントを贈ってくださったの」
「そ、そのくらい私の婚約者もくださったわ!」
「あらそう?……それで、貰ってばかりなのも申し訳無く思いまして、私からも何か贈り物をしたいの。ユリアさんの商会では珍しい物があるのでしょう?」
「そうですね。とは言えこの国では、というだけですので期待に応える事ができるかどうか……」
(何処まで本気で言ってるんだろうか…)
少なくともこの国では、男性から女性に贈り物をする慣習はあるが、逆は無い。婚約者の関係なら無くもないらしいが、珍しい事に変わりはないと聞いている。
先程の事もあるので、何か裏がある様で素直に言葉通り受け取り辛い。
「それでしたら、是非とも商品を見せていただきたいですわ」
「ではこの夏季休暇の間に、いくつか見繕っておきますね」
「あら、でしたら私にもお願いできますかしら」
「アクォラス様もですか?」
「ええ、ユリアさんの商会がどういった物を扱っているのか興味が出ましたもの」
何故かアクォラス公爵令嬢の分も用意する事になったが、その後は特に変わった話題も出ず、いくつか雑談をしてお茶会は終了した。
想定より時間が掛かってしまったので、イリスと相談して翌日の昼前に帰省する事にした………
「準備は良いかしら?」
「はい!いつでも大丈夫です……ですけれど…」
翌日、時間通りに集合してから持ち物等の確認を行い、さて行きましょうというタイミングで、イリスが待ったをかけた。
「?…どうしたの」
「あの、私達これから移動するんですよね?」
「そうよ?」
「何でユリア様の部屋に集合だったんですか?」
イリスが言う通り、現在リンを含めた私達3人は私の部屋に集まっている。
理由は簡単で、転移扉で移動する為である。今後、イリスが私の商会で働くにあたり、この存在は隠さず教える事にしようとリンと話し合って決めたのだった。
私としても、同じ転生者という事もあり、重要性や秘密にする理由も察して貰えると思っている。それに、他言しないだろうと思う程には信頼もしている。
「ふふっ、今から話す事と見た事は内緒にしてね」
「?…はい、わかりました」
イリスが頷いた事を確認した後、クローゼットを開いて転移扉が見えるよう衣類を除ける。
「……これは?」
「これはね、転移扉と名付けた魔具で、所謂何処でもなドアと似た感じの物なの」
「え!?それってドラ――」
「イリス!それ以上はいけないわ」
「あ……はい」
「まぁ兎に角、移動時間短縮の為に使うのだけれど、これの存在は秘密にして欲しいの」
「わかりました!」
元気良く返事をするイリスに満足しながら、転移扉を開ける。今回はイリスも居るので、私の部屋に直接移動するのではなく、育成院に行く道中にある倉庫に模した建物の中に移動した。
道中と言っても、整備された道から外れた場所で見えない位置になっているうえ、誤って他人が開けないよう鍵も掛かる仕様になっている。
「わぁ~凄い……本当に違う場所に出た」
「ふふっ、最初は私も同じような反応をしていたのよ」
目を見開いて、呆気にとられた表情のイリスに微笑ましくなりそう言うと…
「ユリア様はいつもと変わらなかったように思えますが……」
「あら、最初は1人で試していたのよ」
まさかのリンからのツッコミを受けてしまい、何故か言い訳をするような反応になってしまった。
「さて、何時までも此処に居るわけにもいかないから移動しましょう」
「「はい」」
整備された道に出て、帰路に就く。
暫く歩き、もうすぐ到着といった位置で視界の端に見慣れないものが映った。
「…?」
「ユリア様?どうかされましたか?」
「えぇ、あの木の陰に何かが見えて…」
「?……確認して参ります」
「お願いね」
私の言葉を受け、リンが確認の為木に近付いていく。
その様子を眺めていると、何かを確認できたのであろうリンが、手で口元を覆うのが見えた。
私とイリスは顔を見合わせ、リンの傍に近付いた。
「リン?どうし……っ!?」
リンに声を掛けつつ私も確認すると、木に凭れ掛かるようにして男性が倒れていた。
問題は、その人が血だらけで意識が無く、明らかに時間の経過を思わせる程に服に付いている血が乾いている事だ。
急いで治療しなければ助からないであろう事が見て取れる。
「っ…ユリア様!」
「…少し下がっていて」
リンを下がらせ、倒れている人の服を脱がせて傷口を確認する。
(お腹に刃物で一度…いえ、二度刺されている)
刺し傷以外は見当たらなかった為、体を仰向けに寝かせる。その後先ず浄化して殺菌を行い、次いで治療を試みる。傷口自体は大したことが無く、然程時間は掛からなかった。しかし、出血量が酷かったようで、目を覚ます気配は無い。
「リン、先に戻って人を呼んで来て、この人を運びましょう」
「しかし、ユリア様を置いて行くわけには……」
「でもイリスを向かわせるわけにはいかないでしょう?私は、この人の容態が急変してはいけないから診ていないと」
「私が一緒に居ますから大丈夫ですよ!」
「…わかりました。急ぎます」
「気を付けてね」
「はい」
後ろ髪を引かれながらも納得してくれたようで、リンは小走りで応援を呼びに向かって行った。
「それにしても驚きました!ユリア様って治癒魔法も使えたんですね」
「そうね、小さい頃に練習したの。この世界は…その、医療の方は……」
「あ…成程」
私の言いたい事を察してくれたのか、イリスはすぐに納得してくれたようだ。
改めて男性の様子を確認すると、今は呼吸は落ち着いているが、血が足りないからか顔色が悪い。髭が生えており、年齢は30代くらいに見える。体はそこそこ鍛えているようで、筋肉質でがっしりしている。
「……ユリア様はそういう方が好みなんですか?」
「え?全然違うけれど、どうして?」
「その、ジッと見ていたので…」
「あぁ、他に異常が無いか確認していたの」
「そうでしたか………良かった…」
「?」
最後の方はよく聞こえなかったが、私が男性を観察していたのを見て、イリスは何か勘違いしていたようだ。
少し前に実感したが、私は未だに男性に好意を寄せた事は無いし、今後も変わらずこのままな気がしている。それに、特に直そうとも思っていない。
そうこうしていると、リンが他の使用人を連れて戻って来た。その中にはセシリアの姿も見られた。
「ユリアお嬢様」
「何かしら?」
「素性の知れぬ者ですが、本当に宜しいのですか?」
事情を聞いたセシリアが難色を示している。身元不明なだけに、色々と危惧しているのだろう…
とはいえ、放置するのは何だか忍びない気がしてしまう。
話し合った結果、不用意に近付かないよう周知し、取り敢えず客室に寝かせて接触は最小限で様子を見る事となり、連れ帰る事にした。
―――この時、もう少し私は警戒するべきだった。何故ならスーがずっとこの男性を警戒していたからだ。
しかし私は気が急いていた事もあり、最後まで気付くことは無かった………
誤字報告ありがとうございます。