表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/151

久々の領地と急展開

 サプライズをした事はありますか?

驚きや不意打ちの意味を持つ言葉なので、善意で行う事を想像する人も多いと思いますが、一般的には悪意を持って行う事も含まれるのです。行動前には一度、相手が本当に喜んでくれるのかを考えた方が良いですね………





 王都での日々も終わりを迎え、行きと同じ村を経由して領地に戻った。

 行きと同じく、1週間で帰ってこれたので、予定より早く到着した計算になる。

 とは言え、予め手紙を送っていたので出迎えは勢揃いで行われた。


「お帰りなさいませ、旦那様」

「ああ、戻ったよ」

「ただいま戻りました」

「……ユリアちゃん」


 私の髪色が変化した事も手紙で事前に知らせていたが、実際に目にするとショックだった様だ。

 今にも泣き出しそうになっている母の後ろから、飛び出してくる影があった。


「おねーさま!おかえりなさい!」

「あら?ふふっ、ただいまミリア」

「おねーさま!あそびましょう!!」

「ミリア、ユリアは移動で疲れてるから、明日にしなさい」

「でも……おねーさま」


 父に(さと)され、悲しそうにしているミリア。


(か、可愛い!…いや、それよりも)

「ミリア、はいこれ」

「?」


 包装された小箱をミリアの目の前に出すと、不思議そうな表情に変わり、手に取った。

 この小箱は、王都滞在の最終日に買った髪飾りが入っている。


「おねーさま、これはなんですか?」

「約束してたでしょう?お土産よ」

「あけてもいいですか?」

「ええ、良いわよ」


 ミリアは慣れない手付きで包装を外し、蓋を開けて覗き込んだ。


「わぁ…おねーさま、きれいです!」

「ミリア、付けてあげるわ」

「はい!」


 髪飾りを取り出し、ミリアの髪を軽く手で()いてから付けてあげる。


「似合うわ、可愛いわよミリア」

「ありがとうございます!おねーさま!」

「ふふっ、どう致しまして。さ、私はお母様と大事なお話しがあるから、ミリアは先に部屋に戻っていて」

「…はい、おねーさま」


 お土産で機嫌が直っていたが、再びしょんぼりするミリア。

 それでも言う事を聞いてくれるあたり、良い子に育っていると思う。

 セシリアがミリアを連れて行くのを見届け、母に向き直る。


「お母様、お時間宜しいですか?」

「ユリアちゃん……ええ、大丈夫よ」


 先程よりも気を持ち直した様子の母と、場所を移して話をする事にした——


「それで、ユリアちゃん、何かしら?」

「お母様……手紙でも読んだと思いますが、王都の教会で色々あって、髪の色が変わってしまいました」

「………」

「お母様譲りの髪色でなくなったのは残念ですが、私自身は変わっていません。お母様の子である事は変わってないんです」

「っ!!、ユリアちゃん……知って…」

「女神様にお聞きしましたの……私は間違い無くお母様の子だと」


 母の部屋に移り、使用人を全て退室させて話したのは、本当の母であると知った事とその経緯だった。

 話を進めるうちに、母は堪えきれずに涙を(こぼ)していた。

 そんな母を見ていると、私まで貰い泣きしそうになり、胸が締め付けられるかの様に苦しくなってきた。

 このままの状態に耐えられず、母に覆い被さる様にして抱きしめた。

 領地に帰るまでの間に、母にこの話しをするかどうかで悩んでいた。

 知らないふりをしたまま過ごす事も考えたが、母は私を溺愛し、育ててくれていた。

 そんな母に隠し事をするのは嫌だったので、他の事も含めて話す事にした………





「……それで、ユリアちゃんはどうしたいの?」


 話を聞き終え、母は私が今後どうするのか気になる様だ。


「頼み事以外は好きにして良いとの言質をいただきましたので、私は今まで通りにしたいと思いますの」

「……そう、ならまだ一緒に過ごせるのね」

「はい。そのつもりです」

「………良かったわ」


 様々な感情を込めた様な声音で言われ、抱きしめられた。

 やはり親子だからなのか、随分と心が落ち着く。

 そうして暫く経った時、夕食の時間となったので2人で一緒に食堂に向かった。


「ユリア、話しは済んだのかい?」

「…はい」


 夕食後に父から話しかけられた。

 どうやら心配掛けていた様だ。


「そうか……ミーリア」

「?…はい、旦那様」

「今日は、一緒に過ごそうか」

「……はい」


 母の嬉しそうな顔を見ていると、私の選択は間違ってなかったと思えてくる。

 父も母を気遣ってか、今日は一緒に過ごす事にした様だ。


(私も心配されない様気を付けながら頑張ろう…)


