落下
女亡者の明日香とメイドのケルは現在、吊り橋の上で高所の恐怖と揺れと格闘していた。
まあ格闘しているのは明日香だけであったのだが・・・・・・・・・・・・・
「け、け、け、ケルちゃん。吊り橋揺れ過ぎじゃない?」
川から吊り橋までは、100mは有ろうかという高さであり、明日香は下を見るだけで足がすくんでしまっていた。
「大丈夫ですよ、お嬢様」
一方、ケルちゃんは平然とした顔で、後ろからご主人様を励ましている。
おかしいよケルちゃん。こんな高いところにいるのに怖くないなんて。
こんなの恐怖という感情を、厚さ1mの金庫に入れて、鎖でがんじがらめにした後、英数字20桁くらいの暗証番号を打ち込まないと絶対無理だよ。
下を見ないようにしないと・・・・・・・
明日香は前を向き、両端のロープを持ちながら一歩一歩足を進める。
ダ・・・ダメっ!!
下を向かなくても視界に崖下が入っちゃうよ・・・・・・
今度は、上の方を向いて崖下が目に入らないようにする。
こ・・・これなら大丈夫かな・・・・・
お嬢様ったら突然上を向いて、どうしたのかしら?
はっ!?これが俗に言う『上を向いて歩こう』状態ですのね。
そっか、お嬢様も若くして地獄に堕ちてしまい、悲しんでらっしゃるのね・・・・・・・
それなのに私ったら自分の事ばっかり・・・・・・・
ここは召使いとして、ご主人様を励ましてあげなくっちゃ。
「元気を出して、お嬢様ぁ――――――――――」
ケルちゃんは突然、後ろから明日香に抱きついた。
「ちょっ・・・・・ど、どうしたの突然?」
ケルちゃんは構わず、抱きついたまま明日香を左右に振り出す。
「お嬢様そんなに涙を溜めないで、私がお側にいますから――――――」
「わっ!!・・・・・危ない!!危ないよ。助けてぇ――――――」
私がお助けしますわーと叫び、ケルが明日香を横に振ったとたん、2人はバランスを崩し、ロープの手すりを越えて落ちてしまった。
「きゃー助けてぇ――――――『ケルちゃん』『ベロちゃん』『スーちゃん』」
2人の体重は行き場を失い、真っ逆さまに落下する。
地獄に墜とされて、地獄で落ちるなんて、しゃれにもならないよ――――――ッ
しかし、2人は落ちきることなく宙に浮いていた。
「もう、お姉ちゃんたら3人も同時に呼んじゃダメでしょ」
天使となったスーちゃんが、明日香を抱えて空を飛ぶ事で落下から逃れていた。
天使の羽根はバサバサ音を立て、2人は少しずつ上昇していく。
「お姉ちゃんって以外とそそっかしいのね」
「何言ってるの!!元はと言えば『ケルちゃん』が・・・・・・・」
言い終える前にまた落下する2人。
「タ、タ、タ、タンマ、タンマ―――ッ『スーちゃん』『スーちゃん』『スーちゅわぁ―――ん』」
何とか落ちきる前に変身して、再び宙に浮く2人。
「お姉ちゃん。これは貸しだからねっ。ポイント手に入ったらお菓子買ってよね」
「はひ・・・・・・・・・・・・・・・」
これにはうなずく事しかできない明日香ちゃんであった。