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2-3 『狩人』の狩り

『真夜中の道化』

二百年前から数年おきに起きる村の失踪にその一団が関与している。

その集団の目撃者はなく、発覚したのは最近。ここ数十年の間だ。

二十年前に『狩人』があるはぐれ魔女の住処を襲った際に、一人の人間の生存者がいたことでそれは明るみになる。

その生存者は魔女から行われた行為を赤裸々に語る。

あまりに凄惨な事件のため、その事件を聞いた関係者は誰もが口を閉ざし、

現在『狩人』でも指定魔族討伐と同等か、もしくそれ以上の案件として取り扱われている。


ヴァロたちが騎士団員に聞いて、グレコたちのいる場所まで行くと、日はすでにとっぷりと暮れていた。

グレコたちは道端で何かを確認していた。

「大きさ、間隔といい。まあ、間違えないだろ」

「馬の蹄の跡も合致してる。」

「条件から四日前にカルドナを通過した集団に酷似する。

…どうやらあんたの読みに間違いなかったようだな」

「何を見てるんです?」

ヴァロはグレコたちに声をかける。

グレコはヴァロを一瞥すると語り始めた。

「馬の蹄と馬車の轍の跡さ。見た目は騙せても連中、これだけは騙せねえからな。

マールス騎士団の対応が早くて助かった」

無人の村など盗賊の恰好の餌食だ。

もしも対応が遅れれば痕跡など残ってはいなかっただろう。

「んで、どうだった?」

このどうだったかというのは何がわかったかと問うているのだ。

この手の質問はヴァロの師だったものから何度も受けた記憶がある。

ヴァロは『狩人』の見習いだったころを思い出していた。

「相手は『真夜中の道化』ですね」

「そうだ」

にやりとグレコはにやりと笑みを浮かべる。

どうやら満足のいく答えをヴァロはグレコに示せたらしい。

「よくこんな迅速な対応が…」

発生からそれほど時間は経過していないはずである。

この時間でグレコは村の封鎖、追跡の二つを同時に行っている。

こんなに早く対応できるものではない。

「ヤマを張っていたのさ。過去の事例をみればそれなりに奴らの襲う場所は特定できる。

んでもって、連中の手を出しそうな集落や村、街を特定して、付近の国の警備兵や騎士団に片っ端から声をかけた。

もし人が消えたりする事案が発生した場合、即刻封鎖して、連絡をよこすようにってな」

「…そんな」

ここと条件が合致する村、それだけでも数百にも下らないはずである。

ましてそれは何か国にも渡る。

それだけでも気の遠くなるような膨大な手間がかかっているはずだ。

ヴァロはこのグレコという『狩人』を知る。

このひとりの男の手際にヴァロは戦慄を覚えた。

どれだけの人脈があればそんなことが可能なのか。

「時期的にそろそろ動く頃合いだった。動くのは大体人の出入りが多くなる秋。

奴等は旅芸人を装って村にやってくるらしいってのはわかってたからな」

当然のようにグレコ。

「その上奴らの手持ちの備蓄も切れてくる頃合いだった」

ラウィンが淡々と語る。

「備蓄?」

「人間のな」

冷たくグレコはその言葉を言い放つ。

その言葉にフィアとヴァロは生唾を呑み込んだ。

「…長年の調査の中で奴らが移動手段として、馬車を使っているということはわかってたからな。

百名近くの人間を詰められる馬車なんてもんは限られてくる。

こっから先はすべてことが済んでから話してやるよ。

…こればかりは先代との約束でな、すべてが終わるまで引き継ぎ相手にしか話せねえんだ」

だからこそここで轍や馬の蹄を調べていたのだ。

それに加えて、先代という言葉にヴァロは驚く。

そう、これは何世代にも渡って行われている捕り物なのだ。

それは人間の数倍の寿命を持つ魔女との戦いの歴史でもある。

寿命の限られた人間相手の捕り物とはわけが違う。

「…」

「ウルヒの野郎が追ってた事件でもある。今じゃ消息不明だがな」

消息不明のウルヒという『狩人』がどうなったのかをヴァロは知っている。

ただし、それは絶対に口にしてはならないことだ。

ふと気づくとグレコがヴァロの顔を見ていた。

グレコの視線にヴァロは見透かされているような気にすらなった。

ただ見られているだけだというのに、ヴァロは射すくめられているような気さえする。

先に視線を外したのはグレコの方だった。

グレコは首を振る。

「…まあいいや。てめえらも俺たちと一緒に追跡してみるかい?」

「グレコ」

非難の眼差しでラウィンはグレコを見る。

先ほどまでのぼんやりとした顔が嘘のようだ。

「いいだろう。相手は何人いるかわからないしなぁ。一人でも多いほうがいいだろうよ」

「死人を増やすだけだぞ」

「おめーの言いたいこともわかる。

だが見た目は若いがこいつらもなかなかにやるぜ。

男の方とは俺が一度手合せしてる、

そこの嬢ちゃんもかなりの使い手のはぐれ魔女と力くらべして引けを取らなかった。

戦力としては十分じゃねえ?」

「…」

それでもラウィンは納得できないようだ。

「…グレコさんこれを」

ヴァロは魔剣をグレコの前に差し出す。

「ヴァロ」

フィアがヴァロを制止しようとする。

