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自由に生きたい貴族令嬢(♂)の奮闘  作者: φ
旅気分で冒険者編
145/151

緊急依頼


「ギルドマスターのアルカスだ。さて、早速だが話を聞こうか」


 今私は、冒険家ギルドのギルドマスターと対面している。

 冒険家ギルドに戻り、適性試験の結果をダスティンが報告してくるという話だったので待っていた。その時に、オーガの出現やゴブリンの大量発生の事も一緒に報告したようで、ギルド内で待っていた私も呼び出される運びとなった。

 勿論、現場に居たダスティンも同席しており、私の隣に座っている。


「森の入口で―――」


 先ずはダスティンからの状況説明が始まる。私は新参者で、普段の森の状態を知らないからだ。

 ダスティンは、自身が体験した事を最初から事細かに話している。私が目の前で消えた事や、オーガを一撃で斃した事も含めて。

 死にかけたとか余裕が無かったとか言ってる割には、かなり細かい事迄覚えている。


「――ってな訳で、この新人の嬢ちゃんは俺が窮地に陥った原因でありながら、命の恩人でもあるのさ」

「ふむ……」


 ギルドマスターは頷いてはいるものの、その実半信半疑っぽい。

 まあ、気持ちは解らなくも無いので別に構わないのだが、其れは其れとして……。


「原因って言い方は不服なんだけれど?」

「いやいや、どう考えても原因だろうが。透明化だか何だか知らんが、あんな実力があるんならそのまま森に入りゃあ良かっただろう。せめて、事前に教えといてくれても良かったんじゃないか?」

「事前に説明して、貴方は信じたの?」

「そりゃあ……まあ、難しいだろうが…少なくとも目撃した時に取り乱す事は無かったな」

「あら、取り乱したの?」


 話しぶりからは、とてもそうとは思えなかった。


「……焦ったのは確かだ」


 少し言い淀むダスティン。


「あー…ダスティンが取り乱したか焦ったかはどっちでも良いんだが、ちょっと確認したい事がある」

「何だ?」

「何でしょう?」

「試しの森にオーガが居たのは間違い無いんだな?」

「ああ…実際に戦ったからな、間違いようが無い」

「その時点で大問題なんだが、まあ…良い。んで、其れを隣に座る新人が斃したと?」

「そうだ。其れと、ただ斃したんじゃ無いぞ。…一撃だ。鉄並みに硬いと言われるオーガの皮膚だが、其れをたったの一撃で首を撥ねたんだ」


 この目で見たのに信じられなかったぜ…とダスティンは続ける。


「………正直、信じられんな。だが、ダスティンが見たと言うのなら事実なんだろう」

「ギルド長の気持ちは解るがな……。ああそうだ、死体は持ち帰ってるぞ」


 そうなのだ。

 ダスティンがオーガの討伐証明―――牙や角―――を切り取って持ち帰ろうとしていたので、手伝うと申し出た。その時、素材になるのは何処の部位かと尋ねると、ほぼ全身が何かしらの素材になるという話だったので、適当に切り分けてからマジックバッグに見せかけた亜空間へ全身を収納している。


「何?…しかし、其れなら何故騒ぎになっていない?」

「未だ提出していないからな」

「ああ、討伐証明部位だけ持ち帰ったのか」


 しかしそんな事を知らないギルドマスターは、其れらしい物を持っていない私達を見て討伐証明部位だけだと思ったようだ。


「いや、全身だ。持ち運び易くする為に、切り分けちゃあいるがな」

「……………」


 絶句するギルドマスター。


「後で解体所に持ち込むから確認しろよ。其れより、ゴブリンの大量発生とこの嬢ちゃんの事だ」

「……そうだな、そっちは既に緊急依頼を出す手筈になっている。原因を探る必要もあるが、所詮はゴブリンだからな。人手さえ集めれば何とかなるだろう」

「早いな」

「そりゃ此れでもギルドマスターだからな。異常時の対応ができなきゃ、勤まんねぇよ」


 緊急依頼と言いながらも慌てていない。経験則から来る余裕なのかもしれないが、既に解決したような雰囲気なのは何故なのだろうか?

