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勧誘と魔法の訓練開始


「ん~…美味しい!」


 ルナリアさんが合流した事で、食事は私達だけで摂る事にした。

 人数的な事もあるが、一番の理由はこの前の試食の時みたいな食事をメインにしたいからだ。

 家族は皆同じ物を食べたがったが、未だ試作段階だからと言って断っている。


「其れで、これらを出すお店があるんですか?」

「まだ準備中。夏季休暇の間には間に合わないから、こうして振る舞ってるの」

「……其れは残念」


 先程迄、ルナリアさん抜きで試食会をしていたと聞いて落ち込んでいたのが、今度はすぐには食べに行けそうにないと知って落ち込んでいる。

 王都には出店しないので、学院に通っている間はなかなか食べには行けない。


「王都には出さないんですか?」

「そうね。今出してる雑貨店にも割とちょっかい掛けられてるから、対応が面倒なの」

「え?そうなんですか!?」


 私のボヤキに、イリスが反応する。


「そうなの。だから、王都には他のお店も出す気は無いの」

「ちょっと残念ですね……」

「まあ、真似をするお店がすぐに出てくると思うし、そのうち王都でも食べられるようになるんじゃない?」

「あれ?秘匿しないんですか?」

「詳しいレシピを教える気は無いけれど、そのうち調味料とかは広める気でいるから時間の問題じゃないかな」


 完全に独占できるとも思ってないし、する気も無い。

 寧ろ、料理人が其々工夫を凝らして種類を増やしてくれる方が楽しめるしありがたい。

 先に調味料を広めていないのも、こういった料理に使ってますといった宣伝をして、認知度を上げてからの方が広まるのも早いと思っているからだ。

 そんな感じで、私の考えを伝えた。


「なるほど~。でも、すぐに広まりますかね?」

「そうよね、辺境からだと、反対側の領地に届くのも時間が掛かるんじゃない?」

「いやいや、王都から一気に広まると、生産量が追い付かなくなると困るし、端から徐々に広まる方が都合が良いの」

「お店の立地条件の時にも同じような事言ってたわね」


 ルナリアさんとフィーナの疑問に答えると、フィーナが思い出したように言った。


「人手不足ね。ある程度は魔具や機械で効率化しているけれど、だからこそ余計に雇う人員に気を遣う必要があるっていう……」

「ちょっとした悪循環ね」

「アハハ……」


 フィーナの鋭いツッコミに、乾いた笑いが出る。


「2人共手が止まってますよー。暖かい内に食べないと、美味しさ半減ですよ」

「其れもそうね」


 話は後でという事で、食事を再開する。

 メインはカレーライス。お米が手に入ってから食べたかったものの1つだ。

 他に、野菜スープや食後のデザートもある。

 カレーそのものはナンで食べた事もあって驚かれなかったが、お米はかなり喜ばれた。イリス以外は朝食も御飯派だったらしく、できればお米を分けて欲しいと言われた。「炊けるの?」と聞いた所、「大丈夫」「問題無い」との事だったので、帰る時のお土産で渡す約束をした。

 食後のデザートはアイスクリーム。牛乳や卵を入手後、試行錯誤した物だ。


「おぉ、バニラアイスだ。私、アイスの中で一番バニラ味が好きなんですよ」

「私はチョコですね」

「私はどれも好きね。アイスクリーム全般好物よ」


 イリス、ルナリアさん、フィーナの順で其々感想を述べる。

 思った以上に好評なようだ。

 この世界でも氷菓は存在するが、かき氷に似た物しか見た事が無かった。未だ見ぬ国や大陸にはあるかもしれないが、材料も揃ったし作っちゃえというノリで作った。味はまずまずの仕上がり。


