理想的な男性
ある国のお話です。そこで学歴も顔も良い新たな大統領が政府を任されました。生真面目で女性や老人にも優しい大統領でしたが、もちろん敵はいました。
野党の代表はスーツの上着で隠し切れない程、だらしない腹を揺らしながら質問をしました。
「大統領。市民が活用している夢見るガスを男性のみに規制しようとしています。その理由をお答えください」
大統領は落ち着き払って答えました。
「まず私はこの世で最も忌み嫌うのは、欲望に従い。弱者を食らう人間です。残念な事に一部の男性は性的な欲望を制御する事が出来ません。そして欲望を隠す事もしません。現実には性犯罪の犠牲となった女性がいるにも関わらず、女性を性的な消費物にしているのです」
「その根拠を!データととして……」
代表のヤジにピシりと大統領は答えました。
「データには何の意味もありません!私はそのような犠牲者達と共にあります。国民の皆さんが目指す健全な社会に夢見るガスは必要ないのです」
拍手が鳴り響き、マスコミはこぞってそれを取り上げ、テレビの知識人たちは皆口を揃えて大統領を賛美しました。そして、それを阻もうとした野党の代表は性犯罪者のレッテルを張られ、社会的に抹殺されてしまいました。
・・・
大統領は困っていました。せっかく規制した夢見るガスが、インターンネットで裏取引され反社会団体が利益を上げているのでした。
そこに大統領を補佐官の女性が提案しました。
「大統領。国民の男性全てに定期的に夢見るガスを浴びせ、性的な夢を見た人間を精神病院に隔離しましょう」
大統領は名案だと喜びました。
「それは良い提案だ。それと検査から漏れた予備軍が反社会団体と接触しないように、男性全てからインターネットに規制をかけてしまおう」
議会は特に反対しませんでした。誰も代表のように社会的に抹殺されたくないからです。全ての男性は自分の端末を持つ事が出来なくなりました。
・・・
大統領は頭を抱えました。報告ではどこの精神病院も一杯になって医師も足りない。深刻な問題でした。
「うーん。どうしたらいいんだろう。やはり人には欲望があるから取り除くことは出来ないんだろうか」
欲望を取り除けない事に苦悩する大統領に、補佐官の女性は言いました。
「別の欲望を作ればいいのではないですか?」
それを聞いた大統領はそうかと手を叩くと、また頭を抱えました。
「ここまでやっても抑えきれない性的な欲望に代わるものなんてあるのかな」
そこに二人の女性が入室してきました。外務大臣と国防大臣でした。防衛大臣は外務大臣に発言を譲りました。
「外務省から報告です。我々の男性への矯正政策に隣国から強い非難が出されました」
「国防省から報告します。男性の逮捕者が増えて兵士の数が足りません」
大統領はすぐさま思いつきました。
それからすぐに大統領は隣国を性犯罪者の国だと非難をしました。それはメディアで大きく取り上げられ、国内全ての人間が悪しき文化を持った隣国への憎しみを巻き起こしました。
・・・
大統領は大通りで演説しました。
「強い男性こそ真の男性です!世界のだれからも称賛されるほどに屈強でなければ、人になんの価値があるでしょうか!ご覧ください。彼らの勇士と雄々しき姿を!」
精神病院から出され訓練を受けた男性たちが、軍隊の行進が大通りを進んでいきます。
「それに比べて隣国の劣った性犯罪文化はなんと退廃的なことでしょうか。我らの清浄なる世界を批判し、自分の欲望の為にしか資源を使えない哀れな劣等人種に他なりません。そして我らが不浄な隣国政府を解体し、解放しなければなりません。全世界を清浄なものとするために!」
大通りは歓声に包まれました。シンボルの旗がはためき、歌が流れ、スローガンが響き渡ります。
「「「性犯罪者文化を打倒せよ!隣国を未開から解放せよ!清浄な世界の為に!」」」
栄光を夢見た男性達は、もう夢見るガスを吸う事はありません。普通に結婚し、妻子を持つ人も多くなりました。残念ながら隣国はそれを理解する事はなく戦争となってしまいましたが、大丈夫きっと分かってくれると大統領は信じて疑う事はありませんでした。