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自由に生きたい貴族令嬢(♂)の奮闘  作者: φ
旅気分で冒険者編
144/151

適性試験

 遅い時間だったのにも拘らず、無事街に滞在中の宿を確保できた。

 帰る必要が無くなった事でできた時間を利用し、ドロップ品の確認をする事に。

 道中の雑魚は避けていたからか、ドロップ品の数はそんなに多く無かった。殆どが武具の製作素材で、そのまま使えるのは骸骨のボスドロップだった斧と鎧だけ。他に、冒険家ギルドのボードに貼ってあった納品依頼の素材も幾つかあった。

 自分で使えそうな物は薬の材料くらいなので、他は冒険者登録が済んだら買取をお願いしようと思う。

 次のダンジョンでは、普通に攻略したい。

 個人的に、あの町でのダンジョンは手段を選ばず力押しで進んだ事もあって、ダンジョン攻略(・・)と認めたくは無い。

 何と言うかこう……“ぼくのかんがえたさいきょうの○○”みたいな感じで、現実的じゃない。自分でやっておいて何を言ってるんだと思われるかもしれないが、そう思うのだから仕方が無い。



 そして翌日、適性試験を受ける為に再度冒険家ギルドへと来ていた。


「よお、お前さんが適性試験を受ける新人だろ?」


 待合室に案内され、待つ事数分程。

 バートンと同じくらいの年齢に見える男性が現れた。背中には身長ほどの大剣を背負い、防具は革に一部金属が使ってある。


「そうです」

「俺は試験官を勤めるダスティンだ、宜しく」

「ユリアです、宜しくお願いします」

「んじゃ、早速行くか」

「あの、試験の内容を知らないのですが……」

「ああ、移動中に説明するから安心しな。流石に何の説明も無く始める程、鬼畜じゃあ無いさ」

「そうですか」


 馬車を手配しているらしく、目的地迄は馬車で行く事に。

 道すがら、適性試験とやらの説明を受ける。


 試験を行うのは森の中で、目的は素材採取だそうだ。何の素材かは毎回試験官が決めている。

 そして、初心者向けの森ではあるものの、数種類の魔物が棲息している。戦闘を行うも良し、戦闘を避けるも良し、その辺りは自分の能力に見合った行動が取れれば良い。

 手段や時間に制限は無いものの、達成できなかった場合には冒険者としての活動に制限が付く事もある。この制限は、無理をされては誰にとっても不利益となるから。


「んで、今回採取する素材は魔力茸。数はまあ…10もありゃ良いか。森の中心部にあるから、ほぼ確実に魔物に遭遇する」

「確認ですが、ダスティンさんも森の中に?」

「当然入るさ。だが、一応邪魔にならないよう離れておくから、気にするな」

「ではもう1つ。ダスティンさんが私を見失った場合、試験はどうなりますか?」

「ん?…見失うとは思わんが……まあ、万が一にもそうなった場合、其れも含めた評価を下す事になるな」


 別に挑発したかった訳では無いが、言葉を選ばなかったら挑発した感じになってしまった。そんな私の言葉に訝し気な表情をしつつも、真面目に答えてくれるダスティン。

 私としては、見ていても理解できない行動をするつもりなので、予防線を張っただけの事。

 ただ、見失った際の評価がどうなるのかが想像付かない。大丈夫だろうか……。


「一応聞くが、俺から逃げる気じゃ無いよな?」

「そんな訳無いじゃないですか」


 私は冒険者になるにあたり、透明化とマジックバッグ―――に見せかけた亜空間の使用―――を隠すつもりは無い。

 理由は単純で、透明化が知られていれば、万が一転移した瞬間を人に見られても何とかなるかもしれないから。透明化して何処かへ行った、或いは現れたと勘違いしてくれるかもしれないからだ。

 マジックバッグに関しても、持ち運びであれこれ考えて苦労したくないから。

 要するに、この適性試験で透明化を見せるつもりなのだ。


「まあ、見ていれば解ると思いますよ」

「……そうか」


 多くは語らない。

 格好付けているのでは無く、先に説明するのが面倒だからである。

 百聞は一見に如かずと言うように、実際に見た方が早い。其れに、口だけの説明は難しい上、信じてもらえない気がする。

 説明が終わる頃、計ったかのように目的地である森へ到着した。


「此処が適性試験を行う森―――――試しの森だ」

「其れは……適性()験を行う森だからですか?」

「いや、よく聞かれるが違う。一説によると、名付けた者がこの森で色々な実験を行っていたとか何とか……」

(諸説ありってやつですか……)


