出発
明日香が階段を降りきると、階段は空気に混じるかのように消えていった。
自分の位置を確かめるために、キョロキョロと辺りを見渡す。
左右には岩山が広がり、後ろは断崖絶壁だ。
「前にしか進めないのね」
良かった、行くところがいっぱい有ったら迷っちゃうとこだった。
しかし、地獄って初めて来たけど、やっぱりイメージ通りに暗いのね。
岩山には木や森はなく、ところどころに赤い模様が見える。
空も赤黒く、居るだけでなんとなく気分まで沈んでしまう。
なんとなく心細い・・・
雰囲気に飲まれないように、歌でも歌いますか。
一番最近に聞いた歌は・・・・・・・・・・・
閻魔の携帯の着メロで鳴った『世界に一つだけの花』だ。
そういえば裁き中に、そんなこともあったね。
裁きの事を思い出して、ついうふふと笑ってしまう。
今思い出すと、結構面白かったな。
明日香は鼻歌を歌いながら、奥へと進んでいった。
世界に一つだけの頭
一人一人違うハゲを持つ
その髪を生やすことだけに
一生懸命になればいい
できた!!
我ながらすばらしい替え歌ができてしまった。
閻魔さんに出会えたら歌ってやろうっと。
新しい目標を加えつつ歩き続けた。
歌に夢中になり気づかなかったが、なんとなく視線を感じる・・・・・・
もしかして、私の美貌に目を付けた、素敵な人が告白する機会をうかがっているのかも?
地獄でそんなこと、ありえないとは解っているけど・・・・・・
こんな雰囲気の暗い中で、少しでも希望を持たないと、やってられないじゃない。
明日香の予想は半分、当たっていた。
もちろん告白する機会をうかがっていたのではなく、別の機会をうかがっていたのだが・・・
「おい姉ちゃん」
いきなり、目の前にがっちりした体格の男が立ちふさがった。
明日香と同じように、白装束を身にまとい、頭には三角布をかぶっている。
あたしと同じ亡者だこの人。
「痛い目を見たくなかったら、ポイントをよこしな」
しょえ―――――――― いきなりですか?
「わっ私、今来たばかりでポイント持ってないんですけど・・・・・」
もう一人の男が後ろから肩を掴んできた。
「だったらそこでいいことしようや、姉ちゃん」
どうしよ―――――― いきなり絶対絶命なんですけど。
困っちゃうな、2人に告白されるなんて。
嘘です。すいません。しょうもない冗談言いました。
この小説をR18指定にするなんて絶対にいやよ――――――――
しかし、男たちはこれ以上襲ってこなかった。
前に立ちふさがった男が、私の胸元を見てギョッとした顔をする。
そして、後ろに居た男に合図をすると「すいませんでした。勘弁してください」と言って一目散に逃げて行ってしまった。
なんて失礼な男達なの。
確かに私の胸はそんなに大きくないけどさ、謝らなくてもいいじゃない。
確認するように胸元に目をやると、胸元にはペンダントが光っていた。
もしかしてこれのおかげ?
そういえば閻魔さん『大いなる力』って言ってたけど本当だったんだ。
なかなか便利な物をくれたじゃん閻魔さん。
ペンダントの力に浮かれる明日香ちゃんだったが、後に激しく後悔することとなるのであった。