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王妃様来襲

 商機とは何でしょう?

あ、意味では無くタイミングの事です。商品を普通に売るのでは無く、自ら売り込む事も必要でしょう。しかし、営業の経験が無い私にはとても難しく思えます。やはり、経験を積まないとなかなか上達しないのでしょうね………





 手紙が届いて3日後、王妃様が領地に到着したとの報せがあった。

 連絡手段として、携帯電話の様な形状の魔具を作って門番に渡していた。

 電波の調整が難しく、知識が足りないのでそれは断念し、対の魔具で繋がる様にした物だ。なので、普及するのはまだ先だろう。


「想定内ではあるが、やはり早いな…」


 最短で2日だろうと思っていたので、多少は心に余裕ができていたが、それでも急な事に変わりは無い。


「ユリア、準備は良いかな?」

「はい。大丈夫です」


 失礼の無い様に正装し、出迎える為に屋敷の表で待機する。

 普通であれば当主が応対するのだが、今回は私が目当てだと事前に連絡が来ているので、私が応対する事になった。

 少しすると、献上した馬車が見えて来た。

 馬車は目の前で停車すると、中から女性騎士が1人、学者っぽい女性が1人、(いか)つい男性騎士が1人降りて来た。

 次いで王妃様が男性騎士の手を取って降りて来た。


「出迎えご苦労様…お久しぶりね」

「遠路遥々ようこそお越し下さいました。斯様(かよう)な僻地へ足を運んでいただける事は、至上の喜びにございますわ」

「まあ、堅苦しくしないで頂戴な。今回の訪問は私的なもので、畏る必要は無いのよ」

「それではお言葉に甘えまして、早速中へご案内致しますわ」


 何だか、随分と王妃様の機嫌が良い様だ。

 騎士の方は護衛と思われるが、学者っぽい格好の女性はお付きなのだろうか?

