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閑話〜ちょっとした思惑〜

王妃様の一人称は(わたくし)です。

ルビ振りを省略しています(´・ω・`)

 歴史書によれば、建国の際に精霊の助けを借りたと記されている。

 その精霊の名から取り、ルースリャーヤ王国としたと——


 が、王家に残された禁書にはこうある。

 この国の祖となる人物は、精霊に助けられ生き(ながら)えた。

 虐げられ、理不尽な仕打ちを受け続けた祖は、国を出て逃げた。しかし、山を2つ越えた辺りで国からの追手に捕まり、祖の命が風前の灯となった時、精霊が現れ助けられる。その後、共に旅をし、精霊や妖精の過ごし易い地脈を発見する。

 祖と共に在った精霊は、彼の地に存在する精霊と妖精を護りたいと祖に願った。

 祖は命を助けられた事もあり、精霊の願いを聞く事にした。だが所詮は1人の人間である祖では、護る為の手段が余りにも無さ過ぎた。そこで祖は、同じく精霊を知覚できる人を集め、国を興す事とした。

 開拓するのは祖が行い、人を集めるのは精霊と妖精に頼み、土地と人の確保を行った。

 精霊には、人の悪意を見抜く能力があった。

 開拓を始め約5年の歳月で、国を興す最低限の体裁が整った。此れにも精霊の尽力があり、人の数こそ少なかったが、十分他国と取引き可能な状態となっていた。

 だがこの事を黙って見逃す国は無く、領土の主張と利権目的での侵攻が開始された。

 まだ国として成立していない事もあり、祖と共に住む人々は苦戦を強いられた。そこでまたしても精霊が力を貸し、周辺諸国の派遣した兵を無力化した。

 尋常でない被害が出始めた周辺諸国は侵攻を止め、彼の地に対し国と認め和平を結ぶ交渉を行った。

 こうして国と認められるに至ったが、代償もあった。

 祖と共に在った精霊が力を使い過ぎ、眠りに着いてしまった。

 この事を激しく嘆いた祖は、いつか必ず眠りから覚まさせると精霊に約束した。

 その約束を忘れない為、国の名を精霊から取りルースリャーヤとした——


 そして王家にはもう一つ、一定の年齢に達した際にこの禁書と併せて読む本がある。

 眠りに着いた精霊を眠りから覚ます為、必要と推測されている条件を記した物だ。

 曰く、一度に一定の魔力を注ぐ必要がある事。

 曰く、眠りに着いた精霊は地脈と繋がっている為、代わりに地脈の流れを整える物が必要な事。

 曰く、眠りに着く精霊の下へ辿り着くには、この地に棲まう精霊と契約をする必要がある事。

 以上を忘れる事無く、途絶えさせる事なかれ………




 王家に嫁ぎ、第一子を産んだ際に読まされた書物は、私には衝撃的な内容でした。

 現在の国王陛下がまだ王太子であった頃、公爵家の出自であり同年代だった私は、さしたる苦労も無く婚約から婚姻に至ります。

