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番外編~劇団カリオスト~

 ルースリャーヤ王国は精霊の為に建国された国である。

 とは言え、其処に住むのは人間の方が圧倒的に多く、今では精霊を見る事のできる者が少ないのが現状だ。

 建国したばかりの頃は、精霊との戯れを重視していた事もあって娯楽と呼べる物はそんなに必要無かった。しかし、段々と精霊が見えない者が増えるにつれ、娯楽を求める者も増えていった。

 色々な場所から人が集まっただけあって、多種多様な趣味嗜好がある。その分、娯楽も様々な物が生まれていった。そして、より多くの人が求める娯楽のみが残り、時代と共に多少は変われど今でも続いている。

 所謂上流階級と呼ばれる人々に人気な娯楽には音楽鑑賞や観劇等があり、奏者や演者にはそれなりの品位を求められた。更に言えば、長い歴史や伝統を持つかどうかも立派なステータスとなる。


 ルースリャーヤ王国の王都を本拠地としている劇団カリオストも、とある貴族が創設した古くから存在する由緒正しい劇団である。一時は王族も見に来るとの評判も高く、容易に入る事のできない格式高い劇団であった。

 採用に関しても、コネによるものではなく才能を重視してきた。

 ……が、其れも既に過去の話。

 どの組織にも言える事だが、長く続けば続く程に腐敗していくのが人の性だ。創った者の意を本当の意味で汲めるのは志を同じくする者だけであり、創設当初に集まった者達だけなのだから其れも仕方が無いのかもしれない。

 利益を求める者、娘を主演にしたがる者、劇団の人間を傘下にと目論む者等、様々な思惑を持つ者達に狙われ続けてきた。

 其れでも、劇団カリオストは演者に関してだけ(・・)で言えば、今でも実力を見て採用する者を決めている。

 だが残念な事に、その他―――演者以外―――では時代を得る毎に縁故(コネ)採用を普通に行うようになっていた。良い所の出身であれば、最初の教育が少なくて済むだろうといった打算もある。

 その人物が、裏で誰と繋がっているのかも知らずに……。

 案の定、劇団カリオストは不慮の事故や発注ミス、日程の調整不良等が徐々に増えていき、段々とお客は離れていく事となる。

 今では、悪い意味で知る人ぞ知る劇団となってしまい、知名度もかなり落ちてしまっている。

 当然売り上げも減り、最近では団員に支払う報酬―――給料―――の工面にもかなり苦労している有様。

 ――このままでは、この劇団は潰れてしまう。

 そう思った団長は、藁にも縋る思いで支援を求めた。

 昔ならばいざ知らず、今の知名度では少額の援助すらも期待できない。危機意識を持つのが遅すぎた。

 だが、意外にも援助を申し出る商会が1つだけあった。

 そしてその商会は、援助に対して条件を2つ提示する。依頼を受け、完遂する事。依頼内容の詮索はしない事。

 不審に思いはしたものの、背に腹は代えられぬと団長はその条件を呑んだ。

 結果として、この決断が吉だったのか凶だったのか、団長には判らなかった。





 ユリアは、商会での利益を一部出資に回している。経済的に貯め込むのも宜しくないし、金の無心をしようと擦り寄って来る者も過去に居たからだ。

 そして出資する対象は個人・企業問わずではあるのだが、一定の基準をクリアしている事が条件だった。

 その条件は、大きく分けて2つ。

 やる気がある事と、将来性がある事。

 当たり前と言えば当たり前の条件なのだが、ユリアの場合は才能を覗き視れるのでより重要視できる項目でもある。

 そんなユリアが偶然遭ったお茶の横流し事件。

 事件と言うには少々ショボいが、贈り物を売り払われていたと知ったユリアは少なからず傷付いた。

 結果的に、警告を受けて謝罪を行った所もあれば、知らぬ存ぜぬを貫く所、責任転嫁して自分は悪くないと主張する者も居た。前者は赦され、後者2つは最終的に契約を打ち切った。

 その事件の時に騒ぎを起こした女性。最初こそ反抗的だったのだが、ユリアが貴族であると知った後は面白い程に態度が変わった。そして、ユリアのちょっとした思い付きの結果、その女性が所属する劇団に訪問する事となった。