「実はプリンとかも作ったんだけれど―――」

「食べたい!!」

「――ぅおっ、凄い食い気味ね」

「当然!プリンが嫌いな女子なんて居ないわ!!」

「や、居ない事もないんでは……」

「と言うより、一緒に出してくれれば良かったのに」

「1日一品ね」


 食い付きの良かったフィーナにそう言うと、反論があった。


「パフェにすれば一品じゃない」


 その通りである。


「まあまあ、滞在日数は未だ余裕もありますし、良いじゃないですか」

「……其れもそうね」

「そう言えば、ユリアさんのお店にはデザートが有りませんでしたね」

「ああ…其れはね、一応お食事処ではあるけれど、デザート類は私が貰う領地でスイーツ店を出そうと思っているから」

「「「え?」」」

「……?」


 私の言葉に驚いた顔をする3人。

 その反応を疑問に思っていると、イリスが躊躇いがちに口を開く。


「ユリアさん、領地持ちになるんですか?」


 その発言に、ああそう言えば初めて言ったわと気付く。


「約2年後らしいわ。多分未だ本決まりじゃ無いんでしょうけれど……」


 私はレイエルから聞いた話を3人に話す。

 恐らく拝領は避けられない事も含め説明していると、3人共考え込み始める。

 その様子を見て、私は聞きたかった事を聞いてみる事にした。


「恐らく、皆が学院を卒業するタイミングくらいになると思うの。でね、以前うちの商会で働かないか聞いた事があったでしょう?」

「「「そうね(ですね)」」」

「前向きな返事を貰ったと思うけれど、その意志が変わってなければ、将来私の領地で働かない?」


 何気なさを装ってはいるが、内心では断られたらどうしようかとビクついている。

 大丈夫と思う一方で、場所が変われば気が変わる可能性も否めない。

 そんな私の心配を余所に、返事は随分とあっさりしたものだった。


「私は場所が変わっても気にしませんよ」

「是非お願いするわ」

「同じく、お願いします!」


 私は気が抜けると同時に、ルナリアさんに尋ねる。


「ルナリアさんの所は、許可出るの?」

「問題無いです。両親の許可は既に貰っていますし、家の事なら兄達が居ますから」


 要らない心配だったようだ。先ずは一安心。


「なら良いけれど、私も助かるし」


 此れは本音だ。

 秘密を共有している分、他の人達よりも信頼できる。転生者という繋がりもある。

 其れに、各々別種とは言え働いた経験もある。まあ、なるべくその経験を活かす方向で考えているし、慣れてしまえばそんなに苦労を掛ける事も無いと思っている。


「念の為に言っておくけれど、領地の件は内密にね」

「先の話だからですよね?」

「心配しなくとも、言うような相手も居ないしそのつもりも無いわよ」

「そう思うけれど、一応ね、一応……」


 態々皆が自分から言い触らすとは私も思ってはいない。ただ、だからと言って確認しないというのも、私の此れ迄の経験上良くないとの判断だ。


「で、明日はどうするの?」


 話は終わったとばかりに、フィーナが明日の予定を聞いてくる。

 本来であれば、ルナリアさんも連れて育成院へ行くのも良いかなと思っていた……のだが、今日の様子を見るに……。


「魔法の訓練といきましょうか」

「よしきた!」

「良いんですか!?」


 やはりと言うべきか、皆早く魔法を使いたかったみたいだ。少々反応がオーバーな気もするが、これ程喜ばれると私まで嬉しくなる。イリスも「……やった」と小さくガッツポーズを取っている。

 それじゃあ今日は早く休もうかという流れになり―――


「……ちょっと狭い」

「ならくっ付けば良いじゃない」

「ふぐぅ……」


 ――何故か皆で一緒に寝る事になった。

 ベッドのサイズは大きめなのだが、流石に4人で寝るには狭い。

 だからこその私の文句に、フィーナは私を抱きしめてきて、他2人も便乗している。


(くっ、良い香りが……人の気も知らないで………)


 それなりに馴染んできたこの身体だが、心は未だに男のつもりだ。この状況もちょこーっとだけ嬉しかったりする訳で……。

 つまり、強く抵抗できない。

 ……この状態でちゃんと寝られるのだろうか?

 そんな私の心情を知ってか知らずか、早くもフィーナ達は寝息を立て始めた。



 翌日、私は当然のように寝不足になった。

 欠伸を噛み殺しながら朝食を済ませ、皆で庭へ出る。因みに、朝食は御飯では無くトーストにハムエッグ、其れからサラダとスープだった。


「眠そうね」


 フィーナがにやにやしながら聞いてくる。


「……そうね」

(絶対、理由解ってるでしょーに。それにしても……)


 随分と性格が変わってしまったものだ。いや、記憶が戻ってからだから以前に戻ったという方が正しいのだろう。でも、以前のフィーナは純心で恥ずかしがり屋で…兎に角、普段から可愛かった。


