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お茶会…


「うむ、似合っているな」

「お姉様素敵です!」

「可愛いわよユリアちゃん」

「おねー様きれー」


 王妃様とのお茶会当日、私は新調したドレス姿を家族から褒められていた。

 父は派手目なドレスが好きなのか、赤……より正確に言うなら、真紅を基調としたややグラデーション掛かった色味のドレスとなっていた。父が針子を呼んだ時点で嫌な予感はしていたのだが、採寸の時には既にデザインが粗方決まっていたらしい。


「……お父様は本日、仕事だったと記憶していますが?」

「娘の新しいドレス姿を見る為に予定をずらすのは当然だろう」

(いえ、当然じゃないです)


 どうやら、態々仕事の調整をしてまで私のドレス姿を見たかったらしい。

 嬉しいやら恥ずかしいやらで感情がぐるぐるしながらも、家族に見送られて出発した。



 王城に到着し、待たされる事も無く何時もの使用人の方に案内される。流れるように手土産も回収された。

 今回は王妃様と1対1という事もあってか、既に待ち構えていた(?)王妃様の私室に通された。


「遅れて申し訳御座いません。本日はお招きに預かり、ありがとう存じます」


 実際には時間に余裕を持って来たので、遅れて来た訳では無い。しかし、待たせていた事実は変わらないので、こうして謝罪を口にするのがマナーだったりする。


「いいえ、わたくしが楽しみにし過ぎたあまり、こうして早めに待っていたのです。会えて嬉しいわ。さあ、座って」

「……失礼します」

「………?」


 反応が遅れたのは、スーが嘘を吐いた時の合図をしたからだった。つまり、王妃様はこのお茶会を楽しみにしていなかったのか、私に会えた事は別に嬉しくもなんともなかったのかのどちらか、若しくは両方という事になる。

 常套句でもあるので、大して気にする必要も無いのかもしれない。でも、何となく気になった。

 私が椅子に座ると同時に、控えていた使用人の方々がお茶を用意し、待機場所へ再び控える。


「先ずは先日の件を謝るわ、此方の不手際で迷惑を掛けました」

「気にしていないとは言えませんが、謝罪をお受けします」

「本当は陛下も貴女に会いたがっていたの。でも先日の件が未だ片付いていなくて、忙しくしていらっしゃるの」


 先の事件を切っ掛けに、叩けば埃の出る貴族が次から次へと現れたらしい。

 領地持ちの貴族も多く、その所為で一度に粛清を行うと領地経営が立ち行かなくなる。其れを回避する為にも、今は各所に根回しを行っている最中なのだそうだ。


「……私が聞いて良い内容とも思えないのですが?」

「其れについては、陛下からの御命令です。この件に関しては、貴女に隠す必要は無いとの事でして……」

「そうですか」


 要は誠意を示す一環らしい。

 と、此処で私の手土産がお皿に盛り付けて出される。


「此方は……?」

「ケーキです。今後販売する可能性はございますが、現在は予定しておりません」


 私が手土産として持って来たのはケーキだった。より正確に言うなら、フルーツを使った定番のショートケーキだ。


「そうなのですね」


 興味深そうに眺めた後、王妃様は一口に切り分けて口に運ぶ。口元に手を当てたまま咀嚼し、目を見開く。

 どうやら気に入ったらしい。

 その後は、ちょっとした雑談を交えつつケーキを食べ進めた。

 ケーキを食べ終わると、王妃様は空になったお皿を残念そうに眺める。


「……とても美味しかったわ。其れだけに残念ですわね、次が何時になるかもわからないなんて」

「お気に召したのでしたら幸いですが、未だ試行錯誤を繰り返している状態ですので……。恐らくは2~3年先の話になるかと」

「2年……」

(ん?)