 女性経由で訪問する旨を伝えたユリアだったが、相手の都合を考える気はさらさら無かった。

 ユリアの居る場で騒ぎを起こし、剰え緑茶の評判を落とそうと画策していた商会の思惑に乗っかっていたのだから、其れも当然だろう。

 あの場ではお店の迷惑も考え解放したが、女性と女性の所属する劇団を赦した訳では無いのだ。

 誠意次第では支援する気でいるが、其れもまた相手次第。

 其れなら他の劇団にすればと思うかもしれないが、有名どころは既に誰かしらの後見があったり支援を受けている。かと言って無名なところだと、今度はアポ取りが難しかったり切っ掛けが無い。

 そんな訳で、ユリアは自分の時間が取れたタイミングで劇団カリオストを訪問した。


「……来訪を、歓迎致します」


 少しの葛藤の後、言い淀みながらも歓迎の意を伝える団長。

 葛藤したのは、ある意味では仕方が無い。


 急に現れた娘が貴族を名乗り、内心『何言ってんだこの小娘は……』と思っていた所、其れに勘付いたお供のリンに軽く制裁を受けた。出会い頭に失礼な態度を取ったのは事実だが、そも先触れも無しに訪問した側もマナー的に宜しくない。但し、今回に限って言えばユリアは態とそうしたので、リンからすれば一考の余地も無い。

 加えて、団員の1人が依頼を失敗した原因の相手でもあり、団長からすると良い印象を持っていないのにも拘らず、劇団の援助を乞う必要があった。

 何故か(・・・)あの後、先に援助を約束していた商会はすぐに潰れて連絡が取れなくなった。会話の端々にチラつかされていた存在である貴族も、終ぞ出てくる様子も無かった。

 時系列で考えれば、その原因が何であったのかは少し考えれば想像も付く。

 そうなると、自身の中にある複雑な感情を優先する訳にはいかない。

 何せ、自分達にはもう後が無いのだから……。


 客間に通し、歓迎の意を伝えた団長は困惑していた。

 お茶に手を伸ばす事もなく、自身をジーッと見つめるユリア。その間、一言も発する事は無い。

 何をしに来たのかと言いたい所だが、事前に来訪する事とその理由を聞いているだけに、どうにも言い出し辛かった。


 少しして、ユリアは僅かに溜息を吐く。

 今度は何なんだと若干憤る団長を余所に、ユリアは面倒な事になったと早くも後悔し始めていた。

 と言うのも、先程からユリアが見つめていたのはただ観察していたという訳では無く、団長の過去を視ていたからであった。

 当然だが、理由も無く初対面で他人(ひと)様の情報を盗み見る趣味をユリアは持ち合わせていない。此処に来る切っ掛けとなった女性の情報を視た際に、この団長も関わっているという事実を知っていたからこその行為だ。

 そして視た結果、ユリアは自分の目の前に座る人物が団長であり続ける限り、この劇団に未来は無いと確信した。

 そうと決めた後の行動は早かった。

 ユリアはすぐ団長に見切りを付け、雑用を含む団員を全員集めさせた。


 集まった団員達は―――既にユリアと知り合っていた女性を除き―――皆一様に困惑していた。

 その原因であるユリアは、面倒な事はごめんとばかりに名前と役職の紹介のみをさせ、後は団長の時と同じように1人ずつ見つめ始める。

 そして―――


「其処の雑用の男性2人と、事務員3人は右に移動しなさい」


 ――異物を取り除く事にした。

 移動させられた5人は、理由(わけ)も解らず戸惑っていたが、ユリアの後ろに控えるリンの放つ殺気に怯え始める。

 リンは、事前にユリアからどういった事をするつもりなのか複数のパターンを聞いており、其々の対応の中身迄知っていた。つまり、今分けられた5人は誰かしらの送り込んだスパイという事になる。

 しかし、そんな事情を知らない他の面々は怯えている5人を不思議に思う。リンの殺気は5人にのみ向かっているので、他の人達はリンが睨んでいるという風に見えているだけで気付いていない。

 すると突然、怯えていた5人は意識を失い倒れる。勿論、ユリアの仕業だ。

 5人を逃がさない為に、ユリアがお馴染みとなりつつある酸素濃度を低下させる魔法を行使したのだった。


「リン」

「――はい」


 ユリアに呼ばれただけで、委細承知とばかりに動き出すリン。何処から取り出したのかもわからないロープを使い、5人を縛り上げる。どう見ても手慣れている点については、ユリアは考えない事にした。

