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試験に向けて

 皆さんはテスト勉強しますか?

私はしない人でした。というのも、ただでさえ自由な時間が無かったので、勉強をする気が起きなかったのです。でも、社会人になって気付いた事ですが、専門的なもの以外の学校で習う内容の大半は役に立ちません。しかし、成績や学歴は就職活動で必要になってくるのです。つまり極論で言うと、勉強は就職に有利になる為に必要なんでしょうね………





「大変な試験になりそうですね……」


 夕食の時間、授業終わりに与えられた課題の話しとなり、ルナリアさんと私の内容を教えた時にフィーナに言われた。

 私達の中で、転生者でないのはフィーナだけで、他の2人は私と一緒で、生前の記憶から曲を流用すれば良いと思っているのか、特に反応が無い。

 因みに、淑女教育は貴族令嬢のみで、貴族令息は紳士教育を行い、平民は男女纏めて公的な場での礼儀作法となっている。理由としては、平民でも学院卒業後に騎士団や魔学技工士に所属する者も居るので、いずれ必要となるからだ。


「そうね、今迄既存の曲しか弾いて来なかったもの。正直言って難しいわ」

「あら?ユリアさんが口ずさんでたのを、そのまま曲にしたら良いのでは?」


 ルナリアさんがきょとんとした顔で聞いてくる……ちょっと可愛い。


「いえ、あれは今流行りのものと曲調が違いますので、そのままはちょっと……」


 暗にこの世界とは合わないと告げると、納得した様子になり何かを考え始めた。

 すると、今度はイリスが名案だとばかりに楽しそうな表情で提案してくる。


「ではアレンジしてみては如何ですか?」

「そうね、一応私もその方向で考えてはいるの」

「私はユリア様の声が好きなので、歌なら何でも聴きたいですが……可能なら恋歌が良いです!」

「恋歌……ですか?」

「はい!!個人的には、一番感情が込もる歌が恋歌だと思うので、是非とも聴きたいです!」

「そ…そう……」


 イリスの勢いに少したじろいでしまった。ちょっと熱量について行けないので、話題を逸らす事にした。


「そう言えば、フィーナとイリスはどんな試験なのかしら?」

「私達は当日伝えられるそうです」

「そう…それはちょっと不安ね」

「いえ、簡単な内容だそうなので、それ程心配はしていませんよ」

「それなら良かったわ」

「あ、でも合格点に達しなければ、同じ日に行われる親睦会には参加できないそうですよ」

「あら?そうなのね」


 試験が終わった後、同日に親睦会が開催される。夏季休暇前に行われる理由としては、ある程度学院に慣れた頃合いに交流の場を(もう)け、休暇での行動を決める為でもあるそうだ。

 仲が良くなれば、休暇の数日を共に過ごしたり、お茶会に誘う相手の幅が広がったりもする。

 学院の方針もあるので、貴族と平民同じ会場となっている。とは言え、やはり身分を気にして気不味い思いをする人も居るので、会場内ではテーブルを離して設置してあり、交流は自由となっている。

 話しが終わって解散する時、ふと気になった事がありルナリアさんだけを呼び止めた。


「ルナリアさん、一つ確認したい事が……」

「はい?」


 私は近付いて小声で尋ねる。


「いつ頃から記憶が?」

「え?…えっと、産まれた時から…ですね」

「それは………大変でしたね」

「それはもう………」

(あれ?…ならレイエルが言ってた悪用云々は別の人なの?)


 確かレイエルは、知識を悪用して成り上がろうとしていると言っていた。でも目の前に居るルナリアさんは、そんな素振りも無いしできそうにも無い。それにあの言い方だと、教会に来て記憶が戻った人が対象の様な気がする。

 ルナリアさんが産まれた時から記憶が有るのなら、どれも当てはまらない。


(ならヒロインポジではない人が居て、その人が狙ってるとか?……)


 今考えても答えが出そうにないので、ルナリアさんに質問のお礼を言って今度こそ解散する。

 目の前の課題から片付ける事にして、私は曲をどうするか考えながら自室に戻った………





 悩み続けて早数日、あっという間に淑女教育の試験前日となった。

 他の試験は何の問題も無く全て終わり、今は成績が貼り出された場にお馴染みの3人と来ている。私は興味が無かったので来る気も無かったのだが、教室を出てすぐの所でルナリアさんに捕まり、この場まで連行されたのだ。


