怖がっている
「ぼく、おっきくなったら、ヤスハちゃんとけっこんする!」
「うん、そうしよ!」
保育園児だった頃の無邪気な口約束を思い出す。二人はこの頃、とても純粋だった。
けれど、小学校に上がり、なかなか同じクラスになれず、ようやく同じクラスになったときには小学校六年生になっていた。その時期にはすでに体も成長し、両親から受け継いだ特徴がはっきりするようになっていた。
すぐに目を悪くして眼鏡をかけるようになり、天然パーマで、背が低く、平べったい、地味な日本人顔だった。勉強は平凡だけど、運動神経は悪く、とくに足が遅かった。
泰葉は僕と対照的に、とても美しく育っていた。顔立ちはとても端正で、二重まぶたの下の瞳がきれいだった。スタイルは抜群、色白で、まるでモデルのようだ。水泳が得意で、まじめで、勉強がよくできたから授業中に何度も先生に褒められていた。
ずっと、ずっと、ドキドキして彼女のことを見ていた気がする。僕は将来、こんなにきれいな泰葉と結婚する予定なのか思うと、胸が高鳴った。
でも、それは間違いだった。
幼なじみの八木夏美という女の子が、僕に耳打ちして教えてくれた。
「――泰葉からの伝言。怖いから、こっち見ないで、だって」
どうして怖いのか聞きそびれたけど、それよりも、胸に刺すような痛みを感じて、声が出なかった。そのときようやく、彼女が僕と目を合わせてくれないことの意味を知った。
怖かったのか……