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御招待


「お世話になります」

「今年も宜しくお願いします」

「そう畏まらなくても良い。ユリアの友人ならば、何時でも歓迎しよう」


 学院では夏季休暇に入り、今年はフィーナとイリスの2人が我が家へ滞在する事になった。

 今は私の父と挨拶を交わしている。

 イリスは、以前協力をお願いした上下水道が完成したのでその視察に一緒に行く為であり、フィーナは「イリスばかりずるい!」とちょっとだけおこだったので一緒に来る事になったのであった……………。





 あの後、レイエルから他にも色々と話を聞いた。

 その内容から、まず間違いなく未来が視えているであろう事は理解し、其れに関して今迄の事を色々と文句を言ったのだが、世界を管理するルール上、レイエル自らが手を出す事ができないから仕方が無いのだと言われた。だから、会いに来たついでに私に注意するよう助言を行うという形を取ったらしい。

 此れ迄を思い返し、納得できない行動が多々有ったのでその辺りを聞いてみると、私に干渉するのはグレーゾーンではあるもののセーフなのだと言っていた。………本当だろうか?

 何にせよ、詳しくは教えてくれる気は無いようで、深く聞こうとする度に話を逸らされた。



 収穫としては、あの群島にある動植物は絶滅しないという話と、魔法陣について聞けた事くらいだろうか。

 レイエルによると、稲は最高品質で収穫できるうえ、種等を残さず全て刈り取ってもまたすぐに同じ場所で生えてくるらしい。果樹も同じで、実が生ると言うよりは再生する勢いで復活するそうだ。動物も、魔物として生成したから一定の数を下回ると自然発生するらしい。……もう何でもありだなと思ってしまった。

 現状、収穫や狩りには自分で行かなければならないというだけで、それらもそのまま市場に流す気も無いので数も必要無く別に困らない。何より世話要らずなのが素晴らしい。とてもご都合主義で歓迎すべきプレゼントだった。


 魔道具に関しては、重要っぽい話をすると答えてくれていなかったので期待せず聞いたのだが、返って来たのはキョトンとした反応だった。どうやらあの時の事は覗かれていなかったらしい。なので、その辺の事情を説明すると、意外とあっさりと教えてくれた。

 一応は古代の技術で、現代では遺跡からの発掘品くらいしか現存していないそうだ。製作や修理のできる者も存在しないらしく、私が自分で作ろうとするのなら教えても良いとまで言われたが、今は特に困っていないし作る気も無いので遠慮しておいた。


 という事で、思ったより有用な情報も聞けて一応感謝もしているのでその点は素直にお礼を言うと、レイエルは私が試作しているお酒が欲しいと言ってきたので一通り渡した。試飲は未だなので、後日感想が聞きたいものだ。そう言うと、にやにやしてとても意味深な笑みを返してきた。……私は別にデレた訳では無い。

 思わず軽蔑した視線を向けたのだが、今度は悦んでいた。相変わらずなようで何より(皮肉)。

 その状況に長居したくなかった私は、すぐに帰った。



 イリスからの連絡が有ったのは丁度そのタイミングで、ざっくり言えば“迷惑でなければ今年もお邪魔したい”という内容だった。

 勿論大丈夫だと二つ返事でOKを出し、迎えに行く為に日時を決めていた所、偶然(・・)現れたフィーナがイリス経由で同行を申し出たというのが今回の経緯だったりする。

 私としては断る理由も無いし嫌でも無いので、勿論大丈夫だと返答しておいた。

 1人だけ仲間外れにするのも……と思い、ルナリアさんにも聞いてみた所、一度領地に戻る必要があるけれど来てみたいという事だった。なので、連絡を貰ってから私が迎えに行く事にした。


 と言う事で、イリス達2人を迎えに行く日迄には十分な日数が空いていたので、私はその間に群島を調べ直していた。

 無事に牛と鶏も発見し、牛乳と卵の確保にも成功した。更に、群島の1つには前世で一般的…と言うかメジャーな果物が一通り揃っているものもあった。何故かバナナだけは無かったのだけれど……。

