ホワイトデイズ - regaining -
雪に埋もれるキャンベル伯領において、外を出歩く者は限りなく少ない。冬ごもりと称し、それぞれの家の中で過ごすのが大半だ。宵闇の中、青白い雪に埋もれる村々は、窓から覗くストーブの灯りが家の穏やかな温もりを伝える。
その中で、キャンベル家だけがのどかな灯火を唯一途絶えさせていた。だがフラウベリーの郊外にある屋敷の様子を、冬ごもりの村人が知る筈もない。
主が不在の寒々しい屋敷の中を蠢くのは、幾つもの影だった。全身が黒ずくめの動きやすい軽装で、顔周りも目元以外は隠されている。素早い身動きで引き出しやクローゼット、棚の中を盗賊のように荒らしていきながら、屋敷内の隅々まで徘徊していく。
玄関ホールにいた大柄の男に、小柄な背の部下たちが次々と報告を上げた。
「隊長、屋敷はもぬけの殻です」
「ヨークライン・ヴァン・キャンベル領主、並びに長女マーガレット、次女プリムローズ、血縁者のジョシュア、――誰一人姿が見当たりません」
「加えて、例の秘技の在り処も不明です」
「……そうか。こちらの動きを読んでいたかのような逃げ足の速さだな」
しかめ面の男は部下を引き連れながら客間へ赴いた。暖炉のごく小さな灯りだけで染められた室内では、ソファに悠々とくつろぐ老女がいた。
闇の装束の中から鋭い眼光を送る。
「カタリナ・キャンベルとか言ったか。キャンベル家の皆を何処へ逃がした」
カタリナは意に介さないように足を組み直し、優雅な手つきで紅茶を啜っていく。
「逃がす? ……はん、意味が分からないね。まるでこちらが後ろめたさあるみたく。おたくらこそ、コソ泥よろしく入り込んで、意地汚いにも程があるさね」
男はカタリナの首元へナイフを添えた。
「無礼な。我々の仕事は罪人の駆除だ。天空都市の後ろ盾をまんまと得たキャンベル家の、招呪師めいた異端技術をこれ以上のさばらせるのは危険だと憂えた――さるお方から依頼だ」
「さるお方、ねえ」
一瞬眉を跳ね上げたカタリナだったが、心底うんざりと言わんばかりに仰々しく両手を上げる。
「だから言っているだろう。言うこと聞かない役立たずの坊やと小娘共は、その身一つで放り出したのさ」
「でたらめを言うな。キャンベル家の解呪具である解呪符が、一切見当たらない。何処に隠した」
「ははん、それが狙いかね、薄汚いハイエナ共は」
「何を……」
刃を更に強く押し当てようとして、不意に手が止まる。カタリナがナイフの刃先を指で摘まみ、強い力で首筋から押しやったのだ。男は多少慄き、すぐ引っ込めようにも強固な力で阻められてしまう。指先だけで難なく刃物を固定する老女はゆっくりと腰を上げ、口元を嘲笑に歪めた。
「クラム家も、ガーランド家さえも葬った手腕は見事。だがね、ここは辺境伯領のキャンベルだよ。素朴で愛らしい花が永遠に咲き匂うだけが取り柄の、旨味なんざ一つもありゃしない辺鄙なところさ」
男の背筋にひやりと不穏なものが立ち昇る。王家の崩壊後、その筋の事情を把握し、名を口に出来るのは王家に連なる一族のみだ。
「貴様……何を知っている?」
カタリナはナイフを摘まむ反対の手で、付近の杖を揚々と掲げた。それで器用に薪を暖炉に放ると、パチっと乾いた音を立てながら灯火の勢いが強くなる。
「ここはね、かつてキャンベル伯爵がフェルディナンド十世陛下より直々に賜った領地。つまり、元々は王領地さ。それを意味するものは何だと思う?」
男の背筋からザっと血の気が引いていく。
更に追い詰めるように、老女は携えた杖を床にドンと叩きつけた。
