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噂の実態と面倒事

 八方美人と言う言葉がある。

誰からも悪く思われないように、要領良く人とつきあってゆく人。と言う意味だが、この言葉を使う時、マイナスイメージが先行する人が多いのではないだろうか?元々は欠点の無い美人を指す言葉だっただけに、残念な思いと時代の流れを感じますね。良くも悪くも変化するのが人という生き物なのです。え?何か違うって?それは失礼しました———





「思い……出した」

「そう?良かったわ」


 確かに一度この女性——レイエル——に会っていた。

 一言文句でもと考えていたが、この人?は寧ろ感謝する相手であったようだ。


「えっと、レイエル?」

「何かしら?」

「もしかして女神様って言われてます?」

「そうね、この世界ではそうなるわね」

「そっか……あー」

「?……どうしたのかしら?」


 そう言えばマール司祭が全部話せ的な事言ってたなーと思っていると、レイエルが不思議そうな表情で聞いてきた。


「その、此処に来る前に司祭の人が、女神様から神託や接触が有ったら報告しろって言われてるの」

「そんな事で悩んでたの?」

「そんな事って………あ、神託や接触は無かったって言えば良いのかな」

「それは無理ね」

「え?何で?」

「だって今も時間は止まっていないもの。少し歪めて時間の流れを遅くはしているけれど、既に一刻は経っているのよ。それに………」


 レイエルは途中で言葉を切って私の頭に視線を移した。


「?……それに何?」

「髪の色、此処に来ると桃色に変わるの」

「………何で?」

「説明が面倒だわ」

「………………」

「………説明するわ」


 ジト目で見るとちょっと嬉しそうにした後、説明をしてくれた………手遅れかもしれない。

 何でも、此処の空間は少なからず人体に影響を与えるらしく、中でも目に見えて変わるのは髪の色素らしい。

 見えない所では、恐怖心や憎悪と言った負の感情が著しく減るそうだ。その理由として、畏縮(いしゅく)したり聞き耳持たない状態のままだと話が進まないからだとか。そしてその反動——防衛本能——で髪の色素が変わるらしく、桃色になる理由までは知らないらしい………ちょっと意味がわからない。