 よくある真相は誰も知らないってやつなのだろう。


「まあ…其れは置いといて、始めるか」

「では、また後程」

「あん?何言って―――――は?」


 開始すると聞いた私は、早速透明化してから森へ入る。

 後ろで何やら騒いでいる声が聞こえるが、無視して進む。どうせ後で説明するのだから、今相手をする必要は無い。


 森の中は、想像していたよりも光が差し込み暗くない。

 私は他人(ひと)から見られないのを良い事に、スーに乗って移動している。

 ちらほらと人の出入りした痕跡を見掛けるのだが……。


(初心者向けと言う割には、魔物の気配が結構多いんだけれど……?)


 ダスティンの説明からすると、魔物とは戦っても戦わなくても良いという感じだった。しかし、魔物の気配を探ったところ、10や20程度では無い。

 此れだと、魔物を避けて行くのは普通なら無理だ。

 幸いなのは、気配に敏感な種が居ないようで私に気が付いていない。都合が良いと、私は視界に入った魔物を確認する。


(おお、ゴブリンだ!初めて見た!!)


 此れ迄見てきた魔物は、見知っている動物が大きくなっただけであったり、角が生えるなどの部分的な変化をしていた程度で、新鮮味が薄かった。

 勿論、ドラゴン種を見た時は心躍ったが、ダンジョンを急ぎで進んでいた所為で浸る時間が無かった。

 という訳で、こうしてゴブリンのような如何にもなファンタジーしている存在を見た私は、テンションが爆上がりしていた。

 ゴブリンは纏まって行動しているらしく、少なくて3匹、多くて5匹一組となって徘徊している。


(斃した方が良いんだろうけれど、先に目的である素材採取をしといた方が良いよね……)


 私は魔力茸がこの森でどのくらい自生しているのかを知らない。なので、先に必要数量確保し、時間に余裕があればゴブリン狩りをしてみる事にし、森の奥へと急いだ。





「あん?何言って―――――は?」


 ユリアが透明化し、姿を消したのを目撃したダスティンは困惑していた。目の前で起きた事が信じられず、理解する迄に時間を要した。

 少しの間呆けていたダスティンだったが、そんな場合じゃ無いと気が付き声を上げる。


「おい!嬢ちゃーん!!…ど、何処へ行った……?」


 適性試験を行っているのだから、森の中である事は解っている。しかし、離れた場所から見守るつもりだったのにも拘らず、その対象を見失う。かなりの失態だった。

 適性試験は、その名の通り新人の適性を見る為の試験である。

 なのに、試験官が確認する事も無く終わってしまうと、どういった手段・立ち回りで達成したのかを確認する事ができず、適性を判断できない。

 ダスティンは、ユリアが失敗するとは考えていない。

 冒険家ギルドで受付嬢と会話した内容に嘘偽り無く、ユリアの魔法の技量は高いと見ており、この森に棲息する魔物程度では万が一も無いと判断していた。

 魔力茸も、森の中心部にあるとは言ったが、その他には無いとは言っていない。中心部で発見し易く、10個くらいであれば同じ場所で採取できるというだけの事。

 だが、森の中心部へ向かう途中では、ほぼ確実に魔物に遭遇する。ダスティンはその時の立ち回りを見ておきたかった。


「考えても仕方が無いか……」


 こうしていても時間の無駄だと気を取り直し、ダスティンは森へ入る事に決めた。


「つっても、流石に真直ぐ行くわきゃ無ぇよな……」


 目的地は判っている。場所を指示したのはダスティン自身なのだから。

 しかし、だからと言ってどういったルートで行くのか迄は判らない。

 其れもその筈、ユリアとは初対面であり、この森に着く迄の短い時間会話しただけなのだから。


「……何で足跡も無ぇんだよ!?」


 ダスティンは気配を感じ取るのが苦手だ。しかし、足跡を始めとする痕跡の類を探すのはお手の物。だからユリアのものと思われる新しい足跡を探し、辿って追跡しようと考えていた。