「ねえ、天空都市の僕に成り下がった脳も尻も軽い飼犬共。お前たちの真実の主は誰だった。忘れたなんて言わせないよ」
低いしわがれ声を放ちながら、濁った黄土色の瞳が爛々と金色の光を放つ。そのきらめきに染められたのか、暖炉の燃え盛る炎のせいなのか、赤茶けた髪も艶やかな薔薇のように真紅の色彩をたたえていく。
「その眼と髪は……まさか……」
男は目に映るものが真実となるのを恐れた。得物を固定されて振りほどけないのも焦燥を煽る。
「いやしかし……陛下は……殿下は、確かに……!」
「は、『確か』? ここにいるのが本物かどうかなんて、ちゃちな疑りだろうに。己が王に骨身を惜しまず尽くす気があるのか、絶対たる忠誠を捧げるのか否か、そっちの問答が要だろう? ――答えろ、愚かな腰抜けの反逆者共」
ドンと、再び杖が大きく振り下ろされる。忘れ去られた苛烈な音色で、赤髪の老女は厳かに問う。
「お前たちの真実の主は、一体誰だった?」
「……ッ」
確かに、そこにかつての忠誠を誓った王の面影を見た。
だが男も仕事である以上は、怯んではいられなかった。一瞬の隙をついて得物を手に戻し、毅然と構え直す。
「去ね、王を騙る悪逆者!」
「は、下郎が」
カタリナは冷酷に目を細めた。首にめがけた刃を瞬時に逸らし、杖で身体の重心を支えながら男の顎を蹴り上げた。
「ぐっ……」
「隊長! この、貴様……ッ」
激高する配下が得物を向けて立ち向かってくる。が、気を失った男の首根を掴み投げて気を逸らし、振り返りもせずに背後の輩の懐を杖で一突き。続けて真正面の男の喉元にも一突きをお見舞いして気絶させる。俊敏な動きで次々と急所を確実に狙い、襲い掛かる郎党を減らしていく。
手練れの男共よりも、身のこなしが遥かに別格だった。老いた身であろうと烈女たる力を発揮していく。
「お前たちはもはや飼犬呼びすらおこがましい。ただの意地汚い餓鬼だよ」
最後の一人が倒れ、カタリナがふっと軽く息をついた、その刹那だった。
「――死ね!」
鋭い殺気を感じ、杖を身体の真正面に構える。轟音の直後、放たれた銃弾が杖を粉砕し、ひと破片がカタリナの頬を裂いた。流血の一筋をそのままに、老女は一歩だけ引く。見下げ果てた視線で睨む先には、床に転がって拳銃を構える大柄の男。どうやら図体が大きい分、気絶させ損ねたらしい。
「クラム製のミスリル弾丸か。とことん外道が」
「敬愛する王は、もういない。――それが我々の答えだ」
闇狩りとして、任務を全うしようと撃鉄を再度起こし、引き金を引こうとした。
「『パスリセージ・ロズマリアンタイン、これは海に溺れる麦のもみ殻、乾々浄々の恩恵を君に』!」
軽快な呪文と共に、何処からともなく染み出してきたのは水鉄砲だった。突発的な勢いで噴き出し、拳銃は吹き飛ばされる。
「何……っ!?」
横たわる男の顔が蒼白になった瞬間、轟く水流が部屋全体を大きく呑み込んでいく。
「――『ならば私は針なしのシャツをそなたに』」
部屋を満たした濁流が男たちの身体を瞬く間に攫った。とぐろを巻くように大きくうねりを作り上げたかと思えば、じゅっと音を出して瞬時に干上がる。とっさに呪文を唱えたカタリナだけが部屋に残される有様で、男たちは影も形もない。
カタリナは部屋の扉をねめつけた。
「このやり口はマッジーじゃないね。誰だい、そこにいるのは」
扉をノックして入ってきたのは真っ黒な外套姿。そこから零れ出る波打つ髪と硝子細工のような面立ち――古の魔法使いだった。
「相も変わらずの獰猛さだね。レディ・カラミティなんて野蛮な二つ名まで持っちゃってさ」
「はん、珍しい顔を見たもんだ」