 今は牛6頭と鶏12羽を連れ出し、他の場所でも飼育が可能かを試している。最初にテュールが近付いた時には、必死に逃げようと暴れ出して大変だった。

 その際、テュールには気配や威圧感を抑えられるよう訓練して欲しいと頼んだ。今後も似たような事があると困るので……。

 今の所飼育は順調で、牛も鶏も環境に慣れたのか群島に居る個体とほぼ変わらない状態で落ち着いている。とは言え、数を増やすには人手が足りないので現状維持にせざるを得ない。当面は、自分が必要な分は群島へ行って確保する必要があるだろう。

 他にも、例の島流しにしていた囚人達―――私の主観―――の様子をこっそりと見に行ったのだが、四肢を奪った者は亡くなっていた。どうやら、自分達が生き延びられるかどうかが不安な状況下では、誰も助けようとは思わなかったようだ。

 ただ、群島がレイエルからのプレゼントだと知った今、このまま囚人達をあの島に残すのもどうだろうかと悩んだりもした。だが、結局は他に良い案が浮かばず現状維持としている。


 後は劇団を訪ねたくらいだろうか。

 約束した日に訪問すると、言動に違和感のある人が複数居たので調べてみた。すると、劇団を潰したい勢力―――主に商人―――から送られてきた工作員であったと判明。どうやら目に付かない所で足を引っ張り、意図的に妨害していたらしい。

 その話については、また機会があった時にしようと思う。


 そして、忘れてはならないのがメイという名の少女。

 レイエルから聞いた話をそのまま伝える訳にもいかず、場所の確認と移動手段を確保する為に時間が掛かるという事にして説明した。

 メイは納得してくれたものの、見知らぬ土地での生活はやはり不安なのだろう。沈んだその表情を見ていると、別に私が悪い訳でも無いのに罪悪感が半端なかった……。

 今は、本人の申し出もあって養蜂場で手伝いをしながら生活している。


 後は港の件、レイエルに聞いた船の事が気になってマリウス達に監視要員を頼み、報酬として住居を用意した。

 ……まあ、正確には何処からか私の行動を聞きつけて現れたマリウスに懇願され、急遽用意しただけだったりする。住居は海岸沿いと王都の2箇所で、使用者に制限を掛けた転移扉で繋いである。情報収集の為に王都へも頻繁に出向く必要があると聞いた私が、それならばと口外禁止の契約をしたうえで提供したものだ。

 王都の住居は私の別邸という事になっており、マリウス達は対外的に屋敷の管理を名目にして使用人として雇った事になっている。

 特にシトリーが喜び、気合を入れて屋敷を清潔に保つと宣言していた。


 とまあそんなこんなで、ここ最近は忙しなく動き回っていた。

 其れも此れも、全ては学院の夏季休暇に間に合わせる為だった。





 2人が来た翌日、麦畑エリアへと来ていた。

 上下水道の視察には日数に余裕があり、町にでも連れて行こうかと考えていた私にフィーナとイリスが畑を見てみたいと言い出し、私が了承した結果先ず此処へ来た。

 このエリアでは、小麦・大麦・ライ麦の3種類が栽培されている。

 2人が畑を見たいと言い出した理由は、学院にある元私の薬草畑と比べてみたかったのだそうだ。

 畑に興味を持つなんて……と感心しかけていた所、こっちの妖精の規模を見てみたかっただけらしい。


「此れは……」

「事前に聞いてなかったら口開けたまま間抜け面になってた自信がありますよ、私」

「同感ね」


 2人共、今は眼鏡を着用している。例の精霊が見えるようになる魔具だ。

 “精霊視”と名付けたものの、こうして妖精も見えてるんだよなぁ…などと、どうでも良い事を考えてしまう。

 そんな私を余所に、イリスは近寄ってしゃがみ込み、フィーナはメモ帳を取り出して周囲を見回しながら何やら書き込み始める。


「おぉ。……この子達の方がちょっと大きいかな?」

「成程、このサイズの畑に対してこの密度って事は……」

(密度………?)