 しかし、何処を見渡しても―――ユリアが元居た場所から見ても―――真新しい足跡が見つからない。見つけたのは、動物や魔物が通ったと思われる痕跡のみ。


「あーくそ!なら、先に中心部に行って待つしか無ぇな」


 魔物と戦闘しつつ移動する場合と避けて移動する場合、普通ならば掛かる時間に差が出るものだ。

 どちらがどうかは状況や魔物の種類にもよるので断言はできないが、この森に限定するのならば戦闘して進む方がダスティンにとっては早い。

 なので、ダスティンは森の中心部迄最短距離で突っ切る事にした。


 ダスティンが異変に気が付いたのは、森へ入ってすぐの事だった。


「あん?何でこんな浅い所にゴブリンが居やがんだ?」


 ゴブリンは様々な場所に棲息する上、繁殖力も強い。この森でもよく目撃されるのだが、普段であればもっと奥……ダスティンが入った所から見て、森の中心よりも更に奥の方での話だ。

 だが今、森へ入って数分程度の場所でダスティンは遭遇した。こういった場合、大繁殖している可能性が大いにあり、早急に対処しなくてはならない。

 休憩中なのか、座り込んでいる目の前のゴブリン達は、未だダスティンに気付いていない。

 数は4匹、どれも武器らしき得物は持っていない。


「邪魔だあぁぁぁ!!」

「ギッ―――」


 ゴブリンに背後から接近しつつ背中の大剣を抜き、大声と共に勢い良く振り下ろす。大剣はゴブリンの脳天を捉え、ザシュッという音と共に両断する。他3匹は不意を突かれた事に驚き、次いで聞こえた仲間の断末魔に逃げ始める。


「追う……のは止めとくか」


 本来であれば、追いかけて巣の場所を確認したり、他の仲間を呼ばれないよう仕留めたりするのがセオリーである。だが、ダスティンはこの森に棲息するゴブリン程度ならば、何匹襲ってきても問題が無い実力を持っているという自負がある。

 其れに今は、新人の適性試験の真最中。

 先ずは合流……いや、発見しなければならない。

 ゴブリン程度にユリアが後れを取るとダスティンは思っていないが、森に異常が起きているとしたら少々マズい。想定外の事態も考えられる。

 瞬時に判断し、森の中心部への移動を継続するダスティン。普通のゴブリンは売値が付かないので、惜しむ気持ちは微塵も無い。討伐証明も今は要らない。

 そして、再度数分程度進んだ所でゴブリンに遭遇した。


「多いなおい!」


 愚痴りながらも、今度は抜きっぱなしであった大剣を横に振るい、5匹纏めて斬り捨てる。幾らゴブリンが軟らかいとは言え、纏めて斬る事ができるのはダスティンの膂力が並外れて強いからだ。

 その後も、少し歩けばゴブリンに遭遇するを繰り返す。

 その度に斬り捨て、逃げるゴブリンは追わなかった。

 そしてふと、当然の疑問がダスティンの頭を過ぎる。


「つーか、こんな状況であの嬢ちゃんはどうやって移動してんだよ……」


 最短で進んでこの遭遇率。

 森の中心部迄の道だけがこうだとダスティンには思えなかった。となると、ユリアの方はどうなのか?

 目の前で消えた事実は、既にダスティンの頭から抜け落ちていた。



 もう少しで中心部だという所で、ダスティンはまさかの魔物を発見する。


「――は?」

「グゥゥ……」


 人の倍以上はある筋骨隆々な体格、手には誰かから奪ったであろう武器―――――槍が握られており、特徴的な角や牙を持つ魔物……オーガ。

 本来、この森には存在しない中級上位の魔物だ。

 冒険者に等級があるように、魔物にも等級が存在する。冒険家ギルドが長年蓄積させた情報から定めたものなので、正確性は高い。

 魔物の場合、下級・中級・上級に分けられ、その中でも更に下位・中位・上位とあるので計9段階となっている。一部例外はあるが、其れこそ文献に残っているが目撃報告の無い存在なので、等級から外されている。対して冒険者の場合、鉄級・銅級・銀級・金級・白金級の計5段階。

 ざっくりとした括りで言うと、鉄級は下級のみ、銅級は中級下位迄、銀級は中級上位迄、金級は上級中位迄、白金級は上級の魔物を相手取れる。

 重要なのは、相手取れる(・・・・・)というだけで勝てるという意味では無いという点だ。

 ダスティンの等級は銀級。先に述べた内容で言えば、オーガを相手取る事は可能。能力的にも戦闘に特化しているので、勝てる可能性はある。

 だが、可能性があるだけで、確実に勝てる訳では無い。

 特に今回は想定外の遭遇であり、準備不足もいいとこだ。

 幸いにも、オーガはダスティンに気付いていない。その巨体故に、先にダスティンが発見する形となっていた。


(どうする……報告に戻らなきゃなんねぇが、あの嬢ちゃんを放って行く訳にもいかねぇ)