 魔物がゴブリンだけならその通りなのかもしれないが、ダスティンの話を聞くにオーガは厄介な魔物であった筈。2人の会話は、そのオーガが考慮されていないように感じる。


「あの……」

「ん?どうした」

「オーガが他にも居る可能性は考えないのですか?」

「ああ、その事か。結論から言えば限りなく低いな。普通なら、オーガはゴブリンと同じで数匹一組で行動するんだが、偶に今回みたいなはぐれが出るんだ。その場合、近くに他のオーガは居ない」

「そうですか」


 理由は不明だが、はぐれの魔物は必ず単独行動をしており、同種の魔物は同じエリアに居ないのが常らしい。


「ゴブリンの方は手を回してるんならもう良いが、この嬢ちゃんはどうする。俺としちゃあ、鉄級じゃなく銅級スタートのクラスAが妥当だと思うが」


 ダスティンから知らない単語が出てきた。


「……クラスとは?」

「何だ、職員から聞いていないのか?」

「説明には無かったと思います」


 物腰柔らかで、丁寧な対応をしてくれていたが、説明されていない筈。

 と、その時の事を思い返していると、ダスティンが教えてくれた。


「そりゃ適性試験が終わってからの話だからな、説明を受けてなくて当然だろ。嬢ちゃん、クラスってのが適性の事さ」

「あん?そうだったか……。まあ良い、クラスAだったな。オーガを斃せるんなら戦闘能力は問題無いだろうが、索敵とかはどうなんだ?」

「確か嬢ちゃん、オーガの所迄は真直ぐ来たんだったよな。どうやって場所が判ったんだ?」

「森の中心部に行く途中で、ゴブリンとは違う気配を感じたから覚えてたんです。だから、魔力茸の採取が終わってから見に行きました」

「見に……?」


 ギルドマスターは信じられないものを見る目を私に向けてくる。

 その視線は心外だ。

 私は見に行った理由を話す。


「ダスティンさんからは初心者向けの森だと聞いてたので、その時は危険な魔物は棲息していないと思ってましたから。恐らくは森で一番強いであろう気配を放つ存在を見ておきたかったんですよ」

「……言いたい事はあるが、斃した事実がある以上は何も言えんな」

「あー…嬢ちゃん。俺の事は呼び捨てで構わんぞ。あと、口調もな」

「そう?…じゃあ遠慮無く」

「兎も角、索敵能力は十分以上だな。なら、補助や隠密はどうだ?」

「ゴブリンの群れに気付かれず森の中心部に行けたんだ。隠密は言うまでも無いだろうよ。補助は…どうなんだ?」


 ダスティンは私に聞いてくるが、どうなんだと言われても困る。


「補助と言われても、どういった行為を指すのかを教えて貰わないと答えようが無いですよ?」

「ああ、其れもそうか。そうだな、例えば……仲間の動きを助ける魔法とか、逆に敵の行動を阻害するような魔法は使えるか?」

「負荷を軽減したり、足場を弄ったり、拘束したりって事ですか?」

「ああ、まあ…負荷の軽減ってのは初めて聞いたが、そういう感じだな」

「ならできますね」

「そうか、ならクラスAでも問題は無いな」


 あっさりと納得するギルドマスター。

 其れで良いのだろうか?


「確認はしないんですか?」

「なに、緊急依頼もあるからな。ついでと言っちゃあ何だが、ダスティンと行動して貰うからそっちで確認してもらう。時間が惜しいって理由もあるしな」

「そうですか」

「そういう訳で、今の話からも解るだろうが緊急依頼は2人にも参加してもらう」

「ゴブリンの討伐ですか?」

「いや、そっちは普通の冒険者でどうとでもなる」

普通の(・・・)……?)


 私は普通じゃないとでも……?


「こういった大量発生の場合、上位種が出現している事が多い。だからお前達には、試しの森の奥へ向かって欲しい」

「調査ってとこか……」

「そうだ。オーガが居た所為で奥から出てこなかっただけで、居る可能性は高いと見ている。将軍級(ジェネラルクラス)ならば兎も角、王級(キングクラス)が居たら厄介だ。戦闘力はオーガの方が上だが、統率能力だけで言えば単体のオーガよりも脅威だからな」