「あっ!ユリア様1位ですよ!……え?満点超えてる!?」


 フィーナが私の名前を見つけ、順位に喜び、点数を見て驚いている。最近になって漸く心を許してくれたのか、色々な表情を見せてくれるフィーナに癒されていたのだが、最後の言葉で注目を集めてしまった。

 貼り出されている試験の総合点は、私の名前の横には550点と記載されてある。2位の人は知らない人で、479点だった。本来なら満点が500点で、語学・史学・地学・林学・算術の5種各100点となっているのだが、全ての試験におまけ問題が存在していた。そのおまけは、授業で行われていない内容から出題され、正解すると10点貰える。

 その他の試験に関しては、合否しか決めない為点数が付かず、貼り出される事は無い。因みに、地学や林学があるのはこの国の特色が理由で、他国よりも山や森林が多いかららしい。と言っても、内容は基本的なものばかりで、何をどれだけの規模で行っているかがメインで、後は其れに付随するものを教わっている。

 おまけの事を知らなかった私は普通に全て解き、後からその事を聞いて嫌な予感がしたので、来る気が無かったのだった。

 案の定、周囲からは好意的だったり懐疑的だったりと、様々な視線に晒されてしまった……


「わ、私は何とか合格ラインでしたが、流石ユリアさんですね!さあ!成績も確認しましたし、他の方の邪魔になってはいけないので移動しましょう!」


 矢継ぎ早に(まく)し立てながら、私の背を押し始めたルナリアさん。

 ……実は一番場の空気が読めるのかもしれない。


(いや、連行した張本人だったね……)


 私の中で上がりかけたルナリアさんへの評価がやや下がる……


 場所を移し、事前に使用許可を取っていた器楽室へ来ていた。此処では、事前に申請すれば楽器の使用許可が貰え、自主的に練習ができる。他にも、演奏が趣味の人も偶に利用しているみたいだ。

 何処からか、私が使用許可の申請をしたと聞きつけたルナリアさんが、歌を聴きたいと言って来て、他の2人もそれに同調してきて今に至る。


「さてユリアさん!聴かせてくださいな!!」

「……構いませんけれど、変と思っても笑わないでくださいね」

「安心してくださいユリア様、私達が無理を言って聴かせていただくのですから、そんな恥知らずな事しませんよ」

「そうですとも!!」


 それって暗に下手でも我慢するって事?と思い、変って部分を否定して欲しかった私なのであった。


(いや、マイナス思考になってる……ポジティブに行かないとね!)

「少し待っててね…」


 私はピアノの調律を視て、問題が無い事を確認してから椅子に座る。この世界のピアノはグランドピアノしか存在せず、似た様な物も見た事は無い。

 私に向く3つの視線に緊張しつつ、指を動かして音を奏で始める———



 —————♪♫♪—————



おはようって あなたが言う度に 心が少し(うわ)つくよ


笑顔を 見てると何だか 目が 離せなくなる


日に日に 気持ちが 強くなる事を 感じてた


想いが 届く様にと 願いを込めて あなたを見つめる




またねって あなたが言う度に 心が少し切なくなるよ


気付けば 姿を探してる そんな 日々に


少しずつ 少しずつ (つの)り続けた この想い


知って 気付いてと 願いを込めて あなたを見つめる




一緒に過ごした日々は 私にとって 大切で


あなたにとっては 普通の日々も 景色が


輝いて見える なんて言ったら あなたは多分


笑ってしまうかな それでも私は 嬉しいの


明日は必ず 来るけれど あなたのいない 日々は嫌



ありがとって あなたが言う度に 心が身を焦がすよ


欲しくて でも求められなくて 今 この瞬間を


ずっと このまま 寄り添っていて そばにいて


想いが 届く様にと 願いを込めて あなたを見つめる


知って 気付いてと 願いを込めて あなたを見つめる



 —————♪♫♪—————



 ———演奏が終わり、手を止めて一息吐く。


(んー…やっぱりちょっと女々しくなったかな……)