「なら言い訳できないよね?さっきの期待させる台詞(せりふ)は何だったんですか?」

「あら、密命を受けたから話せないって言えば良いじゃない」

「……あー」

「私が秘密にする様に言ったのなら、文句は無いでしょう?」

「…それもそうですね」

「さて、本題に入らせてもらうわ」

「本題?」

「何も無く此処に呼ぶ訳無いじゃないの」

「そ、そうですね」


 そう言えば、まだ転生する時の事を思い出しただけだった。


「貴方を転生させた後、例の件で他にも居た運命の輪から外れた人達も転生させたのだけど———」

「え?他にも居たの!?」

「それはそうよ。管理不足での被害が、貴方だけな訳無いでしょう?」


 言われて気付く。

 確かに、1人だけの被害で終わる訳が無いだろう。しかし、あの時は全員の相手をする余裕なんか無いみたいな会話をした気がする。


「あぁ、言っておくけれど、貴方は最も酷かったから私が直接相手したけれど、他の人は適当に散らして転生させたの」

「………散らして?」

「そうね、とは言っても私の世界に来たのは貴方を合わせて15人ね」

「そ、そう」

「それで、その転生させた子達は前世を思い出す事無く過ごす子も居るのだけど、問題は思い出した子達の中に、知識を悪用する子が居る事なのよ」

「………はあ」


 それを私に言われても、と思っていたが——


「以前言ったでしょう。私の世界は地球のゲームを参考にして創ったって、だからそのゲームをした子が知識を基に行動し始めて、国の重役や王族に取り入ろうとしているのよ」

「?………何か問題が?」

「あるわ。ゲームの知識で成り上がった所で、細部は違うのだから国が乱れるじゃないの」

「あー、そうなるのかな?」


 確かに成り上がるまでは上手く行っても、政治に携わっていた人でもない限り、治世は難しいだろう。


「折角私が珍しく頑張って創った世界なの。そんなの放置できないわ」


 自分の口から珍しくと言ってるあたり、自覚はあるのか


「そこで貴方の出番よ。前はやる事は特に無いと言ったけれど、事情が変わったの」

「でも、私にはどうしようもないと思うけど」

「そんな事無いわ。こんな事もあろうかと、貴方の転生先をわざわざ特殊な家にしたのだから」

「特殊な家?」


 国の端の方にある領地持ちで、商人から成り上がった貴族だが、特殊と言う程の事は無かったはず。


「先ず貴方の家系、王族は先祖に返しきれない恩があり、それは語り継がれているわ。だから、影響力は下手な貴族より強いわ」

「はあ………」

「それから貴方の母親を屋敷に迎えられる様に少し手を加えたわ」

「え?私のお母様は実の親なんですか?」

「そうよ、原因不明(・・・・)で亡くなった前妻がまだ健在だった頃に貴方が産まれたの。でも子が居なかったから取り上げられていたのね」

「……原因不明?」

「そうね、原因不明よ」


 これ以上聞くのは止めておこう………でもそうか、だからあの時母は凄く嬉しそうにしていたのか。


「それで、私に何をさせようと?」

「手段は問わないわ。知識の悪用を止めて欲しいの」

「えっと、それは………」

「勿論それなりのお礼はするわ。前払いでね」

「お礼?」

「長距離の移動は不便でしょう?」

「そう、ですね」

「だから扉を使った転移魔術を教えてあげるわ」

「魔術なんですか?」

「だって扉を利用するもの。慣れてくれば自分の魔法で跳べるわ」

「おぉ!何処でもなんとやらですね!!」

「………今日一番の笑顔ね、可愛いわ」

「………………」

「んっ………そんなに見つめないで欲しいわ」


 頬を赤らめないで欲しい…


「あ、もう一つお願いがあるんですけど」

「あら、何かしら」

「アイテムボックス的なのはできないんですか?」

「?………そうね、なら亜空間でも創ってそこに放り込めば良いんじゃない?」

「え?どうやって?」

「魔法を発現するには、座標が必要なの。その座標を亜空間として設定すればできるわ」

「?」


 座標云々は今まで見てきた書物の中で、何処にも記載されていなかったし、想像力で成否が決まる筈。


「何を考えているかはわかるけれど、それは座標も含んでいる筈よ」

「あー、成る程、想像してる中に座標が含まれているって事なんですね」

「そうね、だから自分を座標の基準点として考えれば、今後はもっと楽になるわよ」


 早速試してみるが、亜空間と言うのがそもそも想像できない。

 さて、どうしたものか…


「此処も一応亜空間と呼べる場所よ」

「!……そっか、なら………」


 此処と似たような場所が、今見えているものと別で存在する事を想像する。

 後はそこに入口を創り、自分の思った物を出し入れできるよう設定する。


「できた……かな?」

「なら、そのカップをあげるから試してみなさいな」

「良いんですか?」

「ええ、因みにそのカップは常に紅茶で満たされているわ」

「………そうですか」


 使う機会があるかわからないが、有り難くいただこう。

 ドキドキしながら試すと、呆気なく成功した。


「できたみたいね。魔力が続く限りは持続するわ」

「え?なら魔力切れにならない様注意しないといけないの?………余り使えないのか」

「心配要らないわ」

「?」

「貴方の魔力は既に固定してるから」

「………固定?」

「だから減らないわ」

「………………」

「んんっ………ご褒美かしら」

「違います」


 段々変態になってきている気がするのは、気のせいだろうか…


「さて、後は転移に関してだけれど、亜空間が使用できた貴方なら簡単な筈よ。座標を対象の扉に指定して点で繋ぐ感じね」

「此処では試せないですね」

「そうね、向こうに戻ったら試せば良いわ」

「そう言えば、記憶の戻った転生者は何人居るんですか?」

「さあ、知らないわ」

「………………」

「あっ、んっ………」


 隠そうともしなくなったなこの変態女神様は


「……少なくとも3人、教会に来た子は記憶が戻っているわ」

「ん?教会に来た?」


 もしかして使用人に聞いた噂の別人云々ってそれが原因では?


