治療
「たっ・・・・・助かった―――――」
2人は無事、向こう側にたどり着く事が出来た。
明日香は肩で息をして、座り込んでいる。
スーちゃんは明日香を見下ろすような形で立っていたが、何かを見つけたようだ。
「お姉ちゃん、右手に怪我してるよ」
たぶんロープを越えたときに擦ったであろう擦り傷を、スーちゃんが目ざとく見つける。
「ホントだ。気が付かなかったわ」
「私が治してあげるね」
スーちゃんは星のステッキを、傷口にかざすと呪文を唱え始めた。
そういえばスーちゃんって治療できるんだったよね。
良い部下を持って、あたしゃぁ幸せだよ。
「じゃあ行くよ。チンチンプイプイ・・・・・・・・・・・・・・・」
「待った――――――――――――――――――ッ
そんなものプイプイしちゃダメェ――――――――――――――――ッ」
天使のスーちゃんはキョトンとした顔で明日香を見つめている。
ダメよそんなの。
いたいけな少女がそんな言葉を口にしては・・・・・・・
「どうしたの、お姉ちゃん?急に大きな声を出して」
何も分かって無い表情だ。
「あ・・・あのね・・・・・・・」
うーん、素直に説明して分かってくれるかな・・・・・・・・・・・・?
そうだ!!
「あのね、現世でも同じ呪文が有るんだけど、それよりも一つランクアップした『チチンプイプイ』って言うのをみんな使ってるの。スーちゃんもこっちを使ったらどうかな?」
ちょっと苦しいけど・・・・・・・
思いのほか明日香の作戦は成功し、スーちゃんの好奇心を見事に掴んだようだ。
「そっちの方が、かわいい!!!言いやすいし、響きも最高!今度から使わしてもらうね」
スーちゃんははしゃいで、何度もステッキをかざしながらチチンプイプイと言っている。
ふーやれやれ。ミッション成功ね。
「けど、このこの程度の傷ならチンチンの方でいいよね。じゃあ行くよ、チンチンプイプイ痛いの痛いの飛んでいけー」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ミッション失敗。
スーちゃんが呪文を唱え終わると、怪我をしていた右手の皮膚がドーム状に盛り上がった。
ドーム状はやがて球状に変わり、皮膚から離れて地面に落ちた。
「わーすごい、綺麗に治っちゃよ」
先ほどまで血がにじんでいた手の皮膚は、元通りになり綺麗に治っている。
「ありがとうスーちゃん。ところで、この卵みたいな物はどうしたらいいの?」
先ほど落ちた、球状の皮膚を拾い上げ手のひらに載せる。
「卵よそれ」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・?」
手のひらに載せた、卵に変化が起きた。
卵にヒビが入り、真っ二つに割れると中から何かが誕生した。
「きゃ――――――――ッ、こっ・・・・これ、妖怪じゃないの!?」
明日香の手には、手のひらサイズの人型をした異形の生物が乗っかっていた。
手と足と体は異様に細く、代わりに下腹だけがぽっこり出てる。
全身の皮膚はあざのように赤黒くざらざらしており、瞼は目を覆うほど垂れていた。
「妖怪なんて、失礼ねっ!!怪我鬼ちゃんよ」
瞼の奥に鋭い目つきが見える。
怪我鬼は顔を上げると挨拶をするかのように、キキキと声を出した。
「は・・・・・・・・・はは・・・・・・・・・・・・・」
小さいからまだ何とか、正気を保ってられるけど、大きいのが出てきたら発狂するかも・・・・・・・
「け、け、け、怪我鬼ちゃんを降ろしても大丈夫?」
「大丈夫よ。降ろしても勝手に付いてくるから」
怪我鬼を降ろすと、ダンスを踊るかのように左右にぴょんぴょん跳ねている。
「怪我鬼ちゃんはいつまで居るのかな?」
「このくらいの大きさなら、1時間くらいでお別れしないと駄目かな?」
駄目かな?って、なんか残念そうに言ってるんでけどこの人・・・・・・・・
正直もっと早くお別れしたいです。