 好きな訳でもありませんでしたが、小さな頃から王家に嫁ぐのだと聞かされ育った私には、何の抵抗も無かったのです。

 恋愛をしてみたいと思った事もありましたが、そんな相手も時間も無く、唯々流れに身を任せ今があるのです。

 婚姻後は義務を(こな)しつつ、夫を支えながら過ごし、そして初の懐妊に至りました。

 無事に子を産み、産後の経過も特に異常無く体力の回復に努めていたある日の事、先の書物を渡され読むように促されました。

 その内容には建国(始まり)の精霊の事が書かれており、今も尚眠り続けているとの事でした。

 そして王家は、その精霊の眠りを覚まさせる為に今でも研究を続けているそうです。

 後日聞いた話ですが、建国(始まり)の精霊は全ての人が見える様にもできたそうです。

 それならば、私も一目見る事ができるかもしれません。この時から私は、本当の意味で王家の一員になったのだと思います。

 その後、私は貴族・平民に拘らず優秀な人材を召抱えたり、騎士団や魔学技工士へ推薦したりしていました。

 さらに年月が経ち、子が3人となりました。

 その子達もある程度成長し、一番下の子であるスィールがお披露目を終えた翌年の事——


「母上様!植物園に不思議な子が居ました!」

「どうしたの?スィール。慌ただしくして…落ち着きを持ちなさいといつも言っているでしょうに」


 毎年恒例のお披露目では、王家は必ず列席する事となっています。

 その準備を行っている最中に、スィールが私の下に慌てた様子で来ました。

 スィールの植物園は、お披露目会場へ行く道を少し逸れた場所にあります。とは言え、今日来るのはお披露目に参加する貴族子女の筈で、不思議と評する子は居ないと思われます。


「す、すみません。でも、本当に不思議な子が居たのです」

「どう不思議だったの?」

「その…植物園にある花を愛でていると思ったら、途中で木陰に向かって魔法を使ってたんです!」

「?…本当に魔法を使ってたの?」

「間違いありません!淡く光ってました!前に魔法士の方が使っているのを見た時と同じです!」

「……そう、陛下にも伝えておきなさい。ちゃんと正確にね」


 お披露目に参加する子であれば、歳は10の筈。

 その歳で魔法が使えるのならば、将来的に騎士団か魔学技工士に所属して欲しい。

 陛下が知れば何かしら手を打つでしょう。


「…スィール、その子の特徴は?」

「桃色髪の綺麗な()でした!」


 スィールの頬が少し赤くなっている気がします。


「…女の子なの?」

「あ、はい。そうですが…」


 予定は変更です!…スィールに頑張って貰ってお嫁に来ていただきましょう!!

 私は娘が欲しかったのです!ですが産まれた子は3人共男でした。それに関しては世継ぎを考えると十分なのですが、私は娘とお話や刺繍を一緒にしたかったのです!