 冷や汗を流しながらも逡巡し、一先ず音を立てないよう細心の注意を払って身を隠す。

 どの道、1人で挑むのが愚策だという事は解っている。そうなると、報告に戻るべきなのだが、適性試験を行っている今新人を残して行く訳にもいかない。

 せめて、ユリアの所在さえ掴めていれば話はまた違ったのだろう。

 と、ダスティンが葛藤していたその時、事態は最悪の状況へと変化する。


「グギャッ!」

「――っ!?」

「グゥ?」


 背後からゴブリンの声が聞こえ、オーガが其れに反応してダスティンの方へ向かって来る。


(やべぇ、考え過ぎて周囲の警戒が疎かになっちまった)


 こうなっては仕方が無いと、ダスティンは背後から近付いて来ていたゴブリンを斬り捨て、猛ダッシュでオーガから距離を取る。


「――ガアァァァ!!」

「くそっ、面倒な事になっちまった!」


 ダスティンを発見して咆哮するオーガ。

 悪態を吐きながらも、ダスティンはじりじりと後退る。

 オーガの咆哮を聞きつけたのか、周囲から「グギャッ」「ギャギャッ」とゴブリンの鳴き声も聞こえてきた。


「厄介―――――なぁ!?」

「グオァァァ!!」


 ダスティンが周囲に気を配ったその一瞬で、オーガは自分の武器を振りかぶり―――――投擲した。

 間一髪で横に飛び退いて避けるも、咄嗟だった所為で立ち上がるのに時間を要した。そして、その間にオーガは詰め寄り拳を振り下ろす。


「ガァ!!」

「くっ!?」

「グォ!!」

「ちょっ!?」

「グガア!!!」

「ぬおっ!!」


 飛び退き、転びながら避けるも、3発目は避けきれず大剣で受け止める。

 ギィィィンというとても皮膚とは思えない音を発し、ダスティンの腕にはかなりの負荷が掛かる。


(こぉんのっ…馬鹿力がよぉ!!)

