少女
「あのーマジカルメイドって何?」
見た目はそのままメイドさんなんだけど、マジカルって職業あったかしら?
「魔法使いのことですわ、お嬢様。私たちケルベロス一族は、代々主のために護衛したり、身の周りのお世話を行ってきましたの」
そう言って、杖を目の前にかざし、凛とした表情を見せる。
いままでいくつかの修羅場をくぐり抜けてきたのであろう、その表情には強さと言うより意志の固さが感じられた。
「しかし、今魔法は封印してますの」
目を少し落とし、悲しげな表情をする。
「どうして?魔法って便利じゃないの」
「それが・・・・・・・・・・・一度、族が屋敷に入り込んだ時に、炎の魔法で焼いたことがありますの・・・・・・」
「別にいいんじゃない?」
「そこまでは良かったのですが、加減を間違えて、灰も残らず焼いちゃって族は正体不明。その炎が屋敷に飛び火して火事になってしまったの」
後悔を吐き出すように、静かにため息をついた。
「は・・・はは・・・・まあ魔法使いには、良くあることかもしれないしね・・・」
あわててフォローを入れる。
「まだ続きがありますの。その火事を消すために、あわてて氷の魔法をしたら屋敷全体が凍ってしまって、屋敷にみんな閉じこめられて大騒ぎ・・・・・・・」
「ど・・・どんまい・・・・・・・・」
「更に氷を壊すために地震の魔法をしたら、屋敷自体が崩壊して辺りは地獄のような光景に・・・・・・・・・・・」
明日香はもうかける言葉も無く、笑顔のまま凍りつくしか出来なかった。
ケルちゃんは、パッと顔を輝かせて続きを話し始めた。
「けどこの後、『スーちゃん』が治して元どうりになったのよ。『スーちゃん』は何でも治す能力があるんですの」
杖を両手で持って、胸のほうに引き寄せる。
そして、膝を少し曲げてにっこり微笑んだ。
「『スーちゃん』って誰?」
その言葉を聞いた、ケルちゃんはまた体を輝かせて変身し始めた。
「私のことよ。お姉ちゃん」
先ほどまでいたメイドは居なくなり、代わりに天使が目の前に立っている。
金色の髪にツインテール、白いフリルのワンピースを着たかわいい少女で、背中には白く大きな翼と手には先に小さな星が付いたステッキを持っていた。
もちろん耳としっぽは健在である。
これまた可愛い女の子が出てきちゃったよ・・・・・・・・・・
さっきはお姉さん的な可愛さだったけど、今度は妹的な可愛さだよ。
「ホーリーエンジェルのスーちゃんです」
スカートの両端を持って足を曲げ、バレリーナの決めのようなポーズを取るスーちゃん。
「スーちゃんね、怪我とか物とかを治すことができるのよ。すごいでしょー」
腰に手を当て、右手の人差し指を立てて前に出し、ポーズを決める。
あらー姿だけじゃなく、口調や性格まで変わっちゃったよ、この番犬さん・・・・・・・・・
さっきはメイドで今度は天使か・・・・・・・天使って飛べるよね?
「背中の羽根で飛べたりするの?」
「もちろんよ。そのための羽根だもん」
そう言って、羽根をバサバサと羽ばたかせた。
空を飛べるの便利よね。
実はそこの吊り橋を渡るの怖かったんだ、運んでくれないかしら?