 スィールも気になっているみたいですし、第三王子だから公務もそれなりで時間も取れるはず。

 問題は賢さですが、魔法が使えるのならば少なくとも平均以上でしょう。


「さ、陛下にも報告に行きましょう!」

「え?母上様も行くのですか?」

「当然でしょう!」

「で、ですが先程の言い方だと…」

「良いから!行くのよ!」

「は…はい」


 スィールを連れて陛下の所へ行き、同じ説明をさせる。

 途中までは黙って聞いていた陛下が、容姿を聞いて眉を顰める。


「…陛下?」

「あぁ、いや…それは恐らくルベール家の娘だろう」

「あら、ご存知でしたの?」

「うむ、あの娘の情報は最近入ってきてな…」


 陛下直属の諜報部があるので、恐らくはそこからの情報でしょう。

 態々情報が入ってくるという事は、無視できない何かがあった筈。


「桃色の髪になったのは最近の事だそうだ」

「?…染めているのですか?」

「いや……教会に行った際に変わったとの事だ」

「?」


 スィールはまだ知らないが、教会に(まつ)わる伝承は王家でも聞かされます。

 教会で髪が変色するとなれば、信仰の対象である女神様との接触と言われる現象がありますので、その事でしょう。

 記録では、ここ数百年表れていない。つまり、教会が目を付けるのはほぼ確実でしょう。


「まあ、他にもあってな…」

「それは?」

「最近、お砂糖なる物がリーデル領内で出回っている」

「……お砂糖ですか?」

「うむ…塩と似た見た目をしており、甘いのだそうだ」

「甘いのですか?」

「それを使い、甘い菓子等も作っているらしい」


 甘味と言えば、これまで果物しか無かったのです。それが本当ならば色々と幅を利かせられます。可能ならば、うちの料理人に渡して研究させたい程です。


「そして何より、そのお砂糖の原料を発見し作ったのが、ルベール家の娘であるとの事だ」

「何と……」


 それが事実であれば、賢いでは済ませられないでしょう。


「スィール」

「はい、母上様」

「今日のパーティーで、その娘と話をする約束を取り付けなさい」

「話を…ですか?」

「そうね、終わった後に別室で…植物園での事もそこで聞きましょう」

「わ、わかりました」


 その後、時間となったので会場へ向かい、お披露目が始まりました。

 順番に進行していき、例の娘——ユリア・ルベール——の番となりました。

 初めて拝見したその容姿は、人形と言われても信じてしまいそうな程に整った顔をしていて、本当に10歳なのかと問いたい凹凸が既にできていました。

 流石に胸はまだ膨らみ始めでしたが、ドレスの上からでもわかる程の腰の括れがあったのです。

 この年頃だと、普通は寸胴寄りで括れはできていません。それに、成長の妨げになるとの理由からコルセットは禁止となっています。

 そして洗練されたカーテシーもその魅力を引き立てていました。

 さり気なく横目で陛下を確認すると、顔には出していませんが、圧倒されている様でした。

 声を掛けるタイミングを失っていた様で、周りからの反応に慌てて声を掛けていました。


「ユリアといったな」

「はい」

「活発に動いていると耳にしたが、元気があり余っている様だな」

「……」


 とても透き通った声でした。

 ユリアの声は、大きく発していないにも関わらず良く通り、耳にスッと入って来ました。

 しかし、直後の陛下の台詞に耳を疑いました。

 今の言い回しは、令嬢とは思えない・令嬢らしからぬ・恥を知らないのか、と言った意味にもなるのです。

 陛下は、人を試す時は喧嘩腰になるという悪い癖があります。

 恐らくは、返しからどの程度の知識を有しているのかを知りたいのだと思います。

 ユリアに向かい、頑張ってと心の中でエールを送ります。


「この国が平和であるお陰です。それ故に民は生活の向上を求め、私もまた理想を求め探っているのです。人は満足すると、そこで成長が止まってしまいますので」

「………ほう」


 おや、陛下は思わぬ反撃を受けた様な表情になっています。

 そんな表情は久しく見ていなかったので、つい笑いそうになり、扇子で顔を隠しました。


「そう言えば、スィールの植物園で何やら不思議な行動を取っていた様だが、何をしていた?」

「………はい?」

「花を愛でているかと思えば、途中で木に近付き妙な行動を取っていたと、スィールが言っていた」


 陛下がスィールの方を向き、釣られて同じ方を向いたユリアが何か納得した様な顔をしていました。

 ……まさかスィールを知らなかったとか?