 父と母のやり取りを眺めながらそんな事を思っていると


「おねーさま、きょーはいっしょにねたいです」

「ふふっ、仕方無いわね。なら今日は私と寝ましょうか」

「はい!」


 その後、お風呂を済ませて自室に戻り、スーとルーの相手をしていると、ミリアがやって来た。


「おねーさま!おーとのおはなしがききたいです!」

「良いわよ……あら?ミリア、髪が乾ききってないわよ」

「おねーさまとおはなししたくていそぎました!」

(か、可愛い過ぎる!!)


 懐いてくれる妹が非常に可愛いです!!


(いや、それより)

「ミリア、髪が濡れていると風邪をひいてしまうわ。それにキューティク……いえ、髪が(いた)んでしまうわ」

「ぅっ、ごめんなさい」

「反省したのなら良いのよ。私が乾かしてあげるから、此方へいらっしゃい。今日は特別よ」

「はい!」


 しゅんとした表情から一転し、嬉しそうにして抱きついてくるミリア。

 そのまま魔法で温風を創り出し、斜め下から吹き上げる様に調節してミリアの髪を乾かしていく。


「…きもちいです。おねーさま」


 目を細め、気持ち良さそうにしているミリア。

 魔法を維持したまま、手でミリアの髪を梳いていく。

 全体的に乾いた事を確認し、魔法を止める。


「もう良いわよ、ミリア」

「ありりゃとーごじゃます。おねーしゃま」

「あら?…ミリア、もう寝る?」

「ぅー……はっ!?おねーさま、おはなしききたいです」


 うとうととしていたミリアが目を覚まし、先程と同じく話しを強請(ねだ)る。

 暫く(はな)(ばな)れになっていたので、少しでも長く一緒に居たいのかもしれない。

 そう考えるとかなり嬉しいので、お願いも聞き入れてあげたくなるものだ。


「そう言えばミリアは、私の髪の色が変わった事は気にならないの?」

「?…おねーさまはおねーさまです!」

「っ!!」


 その言葉は凄く嬉しかった。

 外見ではなく、私個人を認めてくれている気がした。

 ミリアはまだ幼いので、難しい事は考えていないだろう。しかし、それ故に純粋な気持ちをぶつけてくれるのだ。

 ならば私も応えないといけないだろう。


「それじゃ、先ず王都で最初に出歩いた日の事なんだけど———」


 王都での出来事を、女神様云々の事や軟派男の事以外を面白可笑しく語って聞かせたのだった——


 翌朝、いつもと違い腕の中の温もりを感じながら目を覚ますと、ミリアが私の服を掴んだまま寝ている姿があった。

 起こすのも悪い気がするので、そのままミリアの頭を撫でながら過ごす事にする——


「ぅん、むにゃ〜ぁ」

(むにゃって言うの初めて聞いた)


