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お披露目と言う名の晒し者

 人は他者より優位に立ちたい生き物である。

自分が優れている点を大々的に触れ周って自分は上だと言う人や、他人の劣っている点を指摘して自分の方が上だと言う人。前者は他人に迷惑を掛け難いが、後者は他人に迷惑を掛ける前提となっている。勿論、そういった人達ばかりでは無く、優れている事をひけらかさない人も居る。とは言えだいたい目立つのは、自ら行動を起こす者だろう………





 王都の屋敷に戻り、出迎えた使用人が一斉に目を見開くというレアな光景を()の当たりにしつつ、何か?といった態度を崩さず父が居る部屋を訪れた。


「只今戻りました。お父様」

「ああ、おかえ……り?………ユリア?」

「はい、ユリアです。お父様」


 顔を上げ私を見た瞬間、髪色の変化に気付いたのかぽかーんとした表情に変わった。


「そ、その髪は……どうしたんだい?」

「その事で、大事なお話があります」

「………わかった」


 私の真剣な表情を見て取った父が、使用人に呼ぶまで来るなと人払いをしてくれた。


「本日、教会へ(おもむ)きました。そして礼拝を行ったのですが、そこで問題が発生しまして」

「問題?………それが髪の色が変わった事と関係あるんだね?」

「ございます。順序立てて説明致しますね。教会に到着した私は———」


 教会に着いてからの一部始終を、父へ説明した。とはいえ、転生云々の事は(はぶ)いて。

 先ず、心象を良くする為に寄付金を納めて礼拝を行った事。

 その際、女神様からの接触と呼ばれる現象が起きた事。

 その影響で、髪色が変化した事。

 女神様からちょっとした依頼を受けたので、今後それ関連での行動には目を瞑って欲しい事。

 その時、家族に影響が出る場合には(あらかじ)め伝える事。

 依頼を受ける代わりに特殊な魔法・魔術を授かった事。

 教会のマール司祭に、女神様からの接触を知られている事。

 そのマール司祭に、しつこく教会へ所属する様勧められた事。


「くっ、ぬぅぅぅ………」


 父が頭を抱えてしまった。


「お父様、そう難しく考える必要はございませんわ」

「いや、だが……」

「普段通りになさってください。私が自分で対処しますので、お父様は私の力が及ばない時に助けてくださいませ」

「………わかった。だが、教会の対応は当面俺がしよう」

「ふふっ、ありがとうございます」

「ふむ………ところでユリア」

「?……はい」


 父が真面目な顔に戻り、此方を見ている。


「特殊な魔法と魔術を授かったと聞こえたが、間違い無いか?」

「はい。間違いありません」

「……それが何かは聞かせてくれるのかな」

「そう、ですね………」


 最初から全ての人に隠せるとも思ってないし、実際に使う時の事を考えると、身内は知っておくべきだとも思う。

 問題は、どの範囲まで身内とするかだろう。


「お父様には(・・)、お教えした方が良いと判断致します」

「……ほう」


 には(・・)と強調して伝える事で、教える人は限ると言外に伝えたが、ちゃんと理解して貰えた様で安心した。


「魔法に関しては見ていただきましょう」


 そこで、亜空間に放り込んでいたカップを取り出して見せた。


「っ!!?……今、何処から」

「物を出し入れできる空間です。目に見えない倉庫が有ると思ってください」

「何?………ならば、大量の物資が運べるのか」

「そうですね、ですが私には他の利点がございます」

「他の?」

「それは内緒です」


 手ぶらであれば、動きやすいといった理由もあるのだが、私としては別視点での意味も含んでいる。しかし、それを言ってしまうと父が心配してしまうと思うので言う気は無い。


「ふむ、残念だがユリアがそう言うのならこれ以上は聞かないよ。それで、魔術の方はどうなのかな?」

「それなのですが、恐らく実際に見ていただかないと信じられないと思います。ですので、準備でき次第お教えしたいのですが、構いませんか?」

(扉の設置場所が無いからできないし、そもそもそれ用の扉がまだ無いし)

「……………むぅ、わかった」

「では、失礼致します」


 渋々ながらも了承を得たので、礼をして退室し自分の部屋に移動した———


 その日の夕食後、改めて父に話しがあると言われ、さあ何を聞かれるのかと身構えていると、意外な事を言われた。


「え?………えっと、もう一度お願いします」

「お披露目用のドレスを至急仕立て直す事にした」

「その……何故でしょうか?ドレスならば既に2着用意していたと思うのですが」

「それは勿論、可愛いユリアに最も似合うドレスを準備しなくてはならないからだ!」

(あ、忘れてたけどお父様も親バカだった)

「そして今準備してあるドレスは、前のユリアに合わせて仕立てていた物だ」

「前のって、王都に向かう直前だったではありませんか」

「いや、致命的に違うのだ!」

「え……と?」

「ふむ、聡いユリアにしては珍しくわからないのか」

(そう言われても心当たりが無いのです)