 王妃様は少し考える仕草をした後、視線を私に合わせて口を開く。


「そう言えば、城内でとある噂が出回っているのはご存知かしら」

「噂……ですか?」

「ええ。と言っても悪い噂では無く、貴女に領地を与えてはどうかというものです」

「……今迄そのような話を聞いた覚えは御座いませんが」

「でしょうね。この噂は城内のみのようですし、其れも例の件を知っている貴族の間でだけのようです」

「例の……と言うと、北の一件ですか?」

「ええ、そうです」


 北の一件とは、無理矢理戦争を未然に防いだ件の事だ。


「ですが、その件の恩賞で叙爵されたのだと思っておりましたが?」

「そうですね。ですが、事実を知る貴族達はどうにも不満があるようでして……」

「過分だと?」


 言いながら、其れだと先程の発言に繋がらないと気付く。


「その逆ですわ。叙爵の際、建前で用意した理由があるでしょう?」

「魔具の功績などでしょうか?」

「その通りです。其れに加え、例の功績を加味した場合、恩賞が見劣りすると不満を洩らしているのです」

「……何故そんな事に」

「あら、彼等は自分達が功績を上げた時、比較されるのが怖いのですよ」


 貴族としてのわかりやすい褒賞、恩賞というものは叙爵や昇爵、領地を与えられる事である。しかしながら、幾ら国王が与える褒美とは言え独断で行う事は稀であり、重鎮を中心とした貴族の意見を聞き入れる事が多い。

 その貴族達も、違う意味で明日は我が身と考える者が多く、自分達が功績を上げた時の事を思って意見を出すらしい。

 つまり、私に対する褒美を増やす事、其れ即ち自分達の褒美を増やす事に繋がる。逆に言えば、現状を認めるとそう簡単に褒美が貰えなくなる。


「正直に申しまして、私には関係の無い……いえ、興味の無い話ですね」

「………領地が欲しくないと?」


 探る様な視線を向けてくる王妃様。

 前王妃様の時は、何を考えているのか解らない部分もあって緊張を強いられた事もあった。だが、今の王妃様は考えが顔に出易い模様。

 私としても、レイエルから聞いていた領地の話を此処で聞くとは思っていなかったが、噂という迂遠な言い回しで来るのなら“迷惑だ”というスタンスで行かせてもらおう。


「逆に、欲しがる理由を知りたいくらいです。私としましては、領地を得る事で生活を縛られるという不利益が生じますが、何かしらの利益を得られる訳でも御座いませんので」

「……国の為にとは考えられませんか?」

「私の知る限り、領地として見た場合に貧しい所はありません。村や町、集落単体で見た場合は別ですが、その辺りは領主よりも村長や町長の責任だと感じております。であれば、私の様に意欲の無い人間が治めるよりは、自ら進んで政を行う積極的な人間の方が国の為にもなるでしょう」

「そうですか……」

(おや、反論が来ると思ってたんだけれど……?)


 少々落ち込んだ様子で手元を見る王妃様。

 私はてっきり、更に言い募って来ると踏んで否定的な意見を言ったのだが、見当外れだったらしい。


(このまま放っておくのも宜しくないかな……)


 レイエルに聞いた通りなら、私の周囲の人達が巻き込まれる可能性がある。

 なら、このまま否定的な意見だけ持ち帰られてしまうのはマズい気がする。


「とは言え―――」

「?」


 続けて口を開く私に、王妃様が顔を上げる。


「――今のは国内の事情に限った場合です」

「っ!?」

「他国の情勢を鑑みた上で必要なのであれば、致し方無い場合もあるのでしょうね」


 私の言葉に軽く目を瞠る王妃様。

 何となくその理由も解るが、触れる気は無いので知らないフリをしておく。


「ご存知でしたの?」

「さて、何のお話でしょう」

「……いえ、何でもありませんわ」


 追及を諦め、普通の雑談に戻る事にしたらしい。

 先程迄の様子は何処へ行ったのか、何事も無かったかのように時間は過ぎていく。



 話す事も無くなり、そろそろ終わりかなと私が思い始めた時。

 其れ迄給仕を行っていた使用人とは別の使用人が、新しいティーセットを持ち込んできた。

 その中には透明な器もあり、入っている物に見覚えがあった。


「……ジャスミン?」

「あら、ご存知なのですか?」

「そうですね。リラックス効果や美肌効果等があったと記憶しています」

「そうでしたの??」

(え?知らずに飲んでるの?)