軽快に投げかける笑みに、カタリナはすげない視線を寄こすのみだ。
「久しぶり、カタリナ。あんなに極上の美人が、すっかりしわくちゃの老いぼれになっちゃって」
「美と若さが儚いのは自然の摂理さね。その理から外れるお前さんは、相も変わらず天外魔だこと」
魔術師はかつて王城にいた頃のよしみである。だがカタリナが寄こす侮蔑の眼差しは、とうに袂を分かつものだ。
「鳥にヘイコラするお前さんがここに何の用だい。やっぱり闇狩りとは同じ穴の狢なのかい?」
「うーん……、それはちょっと、心当たりのある一人二人に訊いてみないことには何とも言えなくてね」
魔術師は珍しく弱り果てたように苦笑した。
「君がここにいるってことは、キャンベルの若様は一応無事なの?」
「天空都市に尻尾振ってる裏切者に答える義理はないよ」
立ち話をするのも不愉快だと、カタリナは部屋から出ていこうとする。だがすかさず魔術師が呼びかけた。
「まあ待ってよ。若様たちと、一度きちんと話をしなくちゃいけないんだ。林檎姫の呪いは一応解いたけど、きちんとアフターフォローがあってこそだからね」
*
天空都市から更に南方にある緑豊かな渓谷には、天の御使いすらままならない閉鎖的な不可侵領域がある。
白い石壁と赤い屋根の校舎。赤レンガを幾つも積んだ高い壁で隔たれており、その内側は女性のみが入園を許された女学校。険峻の山の峰に点々と建てられており、貴族や富裕層に生まれた淑女の学び舎として、国中から集ったうら若き乙女がここで暮らしながら勉学に励んでいる。
その中でも一番の名門校とされるアンジェリカ・アカデミー。冬であろうと若々しい青葉のそよぐ正門の鉄柵の前には、数名の体格の良い男が佇んでいた。
「我々は海上都市マーレの解呪師団体『清浄』の者。海上都市代表者の使者である。学園長にお目通りを願おう」
それに応対するのは紺色の礼服を纏う女性。
「ここは天使の学び舎。乙女が知識と教養と強き精神を学ぶための園。部外者を何人たりとも入れる訳には参りません」
「解呪具と騙り、招呪師の呪具を売り捌いたとして、キャンベル家に出頭を求めている。開発者のマーガレット・キャンベルがここに隠匿しているとの情報が入った。罪人である以上、我が海上都市で裁きを受けなければならぬ」
使者は苛立たしげに吐き捨てながら、門前の教師をねめつける。
歳は恐らく二十を少し過ぎたぐらいで、この学園においてはまだ新米なのだろう。それでもこちらを見据える眼差しは酷く落ち着いており、貫禄さえ見て取れる。
「ミス・マーガレット・エレナ・キャンベルは我が子同様の大事な生徒にございます。たとえ王であろうと天なる御使いであろうとも、愛しい娘を無慈悲に差し出せましょうか。――どうかお引き取りを」
「罪人を匿うなど! 許されざる所業だぞ!」
門の前で喚き続ける男たちから背を向けて、正門前のすぐ脇にある裏口より校舎に入る。
中庭の見える回廊を通っていると、穏やかな陽だまりで染まるベンチには複数の女生徒たちが群がっていた。何やら興味深そうに顔を合わせて、ひそひそと喋りを交わしている。
「聞いた? 最近、出るらしいのよ」
「聞いたわ聞いたわ。あの古びた寮よね」
「そうそう、すっごく美青年の幽霊なんでしょう」
「え? 私は金の女神って聞いたけれど」
「うそうそ、白銀の女神だって聞いたわよ」
「え、二人いるってこと? っていうか女神って何?」
「課題のテキストのヒントをくれるって」
「私は美味しいマフィンをくれるって聞いたけど」
「――幽霊じゃないわよ」
女生徒たちは穏やかな声にパッと振り向き、頬を赤らめる。