 もしかしたら王家に興味が無いのかも知れませんね。


「お目汚しをした様で、申し訳ありません。私の様な者の事などで、お気を煩わせる必要ございませんわ。また会う事も無いでしょう。お忘れください」

「おや、知らないのか?スィールは今11歳だ。少なくとも学院で会う事もあるだろう」

「であれば、目に映らぬ様気を付けますので、何卒ご容赦くださいませ」

「むぅ………」


 陛下が聞いている事に触れない様、躱し続けるユリア。

 そもそも植物園の事は、後でスィールに聞かせると話したばかりなのに、何故この人は先に聞いてしまうのかと思いました。

 そして陛下が空振りしている様子を見ていると、笑いがこみ上げて来て我慢できなくなりました。


「それではこれで失礼致します」


 そう言ってカーテシーをした後、すぐに踵を返し去って行きました。

 今のやり取りで、私は余計にユリアを娘に欲しくなりました。

 その後も残りの子が続きましたが、興味を惹かれる様な子は居ませんでした——


 パーティーの時間となり、何組かが踊り始めた頃、ユリアは壁際に立ち料理を食べていました。

 どうやら踊る気は無さそうなので、スィールに約束を取り付けに行く様促します。


「良い?スィール。ユリアが断らない様に言葉には気を付けるのよ」

「はい、行って参ります」


 スィールを見届け、私は退席して部屋の準備に掛かりました。

 ただ誤算だったのが——


「母上!俺も一緒に話をしてみたいです!」

「あら、ドゥクス」


 第二王子であるドゥクスが、先のやり取りで興味を持ってしまった様でした。

 ドゥクスは12歳で、自己顕示欲が強く育ってしまった子です。なので、陛下や私が興味を持ったと知ると、自分もと言ってくるのです。


「ダメよ。大事な話があるから、同席は許しません」

「何故ですか!?スィールも同席するのでしょう!ならば俺が居ても良い筈です!」

「貴方が居ると話が進まないの。我慢しなさい」

「嫌です!邪魔はしませんから同席させてください」

「……はぁ。静かにできるのかしら?」

「できます!」

「…なら黙っている事を条件に、同席を許します」

「ありがとうございます!」


 渋々同席を許しましたが、不安しかありませんでした。

 そしてその不安は現実となり、ドゥクスを叱り付ける事となったのです。

 しかし収穫もありました。

 どうやらユリアは花が好きな様です。その他にも、恐らく精霊が見えているであろう事や、商会で取り扱うお砂糖の融通と、商品を一つ献上して貰えるとの言質を取りました——


 そうして数十日が経ち、私が不在の間にユリアからの献上品が届いていました。


「……馬車?」

「はい、馬車でございます」


 馬車を献上されても、台数が十分なので必要では無いのですが、ユリアが何も考えずに送ってくるとは思えません。


「………何か特徴が?」

「はっ!説明させていただきます。此方の馬車には、サスペンションなる物が使用されています。揺れを軽減する物だそうで、移動が楽になるとの事です」

「サス…?」

「それから、言付けを預かっております」

「聞かせて」

「移動時の疲労が軽減される様に設計されています。ご自愛ください。との事です」

「…そう、ありがとう。下がって良いわ」

「はっ!!」


 その次の移動で、献上された馬車を使い乗り心地を試した所、非常に楽でした。

 リーデル領は遠く、移動疲れも考えると時間も掛かる。長く王都を離れる訳にもいかないので、今まで選択肢にはありませんでしたが、移動時間の短縮が可能であれば話は変わります。

 早速準備を開始しました。

 先ずお供には護衛の騎士を2人、精霊が見える者の中から女性であるリズィを連れて行く事に。王都には3人見える者が居ますが、ユリアと会うので女性にしました。

 騎士は騎士団長に人選を任せ、リズィには直接お願いして了承を得ました。

 訪問の報せを手紙で出し、それと同時に出発しました——


 ルベール邸では、急な訪問にも関わらずしっかりとした歓待を受けました。主にユリアが応対してくれて、とても楽しく過ごせたと思います。

 そのユリアですが、後にリズィに聞いた所、何と2匹の精霊と契約しているとの事。因みに、リズィ含む王都在住の精霊が見える3人は、契約はできていないそうです。

 精霊との契約は、名付けを行い精霊が了承する必要があるそうなのです。

 リズィは過去何回か挑戦してダメだったとの事。

 更に、ユリアの魔力量は恐らくリズィよりも多く、発想も素晴らしいとリズィが手放しで褒めていました。

 試供品として貰ったヘアアイロンは、私のお気に入りとなっています。

 今回私自ら訪問したのは、目的があったからです。

 一つ目に、精霊が見えるのかの事実確認。

 契約までしていると判明し、予想以上の結果に。

 二つ目に、お砂糖を使った甘味。

 これに関しては、色々なお菓子が食べられたので満足しました。それに、カレーという初めての食べ物も美味しくいただけたので想定以上の結果に。

 三つ目に、普段のユリアと接してみたかったのです。

 結果として、普段から優秀な面が見える事が判明して満足しました。

 最後に、教会への牽制。

 王妃の身分である私が私的に訪問する事で、繋がりを強調して簡単に手を出せない様にしたかったのです。

 今回の訪問で、私は王家としてもユリアを欲する理由ができました。

 ユリアの身分は、子爵令嬢であり王家に嫁ぐ身分としては少し弱い。しかし、ユリアの優秀さであれば問題にはならないでしょう。

 できれば、スィールと婚姻を結びたいと思って欲しいところ。


「さて、スィールには学院で何とかユリアの心を射止めてもらわないとね…」


 ユリアの事を陛下に伝え、スィールとの婚約を成立させる為に策を考える事にしました………


ブクマとポイント評価ありがとうございます。

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