 精神は肉体に引っ張られると聞いた事もあるが、この体になってから、何の違和感も無く過ごせる様になった今でも、男性を恋愛的な意味で好きになった事は未だ無い。

 自分には当てはまらなかったのだろうと思っていたが、今回歌詞を付けた事で、何となく乙女思考に寄っていると思えた。


(いや、間違っては無いんだけどね……)


 経緯はどうあれ、今は女性として生きているので寧ろ正常だろう。それに、スー達も嬉しそうにしているので、それを見ていると私の悩みはどうでも良い気がしてくる。

 私が自問自答していると、不意に拍手が聞こえて来た……それも大勢の。


「っ!?」

(え?何で!?)


 拍手の音に驚いて振り向くと、いつの間にか十数人程の令嬢と使用人が居た。どうやら、私と同じく練習に来た人が偶々聴いてしまった様だ。

 器楽室は複数有り、私が借りた部屋は小さめで防音もそれなりではあるが、完全には防げない。恐らく、周辺に音が漏れていて、聞こえてしまったのだろう。


「素晴らしい曲でしたわ!!」

「えぇ、情景が目に浮かぶ様ですわね!」

「あら、(わたくし)には共感できない部分がありましたわ」

「いえ!やはり想いは殿方から告げていただかないと!!」

「そうですわよね!!」

「想っていてもなかなか伝わらない……(わたくし)まで切なくなってきましたわ」


 歌を聴いた令嬢達は盛り上がっていた。

 チラリとフィーナ達の方を見ると、私と同じ様に他に人が居た事に驚いているみたいで、今は感想を聞けそうに無い。

 周りの反応から、一応試験は大丈夫だろうと判断し、予定より少し早いが練習を切り上げて私達は退室した……


 夕食の席で、話題は私の曲の歌詞になっていた。


「ユリア様に想い人がいらしたのですか?」

「いえ、その様な方は居ませんよ」

「?…では、あの歌詞はユリア様の事では無いのですか?」


 どうやらフィーナは、私が思慕する相手が居ると思っていた様で、その想いを歌詞にしたと思っていたらしい。


「前に、イリスが恋歌が良いって言ってたでしょう?それで考えてみたのよ」


 実の所、完全に違う訳では無いが、態々説明する気も無い。


「ユリアさん、何で気付いて貰いたいって内容の歌詞だったんですか?」

「え?女性から迫るのは、はしたないって言われてるでしょう?」

「ぅぇっ!?……そ、そうですね」

「………ルナリアさん?」


 この世界では、女性から好意を表すのはまだしも、迫る——告白——行為は良しとされていない。それもあって、歌詞には想いを伝える内容を入れていない。

 貴族の間では常識だったよねと思い、ルナリアさんを見ると、やや挙動不審になり目が合わない。

 ………自然とジト目になる私は悪くないと思う。

 その後、他愛もない雑談になり時間が過ぎて行った。


 就寝前となり、スーとクーが歌う様に鳴き、ルーが其れに合わせて舞い始めた。楽しそうに戯れている様子は、見ていて癒される。

 何となく私も混ざりたくなり、記憶にある曲をいくつか口ずさむ。すると、3匹共私に合わせてくれた。

 楽しい時間を過ごして十分歌った後、ふとリンの視線を感じて其方を向くと、少し羨ましそうな表情をしていた。


「リン?」

「あ、いえ…申し訳ありません」

「むぅ…何かあるのでしょう?言ってみて」


 リンは少し逡巡した後、口を開いた。


「その……私も精霊や妖精が見えたらな…と」

(あー……成る程)

「んー…なら、リンが見られる様に何か考えてみるわ」

「え?あ…ありがとうございます」

「ふふっ、頑張るわ」


 精霊が見える人は、魔力の保有量が多い傾向にあるらしいが、理由はわかっていない。理由さえ判明すれば、何とか見える様にする方法も有るかもしれない。

 今研究している浄化の魔具が完成すれば、次の研究として扱ってみよう。

 今後の予定に書き足し、その日は就寝した——


歌詞を載せるか悩みましたが、自己満足の為に載せました(*´ω`*)


ブクマとポイント評価、感想ありがとうございます。

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