「なら、俺達は隠密行動で巣のある場所へ確認しに行くのが仕事だな」

「ああ……。なあ、ダスティン」

「何だ?」

「お前の目から見て、その新人…ユリアと言ったか、ユリアはキングにも勝てると思うか?」


 不安そうな表情で私に目を向けるギルドマスター。

 其れに対し、ダスティンは自信満々で答える。


「勝てるだろうな」

「…即答だな」

「当然だ。正直、オーガの時も何をやったのかがさっぱり解んなかったからな。ギルド長の言うように、単体の戦闘力はオーガの方が上だ。ゴブリンキングが居たとして、取り巻きに邪魔されなければ余裕だろうよ」

「それ程か……」

「まあ、結果で示すさ」

「そうだな、頼む」


 私はどういう表情(かお)で居れば良いんだろうか……。本人の居る所でする会話じゃ無いでしょうに。其れに、どうしてダスティンが得意気なのだろうか。

 居たたまれず、話に割って入る。


「其れで、何時から行動すれば良いんですか?」

「明日だな。目的は別でも、最初の行動は他の冒険者と足並みを揃えて欲しい。ゴブリンの討伐を始めるタイミングで奥へ向かえば、幾らか誘い出せるからその分移動も楽だろう」

「そうですか……」

「…不満か?」


 おっと、私の返事が不満を持っている様に聞こえたらしい。


「ああいえ、冒険者になって最初の依頼が緊急依頼かと思いまして」

「あー…確かに珍しいが、相応の実力があると認められたのだと前向きに捉えてくれ」


 どういう事かと思えば、新人は緊急依頼から外されるのが普通なのだそうだ。

 実力的な意味もあるが、経験が浅く連携が取れないというのが主な理由らしい。


「ま、嬢ちゃんくらいになると、連携は考える必要も無いがな」

「そうだな、オーガを単体で斃せる冒険者はそう多くない。そういった意味で言えば、お前さんが冒険者登録に来たタイミングは、うちにとっちゃあ丁度良かったとも言える」


 この街の戦力でも、オーガは斃せる。けれど、何の準備も無しに討伐はできない。

 今回も、最初に遭遇したのがダスティンだったから良かったものの、オーガは普通なら遭遇すれば死を覚悟するような存在らしい。



「――此方が情報登録の終わったギルドカードとなります。紛失した場合、初回だけ無料で再発行致しますが、2回目以降は銀貨3枚が必要となりますのでご注意ください」

「ありがとうございます」


 報告も終わり、適性試験の結果も出た事で無事冒険者登録が完了した。

 貰ったギルドカードには、名前の他に“銅級”や“クラスA”と記載されている。備考欄には“新人へ対する制限無効”とあった。いや、無効て……。

 等級によってカード枠の色が変わるらしく、銅級は橙色。

 ギルドカードを受け取った私は、外で待っていたダスティンと合流した。


「おう、誰かしら絡んでこなかったか?」

「?……いいえ。ずっと探るような視線は感じていたけれど、絡んでくるような人は居なかったわ」

「そりゃ良かった。一応した忠告、ちゃんと聞いてたみたいだな」


 どうやらダスティンが気を回してくれていたらしい。

 普段であれば、お調子者の冒険者が必ず新人に絡むのだとか。と言っても、どんな奴なのかという好奇心からの絡みらしいので、いちゃもんを付けるような絡み方では無いそうだ。……まあ、其れでも不快だと感じる人が居るのは確かだし、間違い無く私も不快に思うだろう。


「んじゃ行くか。美味い飯屋だから、期待しな」

「其れは楽しみね」


 明日の打ち合わせを兼ねて、オーガから助けたお礼にと食事に誘われていた。

 純粋にお礼の面が強いっぽかったので、私は誘いを受ける事にしたのだ。

 歩いて数分、冒険家ギルドからそう離れていない場所にある宿屋に到着した。


「……宿屋?」

「兼、食事処だよ。宿泊客の評判も良いから、当たりの宿屋だぜ。嬢ちゃんも今の宿屋が何処かは知らんが、食事が気に入ったらこっちに移るか?知り合いだから口利きできると思うぞ」