「少しここは俺に任せてくれ」

ヴァロはその剣を鞘から半身引き抜いた。

同時に魔剣特有の黒い霧が吹き出る。

「ほお、魔剣か」

グレコは目を細め、ラウィンの眼に一瞬光が宿る。

「…どうして私が持ってるのか、だれからもらったのかは言えません」

グレコがこちらを買ってくれている以上、

ヴァロは信頼には信頼で答えなくてはならないと思った。

それに隠しておいて後でトラブルのもとになるのなら、今話しておいた方がいい。

グレコは視線をフィアに向ける。

「そこの嬢ちゃんが知ってるってことは、『紅』ももちろん知ってんだよな」

その問いにヴァロは首肯する。

グレコはヴィヴィのことを『紅』と呼ぶ。

「ならうちらの知ったこっちゃねえよ、なあラウィン」

「ああ」

ヴァロは胸をなでおろした。

これは正直賭けだった。

最悪矛先がこちらに向かうことも考えられた。

ただヴァロには予感があった。

グレコが魔剣よりも『真夜中の道化』を取るとような気がしたのだ。

「カッカッカ…ここで話してくれたのは正解だ。こちらも戦力の確認ができた。

今後お前の魔剣も戦力としてみなせてもらうぜ」

それは今後ヴァロたちも協力することを意味する。

「ええ」

グレコはそう言った直後ヴァロの肩にがっしりと腕を回した。

「その剣のこと、他の連中にはあんまし言うんじゃねえぞ。

出所がわからない魔剣ほど狙われやすいモノはねえ。

んでもって『狩人』の人間には札付きの連中も多い。ましておめえは『狩人』なり立てだ、

下手すりゃ魔剣欲しさにお前を事故に見せかけて殺そうとする人間すらでてくるぜ?

今度からはそれを告るのは身近な人間だけにしとけ」

そう言ってグレコはヴァロから腕を離した。

ヴァロはグレコの注告に今更ながら少しだけ背筋が寒くなった。

「んで、嬢ちゃんも今回の討伐に参加するってことでいいんだな」

「今回の件、聖堂回境師として見逃すわけにはいきません。

それに相手は魔法の専門家。ならばこちらにも一人は魔法の専門家がいたほうがいいでしょう」

フィアは胸を張ってそう応える。

「カッカッカ、その通りだ」

ヴァロはフィアの両肩をつかむ。

「おい、これは『魔女狩り』だぞ。フィアがわざわざついてくる必要は…」

魔女狩りなのだ。フィアに同族を殺めるようなまねはさせられない。

「ヴァロが私を考えてくれてるのはわかる。

けれどこの問題は私も私の立場から見逃せない。

これは私の聖堂回境師として私が向き合わなくちゃならない事件なんだと思う」

「…」

フィアの言葉にヴァロは言葉を詰まらせた。

大きく、そして強くなったものだと思う。

「…それに…またヴァロ私を置いてくつもりなの?」

ヴァロはフィアのその一言に言葉を詰まらせた。

フィアはじっと上目使いでヴァロを見ている。

仕方なかったとはいえ、何度もフィアを置いて行っている。

ヴァロの名誉のために書いておくが、すべて彼女を生かすために行った行為だ。

ただそのことでヴァロは何度も責められ続けているのだ。

相当根に持っているのだろう。

こうなったら説得するだけ無駄である。

「…わかった」

ヴァロは頭を抱えて頷いた。

「わかればよろしい。

…それに連中のことは絶対に許せない。

普通に生活していて、さらわれて、実験の材料にされるなんて…。

こんな理不尽なことは絶対に許しちゃならない」

「ああ、そうだな」

フィアの目には力がしっかりとした意志の光があった。

そして今回の事件が少女に大きな影を落とすことになろうとは、

この時のヴァロは思いもしなかったのである。

「よし、決まったみてえだな」

グレコはそう言って立ち上がる。

二人は少し離れたところからこちらの様子を見ていたらしい。

「断っておくが、相手ははぐれ魔女の集団。加えて二百年も『狩人』の追撃をかいくぐってきた。

言い換えりゃ、実力者ぞろいつーことだ」

ヴァロは生唾を呑み込む。

「もし間違えた選択を取るんなら一瞬であの世逝きだ。状況によっては俺らはお前らを見捨てるぜ。

逆に俺たちがやばいと判断したらお前らも俺らを見捨てて逃げろ」

そうこれは決して馴れ合いではない。

この追跡には結果しか求められない。

どんなことがあっても全滅は避けなくてはならないのだ。

「はい」

「今クワンとラルコが奴らを追ってる。俺たちもすぐにそれに追いつくつもりだ。

うちらにだけわかるように、符牒は残すように言ってあるしな」

「大丈夫なんですか?」

二人で凄腕の魔女数人を追跡しているということは見つかれば即、死を意味している。

「安心しろよ、少なくとも二人ともお前より実力は格上だよ」

「そうじゃなくて…」

「今回は相手が相手だからな。あいつらも死ぬことも含めて覚悟はしてるはずさ」

死の覚悟。『狩人』は常に狩る側とは限らない。

「…この件は俺の世代で決着させてえしな」

ぼそりとつぶやいたグレコの横顔をみて、ヴァロたちはこの追跡の重みを知る。

書いてて思ったこと。

グレコさんは予想以上にかっこよかった。

完全に勝手に動いてるw

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