9.ギルドの始動
「来ないな」
「はい、お客さん来ませんねー」
「全く、この世界には、冒険好きな奴は居ないのか?」
「アンタの宣伝の仕方が悪いんじゃないの?」
「と言ってもなぁ」
街のあちこちに張り出した冒険者募集の張り紙には「冒険者求む!強くなりたい奴集まれ!」
と、書いてある。画伯のような絵を描いたのはアリスだ。勿論下手な意味でだが。
しかし、冒険者組合を開店して半日ほど経ったが、一向にお客は現れない。
「あのー、冒険って何をするのですか?」
マリーが素朴な疑問を投げかけてくる。
「魔物を倒すんだよ」
「ダンジョンに潜るのよ」
「え?? えええええええぇぇぇぇぇ!! そんな事したら、し、し、し、死んじゃいますよ??騎士団の方が何人もお亡くなりになったと聞いてますし……」
「俺達は、そのダンジョンに住んでいたんだけどな」
「す、すみません勇者様なら、大丈夫ですよね?」
「死なないようにサポートするのも、ココの仕事って訳よ。 ね?クラウド?」
「冒険初心者は、俺達が死なないように、全力でサポートするから安心しろ」
「はぃいぃぃ!承知しましたぁー!」
ふむ、待ってても埒があかんな……。
「ちょっと勧誘してくるか……」
客が来ないので、街角で勧誘をしてみた。
「君……いい体格しているね。冒険者にならない?」
「ボク、お家どこ? 頭大丈夫?」
「は?強くなりたく無いかですか? いえ結構です!」
えー!?家業があるから無理?
「給料は?え?無いの?マジありえないっしょー?」
結局、めぼしい人に声をかけてみるものの……有志は集まらなかったので、俺は一旦冒険者組合の店舗に戻る事にした。
「どうだったって聞くのも野暮のようね」
「うんだめだった」
「考えたんだけど……力を求める人を集めればいいんでしょ?
だったら王様に頼んで兵士でも連れてくれば、兵士も強くなるし、実績も積めるし、宣伝にもなるし、
いいんじゃないかしら?」
「それだ!」
早速、気は進まないが王様の所へ話をつけにいくと、騎士団が全滅するような場所に投入する余裕は無いとの事。
でも、希望者がいないか一応探してくれるそうだ。
で、集まった希望者が来てくれたのだが。
「ここに来れば強くなれるって聞いて来た!オレ!どうしても兄の敵を取りたいんだ!」
あの洞窟討伐で亡くなった王国騎士団の騎士の弟らしい。
「10歳か……若いなー」
「なんだこのガキは?」
「俺は、ここのマスターだ」
「はぁ?どうみても5歳くらいだろ?お前?」
「たしかに5歳だけど……この国で俺に勝てる奴はいないぞ?」
多分ね。
「ざけるな!おい!そこのおばさん!ここの偉い奴を呼べ!」
「誰がおばさんよ!? まぁ体は小さいけどコレが一番偉いし強いのよ?」
「なんだと?」
「よし!マリー登録は任せたぞ!初仕事だ」
「はいぃ!頑張ります!」
「で……では受付しますので、こちらの石板に手を乗せて下さい……」
「なんだこれは?」
「これは、あなたの実力を計測して表示する魔道具ですね」
「そんなもん聞いたことねーぞ?」
「え?あ!はい……マスターがお作りになられたものでここにしか存在しない。……そうです」
まだ慣れないだろうから、受付の裏で俺が小声でサポートしている。
「はい!これで登録は終わりです。あなたは今日から冒険者見習いです」
冒険者ではなく、冒険者見習いなのは何故かって?
それは、もちろん……坊やだからさ。
◆◇◆◇◆◇
新しく加入した男の子の名はシャトー。
あの全滅した騎士団の中に兄弟がいたようで、その復讐という動機が別方向に……ダンジョンの住人に向かなければ良いが、その辺は今後の教育でなんとかする必要があるだろう。
シャトーのレベルは1。
ゴミだな。
さすがに、いきなりダンジョンに入れたら死んでしまうので、まずは座学と基礎トレーニングからやることにする。
座学は魔物の種類と強さ、毒を持つ危険な魔物への注意とダンジョンの説明だ。
アリス講師による未知の世界、ダンジョンの歩き方講座は、俺もお世話になった最重要事項だ。
魔物とダンジョンの住人の区別はちょっと難しいが、これをしっかり叩きこまないとゴブリン村の皆に迷惑がかかることになりかねないからだ。
街中には獣人族やドワーフ等の人種がいるようだが、ゴブリン族などはダンジョンの中にしかいない。
ゴブリン族といってもアリスの容姿は特に人族に近く、頭にゴブリン特有の角が2対生えているが、今はオレンジの髪の毛に隠しているので、肌の色が濃いくらいの人族に見えなくもない。
基礎トレは勿論レベルアップの為の経験値稼ぎだ。
経験値というものが存在するのかは分からないが、実際にステータスを確認すると経験上、一定の魔物を倒す事でレベルアップが確認出来たので存在するのではないかと思う。
なので、基礎トレーニングとは魔物を倒すことだ。
いくら腹筋や腕立て伏せを頑張っても、ジョギングで基礎体力を上げたとしても、レベルは上がらないのだ。
結局これが、王国騎士団が弱い原因ではないかと思う。
レベルという概念は、この国には存在しないので、俺のステータス魔法でレベルという概念を世の中に広める必要がある。
いくら人対人で剣術を鍛えても、魔物を倒していないのでレベルは上がらない。
人を倒す……殺す事で経験値のようなものが溜まるとするなら、戦争でも無ければレベルは上がらないだろう。
剣術をいくら鍛えても技術だけでは強くなれないのだ。
狩人のように、兎や猪など小動物を狩ったとしても、ダンジョンの魔物を狩る経験には遠く及ばないのだ。
なので、ダンジョンからスライムなどの弱い魔物を捕獲し、それと戦わせるのが基本になる。
「それで、シャトーの調子はどうだ?」
ダンジョン入り口付近に作った簡易闘技場でシャトーをコーチしていたアリスに声をかける。
「まだ、スライムに苦戦してるわ」
「先は長そうだな……俺は1歳の時に素手で倒したんだけどな」
「アンタは特別なのよ! シャトーは普通の人間だしね」
「んー? それは、俺が普通じゃないって事か?」
「あたりまえでしょ!? 自覚ないの?」
俺は、召喚された勇者で今は5歳だ。
たしかに普通じゃないな。
しかし、折角訓練を行っているのに、生徒がシャトーだけでは効率が悪いよな。
「ちょっと勧誘してくるから、あとよろしく!」
ちょっと走って王都に戻る事にする。
アリスがなんか言っているが、もう聞こえない。
これまでは、希望者を募っていただけだったのが良くなかったのかもしれない。
平和な世の中、そんな簡単に希望者は現れなかった。
面白かったら続きます。