 先程から目を見開いて此方を……もっと言えば肩に乗ってるスーを見ているような気がする。

 失礼かと思ったが、女性の魔力量を見せて貰おうと目に魔力を込める。

 魔具の製作をしている際に、込めた魔力を見ようと試していたらできてしまったもので、人も確認できる事が判明したのだ。

 見た結果、私を除いてこの中では一番多い様だ——


 場所は移って、何故か私の部屋である。

 騎士の2人は先に客室へ行っているが、王妃様と学者っぽい女性は一緒に居る。

 父は(てい)良く排除されてしまった。


「可愛らしい部屋ね」

「…ありがとう存じます」

「もう、堅苦しくしないでって言ったのに」

「……最低限はと思いまして」

「良いのよ、私と貴女の仲じゃない」

「………」


 いえ、良くて知り合いですと言いそうになったのを我慢し、愛想笑いをしておく。

 丁度その時、庭で遊んでいたルーが窓から入って来て私の頭の上に乗った。

 スーは常に私と一緒に居るのだが、ルーは結構自由にしている事が多い。それでも一緒に居る時間の方が多いので、あまり気にしてはいない。


「え?…2匹も?」


 やはり見えている様で、入って来たルーに反応して思わず声が出ている。

 本人に自覚は無い様だが、王妃様にも聞こえていた。


「リズィ、どうしたの?」


 学者っぽい格好の女性はリズィと言うらしい


「あ、いえ、それが……その…」

「…居るの?」

「…はい」


 何となく、申し訳無さそうに私を見るリズィさん。

 私としては隠す気も無く、見えない相手に説明するのが面倒だから言っていないだけに過ぎない。

 リズィさんの態度に首を傾げていると、王妃様から声を掛けられる。


「ねぇ、ユリア…貴女は以前、スィールには目に見えないものは説明できないと言ってたわね」

「…はい」

「私は心当たりがあったのよ。だからリズィを連れて来たの。リズィは魔学技工士の長で、王都で一番魔力量が多いの」

「リズィと申します。宜しくお願いしますね、ユリア様」

「あ、はい…ルベール家長女、ユリアと申します。宜しくお願いします」

「あら?驚かないのね」

「…顔に出さない様努めていますので」


 実際役職に関しては結構驚いている。

 長が簡単に王都から出て良いのか、といった疑問もあるが、王妃様が居るので今更かもしれない。


「それでね、もう察してると思うけれど、あの時の事を話して欲しいの。良いかしら?」


 良い笑顔で聞いてくるが、拒否権は無さそうだ。


「…わかりました」

「心配しなくても、他言はしないしさせないわ」


 その辺は気にしていないが、困るわけでも無いので放っておこう。


「リズィさんには見えてる様ですが、今私の頭の上に乗ってる子がスィール殿下の植物園に居たのです」

「?…ああ、木陰に移動してた時の事ね」

「はい、スーが……元から一緒に居た精霊の子が気付いて教えてくれたんです」

「……それで、魔法を使ってたのは?」

「あれは魔法では無く、魔力を渡したのです」

「え?…魔力の譲渡はできない筈」

「できないんですか?」


 リズィさんが呟いたので、思わず聞き返してしまった


「どういう事?リズィ」

「あ、はい。魔力は個人差があり、他人の魔力の干渉を受けると反発します。そして、生き物には程度の差はあれ必ず魔力を持っていますので、魔力の譲渡は不可能な筈なのです」

「?…精霊は魔力を糧にすると聞いたのですが、それが理由ではないですか?」

「それは無いです。最近の研究で、自ら取り込む時には変質させる事が判明していますので、他者からの譲渡では変わらず反発するのです」

「そうなのですね…」


 今まで特にそういった事は無かったので、気にした事も無かった。


「あら?ならユリアは、唯一魔力譲渡ができるのね」

「…人に試した事はありませんので、何とも言えません」

「なら試してみましょう」

「いえ、危険かもしれませんので」


 嬉々としてそう言われるが、私としては嫌な予感しかしないのでやりたくは無い。


「リズィ、貴女も知りたいわよね?」

「はい!是非とも知りたいですね。実際に体験すれば未知な部分が見えてくるかもしれませんので」

「…わかりました。ですが、譲渡するのでしたら魔力量を減らさないといけませんよ」

「そうですね……何か魔具はありますか?」

「えっと、少々お待ちください」


 部屋に置いてある自作の魔具を、棚から3つ取り出してテーブルに並べた。


「…見た事の無い物ばかりですね」

「此方はランタンと言いまして、一定の範囲を照らす事ができる魔具です。魔力を貯蔵して使用する物で、最大で2日照らし続ける事が可能です」

「?…照明で十分では?」

「これの利点は、小さく持ち運び易くて野外で使用できる事にあります」

「野外で……成る程」


 このランタンは、山を散策する為に最近作った物である。


「空にしてありますので、全量込められます」

「あ、はい」

「それから此方がヘアアイロンと言いまして、髪をストレートにしたり、カールさせたりする魔具です。魔力を込めると、この髪を挟む部分だけ発熱します。髪型のセットに使用する物です」

「?…発熱と髪型のセットにどう関係が?」

「髪は熱で変形し易くなり、冷めると変形し難くなります。後は水分量も関係ありますが、今は置いておきましょう。つまり髪を挟んで熱を加える事で、髪型を変え易くなり、そのまま冷まして維持させるのです」