「ありがとう。でも、今の宿屋に不満がある訳でも無いから移るのは止めとく」

「そうか」


 中に入ると、1階が全部食堂になっていた。

 かなり賑わっており、あちらこちらで楽しそうな笑い声が聞こえる。

 空いてる席に座り、手慣れた様子で注文をするダスティン。私の分はお任せした。


「其れで、明日の作戦なんだが……」

「何か案があるの?」

「ある。だが、その前に確認しておきたい」


 そう言ったダスティンは周囲をチラッと見遣り、声量を落として続ける。


「あの透明化とか言う魔法、俺にも掛けれんのか?」

「?……ええ、私の近くに居る必要があるけれど」

「つーと、別行動は無理って事だな」

「そうね。あの魔法は、光の屈折を利用したものだもの」

「光の…何だって?」


 困惑顔になるダスティン。

 まあ、急に光の屈折とか言われても困るだろう。


「細かい事象を省いて簡単に説明すると、私達が目で見ているのは光が物質を反射した情報(もの)なの。だから私は、その光が私という情報を反射しないように魔法で透過させているって訳」

「あー……ちょっとよく解んねぇが、つまりは嬢ちゃんが視認できる範囲に居ないとダメっつう事だな」


 ダスティンは自分なりに解釈したようだ。


「其れもそうなのだけれど、より厳密に言うと違和感を極力無くす為ね」

「………?」

「自分自身にだけ使うと、動く時に大変なの。だから、私の周囲を纏めて透過させてるのだけれど、その場合、開けた場所以外だと違和感を与えてしまうのよ」


 透明化はそも、周囲の情報を目だけに頼っている生物の場合はあまり心配無いが、嗅覚や音波等で周囲の存在を捉えている生物には意味が無かったりする。まあ、その場合は予め判っていれば別の対処をするだけなのだが……。

 そして、私の周囲を一緒に透過させているので、何かしらの物質がその範囲内にある場合には意図せず透過させてしまう事になる。だから範囲に入ったり出たりする度に、その物質は消えて現れてと可笑しな事になる。

 森の中で言えば、木や草花等が其れに該当する。


「って事はよ、厳密には無理なんじゃ無くてそうしたくないっつー事か?」

「そうね」

「成程な……。まあ、別行動は緊急時に可能性があるってだけだから別に良いが、具体的にどのくらい近付きゃあ良いんだ?」

「手の届く範囲に居れば十分よ」

「そうか、なら話は簡単だ。最初に他の冒険者と一緒に森に入る訳だが、その時俺達は戦闘に加わる必要は無え。つーか、陽動も兼ねてるから寧ろ参加しちゃいけねぇな」


 森の浅い部分でゴブリンを釣り出す予定らしく、その間に私達は森の奥地にある巣へと侵入するそうだ。ただ、ゴブリンの数からすると巣と言うよりは集落の規模になっていても可笑しくは無いらしい。なので、その規模を確認するついでに頭が誰―――どの種―――なのかも見ておく……と。


「つまり、確認さえできれば引き上げるって事?」

「まあ最低限はな。ギルド長は、可能なら斃して欲しそうだったが……」


 難しいだろうな…と続けるダスティン。

 ……何故?


「なら斃せば良いじゃない」

「そんな簡単な……いや、簡単なのか?」


 何か引っ掛かる事でもあるのだろうか?


「ダスティンもさっきは余裕みたいな事を言ってたじゃない」

「そりゃ1対1ならな。だが、明日はゴブリンの巣―――――恐らくは集落に突っ込むんだぞ?ジェネラルかキングが居るとして、必ずその取り巻きは居るし、其れ以外のゴブリンも多い筈だ。オーガの時のような不意打ちは、先ず無理だと思った方が良い」

「?……首を撥ねるのは、不意打ちであろうが無かろうが関係無くない?」

「あん?何言ってんだ??詠唱の時間を稼がなきゃならんだろうが。相手が1体なら兎も角、複数の相手を俺1人で時間稼ぎすんのは至難の業だぜ?」

「え?……ああ、私は魔法を行使する際に詠唱しないわよ」


 何か話が噛み合わないと思ったら、私が魔法を行使する為の時間を気にしていたようだ。

 そりゃあ魔法に関しては透明化の事以外何も説明していないのだから、前提条件の認識が違う事に気付かなくても仕方が無い。


「………は?」

「其れに、オーガの首を撥ねた魔法なら出会い頭にでもすぐ放てるし」

「……………」


 ダスティンは、目頭を手で揉み解しながら上を向いた。

 と、注文した料理が運ばれてくる。


「お待たせしましたー」

「ありがとう」

「いえいえ、ではごゆっくり~」


 ダスティンは未だに戻ってこないので、先に料理を頂く。

 先ずは、この街の特産を使っているらしいスープから。

 灰汁取りが少々雑なのか、美味しさの中に雑味を感じる。香りで想像はしていたが、塩味だけでなく香辛料も使われているようだ。

 この国にも、しっかりと香辛料が広まっているようで何よりだ。

 次いで、肉料理。

 見た目からだと、焼いているのか煮ているのかの判断が難しい。一口食べると、此方も香辛料を使っているようで臭みが無い。甘辛い味付けで、特にクセも無く食べ易くて美味しい。