「カンファー先生! お恥ずかしいところを!」
教師は肩をすくめて正体を伝える。
「私のかつての学友よ。たった一年でいなくなってしまったけれど、……我が学園の誇りなの」
中庭の奥部には、生徒も滅多に近寄らない古びた建物があった。元々は教師の宿舎だったところだが、今はほぼ物置き場となっている。埃っぽい室内の一部が即席の客室として誂えられていた。
沢山の本が積まれ、幾つもの柱を形作る一室だった。そこの中心に埋もれているのは長身の少女。書籍の海を泳ぐように横たわり、仰向けの顔は開かれた本で塞がっている。肩先で揃えられた金の髪がちらりとだけ見えていた。
部屋の入口に佇む女教師が、その様に小さく苦笑した。
「エレナ、ご要望通りにお帰り願ったわよ。……エレナ?」
「……ん、ああ、どうもありがとう。カンファー……ええと、今って助教授……?」
呼びかけから少し間をおいて、少女は顔から本をずらした。琥珀の瞳を緩慢に数回瞬かせていく。どうやらいつの間にか寝落ちていたらしい。
「教授よ、今年からね」
カンファーはやれやれと息をついて、壁際の二人掛けの椅子に腰を下ろした。
「卒業しても、相変わらず本の虫なの?」
ふわあと大きなあくびをして、マーガレットは上半身を起き上がらせる。
「いつもはそんな暇ないわよ。だから久しぶりに引きこもってみの虫になってやろうと思ってね。講師なんてめんどくさい役目、生真面目なあんたがいれば十分だし」
「カタリナ様から書簡が来たときは驚いたけれど。よもや追われる身になるなんて……貴女、一体何やったの?」
「けっ、こっちが知りたいっての」
かつての学友の前でだと、いつもより地が出てしまう。ヨークラインの睨みの利かない場となれば尚更だ。
「……って言いたいところだけれど、心当たりはなくはないわ。してやられたのよ――白痴の鳥に」
ぱたぱたと忙しない足音が響き、姿を現したのは別の女教師で、こちらもかつての学友だ。眼鏡をかけたしかめ面で、握った書簡をマーガレットに見せつける。
「エレナ~、まーたみょうちきりんなところから変な手紙が来てるんだけど。要約するに、『神の代行人』が曰く、『神の御業の冒涜』だってさ」
「あー、そういうの全部一切無視でいいわ。どうせやっかみみたいなもんだから。表立ってやれない分、あちこちにお声がけしてご苦労なこと」
カンファーの隣に座った女教師は頬杖をついて、楽しげに問いかけてくる。
「サラにも会いたいな~。今はどうしてるの?」
「恐らくあの子の母校にいる筈だけれど……大人しくしてられるのかしらね」
「問題ないよ。我が家のレディは皆、聡明な女性ばかりだ」
渋面のマーガレットに応えて部屋に入ってきたのは、白銀の髪と蜂蜜色の瞳が輝かしい見目麗しき女性だった。儚げな花のようにふわりと綻ぶ笑顔で、焼きたてのマフィンを差し出してくる。
「あら、ありがと、ジョシュ」
「君たちも、良かったらいかがかな」
マーガレットが手に取れば、教師二人も誘われるままに受け取りながら、ほうと感嘆のため息をつく。
「エレナったら、こんな絶世の美女を何処で見つけてきたのよ」
「ここまで抜きん出てると、もはや視界の暴力だわね」
始業チャイムが鳴り渡り、カンファーたちは慌てて腰を上げた。
「いけない、午後から講義が一コマあるんだったわ」
「じゃあね、エレナ。また顔を見せるから」
二人の姿が見えなくなると、マーガレットは改めてといった様子で、隣の美女を見上げた。
「しっかし化けたわねえ~」
陽だまりに透ける長い髪を不得意そうに揺らしながら、ジョシュアは居心地悪そうに笑った。
「化かしたのは、君の解呪符じゃないか」