「良いかい?ユリア……今あるドレスは前の、青銀色の髪に合わせて仕立てていたのだ」

「色………あっ」

「そう、そして今のユリアは桃色の髪である。ならば、その色に合わせたドレスにしなければユリアの可愛さを十全に発揮できないのだ!!」

「そ、そうですか………ですがお父様、もう日がありませんよ」

「安心すると良い。明日から至急で依頼すれば、何とか間に合うと思う。料金も倍払えば、きっと快く引き受けてくれる事だろう」

(えー………)

「という事でユリア、明日からは屋敷に居てくれ」

「……承知致しました」


 父のキラキラした顔を見ていると、嫌とは言えなかった。

 我ながらこういった時には意志が弱いと思う………





 ドレスの仕立ての為、屋敷で待機して早数日。遂にお披露目の日がやって来た。

 お披露目を行うのは王城の敷地内にある別棟で、爵位に関係無く公的な集まりがある場合に利用されるそうだ。

 多くの場合、このお披露目を切っ掛けにして、自分より上の爵位を持つ家と繋がりを得ようと、皆必死になるらしい。

 やりたい事が明確になっている私には、それに必要でない限りは関係の無い事だと楽観視していた。

 そしてそんな私は今、別棟へ向かう途中の道を少しそれた場所に居た。


「これって、もしかして………」


 現在父は、挨拶に行くと言って別行動している。相手は聞いていない。

 その挨拶の為に早く登城していたので、こうして気になったものを見に来たのだった。


「ラベンダーに、ハイビスカス。あれはジャスミンかしら?見た事ないのも有るけど、ここはハーブ園なのかしら」


 手入れを丁寧に行っているのがわかる程に美しく、且つ規則的な間隔で並んでいる花達。

 周りが木々に囲まれているのも、幻想的な雰囲気を演出してとても心が安らぐ。

 前例が何方(どちら)もあるので、名称が一緒かどうかはわからないが、知っている花が観られるだけでも嬉しいものだ。

 そうしてハーブ園を眺め時間を潰していると、肩に乗って寛いでいたスーが突然起き上がり、木陰の一点を注視し始めた。


「?」


 珍しい反応だったので、気になって目で追ってみると、木の根元に小人サイズで羽根のある子がぐったりとしていた。


「わふっわふっ」

「?……行けば良いの?」

「クゥーーン」


 スーは肯定するかの様に、私の顔に頬擦りしてきた。

 ならばと私は近付きしゃがんで様子を伺う。

 顔色はよくわからないが、呼吸が浅い気がする。


「クゥーン、クゥーン」


 スーが地上に降りてその子に近付き、私の方を見てくる。

 そして以前、セシリアから教わった事を思い出した。


「魔力をあげれば良いのね?」

「わふっわふっわふっ」


 正解とばかりに、軽く飛び跳ね始めるスーに癒されながら、恐らく精霊と思われる子に手を当てて、自分の魔力を少しずつ流してみた。

 徐々に呼吸が正常になり、少しすると目を覚ました様で、起き上がって私の方を見てきた。


「大丈夫?」

「………」


 にぱーっ、という擬音が聞こえてきそうな笑顔で頷いてくれた。


「えーっと、話せないのかしら?」


 スーが、定位置である私の肩に登ってきた。すると、それを見た精霊の子が羽根を動かして飛び上がり、私の周りを飛び始めた。


「……大丈夫そうね」


 そう言って立ち上がり、歩き出そうとした私の前に慌てた様子で精霊の子が移動してきた。


「?……どうしたの?」

「わふっ」


 スーが私と精霊の子を交互に見て、一鳴きした。


「………あ、一緒に来たいのかしら?」


 またしてもにぱーっ、と笑顔になって頷く精霊の子。

 別に付いて来ることに抵抗は無いので、了承する。


「良いわよ。なら、名前を付けてあげないとね」


 それを聞いた精霊の子は、とても嬉しそうに飛び回っている。


「んー、スーと似た名前にしたいから………『ルー』でどうかしら?」

「わふっわふっ」


 精霊の子……ルーは嬉しそうに頷いているので、良いのだろう。

 我ながら安直だが、あまり凝った名前を考えるのは苦手だから仕方無い。


「さて、行きましょうか」


 そこそこ良い時間が経過していたので、丁度良いと思いお披露目会場へ向かう事にした———


 その時、離れた場所の塔から、望遠鏡を使って此処の様子を観ている者が居た事に、私は気づいてなかった………





 会場に到着した私は、他にも何人か居る事を確認して壁際に向かって行った———


 事前に渡されていた式次第によると、時間になった時点で参加予定者が揃ってなくとも始まり、先ず国王様の挨拶がある。

 次いで今年10歳となる子達は、国王様から直々にお言葉を賜る。この時の順番は、位の高い順となっている。そして、お言葉を賜ると言っても、質問されれば返さなければならないので、会話と言った方が良いかもしれない。それに普段は許されていないが、この時のみ直答が事前に許されている。