「……っておい、遠慮無く食べ始めるとか嬢ちゃん結構豪胆だな」


 私が完全にスルーして食べ始めたからか、ダスティンがちょっと哀しそうだ。


「あら?心外ね」

「いやいやいや…ちょっとは心配してくれても良いだろう?こっちは頭の痛い思いをしてるっつーのに」

「その必要性は感じないし、何を悩む必要があるのか理解できないもの」

「はあ…そうかよ」

「別に悪い報せじゃ無いでしょうに」

「別の意味で頭が痛いんだよ。……つーか、嬢ちゃんいったい何処から来たんだ?そんなとんでもない人物の話なんざ噂でも聞いた事無ぇぞ?」

「遠い国よ」

「……訳アリか?」

「と言うよりも、目的があって来たのよ」


 一応、名目的にはテュールに頼まれたから。

 そのついでに私の好奇心を満たしているだけ。


「目的の内容は……まあ、今は別にいいか。取り敢えずは明日の作戦だ。さっきの話通りなら、遠慮する事も無いし殲滅する方向で考えるか」


 考えると言いつつ、思考放棄している様にも見える。

 突っ込むのも気が引けるので、そのまま話を続ける。


「捕らわれてる人とかって居るの?」

「さあな。この街で行方不明になったっつー話も聞かないし、ゴブリンの大量発生についても俺等が発見者だからな。少なくとも、こっちの被害者は居ねえだろうさ。つっても、向こうはどうだろうな……」

「向こう?」

「試しの森の付近には、この街の他にもう1つ村があんだよ。そっちは交流も少ねぇからなぁ……」


 情報が全然入って来ないらしい。


「まあでも、その村には森人も住んでるっつー話だし、多分大丈夫だろ。其れに、潜入した時に確認すれば済む話だしな」

「そうね」


 人と魔物は気配が違う。なので、紛れていたらすぐに判る。


「俺はクラスBだからな、戦闘以外は嬢ちゃんに頼る事になる」

「そう言えば……」

「ん?何だ」

「クラスのAとかBって結局何なの?」

「あん?ギルドカードを受け取る時に説明されなかったのか?」

「されてない」

「そんな筈は…あっ……」


 ダスティンには思い当たる節があるらしい。


「何?」

「ああいや…多分だがギルド長直々に面会した後の発行だったから、説明は全部済んでると思ったのかもしれんな。つっても、確認くらいはするべきなんだが……」

「そうね、其れで?」

「何の適性かを表してんだ……っつうのはギルド長との会話で説明したな。種類の事なら、俺の場合はBで“戦闘特化”だ。嬢ちゃんの場合はAで“万能”だな。他にも、Sの“索敵特化”とかもあんぞ。記号そのものの意味迄は知らんが、冒険家ギルド創立者が定めたらしい」

(頭文字だとすると、Bは…バトル?くらいしか思いつかないな。じゃあAはオールラウンダー…いや、万能って事はオールマイティかな。とするとSは…サーチ?)

「そう、教えてくれてありがとう」

「お、おう……」

「何?」

「いや、こんなんで礼を言われるとは思わなかったもんでな」

「そう?…ちょっとした事でも、感謝の言葉はきちんと言わないと伝わらないでしょう」

「……やっぱ嬢ちゃん、良いとこの出だろう」

「黙秘するわ」

「まあ、聞くなと言うなら聞かねぇけどよ」


 引き際は心得てるとばかりに言うダスティンは、そのドヤ顔がちょっとだけウザかった。



 話が終わって食事を続けていると、ふと思い出したかのようにダスティンが口を開く。


「そういや、オーガは買い取ってもらったのか?」

「……あっ」

「忘れてたのか……。この後もう1回ギルドに行って、買い取ってもらえよ。明日は忙しくなるから待ちも長くなんぞ」

「……そうする」


ブクマと評価、ありがとうございます。


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