茶屋
これさえあれば、ポイントは奪われずに済みそうね。
でも何で逃げたんだろう?
私は何も感じないけど・・・
ペンダントを手にとって確認するが、特に変わったところは見当たらない。
黄門様の印籠みたいなものかな・・・?
『王』の文字が彫ってあるし、閻魔家ゆかりの物なのかもしれない。
ふと前を見ると、遠くのほうに、お茶屋らしき建物が見える。
ラッキ―――――
そういえば死んでから、飴の他に何も食べて無かったんだ。
建物に近づいてみるとやっぱりお茶屋みたいで、わらぶき屋根の家に、赤くて広いイスが外に置いてある。
うわーレトロって感じ。
お茶屋といえばやっぱりダンゴよね。
甘いものを想像して浮かれてしまうが・・・・
肝心なことを忘れてた。
私、お金持ってない・・・
お客の姿を見つけ、お茶屋の中から出てきた店員は・・・・・・・・・・・げっ鬼婆だ。
店から頬が痩けて目の釣り上がった、鬼のお婆さんが出現した。
頭の上にはしっかり角が生えている。
えーと、どうすればいいんだろう。
ロールプレイングゲームなら、迷わず「たたかう」よね?
初対面の鬼に、意外と失礼なことを考える明日香であった。
「どうぞいらっしゃいませ。お越しやす」
外見とは裏腹に愛想の中に敬いを込めた、感じの良い挨拶が飛んできた。
けっこう良さそうな雰囲気のお婆さんじゃん。
感じの良い挨拶に、つい本音をこぼしてしまう。
「あっあのー私、お腹が空いておダンゴを食べたいのだけど・・・・・・・・・・お金を持ってなくて・・・・・・・・・」
その言葉を聞いて首をかしげる鬼婆さん。
「お金ってなんでしょうかね?」
地獄の沙汰も金次第って言うものだから、てっきりお金が使えるものだと思ってた。
「私、ここに来たばっかりでよく知らないんですけど、物を買うときは何と交換するのでしょうか?」
謎が解けて納得したような、顔をする鬼婆さん。
「そおかえ、そおかえ、あんた新人さんかえ。遠路はるばるご苦労様じゃったのう」
ホント閻魔さんもそうだけど、見た目で判断できないよね。
まさか地獄に来て鬼婆に旅を労われるとは・・・
「この地獄ではポイントと交換して、物を買ったりサービスを受けられたりするのじゃ」
そう言って、鬼婆さんはポケットからメダルを出して、見せてくれた。
そういえば、閻魔さん賭け事にポイントを使ったり、フィギュアと交換したりしていたな。
結局、ポイントがお金代わりなのね。
「銅のメダルは1ポイントで、銀のメダルは5ポイント、金のメダルは10ポイントですのじゃ」
そっかーじゃあ0ポイントの私は、何も買えないじゃないの。
ええい、ついでにポイントの稼ぎ方を教えてもらおう。
「あのーどうすればポイントは貰えるのですか?」
「あんれま、まだポイントを手に入れてなかったんか」
そう言われても、まだ来て間もないしね。
「じゃあ皿洗いでもするかえ、1万枚ほど皿を洗ったら、たらふくダンゴを食わしたるさけえ」
え――――――――――――
1万枚もお皿洗うの何時間も掛かっちゃうよ。
「死ぬ程腹働いた後の、ダンゴは旨いこと、旨いこと」
そうかもしれないけど、1万枚もお皿洗うの私いやよ。
もー閻魔さんったら、こんなダサいペンダントより、ポイントを残しておいてくれたほうが良かったのに・・・・・・・・・・・ん?
そういえばさっき亡者は、これを見て逃げ出してたよね?
これを見せたら、何とかタダで食べられないかしら。
「あのーこれでなんとかなりませんか?」
胸元のペンダントを鬼婆さんにかざしてみる。
鬼婆さんは、ペンダントと私の顔を交互に観察して答えた。
「はあー。まあそういうことなら・・・・・・・・・」
やったー素敵すぎるこのペンダント。
『大いなる力』って便利よね。現世に持って帰れないかしら。
ただこのペンダントを見せたときに、鬼婆さんがもの珍しそうな顔で、私の顔を覗き込んだのが気になるけど・・・・・・・・・・・・・まあいいや。
このあと鬼婆さんは、おダンゴとお茶を用意してくれた。
わーい、おダンゴ、おダンゴ嬉しいな。
やっぱり甘いものには浮かれちゃうわたくし。
いただきます。味わいます。楽しみます。堪能しちゃいますぅ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あーおいしかった」
ここのおダンゴ美味しい。
地獄って、どうしてこんなに美味しいお菓子ばかりなんだろう?
まだ飴とダンゴしか食べてないけど・・・
けど現世と違って甘さにコクが有るっていうか、深みがあるって言うか、雰囲気で言うと高級な牛肉の旨みだけを取り出して、甘みに変えたって感じなの。
美味しいおダンゴを食べて、ご満悦となった私は旅を進めることにした。
「ありがとう、お婆さん。ここのおダンゴ最高って宣伝しとくからね」
毎度おおきにと言って、鬼婆さんは手を振って見送ってくれた。
ごめんねお婆さん、ポイント払えなくて。
今度またポイント持って、食べに来るからね。