 フィーナは良く解らない事を呟いていたが、真剣な表情をしていたので聞くのは止めておいた。


 他の畑も巡り、作物の状態や妖精の観察、道中の整備された路面等について話したりしながら時間が過ぎていった。

 途中、ついでに寄った果樹園では採れたての果物を少し貰い、試食と称して皆で食べた。都度、飲み物の準備をしてそっと出してくれたリンには感謝しかない。


 帰り道。


「明日は町へ行こうと思ってるんだけど」

「行ってみたいわ!!」

「私も行きたいです!」


 という事で、明日の予定が決まった。



 翌日、昼前に合わせて私達3人は町へ繰り出した。

 妹のミリアも来たがったのだが、母に捕まって断念した。

 お供は昨日に引き続きリン。加えて、ケンが久々に護衛を兼ねて一緒に居る。


「おー、想像よりもずっと賑やかね」

「……去年よりも人が増えてる気がしますね」


 初めて来たフィーナは興味津々に、前回も来た事のあるイリスはその時と比べていた。


「それじゃ、早速お昼にしましょう」


 私の言葉に2人が頷いた事を確認し、とある場所へと案内する。

 少し歩くと、人通りが比較的少ない通りに出る。そしてその通りに面した場所には、私達―――転生組―――が見慣れた……しかし、周囲とは雰囲気の違う店が建っていた。


「え?あれ、ファミレスじゃない?」

「あっ、ほんとですね」

「あれが目的地よ」


 私の言葉に、少しだけ吃驚した顔になる2人。ちょっとしたサプライズのつもりだったのだが、無事成功したようでなによりだ。

 が、その店の様子を見た2人は怪訝な表情へと変わる。


「……閉まってるみたいだけど?」

「……ですね」

「ああ、其れはオープン前だからよ」

「「え?」」


 実は、此処は最近建てたばかりの私のお店だったりする。

 フィーナが言ったように、ファミレスを意識して設計されたもので、建物は完成しているのだが内装やメニュー決めの途中だ。

 そんな店に連れて来た理由は単純で―――


「今日は試食会でーす!!」

「えっ!?良いの!!?」

「試食会って、ちょっとだけ特別感がありますよね」

「という訳で、表口じゃなく従業員用の出入口から入りましょう」


 ――2人を試食に巻き込……もとい、協力してもらう為だ。

 驚きつつも嬉しそうに了承してくれる2人を見て、ちょっとだけ罪悪感があった私は安堵した。

 別に騙した訳でも無いが、試食よりも普通に何処かの店で食べる方が良いと思われる可能性も考えていたからだ。2人共、思っても口には出しそうにないのだが、今の表情を見るに大丈夫そうだ。


「お待ちしておりました、ユリア様」


 入ってすぐ、このお店の料理長が出迎えてくれた。


「既に準備は整っております。ささ、此方へ…お連れ様もどうぞ」


 案内に従い、店内に設置されたテーブル席へと座る。

 私達は4人席に3人で座り、リンとケンは別の席へと座る。2人は護衛も兼ねているが、此処の従業員は育成院出身で顔見知りな為、食事はずらさず同じ時間に摂る事にした。

 全員が座った事を確認し、料理長が再度口を開く。


「改めまして、皆様ようこそおいでくださいました。先ずは、本日の趣旨を説明させていただきます。此れから皆様に提供させていただきますのは、メニューに載せる予定の料理となります。この料理はユリア様より伝授されましたレシピを基に練習したもので、我々がアレンジを加え工夫を凝らしました。試食という事で多くの種類を食していただく為、一皿分の量は少なくしております。最後には忌憚なきご意見を賜れればと思っております」


 説明の終わりに合わせ、料理が運ばれてくる。


「それでは皆様、ごゆっくり」


 最後に一礼し、料理長は去って行く。

 私達の前に並べられた料理は、其々小皿に盛られている。ざっと見ただけでも、実に10種類を超える数になる。この国で10種類を超える料理を提供するお店は、王都でも父のお店くらいしか私は知らない。その父のお店も、カレーのスパイス配合率を変えたものを含めての話である。

 なので、競争という意味でも他の料理店に負けない店となるのは間違い無いと思っている。

 並べられた料理を見て、フィーナは呆れた表情になり、イリスは苦笑していた。


「ユリア、此れはやり過ぎじゃない?」

「寧ろ頑張り過ぎだと思います」

「あちこち食材を探し回った成果ね。……ひょっとして、嫌いな物があった?」

「いいえ、好物ばかりよ」

「私もですね」

「なら良かった」


 目の前に並んでいる料理は、どれも前世で一般的なものばかり。特に、卵料理が多目だ。

 卵は売るには少ないが、個人で使う分やお店で出すくらいなら十分足りる。

 他にも、魚を使った料理や和食もある。


「好きに食べて。ただ、最後に感想を聞くからそのつもりでお願い」

「わかったわ」

「わかりました」


 2人は頷くと同時に、其々目当ての皿を取って食べ始めた―――――


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