「じゃあスーちゃん、悪いけど崖の向こうまで運んでくれない?」
「いやよ、重たいもの」
天使の少女はほっぺをふくらませ、プイッと横を向いた。
んまーなんて小生意気な天使なんざましょ。確かにこっちに来て食べてばかりだけど、太って
ないざますよ。
年下らしき少女にデブ扱いされ、拳を握るが・・・・・・・・・・・・・子供相手に大人げないので、そこはぐっとこらえる。
「それよりもスーお腹空いちゃったの。お菓子持ってない?」
両手を後ろに組んで、少し顔を前に出しお願いする。
普通だったらそんなお願い通用しないが、相手は天使の姿をした可愛い少女、思わず心が揺れてしまう。
うっ・・・・・小生意気だと思っていたけど、お姉さん心をくすぐるとはなかなかやるわね。
しかし、お菓子なんか持ってないのよね。
懐や袖を探ししてみるが、やっぱり無い。
「残念だけど、お菓子は持ってないわ」
両手を広げてアピールするが、スーちゃんのお願い攻撃は止まらない。
「じゃあ買ってちょうだ〜い」
甘え口調と上目使いを武器に、お願いするスーちゃん。
かっ可愛い・・・・その顔と衣装は卑怯よ。
けどさっきティラミス食べて、ポイントも残ってないのよね。
「実はポイントも持って無いのよ」
残念そうに言うと、甘え顔は一変して落胆の表情になった。
「お姉ちゃんP無しなのね。あーあ、貧乏なご主人様を捕まえちゃったなー」
貧乏の言葉が胸に突き刺さる。
うっ・・・言いたいこと言ってくれるわね。
痛いところを突かれて、大人気なく言い返してしまった。
「じゃあスーちゃんはポイント持ってるの?」
「持ってないわよ」
可愛い天使は、まるで誉められることをしたかのように堂々と言い放つ。
「じゃあ私と同じ、ポイント無しじゃん」
「私は子供だからいいのっ」
うーん、見た目可愛いし空も飛べるし、治癒(修理?)の能力は魅力的なんだけど、扱いにくいよこの性格。
『ケルちゃん』、『スーちゃん』と居るからもしかして『ベロちゃん』も居るのかな?
そっちに期待してみますか。
「分かったわ、スーちゃん。一度『ベロちゃん』と交代してくれる?」
少女はまた変身を始めた。
今度出来てきた少女は、長い髪を後ろで束ね、白い小袖に緋袴、手には弓と矢を持っていた。
頭の上の耳とお尻の尻尾がなんとなく不調和に思える。
その格好はもしかして巫女さん!?
「オーガハンターのベロよ。よろしく」
直立不動のまま、明日香から少し視線を逸らして、自己紹介した。
なんとなく不機嫌な雰囲気を感じる。
いきなり呼ばれて怒ってるのかな?
とりあえず挨拶してみよう。
「よろしくね。ベロちゃん」
「気安くベロちゃんなんて呼ばないで!!別にあんたをご主人様って認めたわけじゃないんだからねっ」
何――――――――――――!?
どういうこと?
3つの性格で話しを合わしてくれないと、駄目じゃない!!
どうしよう?後の2人は認めてくれてそうだし・・・・・・・・・・・
2対1でご主人様って事で駄目かな・・・・・・・?
けどご主人様選びを多数決って訳にも行かないし・・・・・
「なにブツブツ言ってるのよ、旅を急いでるんでしょ。早く命令してよね!」
あれ・・・あれれ?
命令って事は、ご主人様って認めてるのじゃないの?
なんかややこしい性格だな・・・・・・・・・けどまあ全員に主人と認めてもらったって事でいいよね?
とりあえずそろそろ出発したいのだけど・・・・・・・
旅のお供として一番性格がましなのは・・・・・・・・・・・・・・やっぱりメイドさんかな?
とりあえずケルちゃんで旅を進めますか。
「じゃあまず『ケルちゃん』と交代してくれる?」
「分かりましたわ。お嬢様」
わっ!!もう変身しちゃったよ。
「じゃあそろそろ出発進行!!」
こうして亡者とメイドの奇妙なコンビの旅が始まった。
「ケルよ・・・・・・・・・・・・・・・・・机の上の棚にある、本を取ってくれないか・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
鬼のような悪魔のような異形の怪物が心を蝕む。
「ケルよ・・・・・・・・・・・・・・・・・床に落ちたペンを拾ってくれ・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
嫌悪と言う名の感情が下から湧き出てきて、心を黒く染めていく・・・・・・・
自分を保つために心の中で、必死に異形の怪物と格闘する。
ケルは壊れそうになりながらも耐えてきた。
ううん・・・・大丈夫・・・・・・・・・今度のご主人様は大丈夫よ・・・・・・・・
そう自分に言い聞かせ、ケルは唇を噛んだ・・・・・・・・・