 その後、社交会を模した立食形式のダンスパーティーを行う。

 終わりに、再度国王様からの挨拶があり閉会となる———


 一応表の意味としては、これから社交会に出る子供達の練習といった形であるが、裏の意味は貴族間の派閥を形成する場でもある。


「必ず一度は人前に出ないといけないのよね………」


 国王様からお言葉を賜る時、1人ずつ個別に行われる為、他の人は遠巻きに見るだけとなる。唯それだけに、必ず会場の全員から見られる事になる。

 因みにその時の受け答えが、今後の人生を左右する事もあるらしい。

 壁際から会場の様子を何となしに見ていると、いつぞやのスリ騒動の時の青年が居た。

 身形(みなり)からして平民では無いと思っていたが、まさか同い年とは思わなかった。

 その青年は、美人寄りの可愛さを持った女の子と会話していた。


(どうやら軟派な人の様だし、この前はさっさと引き揚げて正解だったようね)

「国王陛下!並びに王族の皆様入場!!」


 どうやら時間が来たみたいだ。

 普段は個別で呼ばれるが、お披露目では省略されているらしい。

 壇上奥から、国王らしき人を先頭にして計8人が現れた。

 私は周りに合わせて礼を執ると、目線だけで様子を伺った。

 壇上に並んでいる椅子の、真ん中に座った人が国王だろうが、威厳があり過ぎて近付きたく無い。

 この後を考えると、なかなかに面倒になってくる。


「面を上げよ」


 許可が出たので直ると、壇上に居るうちの1人が私の方を見ていた。

 正直見かけた事すらない筈なので、私を見ている意味がわからない。しかも偶然目が合ったのでは無く、ガッツリと見られている。

 無視するのも悪いと思ったので、取り敢えず目礼で返しておく。


「皆よく集まった。遠路遥々と、来た者もいる事だろう。このお披露目は、社交を始める者の糧としてもらう為、毎年行っている催しだ。少しでも多くを学び、役立ててくれる事を願う」

(え?それだけ?短くない?……もっと長いと思ってた)

「では次に、国王様からのお言葉を賜る。呼ばれた者は前に来る様に!先ずは———」


 個別で名を呼ばれ、1人ずつ壇上に上がって国王様との会話をする時間となった。

 サクサク進むのは、人数が多いからかもしれないが、人によっては国王様のみ話して終わる場合もある。

 ぼけーっと見ていると、私の番が来た様だ。


「次!ユリア・ルベール!!」

「はい」


 皆やっている事とはいえ、1人で向かうのはやはり緊張してしまう。

 見られてなければそうでも無いかもしれないが、これではまるで晒し者だ。

 国王様の前に着き、一礼する。

 さあ来いと身構えていると、私の目を見たまま国王様は口を開かない。

 何か失敗していたかと焦り、周りも「おや?」といった雰囲気となった時、漸く口を開いた。


「……ユリアと言ったな」

「はい」

「活発に動いていると耳にしたが、元気があり余っている様だな」

「………」


 遠回しに(けな)されているのだろうか?令嬢らしからぬ、と言われている気がする。

 それでも万が一、言葉通りの可能性もあるから変に答えられない。


「この国が平和であるお陰です。それ故に民は生活の向上を求め、私もまた理想を求め探っているのです。人は満足すると、そこで成長が止まってしまいますので」

「………ほう」


 物足りないから自分で行動してるんですよ、と言外に伝えたつもりだが、国王様は理解してくれた様だ。それに隣に居る王妃様であろう人は、扇子で顔を隠したが、隠す前に口元が笑っているのが見えた。

 さてこれで自分の番は終わりかなと思い、礼を執ろうとした時にまた声が掛かった。


「そう言えば、スィールの植物園で何やら不思議な行動を取っていた様だが、何をしていた?」

「………はい?」

「花を愛でているかと思えば、途中で木に近付き妙な行動を取っていたと、スィールが言っていた」


 そう言って横を向いたので、つられて其方(そちら)に向くと、先程目が合った人だった。

 という事は彼がスィールなのだろう………いや、王子だからスィール様かな。


「お目汚しをした様で、申し訳ありません。私の様な者の事などで、お気を煩わせる必要ございませんわ。また会う事も無いでしょう。お忘れください」

「おや、知らないのか?スィールは今11歳だ。少なくとも学院で会う事もあるだろう」

(なん………ですと!?)

「であれば、目に移らぬ様気を付けますので、何卒ご容赦くださいませ」

「むぅ………」


 徹底的に私に関わるなと、遠回しに伝えてみた。

 国王様は顔を顰めているが、王妃様は隠しきれない程笑っていらっしゃる。

 私の回答が気に入っていただけた様で何よりです。

 内容的には失礼過ぎる訳だが、言葉そのものは責められない言い回しにしているので、注意できないのだろう。


「それではこれで失礼致します」


 これ以上突っ込まれる前に、私から退散する事にした。

 明確な回答を避けているが、国王様から追求されればある程度は話さなければならなくなる。

 私は踵を返し、壇上から立ち去った………


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