 突然の事態に周囲の団員達は戸惑うが、緊迫した雰囲気に呑まれて口を挟まない。

 と、此処で逸早く正気に戻った団長がユリアに向けて口を開く。


「な、何を突然!?」

「貴方の尻拭い…かしら?」

「………は?」


 端的なユリアの返事の意味が解らず、団長は呆ける。

 その団長には目も向けず、ユリアは続ける。


「この5人は、其々違う飼い主の指示の下、この劇団を潰す為に動いていたのよ」

「なっ!?そんなバカな事が……其処の5人は、全員身元のしっかりとした人の紹介で雇ったんだぞ!」

「はぁ……。だから、その紹介した人達もグルなのよ」

「信じられるか!!」

「貴方はバカなのね」

「何!!?」

「思い込みが激しいのか、想像力が貧困なのか、危機管理能力が著しく低いのか……。まあ、いずれにしろ貴方には団長を降りてもらうわ。其れが私の出す支援をする為の条件よ」

「そ、そんな勝手な事を―――ブフォッッッ!?!?」


 ユリアに掴み掛かろうと近寄って来た団長を、何時の間にか戻って来ていたリンが殴り倒す。

 そしてそのまま流れる様な動きで関節を極め、身動きのできない状態にした。


「汚い者がユリア様に近寄るなぁぁぁ!!」


 リン、ガチギレである。

 こんな声が出せるのかと、ユリアも吃驚した程だ。

 念の為に説明すると、リンの言う“汚い”は汚れているという物理的な意味(・・・・・・)では無く、犯罪に手を染めたという精神的な意味(・・・・・・)である。

 地面にうつ伏せで関節を極められている団長と、其れを冷ややかな目で見つめるユリア。

 一瞬とも言えるこの状況の変化に、団員達は困惑を通り越してドン引きである。

 理解は出来ずとも、取り敢えず目の前の少女には逆らうまい。

 団員達の心は1つとなっていた。


「改めて言うけれど、貴方には団長を降りてもらいます。劇団を辞めるかどうかは好きにしなさい。けれど、経営方針に口を出すのは禁止するわ」

「ぐっ…な、納得…できる訳が……」

「この劇団が低迷したままなのは、貴方の管理能力の低さが原因なのよ。此処に来る前、この劇団の事を色々と調べたわ」

「………」

「今でこそ知名度()低いけれど、昔は随分と格式の高い劇場だったみたいじゃない。その持ち主である貴方達の劇団も。けれど、何代前からか公演中の事故が増え、大道具の手配ミスや公演期間の調整ミスも増えたとか……。その中には、部外者である私から見ても明らかに人為的なものもあったわ。なのに、何故か改善される事は無く今迄続いている」