 キョトンとした様子を見るに、素で知らなかった様だ。

 私の知る限り、周辺国には存在していなかった。となると、態々入手した筈。にも拘らず、飲んでいる当の本人は効能を知らないときた。


「何方の勧めで飲み始めたのですか?」

「此れは、薬師がわたくしの為に取り寄せた品なんです」

「……薬師?」

「ええ、実は少し前から体調を崩していたのですが、原因不明なのです」

「王城には治癒師と薬師が両方詰めていると思っていたのですが、診てもらわなかったのでしょうか?」

「その両方の長が原因不明と診断したのです。ですが、時間を掛けて体調を治せるからと手配してくれたのがこの薬茶なのですわ」

(薬茶?……いやいや)


 そこはかとなくいや~な予感が……。


「見た目でも楽しめますし、最近ではちょっとした息抜きにもなってますのよ」

「もし宜しければ、どういった症状なのかをお聞かせ願えますか?」

「え?ええ……偶に軽い眩暈と、気分が悪く…吐き気のする事があるのです」

「その原因が不明だと……?」

「そうなのです」

「にも拘らず、ジャスミン茶を薬茶と偽って出していると?」

「そ…え?……いつわ?」


 流れで頷きかけ、私の言葉の意味を正しく理解して言葉に詰まる王妃様。


「王妃様の言う症状に、そのお茶は効果がありません」

「そんな……ですが、薬師は確かに効果があると……。継続して飲む事で、いずれは完治の見込みがあるからと……」

(継続して…まさか……いや、確認しないと)

「王妃様、少々お体に触れても宜しいでしょうか」

「な、何故?」

「大事な事です。このまま放置すれば、一生後悔するかもしれませんよ」

「……わかりました。体に触れる事を許します」


 少しの葛藤の末、私に体を触る許可をくれた。

 私は椅子から立ち上がり、王妃様の隣へ移動する。


「失礼します」


 そのまま肩に手を添え、魔力を流す。


「っ!?」

「そのままで、体内を調べます」


 最初はピクッと反応したが、私の言葉で其れ以上動く事は無かった。

 其れを確認して、私はそのまま王妃様の体内を探っていく。

 すると、目的の場所に予想通りの反応があった。


(んー…此れは間違いない)