「ちょっと残念だわ」

「ん、何?」


 私の呟きが聞こえていたのか、フィーナが聞き返してくる。


「や、前のフィーナは可愛かったのにー…てね」

「ちょっ……いきなり何よ」


 私の言葉に、頬を染め軽く睨んでくる。

 うん、こういう表情は好きだ。





「何か急にいちゃつき始めましたよあの2人」

「そうみたいね、完全に私達の事忘れてるっぽいよね」

「あ、頬を染めてますよ」

「何を言われたのかしら」

「気になりますけど、あの雰囲気の中に入っていくのはちょっと……」

「そうよね」


 イリスとルナリアさんが小声で話し合っている事には気付かなかった





「わ、私も傷ついたりするのよ」

「ああいや…ごめん」


 以前との比較をしていると、フィーナが拗ねた。拗ねた表情のまま、沈んだ声で言われたのでつい反射的に謝ってしまう。


「一応言っておくけど、“フィーナ”であった頃の記憶は無くなってないんだからね?其れもあって、記憶が戻ってすぐに想いを伝えられたんだから」

「え?其れってどういう……」

「ユリアのお陰でそっちの気があったようよ。…と言っても、一緒に居られれば満足って感じだったようだけど」

「あ、あー……そういう」


 “そっちの気”がどういう意味かは問う必要もあるまい。


「だから、混乱はあっても関係無いやって思えたのよ」

「なる…ほど?」


 思わず疑問符が付いたのは、混乱の内容を理解しきれていないからだった。


「ま、その勇気を振り絞った告白も、保留のままだけどね?」

「ゔっ、その……」

「良いのよ、多分理由は解ってるし。……貴族の義務ってやつでしょ?」

「……そうね」


 この世界……少なくともこの国では、貴族の義務に“世継ぎを残す”というものがある。此れは血統を絶やさない為という側面が強く、全ての貴族―――一代限りの貴族でも、その後功績を上げて永代となる可能性もある為―――に求められる。

 と言っても問題は其処では無く、その為に認められている重婚制度にある。一夫多妻でないのは、言葉を気にせずに言ってしまえば男が種無しだった場合に困るからだ。女当主であれば尚の事。

 貴族の中には、同性愛者も存在する。

 原則、異性が1人居れば重婚は認められる。逆に言えば、異性が1人は居なければならないのである。

 異性……つまり私の場合、男とも結婚しなければいけないのだ。考えただけで寒気がする。

 勿論、不老である私の場合、厳密に言えば世継ぎは必要無い。しかし、其れを馬鹿正直に周知した場合、様々なトラブルが舞い込んでくるのが目に見えている為、何処かで表舞台からは退場しなくてはならない。

 結果として、相手が決まっていない今の状態で同性と友人以上の付き合いをするのは、もの凄く外聞が悪い。


 フィーナの事は好きである。

 以前と今で比べても、比べなくとも結論は同じだと思う。

 とは言え、今のままでは周囲が騒いだ場合の面倒事が多すぎる。その面倒事を力業で解決しようと思う程、この国を見限っている訳でも無い。少なくとも生まれ故郷であるという認識と、愛着もある。

 だからフィーナには申し訳無いが、今しばらく待ってもらう(ほか)ない。


「ほらほら、辛気臭い表情(かお)しないの。さあ、魔法の練習をするんでしょう?」


 沈んだ空気を払拭するかのように、フィーナは努めて明るく言った。


「……そうね。それじゃあ、やりましょうか」

「で?何からすれば良いの?」

「ええと、先ずは……って、他の2人は?」

「――やっと思い出しました?」

「このまま2人の世界から帰って来ないんじゃないかと心配しました」

「「うっ……」」


 若干の棘を感じる声に、フィーナと2人揃って言葉に詰まる。

 ちょっと放置し過ぎてしまったようだ。



「さて、気を取り直して魔力を練る事から始めましょうか」


 先程は冗談だったらしく、2人はすぐに機嫌を直してくれた。

 魔法はイメージ、次いで魔力を必要な量即座に練る事が重要である。必要な量は、魔法の規模や発動させる距離によって変わる。

 イメージに関しては3人共大丈夫だと思うので、魔力を練るところからという訳である。


「皆は魔具の使用とか魔力供給で、魔力の扱い自体には慣れてると思うから、体内での動きを正確に感じ取れるか確認してみて」

「体内での……」

「動き……」


 皆は目を閉じて集中し始める。その様子を、私は魔力視で確認する。


(ルナリアさんが一番上手いかな?)


 体内での動きを正確に感じ取る。

 言葉にすると簡単だが、実は結構難しい。

 意識し過ぎると、体内を自然に巡っている魔力の流れが乱れる。そして其れは、意識による影響力を計る事にも繋がる。態々“正確に”と付けたのは、自身の自然な状態を把握してもらう為でもある。

 ルナリアさんはほぼ変化していない。フィーナとイリスは少しだが乱れている。


(でも、魔法を行使するのに問題は無い。魔力制御は並行して訓練すれば良いし、この分なら大丈夫かな……)


 全員が把握できたようなので、今度は意図的に一点に集中させられるかを試す。一度で成功した。

 多分、皆すぐに魔法を使えるようになるだろーなーと思いつつ、さて何から教えようと頭を悩ませる私なのであった……………。


ブクマと評価、ありがとうございます。


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