「あらそうなの?私も欲しいわ。これはどちらで手に入るのかしら?」


 今まで黙って聞いていた王妃様が、話に入って来た。


「私の商会で今後売り出す予定です。宜しければお一つ試供品として如何でしょうか?」

「まあ!良いの?…ではいただこうかしら」

「では帰りに包ませますので」

「あら、ありがとう。ユリアのその髪型もこれでやったのかしら?」

「はい」


 私の最近の髪型は、所謂ゆるふわウェーブで、セミロングの途中から毛先を少しカールさせている。


「使う時に私の髪も同じ様にして欲しいわ」

「畏まりました」

「では最後に…こちらは簡易防音結界装置です。名前の通り、防音の結界を構築する持ち運び可能な魔具です」

「…結界とは何でしょうか?」

「簡単に説明しますと、一定区域を限る事を言いまして、この魔具の場合は音を一定範囲外に出さない様にしています」

「……音が?」

「はい。ですので、内緒話等をなさる時に使用する物です。欠点は、範囲外からの音も入って来ない事でしょうか」

「………」

「リズィ様?」

「あぁ、失礼しました。その…この魔具も商会で?」

「はい。今後扱う予定です」


 それを聞いたリズィさんは、真剣な表情になり考え始めた。


「ねぇ、ユリア」

「?…はい」

「それの持続時間はどの程度なの?」

「魔力を(そそ)ぎ続けている間はずっとですが、止めると瞬時に効果も無くなります。それに、使用中に動くと強制解除されます」

「…その仕様は(わざ)とかしら?」

「はい。勿論です」


 質問の意図は理解できたので、安心してもらう様笑顔で答える。

 恐らく暗殺に利用されないかの確認だろう。

 魔力を溜めた状態での使用や、動きながらでも使用可能であれば暗殺が容易になるが、その場で自身の魔力を消費する上、動けば解除されるのならば利用し辛いだろう。


「では、順番に使用させていただきます」

「どうぞ」


 リズィさんに先ずランタンを渡す。

 魔力を込め始め、1分程度で充填しきった様だ。

 目に魔力を込めてリズィさんの残存魔力量を確認すると、1割程度の消費だった。


「次をどうぞ」


 つぎにヘアアイロンを手渡す。


「使い方の説明を致しますね。魔力を込めて少しすると、この挟む部分の内側が発熱します。その部分に手を(かざ)し、ほんのり熱くなりましたら使用可能となります。後は髪を挟んで伸ばせばストレートに、少し捻れば私の毛先の様になります」

「な…成る程」


 リズィさんは自身の髪で試した後、王妃様の髪を整え始めた。

 すぐに慣れたのか、思ったより早く終わってしまったので、魔力消費は2割に届いていない。


「最後ですね。魔力消費が増える様に範囲の設定を弄りました」

「因みに何処までが範囲になるのですか?」

「今の設定は、この部屋と同じくらいですね」

「そんなに……では使います」


 リズィさんは魔具を手に取り、魔力を込める。

 魔力量の観察をしていると、割とすぐに3割程度の消費が確認できた。

 このくらいであれば、魔力の譲渡ができたかどうかの確認は容易いだろう。


「もう大丈夫ですよ」

「え?ですがまだ余裕がありますが」

「いえ、3割程消費してますので、確認には十分かと」

「あら?ユリアは魔力量もわかるの?」

(あー………)


 早く終わらせたくて、つい余計な事まで喋ってしまった様だ。


「ふふっ、魔力譲渡を試してみましょうか」

「…そう…ですね」


 王妃様の質問は笑顔で誤魔化し、リズィさんにさっさとやりましょうと話し掛ける。

 心無しか、リズィさんの顔が引き攣っている気がする。


「ではお手を拝借しますね」

「は、はい…どうぞ」


 リズィさんの両手を握り、手に魔力を集中してみる。

 確かに魔力を込め難いが、入らない訳では無い。

 イメージを混ぜ込む感じに変えて再度試してみると、リズィさんの魔力に私の魔力が混ざりながら入って行った。

 あまり時間を掛ける事無く、リズィさんの魔力量は元に戻った。


「終わりましたよ」

「……………」

「…リズィ様?」

「あ、はい」


 心無しか、リズィさんの顔がぼんやりしている気がする。


「…ユリア様!」

「?…はい」


 私の両手をガッシリ掴まれてしまった


「魔学技工士になりませんか!!?」

「え!?」

「是非とも!」

「いえ、その…私はまだ学院にも行ってませんし…」

「では、卒院したらで構いませんので!!」

「えっと、その……」

「リズィ、その辺にしておきなさいな。ユリアが困ってるわよ」

「っ!!…し、失礼しました!」


 王妃様のフォローで、漸く手を離してくれたリズィさん。

 何故そんなに熱くなっているのかはわからないが、魔学技工士になる気は今の所無い。


「兎も角、これでユリアが唯一魔力を譲渡できる事が証明されたわね」

「唯一かはさて置いて、精霊に魔力を渡した件は納得していただけましたでしょうか?」

「あら、忘れていたわ」


 王妃様は、微笑みながらあっけらかんと言い放つ。

 元々は植物園での疑い?を晴らす為に始めた事だというのに、途中から目的が変わっていた様だ。


「さて、目的の一つは済んだから、今日はこの辺にしておきましょうか」

「では使用人を呼びますね」


 呼び鈴を鳴らし、外で待機していた使用人が入って来る。

 すぐに部屋の案内と世話をする人選——王妃様が選んだ——をし、この場は解散となった。


「…疲れたわ」

「お疲れ様でございます。ユリア様」

(そう言えば、目的の一つって言ってたけれど、他にもあるの?)


 リンに着替えをして貰いながら、軽く愚痴を聞いてもらうのであった………

ブクマとポイント評価ありがとうございます。

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