「どう…なのかしら……」


 私が顔を顰めたのが判ったのか、王妃様が心配そうに聞いてきた。その様子に、控えている使用人の方々も心配そうにしている。


「成程、薬師の言っている事は完全に的外れという訳でも無さそうです」

「あ、あら?そうなの?」

「はい、ジャスミンには子宮が収縮する効能も御座います」

「……?」

「要するに、現在王妃様が煩わされているものの原因である子供が流れて(・・・・・・)しまえば、結果的に(・・・・)吐き気等の症状も無くなりますので」

「――!!?」

「ただ、其れを“治った”と表現して良いものか……私には判断できかねます」

「……………子供?」

「はい、おめでたですね」

「で、でも……治癒師も薬師も、子を授かってはいないと……。わたくしは専門家の診断だからと信じたのに………」

「つまり、確信犯という事になりますね」

「そんな………」


 俯き、呆然とした様子で椅子に背中を預ける。次いでお腹に手を当て「子供……」と小さな声で呟いた。

 信じていた相手に裏切られショックを受けた一方で、子を授かっていた事実にどう反応して良いのかが判らないといった感じだろうか。


「陛下はご存知無いのでしょうか?」

「……その、忙しい時期に心配を掛けてはいけないと言われ、わたくしもその言葉に………」


 言い出したのは薬師らしいが、その言葉に納得して従ったらしい。

 気持ちが解らないとは言わないが……。


「厳しい事を言うようですが、夫婦の間で隠し事は何も良い事がありません。信用という意味でも、思い込みによる誤解・猜疑心を正せないという意味でも」

「思い込み……」

「今回の事が良い例ですね。とは言え、責任の大半は何かしらを企てたその治癒師と薬師な訳ですが……」

「……………」


 考え込んでいるのか、落ち込んでいるのか……。

 その心情を察せる訳では無いが、良い感情で無いのは確かだろう。

 私としても、こんなやり方は気に食わない。


「1つ……王妃様に相談と言いますかお願いが御座います―――」


 顔を上げた王妃様に、私はとある提案をした―――――





「お呼びですかな?」

「本日は体調が宜しいようで何よりです」


 白々しい挨拶と共に現れたのは、王妃様の診断を行った治癒師と薬師の2人。

 この2人は、共に其々の長でもある。

 そんな責任ある立場の者達が、よくもまあ下らない事をしたものだ。


「座りなさい」

「……王妃様、その…お隣の方は……」


 私は今、王妃様の隣に並んで座っている。

 対して治癒師と薬師の2人は、テーブルを挟んで対面に居る。

 そして部屋の中には、先程迄居なかった騎士が数名囲うようにして待機している。


「見届け人です」

「「――ッ!!?」」


 見届け人とは、文字通り成り行きを見届け、正式な国としての記録に残す者の事を指す。主に決闘等で見られる役割で、約束事を反故にさせない為の側面が強い。

 その他、罪人に罪を自供させてその発言内容を記録する役割もある。本来ならば、書記官に当たる人物が担う事が多く、伯爵以上でなければならないという決まりもある。

 この2人が驚愕しているのはその為だ。


「さあ、早く座りなさい」


 王妃様の催促に慌てて着席する2人。心なしか顔が青い。

 見届け人は基本口を出さない。なので、私は黙って見守る事にしている。

 相手が正直に話すとも思っていないが、私の私物に丁度良い物があったのでその点の心配はしていない。


「さて、先ずは各自目の前にある水晶に手を当てなさい。其れからわたくしがする質問に、全て正直に答える事」


 先程迄の私との会話の時より、多少ながらも語気が強く怒りを隠せていない事が解る。

 その様子に戦々恐々としながら、2人は疑問を口にする。


「あの、此れは……」

「何故触る必要が……?」

「その水晶は、嘘を吐くと光る仕様になっています」

「其れは……」

「そんなバカな…そんな魔具(もの)、聞いた事が無い!」

「貴方達の意見は聞いていません。わたくしの質問にだけ答えれば良いのです」

「「っ……」」


 王妃様が目を細めて怒気を放ち、2人が更に萎縮する。

 2人が恐る恐る水晶に手を当てたのを確認し、王妃様が続ける。


「2人共、わたくしが子を授かった事に確信を持っていましたね?」

「「……………」」

「沈黙は肯定と見做します」

「い、いえ!私は知りませんでした!!」

「――おいっ、バカ!!」


 答えたのは治癒師の方、薬師は其れに対し反射的に罵倒した。

 瞬間、治癒師の水晶がほんのり赤く光る。


「言った筈です。嘘は解りますから正直に答えなさい。今わたくしは、知ったうえで確認をしているだけに過ぎません。貴方達が嘘を重ねるのであれば、其れだけ罪が重くなるのだと心得なさい」

「も、申し訳ありませんでした!!」


 王妃様の脅すような言葉に、治癒師の方が突然謝罪を始めた。


「私は逆らう事ができなかっただけなのです!なのでどうか!どうか御恩情を!!」

「お、お前!裏切る気か!?」

「喧しい!そもそもお前がミスをしなければこんな事にはならなかったのだ!!」

「何をぅ!?お前こそ他人の事を言えないであろうが!!」


 流れるように言い争いを始めた2人。

 治癒師の方は既に諦めたようだが、薬師の方は未だに抵抗する気らしい。

 王妃様は2人を止める気は無いようで、黙って眺めている。2人が勝手に喋っているので、そのまま情報を引き出す気かもしれない。

 何にせよ、思ったよりも呆気無く終わりそうだ……………。


ブクマと評価、ありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] >治癒師の方は既に諦めたようだが、薬師の方は未だに抵抗する気らしい。  んー?  問題が更に発展する流れですかね?  具体的に言えば、この二人にそうやれと指示した上の人間が出て来る展開…
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