 ユリアの説明に、団員達の中には段々と勘付く者も出始める。その者達は、今縛られ転がされている5人へ視線を向けた。


「先代の中には、気付いておきながら手を出せなかった人も居るかもしれないわね。でも、私としては昔の事情なんてどうでも良いの。大事なのは今、そうでしょう?」

「……何が、言いたい」

「あら?本物のおバカさんだったのね」

「――ゔっ……」


 ユリアが団長に呆れていると、意識を奪った5人の内の1人が目を覚ました。


「痛っつつ…んあ?――なっ!?何だこりゃ!!?」

「喧しいわよ」

「ってぇ!?」


 騒ぐ男の額を狙い、ユリアが圧縮した空気を開放した。その衝撃を受けた男は涙目。

 理不尽である。


「さて、貴方には2つの選択肢があるわ」

「つぅ……な、何の話だ」


 男は涙目のまま、自分に話し掛けられたと理解して言葉を返す。

 見た目以上に痛かった模様。


「イレッツ子爵から受けた命令を、包み隠さず話して自由を得るか。若しくは、何も話さず罪人として処されるか」

「ざっ!?――ま、待ってくれ!本当に何を言ってんのか解んねぇよ!!」


 当然である。

 目が覚めていきなり迫られる選択では無い。


「貴方がオトルワ商会経由で、イレッツ子爵の命令を受けている事は知っているの。貴方自身もイレッツ子爵の命令だと理解している事もね」

「……………」

「其れを踏まえ、先の選択肢を提示したの。好きな方を選ぶと良いわ」

「お、俺が選べる訳無いだろ。俺が話したとバレれば、消されちまう!」

「ああ、その心配は要らないわ。他の4人と繋がってる人物もだけれど、私がこの劇団を支援する事が決まったら潰すから」

「――は?」


 男はポカンと口を開いた間抜けな表情になった。

 自分が心配していた件を、何と言う事も無いとばかりに軽く返されればそうもなるだろう。

 そんな男の心情を理解しつつも、一方で気遣う気が無いユリアは無視して続ける。


「ちょっかいを掛けてくる輩はお呼びじゃ無いの。この先も面倒事を持ってくるのが解ってて、放置する訳無いじゃない。当然、潰すわよ」

「あ、相手は貴族だぞ!?」

「私も貴族よ」

「――へっ??」

「あら、知らなかったの?私は前王陛下より魔法伯という爵位を賜っているの。貴族令嬢ではなく、私が貴族当主なのよ。其れに、魔法伯は伯爵以上の階級だから子爵程度には正面からでも負けないわよ」


 ユリアが爵位を言うと、知らなかった者達がざわつき始める。

 どう見ても小さな女の子であるユリアが、自分の爵位を持っているとは誰も思っていなかった。そも、使用人であるリンが居る事で貴族子女だとは予想できても、当主だと予想しろと言う方が無理がある。


「……ほ、本当なのか?」

「嘘を言う意味が無いもの」


 その余りにも堂々とした態度に、男はその言葉を信じた。

 そして、助かりたい一心で全てを白状する。


「実は―――」


 男は、劇団には雑用として潜入した。

 役割は大道具や舞台に細工を行い、演目の途中で事故を装う事。

 命令はユリアの言った通り、イレッツ子爵の子飼いであるオトルワ商会から。

 目的を全て知っている訳では無いが、劇団を潰さない程度に不利益を被るよう調整しろと言われた。その結果、もしもやり過ぎて劇団が潰れた場合、オトルワ商会で雇う口約束をしている。

 等々……。


「――という訳なんだ。俺は…俺だって、乗り気でやった訳じゃねぇ!生活の為に仕方なく―――」

「ああ、言い訳は要らないわ。私は約束は守るから、事が済んだら何処へなりとも行きなさい」

「い、いや…だからよぅ、此処を追い出されたら生きていけねぇんだ!商会も潰すんだろう?だったら、俺の行くとこなんざ何処にも……」

「勘違いしているようだから言っておくけれど、オトルワ商会が無事だったとしても貴方を雇う気は無かったと思うわよ」

「は……?」

「だって、口約束だったのでしょう?よくある手口じゃない。言葉では良いように言っておいて、いざとなったら知らぬ存ぜぬってのは……。だから、もし劇団が潰れても、言ってないと惚けて終わりだったでしょうね」

「そん…な……」


 ユリアの容赦無い指摘に、ガクリと(こうべ)を垂れる男。

 今の今迄その可能性を考えていなかったらしい。

 其れ以上は喋る必要が無いと判断したユリアは、団長の方へと向き直る。


「さて、今のお話で理解したかしら?他の面々も、違う人物から似たり寄ったりの思惑で送られて来ているのよ」

「な、ならば全員を追放してしまえば問題は無い筈!そもそも、わしはそんな者達が潜り込んでいるなどとは知らなかったのだ!!」

「だから自分に責は無いと?」

「そ、そうだ!!」

「そんな訳が無いでしょう。管理責任を知らないの?そんな状態で、よくもまあ団長の座に居座り続けたものね。おバカな貴方にも理解できるように言うと、貴方は管理する者、人を纏める者としての能力が足りないの。其ればかりか、責任感も無い。上に立つ者の器じゃないのよ」


 お解り?と蔑んだ目で団長を見下ろすユリア。

 散々馬鹿にされて憤った団長はムキになり、体に力を入れるも関節を極めたリンに阻まれ動けない。

 ぐぐぐ…っと痛みを堪えながらも悔しそうにしている団長を放置し、ユリアはこの様子を黙って見守っていた団員達に意見を聞く事にした。


「聞いての通りよ。…貴方達はどう思う?今後も劇団の存続を願うのなら、私が支援しても構わない。けれど、その為にはこの団長は解任させ、其処の5人は劇団を辞めさせる事が条件よ」

