5.魔力耐性
一夜明けて、俺はついに生還した。
俺のこの年齢では一晩持たないだろうとの事だったが、生還出来たのは一晩中、手を握っていてくれた母さんのおかげではないかと思う。
生還の代償として俺の髪は黒から白に、目は黒から赤に変わっていた。
「クラウドよ、よくぞ生還してくれた」
「ほんと、死ぬかと思ったよ。いや死んでたよ……ホント」
「クラウドは、魔力耐性が弱かったのじゃな」
「あれー?シブトイネー生きてるよこの子。アハハ」
何?誰だこいつは?
「どーも初めましてぇ!グランドの孫娘アリスデス!」
アリスと名乗ったゴブリンが不敵な笑みを浮かべている。
ゴブリンにしては美少女の類に入るのだろうか、艶のあるオレンジの髪が印象的だ。
「アリスや、ココに何をしに来た?」
「なーに?あたしがあげた食材に当たった馬鹿がいるって聞いたから見に来ただけよ?うん、そんだけ」
「キキキキキキキキ!!(たしかにあなたからもらった食材だったけど!!)」
「でも……残念……耐えちゃったのねぇ……すごいすごい。褒めてあげるわ」
「アリス!お前は、何をしでかしたのか分かっているのか?」
「いーじゃん 結果オーライ?ってやつで、この子も魔力耐性出来たみたいだし?この先ここで暮らしていくならそれくらい無いと結局すぐ死ぬよ?」
俺に魔力耐性が出来ただって?
「魔力耐性を作るために、俺に食材を?」
「まーねー」(普通死んでるんだけどねー)
「そこまで俺の事を考えてくれてたなんて……」
「そっそうよ!あたしに感謝しなさいよね!」(うわーこいつ天然の馬鹿じゃないの?)
「ありがとう……アリス」
「とーぜんの事をしたまでよ!ついでだからっアンタあたしの部下になりなさい!」
「言っとくけどついでだからね!別に可愛いからあたしのものにしたい訳じゃないから!勘違いしないでよね!」
「分かってるよ」
こうして俺は、ツンデレゴブリン姫アリスの部下になった。
◆◇◆◇◆◇
「オーク狩りいくわよ!早く支度しなさいよね!」
「いきなりオークって無理でしょ?」
アリスの部下となった俺は、オーク狩りと称してダンジョンの奥地に遠征していた。
「このあたりに人間が捨てていった武器が落ちてるのよ!」
「捨てていった?」
いや死んだの間違いでしょ?
実際このあたりには鼻につく死臭が漂っており、まだ新しい騎士団と思われる遺体が残っていた。
「持ち主がいないんだから、早く回収しないと他の魔物に取られるでしょ?」
なるほど、他の魔物の戦力を上げない為には、こういう事も必要なのか。
「この辺の遺体はどうする?」
「オーク?」
「人間のだけど」
「食べる?食べたいなら持ってって……」
「いやいや食べないから!」
「チッ……」
今、舌打ちが聞こえたんだけど気のせいだよな。
「そういうのは衛生上良くないから!鎧とか武器防具着てるものを全部取ってから埋めるのよ」
「埋めるって……スコップもなくどうやって?」
「あんた魔法も知らないの? こうよ!」
アリスはそういうと、土魔法を唱えた。
裸にされた遺体の横に深さ1メートル程の穴が開き、穴に遺体を落とすと、さっさと魔法で埋めてしまった。
「あ……あぁ……まっ魔法使い?」
俺は開いた口を、ぽかーんとあけたまま……その一部始終を見ていた。
「これぐらいは覚えなさいよね!初歩の初歩よ!」
俺の方を指さして腰に手を当てて偉そうにアリスが愚痴る。
「いやいやいやいやいや!!待てまてまてまて!今の魔法だよね?ね?」
「あたしが、あんたに魔力耐性つけてあげたんだから、これぐらい出来て当然よ?」
「無理無理無理無理」
首をぶんぶん振り回して否定の意思を伝えるが。
「あーごめん!そっかー魔法教えてなかったね?てへっ」
舌を出して、手を後頭部に当て、てへのポーズをとるアリス。
絶対、わざとやってるだろうこのメス○○!
結局、武器をいくつか持ち帰り、といっても体が小さいので持てる重さに限度はあるが。
俺は小さめの剥ぎ取り用のナイフを手に入れた。
鞘に入っているので持ち運びにも便利だ。
◆◇◆◇◆◇
魔力耐性が付いたという事は魔力を含んだ食事に対する耐性が付いた事と同時に、食べた魔力を体内に吸収することが出来るようになったという事らしい。
吸収する事が出来るという事は魔力を貯めることが出来、その魔力を使う事が可能になるとか。
魔法使いの適性って結局のところ、この体内に溜まった魔力を計測しているだけで、魔力耐性の事には触れられていなかった。
「ちょっと聞いてるの?」
「ごめんちょっと考え事してた」
「あたしの魔法の教え方は、そんなに退屈だった?ならやめてもいいんだけど?」
「とても分かりやすくて、いいよ」
「当然でしょ?あたしが教えてるんだから」
「あんたは魔力耐性ついたばっかなんだから、魔力に慣れる所から始めるわよ!いいわね!」
「はい!分かった」
「お願いしますでしょ!」
「お願いします」
「声が小さい!」
「お願いします!アリス様!」
「よし!」
そんなこんなで、アリスから魔法について教わりながら、ダンジョンを攻略していく日々が始まったのだった。