出国
「王よ、私がこの国を出ることをお許しください。」
王の前に突然飛び出してきた男はそう言いはなった。ここは、王とその親族たちが集まる会議の場。そこでこう言い放ったのはこの国の第一王子クレル・ソリティエである。
みなこの発言に耳を疑った。
それは、王に失礼を働いたからではない。
第一王子が、国を出ていくからでもない。
彼にこの世界を一人で生き抜いていくだけの力がないことを皆知っていたからだ。
彼には、この世界で生きていくために大切なものが二つなかった。
1つ目は異能。異能は、どんな人間でも最低1つは持っている。たとえ、農夫であろうとスラムの子どもであろうとも…。それがないということは、豚や牛のような動物以下であることを指していた。
2つ目は魂球。魂球とは、人の体に生まれたときから備わっているある種の器官である。これにより、生涯つれそう魔物と契約を交わすのである。1つの魂球につき一体の魔物と契約することができ、形によって相性のいい種族が決まっており、大きさによりランクの制限がある。普通、平民でも魂球を1つか、2つ持っている。
彼にはこの二つが欠けており、いくら剣術が使えても18歳の少年が使う程度の技術では一人で生きていくには限界がある。
その場にいた全員がそう思っただろう。
だから、いくら存在を隠したいほどの王族の恥でも自分の息子にこんな無謀なことをさせるはずがないと…。
しかし、王はこういった。
「いいだろう。ただし、お前の許嫁であるシズカを連れていけ。」
王のいい放ったこの一言がのにち世界の運命を大きく変えることになるということを、まだだれ一人知らない。