「あ、あたしは存続を願う…いえ、願います!」


 最初に声を上げたのは、ユリアが此処に来る切っ掛けとなった女性だった。


「あたしは演技がしたくて入団したのよ!こんな誰ともわからない奴らの所為で終わるなんてまっぴらよ!!」

「そ、そうだ!おれもだ!!」

「私だってそうよ!!」

「団長も其処で転がってる5人も纏めて追い出してしまえ!」


 団員達の意見は、団長含めて追い出す方針で一致した。

 その様子に、ユリアは憐憫の眼差しで団長を見る。


「人望()無かったのね……」

「ぐっ…好き放題言いおって……」


 ユリアはリンに組み敷かれたままの団長に近付き、周りの者へ聞こえないよう声を潜め忠告する。


「私は追い出す気は無かったけれど、こうなってはもう貴方に居場所は無いわ。大人しく出て行く事ね。……其れから、愚かな考えは持たないようにしなさい。もしもこの先、要らないちょっかいを掛ける様な事があれば、その時は………」

「――ッ!!」


 含みを持たせたユリアの言葉に、団長は悪い想像をして顔色が悪くなる。

 ユリアは禍根を残す事を嫌う。

 なので、本当ならば団長を解任した後は管理下に置き、余計な事をできない状態に追いやるか、後腐れ無く始末するべきだと考えていた。しかしながら、始末するには少々理由が弱く、ユリアが自由に生きるにあたって自分自身に課した行動理念から外れてしまう。

 よって、管理下に置こうと考えていたのだが、劇団の団員達は追い出したいと言い出した。

 仕方無く予定を変更し、ユリアは団長に釘を刺す事にしたのだった。


「願わくば、もう2度と会う事の無いように……」


 其れだけ言い残し、ユリアは団長の意識も奪う。

 すかさずリンはロープで縛り、他の5人と同じ場所へと転がした。


「今後の事は、後日また話し合いましょう。取り敢えずはいつも通りに過ごしてて」

「あ、あの……公演は暫く中止でしょうか?」

「?……直近は何時?」

「ええと…約一月後です」

「なら、中止しなくても構わないわよ。ひょっとして、人数が減った事で難しくなった?」

「いえ、其れは無いです!あの人達は、居ても居なくても変わらないので!!…あれ?そう考えると、本当にあいつらは真面な仕事をしていなかったんじゃ……」

「まあ、心当たりがあるのならそういう事なんでしょうね」

「くそっ、今迄気付かなかった自分が不甲斐無い……。ああいえ、そういう話がしたかったのではなく、今後の方針を決めなければ安心できないと言いますか…その……」


 ユリアと話している男性は、劇団の中で副団長に就いている人物だった。団長が解任される事が決まった今、実質のトップである。今後を心配するのも自然な流れだった。


「後日って言っても、またすぐに来るから心配しないで。今日の所は、取り敢えず其処の6人を連れて行くから解散するだけよ。まだ聞きたい事もあるし、言い聞かせる(・・・・・・)必要もあるし」

「あっ…そ、そうですか。解りました」


 じゃあそういう事で…と、ユリアは転がしていた6人を魔法で浮かせ、連行していく。

 其れを見た団員達は皆一様に驚き、別れの挨拶すら忘れて見送った。



 後日、宣言通りユリアは再び劇団を訪れて方針を決めた。

 ちょっかいを掛けてきていた商会、()いては大本である貴族に引導を渡す迄は此れ迄通りの活動に止め、憂いが無くなった後は活動の幅を広げる事となった。

 人材や物資等、ユリアが必要だと判断したものには惜しみなく援助を行い、人を雇う際にも背後関係を調べたりと協力した。

 徐々にではあるが、確実に評判も良くなっていった。

 方針が固まってから数年後、劇団はかつての栄光を取り戻す事となる。

 その活動を助けていく中で、ユリアには1つどうしても解決しない疑問が―――


(こっちでは座長とか言わないんだ……何でだろ?)


 ――どうでもいい悩みであった。


ブクマと評価、ありがとうございます。


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