「グルァ!ガァ!グゥオアァァ!!」

「ぐぅ……っうらぁぁぁ!!」

「ゴァ!?」


 連打してくるオーガの攻撃を防ぎ、ダスティンは何とか隙を見て一撃浴びせる事に成功する。

 と言っても、胸元に浅い傷を作っただけ。しかし、その一瞬オーガは怯んだ。

 すかさずダスティンは距離を取り、木々を遮蔽に利用して逃げに徹する。


「グギャッギャ―――」

「るせぇ!!」

「――ァッ」


 途中集まってきたゴブリンを薙ぎ払い、包囲されないよう必死に立ち回るダスティンだったが、20を超えるゴブリンを屠った所で体力が底を突く。


「はっ…はぁ、はあ…チッ、こんな所で……」

「グゥゥゥ……」


 近付くオーガを睨みつけ、言う事を聞かない体に鞭打つダスティン。しかし、大剣を持ち上げる余力すら無くなっていた。

 眼前に迫るオーガが腕を振り上げ、最早此処迄かとダスティンが諦めかけたその時―――――スパァァァンッという音と共にオーガの首が飛んだ。


「……………な、何だ?」

「――こんな所で何を遊んでるんですか?」


 オーガを挟んで反対側、声と共に不思議そうな表情のユリアが現れる。

 死闘を繰り広げていたダスティンと違い、その声は散歩の途中で偶然会った人に向ける様な暢気さがあった―――――





 ――時間は少し遡る。



「あ…スー止まって」

「ワフッ」


 湖のある場所へ出ると、パッと見でも数種類の茸を発見した。

 スーから降り、何の茸か視て確認すると、魔力茸も沢山あった。


「1、2、3………10。試験分は余裕で採れるけれど、自分用に採っても良いのかな……」


 魔力回復促進剤や、魔枯(まこ)病の薬等の素材となる魔力茸。私も興味本位で1度だけ調合した事がある。

 需要の関係で其れ以上は作らなかったのだが、旅をしていれば必要になる時もあるかもしれない。少なくとも、依頼で出すくらいにはこの国周辺での需要があるのだろう。


「10個はマジックバッグに突っ込んで……自分用に20個くらい確保しとこうかな」


 其れだけ採っても、見える範囲だけで未だ倍以上も残っている。


「さて、其れじゃあ戻るついでにゴブリンの相手でもしてみましょうか」

「クゥーン……」

「ふふっ、此処からは歩いて移動するからダメよ」

「わふぅ」


 スーに乗ったままでも魔法を使えば魔物は斃せる。

 だが、個人的には剣でも相手しておきたい。

 セシリアとの訓練では、動き易い服装で行っていた。

 しかし今は、簡易とは言えドレス姿。動きに慣れておきたい。

 私が乗らないと解ったスーは、残念そうに鳴いた。シュンとしている姿もちょっと可愛い。

 わしゃわしゃしながら、私はスーを慰める。


「長距離の移動ではお願いするから」

「ワフン」


 気を持ち直したスーと一緒に、来た道を戻りながらゴブリンを探す。


「そう言えば、ダスティンからは数種類の魔物が棲息しているって聞いたけれど、ゴブリン以外は見てないような……?」


 目視した魔物は、今の所ゴブリンのみ。察知する気配もほぼ変わらないものばかりなので、恐らくゴブリンのみ。

 他の魔物に全く遭遇していない。


「あ、でも1つだけおっきな気配があったような気も……」


 ゴブリンと似た感じの、けれど大きさ―――力強さ―――が段違いの気配を進んでいる途中で1つだけ感じた。ひょっとすると、上位存在かもしれない。


「取り敢えず其処を目指しましょうかね」


 好奇心もあり、私は恐らくこの森で一番強いであろう存在を見に行く事にした。

 この森は初心者向けらしいし、言うほど斃すのに苦労はしないだろう。


「グギャ?」

「ギャギャッ」

「グギャギャ!」


 道中最初の遭遇は、3匹一組のゴブリンだった。

 2匹は素手だが、1匹だけ血が付着した棍棒を持っている。

 ゴブリン達は、堂々と姿を現した私に気付き、興奮したように騒ぎ始める。


「ふむ…最初は1対1で……」


 先手必勝!

 素手の2匹は魔法で対処。どちらも風刃で首を飛ばし、呆気無く地に伏した。

 剣を扱う練習のつもりなので、残った1匹と剣を抜いて向き合う。

 残った1匹は、仲間が2匹も一瞬で亡くなったと言うのに、ビビる様子すら見せない。

 取るに足らないと思っているのか、状況が判らないのかどっちだろうか……。


「グギャギャッ、ギャー!」

「もしかして私ってば、ゴブリンにすら侮られて―――――っ!!」


 自虐めいた冗談を言う途中で、ソレ(・・)に気付く。

 ゴブリンの姿はほぼほぼ裸であり、着衣と言えば腰に布(?)を巻いているくらい。なので、盛り上がったソレ(・・)は嫌でも私の視界に映った。


「死に晒せぇ!!」

「ギャッ―――――」


 ソレ(・・)がどういう意味を持つのかを理解した瞬間、反射的に体が動いた。

 縮地ならぬ転移でゴブリンの背後を取り、そのまま剣を振るって横一線、首を斬る。吹き出す血が掛からないようすぐに退避した。

 あっという間に、物言わぬ死体が3つ出来上がる。


「うわぁ……」


 ゴブリンからそういう目で(・・・・・・)見られたという事実に、激しい嫌悪感と共に鳥肌が立つ。

 すっかり忘れていたが、ゴブリンは異種族の雌でも関係無く発情し繁殖する魔物だった。他にも何種か同じような魔物が存在するらしいが、実際に目の当たりにするのは結構キツい。


「ワフ?」

「だ、大丈夫…多分」


 そんな私を心配したのか、スーが身を寄せてくれる。

 少しの間もふもふしながら心を落ち着け、もう2度とゴブリンは観察しないと決意する。

 悪・即・斬よろしく、発見次第即駆除しよう。



 其れからは1度も立ち止まる事は無かった。

 ゴブリンは発見するなり魔法で処した。死体はそのまま。森に棲む他の動物や魔物が処理してくれるだろう。

 勿論、視界に入らなくとも気配で位置が判れば即座に処した。

 段々と、条件反射で対処するようになってしまった私は、其れだけゴブリンに対する不快感が限界突破しているのだと自覚する。

 そして、漸く大きな気配のする魔物の所へと到着した訳なのだが……。


(荒ぶってる……?)


 感じていた気配の通り、なかなかの巨体をしている魔物。視た所、オーガという種のようで何やら戦闘中らしい。

 よくよく見ると、ダスティンがオーガの相手をしているようで、周囲のゴブリンを斬り捨てながらあちこちに移動している。

 オーガをおちょくっているのか、自分からは手を出さずに攻撃を受けながら走り回っているその姿は、遊んでいる様にも見える。


(暇潰しかな?)