 ミリアも目を覚ました様で、寝惚け(まなこ)を手で擦りながら起き上がる。

 服を掴まれたままだったので、私もそれに合わせて体を起こす。


「うにゅ?……ぁ、おふぁよーごじゃます。おねーしゃま」

「ふふっ、おはようミリア。良く眠れた?」

「ふぁい……」


 まだ少し眠そうだが、いつも身支度を整える時間まであと僅か、もうすぐリンが来る頃だろう。


「さ、もうすぐお着替えの時間よ、シャキッとしないと」

「…ぅゆ………にゅ?」

「目は覚めたかしら?」

「…あ、はい、おねーさま」


 ちゃんと覚醒した様だ。

 ミリアの頭を撫でながら、さてこれから何をしようかと考え始めるのだった………





 一つ分の季節が過ぎ、慌ただしかった日々を送っていたが、一応の落ち着きを見せている。

 領地に戻った翌日、早速とばかりに父の経営しているお店にお邪魔し、カレーのレシピを教えて実際に作って見せた。

 最初は不遜な態度だった何人かの料理人も、私の手際とカレーの味に吃驚してからは、掌を返したかの様に素直になった。

 そして次の週には商会の設立を行い、名をユウ商会とした。

 名の由来を聞かれたが、曖昧に濁しておいた。

 前世の名から取ったとは言えないし、安直とは思ったけれど名付けは苦手だから仕方ない。

 その後は王妃様との約束もあったので、サスペンション付きの馬車を製作し、1台献上した。

 丁度その時、王妃様は不在だった様なので、捕まらずに済み、言付けをしてさっさと退散した。

 その際に、もう一つの目的であった扉の設置をして来た。

 例の何処でもなやつである。

 設置してすぐにテスト使用してみたが、問題無く使用できた。因みに設置場所は共に私の部屋である。

 王都に行った一番の収穫は、スィール殿下の植物園に使っていたという魔具の知識である。

 話を基にあれを真似て少し大型の物を製作し、コッタとサテン——甜菜とサトウキビ——に使用して季節問わず収穫できる様にした。

 勿論、土の栄養を損なわない様工夫もしている。

 最近はケンも、自分で判断できるくらいには知識を得ている様だ。

 砂糖の精製も一級品を作れる様になってきたので、割合を決めて取り組んでいる。

 この調子であれば、そろそろ本格的に動く事もできるだろう——


「ユリア、少し話があるんだが、今大丈夫かな?」

「?…はい、大丈夫です」


 ある日、父が私の部屋に訪れた。

 何かあっただろうかと思考を巡らせるが、特に思い当たる事も無かった。


「さて…ユリアが以前言っていた事だが、名は何だったか……孤児に関わる話だ」

「っ!!」

「今はまだ領地内にしか卸していないが、砂糖も安定してきた事だし、あの時言っていた事にも許可を出そうと思う」

「…良いのですか?」


 孤児院の事に関しては、衛生上問題無いと判断するまで許可できない——意訳——との事だったので、今はまだ毎年何人か出てくる孤児を引き取り、清潔な状態にして馬屋の掃除と馬の世話をさせるだけに留めている。

 全員を使用人にはできないので、ある程度人の要る場所で手伝わせているのだ。

 週一で、健康状態に問題が無いかの確認も行っていたが、今の所誰も病気にはなっていない。


「ああ、そろそろユリアにも人手が必要となる。今のうちから育てると良い」

「ありがとうございます!お父様」


 最初は孤児院を建てる気であったが、今となっては違う名前にした方がいい気がしてきた。


「それから、建設予定地だが、此方で候補を幾つか見繕っているから確認しておくと良い」

「…何から何まで、ありがとうございます」

「いや、俺の方こそ——」

「だ、旦那様!大変でございます!!」


 父が渡してくれた資料を読もうとした時、セバスサンが慌てた様子で私の部屋へ入って来た。


「何だ、今ユリアと大事な話をしていたんだが…」

「も、申し訳ありません。しかし、そう言っている場合では無いかと存じます!」

「?…話せ」

「畏まりました。先程此方の手紙が届きまして……」


 そう言ってセバスサンは、持っていた手紙を父に渡した。

 手紙を受け取り、家紋を確認した父は顔を顰め、内容を見てすぐに顔を上げた。


「お父様?」


 そんな父の様子が珍しく、思わず声を掛けた。


「ユリア、驚かずに聞いてくれ」

「?……はい」

「数日中に……早ければ恐らく2日後に王妃様が来られる」

「……え?」


 意味が理解できず、しばし固まる私。

 それを見て、仕方無いといった感じの雰囲気になる父。

 固まった私を見て心配したスーとルーが、私の頬をぺしぺしと軽く叩いた。


「ユリア、王妃様の目的はユリアと話がしたいとの事だ」

「……は?」


 取り繕う余裕も無く、私の思考は停止していた。


「兎も角、王妃様が来訪するのならば、それ相応のおもてなしをせねばならぬ」

「あ……はい」

「ユリア、驚くのも無理は無いが、俺達に拒否権は無い。しかも(わざ)と手紙の到着が遅くなる様、普通便で出してすぐに出発した様だ」


 この世界にも速達便があり、利用料は増えるが普通便の約半分の期間で届く様になっている。


「滞在予定は到着日を含めず2日だそうだが、内容によっては延期もあり得るそうだ」

「な…何で……」

「どうやら聞きたい事があるそうだが、具体的な事は書いて無かった」

「そう…ですか」

「まぁ、今回は1人では無いんだ。そう心配するな」

「はい、精一杯努めます」


 こうして、何故か王妃様をもてなす必要が出てしまった。

 王妃様が聞きたい事の内容に心当たりが無くも無いが、態々ここに来る必要があるのかとも思う。

 混乱しながらも、歓待の準備を整える事となってしまったのだった………


ブクマとポイント評価ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