「そう言えば、行方不明になった子供が居るとか聞いたのですが、何か知りません?」

「?……行方不明は知らないわ」

「そうですか………あ、あともう一つ、何で私は女の子になったんですか?」

「その方が可愛いもの」

「………………」

「んぅっ………ちゃんと理由はあるわ。でもまだ教えてあげないわ」

「まあ、私にとって悪い事じゃないのなら良いですけど」


 大丈夫よ、と微笑みながら言うけれど、何となく胡散臭い様に見える。


「さて、もう時間ね。頼み事以外は、変わらず好きにして良いわ」

「わかりました。それでは」


 以前と同じ様に視界が段々薄れて行く


またね(・・・)。早く存在の格を上げるのよ」

「え?それは—————」


 どう言う事、と聞く暇もなく元の礼拝室に戻って来た………





「………あ、そうだ、髪」


 戻って先ずしたのは、髪が変色しているかの確認だった。

 聞いてはいたが、実際に自分の目で確認すると結構ショックだ。

 母譲りの綺麗な青銀色が、桃色に変色していた。


「気に入ってたのになぁ………あ、口調整えないと」


 記憶が戻って来た影響か、口調が少し昔に戻っていた様で、慌てて気持ちを入れ直して礼拝室を出る。


 ガチャッ———


「あ、ユリアさ………ま?」

「待たせてごめんね、リン」

「あ、いえ、その………ユリア様、ですよね?」

「?そうよ、どうしたの?」

「あの、その御髪(おぐし)はいったい?」


 堂々としていれば突っ込まれないかも、と思ったけどダメだったか。


「ちょっとね、それよりもどのくら———」

「おおぉぉぉ!!その髪色の変化!女神様からの接触が有ったのですね!!」


 リンに時間がどのくらい経っているかを聞こうとしたが、興奮状態のマール司祭に遮られてしまった。


「あら?何の事かしら?」

「誤魔化さないでいただきたい!女神様からの接触が有った場合、髪が変色する事は伝承にあるのです!礼拝前にも言った通り詳らかにしてください!!さあ、さあ!!」


 控えめに言って(やかま)しいです。

 こういった人は、自分の思い通りにならないと気が済まない場合が多い。

 少々、いやかなり面倒だがレイエルの案でいこう。


「レイエ……女神様からは、他の人に言ってはならないと釘を刺されたので、言えません」

「何と!そんなバカな!!………では言える範囲で良いので教えていただければ!!」

「申し訳ありませんけれど、全て言えませんの」

「そ、それは……ぬっ、ぬぅぅぅ………」


 ちょっと気持ち悪い人から、かなり気持ち悪い人と認識を改めた。

 余り長い事関わると良くない気がするので、早々に立ち去る事にした。


「それでは用も済みましたので、これで失礼致しますね………2人共行きましょうか」

「「畏まりました」」


 さて帰ろうかと歩き出した時


「ま、待ってくだされ!巫女に!巫女になりませぬか!!」

「いえ、興味ありませんの。それに、それでは女神様からの密命が果たせませんわ」

「密……命?」

「ええ、それではまた機会がございましたら………」

「な!?いえ、命を受けているのでしたら!それは聖女様という事です!!やはり!やはり是非教会に!!」

「……先程の話しを聞いていなかったのでしょうか?それでは意味がありませんの」

「いえ、しかし」

「はぁ………帰るわよ」


 (らち)が明かないので、無視して帰る事にする。

 尚もしつこく食い下がって来たが、屋敷から連れて来た男性の使用人が、近付けない様対応してくれたので助かった。

 これは父に報告されてしまうのだろうか?………いや、髪色が変わった時点で隠せないのは間違い無いだろう。


「どうしようかしら………」

「ユリア様?」

「ふふっ、何でもないわ」


 心配そうに私の様子を伺うリンに、少し癒されるのであった———


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