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3.世界の異変


 魔法をあきらめてから数ヶ月が経過した。

 

 走り回る鎧の音や叫ぶ声がここまで聞こえてきて、城内が慌ただしい。

 この世界に異変が起きていたのが確認されたのだという。


 勇者召喚の影響がなんとか、このままでは破滅だとか何とか聞こえてくるが何があったんだ?

 王城の外ではデモ隊やら大勢の民衆が城を取り囲んでいる。


「「「「勇者を出せー!!!」」」」

「「「「勇者を殺せー!!!」」」」

「「「「殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!オオオオオオオオオオ!!!!!」」」」


 使用人に様子を外の様子を聞くと、街の近くの洞窟から大量の異形の怪物が現れて街を襲ったのだそうだ。

 その怪物は城の騎士団が倒して事を無きを得たのだが、その原因である洞窟の調査に行った100人を超える騎士団が未だ帰還せず、民衆の不安は募るばかりであるという。


 その洞窟が姿を現したのが1年と数ヶ月前。

 俺が召喚された時期と一致する。


 それだけの理由であったのだが、民衆の不安が暴発し、その矛先が勇者へ向けられるのに、そう時間はかからなかったようだ。


「全く……とんだとばっちりじゃないか」


 その夜から、俺の姿は城から姿を消した、いや消されたのだ。



◇◆◇◆◇◆◇



 気が付いたら……俺は洞窟の中に置き去りにされていた。

 部屋に侵入した何者かに俺は眠らされていたようだ。

 まだ頭がガンガンする。

 薬でも盛られたか……。

 

 どっちが入口か奥なのか分からないので少し探索してみたが、入口は塞がれていた。


「おぃおぃ……1歳の子供に、この仕打ちかよ!クソが!」

 閉じられた入口を蹴飛ばしても当然ビクともしない。

 俺は信用していた人達に裏切られたショックに、怒りを抑えきれなかった。


 もう一度この洞窟を良く見てみると洞窟というよりは……ほんのり壁が光を放っているのでゲームによく出てくるダンジョンに似ていた。


「ダンジョン!?キタコレ!!」


 ってことは、この中には魔物が巣くっているのか?

 倒せば強くなれる!?かもしれない。

 焦ってはだめだ、よし、状況確認!

 1歳の俺!武器無し!魔法無し!確認よし!って駄目じゃん!?


 俺の声に反応したのか、目の前に青色のゼリー状の魔物が現れた。

 

「ひぃ! す…… スライムキター!!」


 こうなったら素手でやるしかない。

 俺は足元に転がっている小石を拾って必死に投げた。

 毒でもあったら敵わないので、スライムを素手で触るのはアウトだ。


「えぃ!クソ!これでも食らえ!やぁ!うらぁ!おぉ!とぅ!」

 投げた!投げた!投げた!投げた!投げた!投げた!投げた!投げた!

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」


 小石はゼリー状のスライムに取り込まれ、ゼリーが石まみれになっていった。

 しかし、スライムには攻撃が効かないのか、ズルズルと石まみれのまま襲い掛かってくる。

 石を吸収したスライムは重くなっていたので、とびかかっても体重で距離が出ない。

 さらに小石を投げ続け、石でゼリーが埋まった頃、スライムは動きを停止した。


「やったか?」


 既に小石の塊となったスライムを踏みつけると、ぐちゃっと変形し、中心から小石とは違うスライムの核となっていた結晶のようなものが出てきた。


「これは、テンプレの魔石かな?にしては柔らかいな」


 とりあえず柔らかい魔石のようなものをポケットにしまうと、どっと疲れが出たのか腰が抜けてしまった。


「スライム一匹でこれじゃ、やばいよな……」


 座り込んだ周囲を見渡してみると、さっきスライムから採取した魔石のようなものがいっぱい転がっているのが見つかった。

 騎士団が討伐したスライムの核だろうか。

 俺は、多分これが重要アイテムである事を知っているので、当然拾っておく事にする。

 ありがたやありがたや……。


 拾ったとして売れる訳でもないが、拾っておいて損はないだろう。


 その後もスライムを見つけたら小石を投げまくり、魔石を見つけたら拾う事をひたすら続けた。


「けっこう溜まったな」

 ポケットの魔石は、既に一杯になっていてこれ以上は入らなそうだ

 体が小さいのでポッケも小さいから当たり前なのだが。

 袋でもあればもっと入れる事が出来るんだけど……。

 