 私を見失い、する事が無くなって暇潰しをしていたのだろうか?

 其れとも、割と真剣な表情なのでもしかすると訓練の一環なのかもしれない。

 どちらにせよ、私は既に目的を達成しているので早く帰りたい。

 少々無粋かもと思ったのだが、介入する事にした。

 見た感じ、ゴブリンよりも丈夫そうな皮膚。筋肉質な身体をしているが、人型だから首は弱い筈。

 そう思った私は、ゴブリンの時よりも倍くらいの魔力を込めて風刃を放つ。私に気付いていないオーガは、その無防備に晒している首に迫る攻撃を防げない。

 スパァァァンッという良い音を立て、オーガの首は飛んだ。

 死んだ事を確認した私は、ダスティンに近付き声を掛ける。


「――こんな所で何を遊んでるんですか?」


 言外に、試験官の仕事放棄かと問いかけたのだが、ダスティンは呆けたまま返事をくれない。

 更に近付くと、ダスティンは肩で息をしている事に気が付いた。


「あら?疲労困憊のようですが、そんなに長く訓練していたんですか?」

「……訓練?」


 信じられないものを見る様な目を向けられる。


「違うんですか?」

「違う……何故そう思った?」

「だって、此処は初心者向けの森なのでしょう?でしたら、貴方の様に試験官を勤めるような方が苦戦する筈が無いじゃないですか」

「……俺は銀級冒険者だ」

「?……はい」


 突然何を…と思ったが、取り敢えず頷いておく。


「さっき嬢ちゃんが斃したオーガは、中級上位。本来、俺1人で戦うような魔物じゃない」

「え?」

「因みに、オーガはこの森に棲息してない……筈だったんだ」

「…え?」

「少なくとも、今迄目撃したっつう報告は出ちゃいねぇし、ゴブリンがこんだけ居んのも異常なんだよ」

「……え?」

「まあ、初めてこの森に来た嬢ちゃんが知らねぇのも無理は無いが……」

「………」

「つまりはだ…はっきり言って、嬢ちゃんは新人っつー力量じゃ無いんだよ」


 どうやら、今この森は異常事態らしい。

 ゴブリンの大量発生に、棲息しない筈のオーガの出現。

 普通の新人には、どちらも荷が重いものだったらしい。


「一旦報告に戻って、其れなりの準備を整えてから対処する事態なんだぞ?」

「そう言われても……」

「ああいや、責めるつもりは無い。どっちかっつーと嬢ちゃんが姿を消した所為だとも思うが、ぎりぎりだった所を助けられた訳だしな。寧ろ礼をしなきゃなんねぇ立場だ」


 あと一歩遅れていたら、冗談抜きで死んでいたとダスティンは言う。


「――って…そうだよ、嬢ちゃんが消えたあれ、一体全体どういうこった!?」

「魔法ですよ」

「あん?そんな魔法聞いた事も無いぞ?」

「透明化して、視覚的に姿を隠す魔法です。道中邪魔をされたくなかったから使いました」

「……あー成程?…ってーと、魔物を避ける手段だったっつー訳だな」

「そういう事ですね」


 頭を抱えるダスティン。

 何をそんなに悩む必要があると言うのか……。

 と、今度は両頬を手でパシーンと気合を入れるように叩いた。


「まあ良い。そんで?魔力茸は手に入ったのか?」

「はい。此処に」


 マジックバッグから取り出して見せる。


「……何か、サイズ感可笑しくないか?」


 私の持っているマジックバッグは、ウエストポーチ型。サイズ的には、魔力茸が6個分くらいの見た目をしている。


「マジックバッグなので」

「まじ……何だって?」

「見た目より容量が大きいんです」

「……ギルドに戻ったら、ギルド長も呼んで話し合いだ」

「ゴブリンは良いんですか?」

「その件も報告する。偶然なら兎も角、依頼でも無いのに意図的に斃して回るのは規約に反する。先ずは戻って報告だ」

「わかりました」


 逆らう意味も無いので素直に従う。

 私は未だ仮免の状態なので、先達の言う事は聞いておくべきだろう。



 ――帰り道、根掘り葉掘り…と言う程でも無いが、結構質問された。都度適当に返し、深く追求されそうになったら「奥の手を晒す筈が無いでしょう」の一言で乗り切った。

 乗り切った……筈。


ブクマと評価、感想ありがとうございます。


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