「女学校だもの、仕方ないでしょ。基本的に男子禁制の園だから」
戸惑いをまだ隠せずに己の容姿をまじまじと見下ろしている様子には申し訳なさが募るが、特殊な環境に潜伏するには必須の方法だった。
ジョシュアは日なたの注ぐ窓辺に近寄り、陽気な青空を気持ち良さそうに仰ぐ。
「天使の学び舎、だったね。……前にヨークが願書を見繕ってたな。キャンベル家に来たばかりのレディを、最初はここに入れようとしていたよ」
何処か寂しそうに言葉を紡ぐ横で、マーガレットはそっと目を伏せた。
「リーンを……そう……」
ごく僅かなため息を落としながら、傍らの寝台に腰を落ち着る。ぼんやりと視線を宙に彷徨わせた。
「そうね、あの子もいずれは通わせなきゃとは思っていたわ。でもまずは、あたしたちキャンベル家に馴染んでほしかったから……」
その顔が徐々に俯いていく。横顔に金の髪がさらりと落ちて、眼差しが隠れていく。
「……メグ?」
「ジョシュ……どうしよう、あたしのせいだわ」
「メグ……」
何を言うのだと、ジョシュアがつい呼びかけるが、すぐにハッと息を呑んだ。
少女の膝に乗せられる手が握りこぶしを硬く作り、強張る甲に雫がひとつふたつと落ちていく。
「……あの子が、あんなに思い詰めているのに気付けなかった。あたし、人の気持ちには結構鈍感なんだもの。知らない内にきっと追い込んでいたのよ。あたしがもっとしっかり見ていられたら、あんな真似しなかった。絶対に、させなかったのに……ッ」
わななく唇でそう言い切ると、濡れた頬を隠すように膝を抱え込んだ。
「メグ……それは違うよ」
ジョシュアは悲痛な面持ちで首を横に振る。同じく寝台に腰掛けて、その隣に寄り添った。
「君のせいじゃない。仮にいけなかったとしても、君だけのせいじゃない」
震える肩先を胸に抱き留めながら、温めるように手で優しく覆っていく。
「きっと、どうにもならなかったことなんだよ。だってプリムが止めなかったんだ。僕らのことで一番聡いあの子が、レディの様子に気付かない訳がない」
ゆっくりと撫で続けられて、益々マーガレットはたまらなくなった。堰を切ったように嗚咽が止まらなくなり、目の奥から熱いものが止め処なく湧いてくる。
「そうね……あの子が一番分かってる。だからあの時言ったのね、あの子。『あったかいのを覚えておこう』って。しっかりと抱き締めて、あたしたちが大事にしたい温もりを、決して忘れないようにって……」
ジョシュアの胸で思い切り泣けること。包まれた腕の中でその体温を知れること。自分に温もりをくれる人の眼差しの色を、潤んだ瞳でも焼き付けられること。どんな顔で見つめてくれるのか、どれほどの優しさを与えてくれるのかを当たり前に知れること。
けれどかつての十年前は、決して当たり前ではなかったもの。だからきっといつの日にか、いずれ当たり前でなくなる時が来る。
「あたしだって絶対に忘れないわ。この温もりも、思い切り抱き締めてもいいんだっていう甘えたや我がままも。だって、初めてだったんだもの」
ジョシュアは眩しそうに目を細めた。言葉に応えるように、少女の身体をより強く抱え込む。
「そうだね、君も僕も、プリムも知らなかったものだから。キャンベル家に住まうようになって、初めて知ったから。なら、より一層大事だ」
マーガレットは嗚咽を止め、顔を上げた。濡れた瞳は冴え冴えと光を放ち、滲んだ声音は静やかで揺るぎなきものとなる。
「守りましょう、あたしたちのあたたかな家を。あたしたちの確かな繋がりを。そのためなら、皆全部を奪い返すのよ。――当然、あの子も」