「お腹……すいたなぁ……」


 空腹だったのもあったが、捨てるならと思ってスライムの魔石をちょっとかじってみた。


「うっ……味は濃いけど、意外とイケるかも?」

 この味を名付けるなら、スライム味とかだろうか。


「ん?これは……うわ、でかっ」


 スライムの魔石よりは一回り大きい魔石が落ちている事に気がついた俺は、これ以上奥に行ったら危険であると判断し、その石を拾って引き返すことにした。


「これ以上は無理か」


 と、振り返って引き返そうとしたら……俺より一回り大きい、大人から見たら子供の体格をした人型の異形の魔物が立っていた。


「キキキッ」

「うわっ!!ゴゴ!ゴブリン!?」


 いつの間に後ろにいたのか?

 これはやばい!殺されるパターンだ!


 ゴブリンは、熊手のような武器を構えていてこちらを警戒しているようだ。


「ちょ!まて!まって!お願い!助けて!ひぃ!」

「キキ?」


 目をつぶって頭を隠していたが、ゴブリンが襲ってくることは無かった。


「どうして?」


 俺が武器を持っていない事、ゴブリンより小さい子供であったことで同類と間違えられたのか……。

 俺は先ほどのゴブリンに手を取られ、どこかに連れられて行った。

 仲間の所に連れて行って、このまま食われるのかな?


「キキキッ」


 ゴブリンが俺の頭を撫でて笑みを浮かべているように見える。

 ゴブリンなのに頭を撫でられると安心するのは何故だろうか?

 もしかしたらこのゴブリンはメスで母親なのかもしれない。


 後で分かった事だが、あのゴブリンは子供を失ってさまよっていた所、俺を見つけて自分の子供が帰ってきたのだと思い俺を自分の子供のように可愛がってくれたという訳だったようだ。

 そのゴブリンの子供もスライムの魔石が好きでよく拾って集めていたらしい。


 ダンジョンの中を連れられていくと、着いた先は一際広いフロアにゴブリンが作ったとみられる集落だった。

 石造りの簡素な村だ。


「こんな所に村があるなんて……」


 ゴブリンは思っていた以上に人間に近い生き物なのかもしれない。

 それこそ亜人に近いような。


 ゴブリンの長は、他のゴブリンに比べて体格も一回り大きく、ダンジョンが現れて1年と少ししか経過していないのに長老のような白い髭を蓄えていた。

 事実、長老なのだろう。


「儂がこの村の長、グランドだ」


「……こんにちわ、俺はクラウドといいます」


「ほう、儂と似た名前とは、気に入ったぞ」


 驚くことに、長老は人語を話すことが出来た。会話が成立するなら願ったりだ。

 長老の話では、このゴブリンの村は300年以上昔から続いていて、最近になって村人が襲われる被害が多発し、その原因である外の世界に対して討伐部隊を出したとの事であった。


 そういえば、お城の騎士団も調査隊を、このダンジョンに派遣していたな。


 どっちが先か分からないけど、多分ここの連中は、わざわざ外に出たりしないだろうから、突然現れた洞窟に興味を持った人がこの洞窟に入って、ゴブリンを殺してしまった。

 ゴブリンは外敵を排除するために討伐隊を編成し、人間の街を襲った。

 襲われた人間たちは、洞窟に対して調査隊を派遣しゴブリンを襲った。

 ――と、いう事かな?


 なぜダンジョンが現れたかの疑問は置いておいても、入口が開いてしまったのが原因とするなら、今の入口を閉じてしまった状況はベストであると言えるだろう。


 俺が長老にこの事を話すと、長老は思案する表情を見せ、俺にこの村に残るように言ってきた。


「そうか……ならば重畳、人の子クラウドよ。この村での滞在を許そう。お主が帰るとなると入口を開けねばならぬし、このまま入口を開かぬ方がお互いのためとなろう」


 俺は洞窟に捨てられて人間たちに殺されたも同然なので、戻りたいとは思わないが。


 こうして俺は、ゴブリンの村で生活することになった。


 地上では……勇者が命を賭して、怪物の群れを討伐した事にされていたのだが、当人は知る由もない。


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